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256話、立ち回りは、よし

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「行くぞ! アカシック!」

 ルシルの合図と共に、声を張ったフローガンズの先制は、自身を中心とした吹雪の展開。それとほぼ同時、吹雪全体と私の視界下が、青白く眩い光を帯びていく。
 真正面と足元からによる、同時攻撃か。なるほど。初手から、本気で私を倒そうという意志が見える。だが、視認出来る余裕があるなら、まだ脅威には至らない。

「甘いっ!」

 眩い光が、より一層強くなった矢先。私は正面を見やりつつ後方へ跳躍し、体を縦に捻りながら火を杖を振り上げ、地面と目の前に、横幅数十mはあろう燃え盛る炎の絨毯を敷き詰め。
 召喚した漆黒色の箒に、片足で着地しては蹴り上げて、追加で火の杖を横に振り、炎の絨毯を二重にしてから、新たに召喚した箒を掴んでぶら下がった。

『火の加護よ!』

 体に反動をつけて箒にまたがり、詠唱を省いた魔法壁を張る。雪化粧を纏った地面は、炎の海に等しく飲み込まれ。正面は、先の景色が拝めない炎の壁。
 追撃は無し。しかし、気配は依然として正面にある。精霊独特の魔力も健在。距離は、少し取ったようだ。
 ならば私も、炎の海から脱出しない程度に後ろへ下がり、身を更に固めさせてもらうぞ。その前に、ちょっとした牽制を挟もう。

『不死鳥の息吹!』

 火の杖に『ふわふわ』を掛け、私の前に固定し、無詠唱で『不死鳥の息吹』を発動。気配がある周辺を薙ぎ払った後、光の杖を握った。
 今、無詠唱で使用した『不死鳥の息吹』よ。私の体調が絶不調の時に、詠唱をちゃんと唱えた物と同等の威力がありそうだ。

『森羅万象の怨恨を拒絶する、聖域の門番よ。道を絶たれし者に希望の光明を授け、怨恨へ抗う術を与えたまえ。『怨祓あだばらいの白乱鏡びゃくらんきょう』』「……む」

 詠唱を唱え終え、私の視界に中心を起点として、白の波紋を立たせた薄い膜が現れた直後。
 佇んでいた炎の壁が、一気に炸裂。全方位の景色を一緒くたに塗り替える、爪斬撃を模した氷晶を含む暴風雪が現れた。
 これは『古怪狼の凍咆』だな。壁の向こう側で吹雪を広範囲に展開し、広げた領域全てを使い、『古怪狼の凍咆』で壁を消し飛ばしたと。
 あいつらしい力技だが、まだ身の守りを固めただけの私にとって、かなり分が悪い。しかし、先に『不死鳥の息吹』を使用していてよかった。
 無詠唱でも『古怪狼の凍咆』に競り勝っているので、意外と自由に動ける。逃げ先は、やはり空一択かな。

『魂をも焼き尽くすは、不老不死の爆ぜる颶風ぐふう! 生死の概念から解き放たれし者に、思考をも許されない永遠の眠りを! 『不死鳥の息吹』!』

 『不死鳥の息吹』本来の力を発揮させるべく、詠唱し直して、半径約三十m分の空間を確保。そのまま片手で箒にぶら下がり、真上を目指して高速飛行を開始した。
 警戒すべきは、『不死鳥の息吹』から逃れた吹雪が覆う右側以外の方向。しかし、見える範囲の吹雪から、魔法が飛んで来る気配がまるで無い。
 もしかして、『古怪狼の凍咆』に全力を注いでいるなんて、ないよな? 司る物から魔法を使うのは、魔力の消費量が凄くて疲れると言っていたし、可能性はゼロじゃない。
 いや、油断するな。これはあくまで、私の推測だ。新たな動きが無ければ、召喚魔法を使用する好機。警戒を怠らず、相手の手中で、攻撃に転ずる準備を始めてしまおう。

『天地万物に等しき光明を差す、闇と対を成す光に告ぐ! “天翔ける極光鳥”、“光柱の管理人”、“極光蟲”、天罰を下す刻が来た! 差す光明を今一度閉じよ!』

 声を張って詠唱を唱えると、地面に向けていた光の杖先に、太陽の紋章が描かれた光の魔法陣が二つ出現した。

『“天翔ける極光鳥”に告ぐ。指示があるまで、背後で待機を。“光柱の管理人”に告ぐ。敵は、氷の上位精霊だ。位置を特定次第、刻印の雨を降らせてくれ。“極光蟲”に告ぐ。私に目掛けて飛んで来る魔法の露払い及び、視認が難しい脅威の対処、可能なら反撃も頼む。契約者の名は“アカシック”』

 落ち着いて合図まで唱え終えると、一つの魔法陣から、鳥の形をした虹色の光が大量に飛び出し。もう一方の魔法陣から、空いた空間を埋め尽くさんと、拳大の光球が溢れ出してきた。
 一応、私の攻守は固められた。フローガンズは、流石に移動したか。『不死鳥の息吹』の軌跡を追っているのか、先ほどまで居た場所から魔力が消え失せてい───。

「おっと」

 吹雪が横切る真下へ横目を流している中。真上から、空を切る異音が混ざり込んできたので、顔を仰いでみれば。
 本来、垂直に落下する『光柱の管理人』が、不規則な回転をしながら私を横切り、吹雪の中に消えていった。そうか。フローガンズめ、空に先回りして何かしているな?
 私より早く空へ行ったのであれば、吹雪を媒介して瞬間移動したと見ていい。『光柱の管理人』と共に落ちて来ない所を察するに、飛行能力も持っていると思っておこう。

「動きは、最初に比べると大分良くなってるじゃないか」

 『不死鳥の息吹』の行く末を見て、私が向かおうとしている場所へ先回り。追撃をする絶好の好機だというのに、して来ないという事はだ。
 必殺級の何かを仕掛ける為に、準備しているのかもしれない。それか、かつてウンディーネが、水を使って大量の分身体を生成していたように。
 フローガンズもまた、氷の分身体を用意していて、吹雪から飛び出して来た私を迎え撃ってくる可能性も、十分あり得る。もしくは、両方同時になんてな。

「いいだろう。一回、お前が用意した舞台に上がってる」

 もちろん、進路を変更して、吹雪が流れている方向へ行く選択肢だってある。むしろそれが、私の取るべき行動だ。わざわざ、脅威が待ち構えている場所へ行く必要なんてない。
 けど私は、対氷の精霊戦について、色々体験しなければならない身。なので、安全策を選ばず、自ら茨の道へ踏み込むべきだ。たとえそこに、私の命を脅かす何かがあろうとも。
 心なしか、吹雪の勢いがだんだん弱まってきた気がする。たぶん、もう少しで突破するな。さあ、フローガンズ。私を殺すつもりで掛かって来い。
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