ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

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255話、対フローガンズ戦

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「はぁ、はぁ……。た、ただいま」

「お、おかえり。まあまあ遅かったな」

 アイスが、私を“迫害の地”頂点に君臨する魔女、アカシック・ファーストレディだと勘付きそうになり、慌てて説明をしてから何分ぐらい経っただろうか。
 とりあえず名前は、たまたま同じだったと白を切り。私はアルビスの妹だと言い張り続け。証拠を見せる為に、サニー達がこちらの様子を確認出来ないよう、小型の氷山を生成し。
 変身魔法で、アルビスより一回り小柄な黒龍に変身して、なんとかアイスから信用を得られた。
 アルビスと私が兄妹になった経緯は、みんなに言ってあるから、そっちの方は弁解しなくて大丈夫だろう。

「アルビス様。妹様と同伴なさられてたのなら、言ってくれればよかったですのに」

「ああ、そういえば紹介してなかったな。どうだ、余の妹は? 華奢で可憐だろう?」

「はい! 龍の姿を拝見させてもらいましたが、惚れ惚れしてしまいました」

「ん? 龍の姿……。あ、はっはっはっ。誰にでも自慢が出来る、余の妹だからな。目を奪われてしまうのも無理はない」

 一瞬だけ言葉を濁し、慌てて話を合わせたように振る舞ったアルビスが、にじりにじりと私に距離を詰めてきて、顔をそっと近づけてきた。

「貴様、黒龍に変身したのか?」

「信用を得る為に、一回だけな」

「ほうっ……、なるほどぉ?」

 やや声を上ずらせたアルビスが、更に顔を近づけてきた。

「すまんが、アカシック。その姿、後日でいいから余にも見せてくれ」

「え? お前にも?」

「ああ、先に言っておこう。貴様の黒龍姿を、ものすごく見てみたいんだ」

 先回りして欲を剥き出しにさせたアルビスの鼻が、小さく「ふんす」と鳴る。
 おい、アルビス。そんな凛々しくも期待のこもった眼差しで、私を見つめないでくれ。それと、頬をほんのり赤らめるな。

「わ、分かった。あとでな」

「おお、そうか! すまない、ありがとう。変身する時になったら、こっそり余に教えてくれ。本当に楽しみにしてるぞっ」

 そう声を大いに弾ませたアルビスの顔が、スッと遠のいていった。たぶん、相当楽しみにしているんだろうな。陽気に鼻歌を歌い始めている。

「んじゃあ、アカシック。そろそろ大将戦をやろう!」

「ああ、そうだったな。すまない、待たせてしまって」

 アイスから信用を得るべく、それなりに時間を使ったせいで疲れてしまったけど。緊張感をほぐせたし、戦闘に差し支えは無いだろう。

「お母さん、頑張ってね!」

「うん。ありがとう、サニー。頑張ってくるよ」

 屈託の無い可愛い声援を送ってきてくれたサニーへ、手を軽く振り返す。さてと、気持ちを切り替えよう。今から始める戦いは、決して遊びなんかじゃない。
 対、氷を司る大精霊を想定した戦いなんだ。なので、私も手は一切抜かない。不老不死という甘えを捨てて、命を懸けて本気で戦わせてもらう。

「出て来い、“火”、“風”、“水”、“土”、“光”」

 戦闘前に、氷属性を抜かした五属性の杖を召喚して、火の杖を掴む。氷の精霊相手に、氷属性の魔法を使うのは愚策中の愚策。
 それに、水属性の魔法も危ういな。水が凍れば、氷へと変化する。相手の手数を増やす結果になるので、使用は控えておこう。
 白銀の世界が広がる大地を少し歩き、足を止めて、フローガンズが居る方へ体を向ける。ここまで開けた場所で、あいつと戦うのは、今日が初めてだな。
 初めてフローガンズと鉢合わせたのは、あいつの修業場だ。そして、その修業場から一回も脱出せず、十日間以上戦っていたっけ。

「懐かしいな、お前と戦うのは」

「そうだね! 今度は修業場で戦ってた時みたいに、ちょこまか逃げないでよ?」

 そうそう。箒に乗って戦う魔女の私にとって、修業場はあまりにも狭く。上位級の魔法を放つと崩壊するかもしれないと危惧していて、全力を出していなかった。
 しかし、今は違う。雪原地帯という広い場所を、箒で自由に飛び回る事が出来る。移動範囲の上限は無い。観戦しているサニー達も、絶対防御の『水鏡すいきょう』によって守られている。
 地形は、夜の極光見学に備えて、あまり変えない方がいいな。それ以外で、心配する必要は何も無い。力を完全に取り戻した初戦は、大いに暴れさせてもらおう。

「私は魔女であって、格闘家じゃないんだ。悪いけど、私は私の戦い方をさせてもらう」

「んげっ、やっぱり? じゃあ、ウィザレナ達や、アルビス師匠みたいな感じで戦うんだね?」

「そうなるかな」

 ウィザレナ達とアルビスの名前を挙げたという事は、フローガンズなりに考えがあるらしい。一応、警戒しておこう。
 私は近接格闘にめっぽう弱い。フローガンズに間近まで迫られると、防戦一歩どころか、避けるだけで手いっぱいになる。
 やはり初手は、守りを固めなければ。戦闘開始と同時に、不意の一撃に耐えられるよう、簡素な火の魔法壁を。そして、『怨祓あだばらいの白乱鏡びゃくらんきょう』を張り次第、攻撃に転じる。

「そっかぁ~。なら、ちょうどいい!」

「ん?」

 いきなりやる気を出したフローガンズが、闘志漲る表情を浮かべつつ、空いた手の平に拳を当てて『パシッ』と鳴らす。

「中長距離戦ってさ、あたしの苦手な分野なんだよね。だからさ、アカシック。あたしがもっと強くなれるように、いしずえになってよ」

「礎、ねぇ」

 つい先ほど、アルビスに指摘されていたっけ。環境や相手に恵まれず、伸びしろが全て潰された悪循環な状態に陥り続けていると。
 中長距離。普通の魔法使いや魔女だったら、適応の距離になるだろう。けどな? フローガンズ。私は、そんじょそこらに居る魔女と、訳が違うぞ?

「すまない、フローガンズ。そうなると、お前の期待に応えられないかもな」

「え、なんで?」

「私の場合、超長距離戦になるかもしれないからだ。ウィザレナ達やアルビスより、私との距離がもっと遠くなるぞ?」

「……げっ。そう、なんだ」

 現在、私が最も得意とする距離は、『天翔ける極光鳥』、『光柱の管理人』を召喚した後の超長距離戦。誰の手も届かず、一方的に殲滅が可能。
 が、相手は精霊だ。まだフローガンズが、使用した形跡は確認出来ていないけれども。司る物を媒介した瞬間移動、飛行能力を持っているかもしれないと、頭の片隅に残しておかねば。

「おーい。お前ら、そろそろいいかー?」

 遠くから催促するように聞こえてきた、ルシルの囁きに、私の視界がやや広まった。

「っと、話が過ぎたな」

「そうだね。それじゃあ、気を引き締めてやろっか! ルシル様ー! 準備整いましたー!」

「おおー、やっとかー。んじゃ、合図を出すぞー」

 フローガンズとの闘いに集中するべく、凍てついた空気を吸い込み、濃白に色付けて一気に吐き出す。フローガンズも、息を吐き出しながら構えを取った。

「よーい、始め!」
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