ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

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247話、対ヴェルイン一味戦

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水鏡すいきょう

 『怨祓あだばらいの白乱鏡びゃくらんきょう』の張ろうとして、光の杖を召喚しようとした直前。
 ディーネに先を越されてしまい、みんなの周りに『水鏡』が展開していった。

「アルビス様? 俺達、何かに覆われてしまいましたけど……。これは一体?」

「一種の魔法壁だ。あいつらの組手に余らが巻き込まれないよう、張ってくれたのだろう」

「はぁ、そうなんですね。あいつらの戦い、気になるな」

「アイスさん、動かないで下さい!」

「は、はい! すみません」

 ヴェルイン達が居る方向へ顔を動かすも、絵を描いているサニーに叱られてしまい。慌てて元の位置へ戻し、視線だけ右に逸らすアイス。

「すまない、ディーネ。ありがとう」

「これぐらい、お安い御用です。さあ、そろそろ始まりますよ」

 始まると目を離せなくなるので、温かい野菜汁を容器に並々まで注ぎ、フローガンズ達を視界に入れた。

「フローガンズ、これって実戦を想定した戦いでいいのか?」

「うん、いいよ! あと、手を抜いちゃダメだからねー!」

「そうか、分かった。ルシル、準備整ったぞー」

 確認を入れたヴェルインが、ルシルに向かい前足を挙げる。実戦を想定した戦いか。となると、ファート戦から一帯が消し飛ぶ戦いになってしまうな。

「うっし! なら行くぞ。よーい、始め!」

「いっくよー! まずは、ほんの挨拶から!」

 意気揚々と戦闘態勢に入ったフローガンズが、虚空へ横、斜め、下とあらゆる角度に蹴りを繰り出しつつ、人間大の氷斬撃を召喚して飛ばしていく。

「やっぱり魔法は使えるか。なら、距離を置いても意味ねえな」

「そうね。厄介な相手だわ」

 相手の出方を伺い、最小限の動作で氷斬撃を避けた後。ヴェルインの右腕が肥大化し、地を這う歪な爪撃を前五方向に展開。
 それと同時、中央の爪撃を追う様にヴェルイン達が走り出す。

「むう、やるじゃん」

 左右に逃げる場所が無いと判断したのか、上へ飛ぶフローガンズ。束の間、予想していたヴェルインが、空中へ逃げたフローガンズに追い付き、肥大化した腕の殴りで追撃。
 大砲の発射音に似た轟音が炸裂し、二人の間に薄白い膜のような衝撃波が発生するも、ヴェルインの殴りは、片手で受け止められていた。

「ふふん、軽い軽い」

「マジか。一応、全力で殴ったつもりなんだがな」

「なに呑気にお喋りしてんのよっ」

 二人の更に上へ飛んでいたカッシェさんが、フローガンズにかかと落しをお見舞い。空いていた手で、しっかり防御していた様に見えたものの。
 それなりの威力があったらしく。防御したフローガンズは、雪原に一直線で落下。濃い雪煙を巻き上げた最中、ヴェルイン達も落ちて姿を消す。
 しかし、雪煙の中で激しい殴打音が鳴り出した。あんな視界不良の状態で、戦いを続けるとは。私だったら、がむしゃらに魔法を放つか、雪煙の外まで出ないと話にならない。

 ……待てよ? ヴェルインとカッシェさんは、二人でフローガンズに挑んでいる。その二人のどちらかを、私に置き換えて共闘戦を想定した場合。私の動きが制限されてしまわないか?
 私の攻撃魔法は、基本、対大多数戦を得意とする範囲魔法が多い。なので標的が小さく、共闘者が相手と密接している時間が、長ければ長くなるほど、私は攻撃に参加出来なくなってしまう。
 もし共闘するなら、私と攻撃方法が似たウィザレナ、黒龍の姿に戻ったアルビス。ファートも、後方攻撃特化型に回れば、なんとかなるはず。
 いや、無理に共闘戦を考えなくてもいい。あくまで、私対氷を司る大精霊のみの戦い方を、模索していかなければ。

 みんなが雪煙の中で戦いを始めてから、約一分後。爪斬撃を模した氷晶を含む小規模の暴風雪が、雪煙を蹴散らしながら飛び出てきて。
 全て霧散をすると、身体中の至る箇所に赤い霜が張り、酷く疲弊したヴェルインとカッシェさんが姿を現し。その二人の先、無傷で悠々と拳を前へかざしたフローガンズが居た。
 最後の暴風雪は、間違いなく氷属性最上位魔法の一つ『古怪狼の凍咆』だ。詠唱や呪文名が聞こえなかったけど、まさか無詠唱で使ったのか?

「カッシェ。まだ行けるか?」

「ごめんなさい、ヴェルイン。後足が、まったく動かせないの。さっきの魔法で凍り付いちゃったみたい」

「なるほど、分かった。フローガンズ、俺達は戦闘不能だ。だから降参するぜ」

 前足を挙げて、すんなり降参を認めるヴェルイン。本当だ。よく見てみると、カッシェさんの両後足に、厚い氷が纏っている。
 あれ以上無理に動かすと、氷と一緒に後足が砕けかねないな。

「やりぃ! まずは一勝っ!」

 ニカッと笑ったフローガンズが、カッシェさんに向かって指を鳴らす。すると、カッシェさんの後足に纏っていた氷に亀裂が入り、氷だけが砕けてパラパラと地面に落ちていった。

「あら、ありがとう。お陰で動かせるようになったわ」

「アホ、無理に動かすんじゃねえ。背負ってやるから乗れ」

「いいの? じゃあ、甘えちゃおうかしら」

 どこか満更でもない様子で、緩くほくそ笑んだカッシェさんが、ヴェルインの大きな背中に覆いかぶさり。そのままおんぶされて、フローガンズと共にこちらへ近づいてきた。

「ごめんなさいね、大将。アタシのせいで負けちゃったわ」

「いえっ、それは全然構わないですが……。雪煙の中で、どんな戦いをしてたんですか?」

 慌てて非が無い事を伝えつつ、秘薬入りの小瓶を懐から取り出し、ヴェルインとカッシェさんに渡す。

「死角からの奇襲、カッシェとの連携攻撃、噛みつき、爪斬撃、足払い。その他試せるもんは大体試してみたけど、全部避けられたよな。まるで当たる気がしなかったぜ」

「彼女、避けるのがとても上手ね。空中を舞う紙切れみたいに、ヒラヒラ躱されちゃったわ」

「あとよ。見かけによらず、力が強えのなんの。前足で蹴りを防御したら、一発でヒビが入っちまったぜ」

「それらに加えて、強力な魔法攻撃でしょ? 蹴りや殴りと織り交ぜて飛んで来てたから、避けるのに精一杯だったわ」

 先の戦いを振り返り、秘薬を飲む二人。アルビスの強固な鱗に傷を付け、その腕を認められたヴェルインでさえ、手も足も出なかったとは。

「どうよ、アカシック! あたしの戦いっぷり! 凄かったでしょ?」

「すまん、フローガンズ。雪煙のせいで、ほとんど見えてなかった」

「ありゃ、そうなの?」

 鼻高々で自慢気になっていたフローガンズへ、素っ気なく素直に明かすと、あいつの両肩が項垂れて、「ぶぅ」と不満を吐いた口を尖らせた。

「じゃあ次は、ちゃんと見せないとだね」

「その前に、フローガンズ。次鋒戦からは、分身体でやった方がいいぞ」

 休む暇も無く、フローガンズがファートと戦う意志を見せつけた矢先。ルシルが割って入り、野菜汁をすすった。

「え? 分身体でですか?」

「そうだ。全員と戦いたいなら、俺の言う通りにした方が身の為だぜ」

「……ちなみにですが、ルシル様。このまま戦った場合、あたしはどうなってしまいます?」

「俺の予想だと、良くてウィザレナ戦までって所だな」

 皆まで言わずとも、フローガンズはルシルの示唆を察したらしく。「……はい、分かりました」と了承し、瞳をすっと閉じた。
 ルシルがあえて言わなかったのは、ウィザレナ戦、もしくはファート戦で致命傷を受けて、最悪死に至るといった感じだろう。
 その前に、フローガンズはファートに何も出来ぬまま負けてしまうか。あいつの特性上、一部の闇属性魔法以外、本人に攻撃が通らないのだから。
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