ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

文字の大きさ
上 下
247 / 304

242話、完全復活

しおりを挟む
「出て来い、“火”、“風”、“水”、“土”、“氷”、“光”」

 サニーから距離を取りつつ、六属性の杖を召喚し、まず火の杖を掴む。数歩進んでから歩みを止め、みんなが居る方へ振り向いた。

「ルシル、ノーム。すまないが、手伝ってくれないか?」

「おっ、やっと俺達の出番だな」

「何すりゃあいいんだあ?」

 長時間待たせてしまったが、やる気を見せてくれた二人が問い返してきてくれた。

「えっとだな。ノーム、お前は上空に巨大な岩石を召喚してくれ。それでルシル。お前は、その岩石を風魔法でその場に留めて、空中に固定して欲しいんだ」

「岩石、ねえ。要は、的を出してくれって事かあ?」

「そうだ。破壊出来る対象物があると、魔法の威力がどれほどのものか、見てる人に伝わりやすくなると思ってな」

「なるほどな。まあここだったら、『タート』から観測される心配はねえだろう。よし、アカシック。サニーちゃんが喜ぶよう、派手にやっちまえ」

 そことなく乗り気なルシルが、ニッと笑いながら親指を立ててくれた。そうだ、タートの事をすっかり忘れていた。
 ルシルの言う通り、沼地帯とタートの距離は、それなりに離れている。箒で移動すると、片道で約二、三十分弱といった所。
 なので、魔法を真上に放たなければ大丈夫だろう。たぶん。

「分かった、ありがとう。それじゃあ、二人共。早速やってくれ」

「なんだか面白そうじゃねえかあ。いいぜえ、何個でもくれてやらあ」

 ルシルよりも、胸を躍らせていそうなノームも協力してくれて、右手て軽く掲げて『バチィン』と指を鳴らす。
 すると、軽く仰いだ先の青空を遮る形で、土色をした巨大な魔法陣が展開し。『土の瞑想場』で空から降り注いでいた物より、更に一回り大きな岩石が召喚され。
 完全に召喚されたと同時、もう一度『パチン』という軽い音が鳴り響き。岩石全体が、薄白い膜みたいな物に覆われ始め、地面へ落ちる事無くその場に留まった。

「想像してたより、何倍も大きいな……」

「うわーっ! 空に大きな岩が出てきたーーっ!!」

 私の独り言を、サニーの弾けた大声が掻き消していく。一応、あの岩石を魔法で砕いたとしても、ルシルがなんとかしてくれるはずだが……。
 流石に、大き過ぎじゃないか? 岩石の真下は、太陽光が一切届いておらず。
 何事かと思ったゴーレムが、空を見上げては驚愕し。蜘蛛の子を散らすように、あちらこちらに逃げ惑っていっている。

「ほれ。魔女の嬢ちゃん、出してやったぞお。うんと硬くしたから、本気でやってくれえ」

「え? 硬くした?」

「とんでもない密度になってるから、たぶん鋼鉄より断然硬いぞ。あれ」

「ああ、そうなのか……。分かった、ありがとう」

 協力はしてくれるけど、忖度まではしてくれないと。まあいい、私も本気を出すつもりでいたし。実力は出し惜しみするなという、激励だと思って受け取っておこう。

「さて、やるか」

 緊張していなければ、高揚もしていない。不思議と落ち着いている。うん、良い気分だ。これなら、サニーに最高の魔法を見せられるぞ。

「サニー、しっかり見てろよ?」

「うんっ!」

 期待に満ち溢れた返事を認め、サニーに合わせていた視線を外し、岩石へ移していく。その岩石に火の杖先をかざし、息を大きく吸い込み、口から吐き出した。
 さあ、やるぞ。サニー、しっかり見ていろよ? 絵本よりも壮大で、現実から掛け離れた最高威力の魔法を!

『魂をも焼き尽くすは、不老不死の爆ぜる颶風ぐふう! 生死の概念から解き放たれし者に、思考をも許されない永遠の眠りを! 『不死鳥の息吹』!』「……あれ?」

「わぁああーーーーっ!! すっごーーーーいっ!!」

「やっば……、なにあれ? アルビス師匠のブレスと、おんなじぐらいの威力がありそう」

 柔らかな色を保っていた周りの景色が、鮮烈な緋色に等しく塗り潰されていく。……待て、ちょっと待て。
 私の前に展開した、魔法陣の大きさもそうなのだが。視界一杯を覆い尽くす、灼熱の大熱線。木々を激しく右往左往させる、連鎖を伴う爆発の嵐。
 威力、射程、大熱線の幅が、物理と魔法の攻撃力を底上げするレナの魔法、『緋月ひげつ』を掛けてもらった時よりも、遥かに向上している。
 しかし、全身を吹き飛ばしかねない強烈な反動が無ければ、熱もあまり感じず。腕や足に力を込めずとも、私はごく普通に立てている。

『……おいおい、魔女の嬢ちゃん。俺様は悲しいぜえ。俺様と戦ってた時に、手を抜いてただなんてよお』

 どこか悲しさとやるせなさを含んだノームの声が、頭の中から響いてきた。まずい。私も訳が分かっていないのに、なにか勘違いされている!

『ち、違うんだノーム! 私も、なんで急にこんな威力が向上したのか、原因が分かってなくて困ってるんだ!』

『あ? そうなのか?』

『そうだ! だから、お前と『土の瞑想場』で戦ってた時は、一切手を抜いてない。常に全力を出して戦ってたぞ!』

『はあ、ならいいんだけどよお。今出した『不死鳥の息吹』だっけか? エルフの嬢ちゃんの『一番星』より威力があんぞ。俺様が出した岩石のほとんどが、一瞬で蒸発しちまったぜえ』

 そうだ。確かに『不死鳥の息吹』を通して、何か一瞬だけ手応えを感じた。そう、一瞬だけだ。たぶん、『不死鳥の息吹』が岩石に当たった瞬間、貫通したのかもしれない。
 対象物が無くなってしまったので、『不死鳥の息吹』の威力を徐々に弱めていく。完全に止め、魔法陣の姿が細かな粒子状に変わり、ゆっくりと視界から流れていった。
 そして、色が戻った視界の先。巨大な岩石の姿は、ふちをギリギリ目視出来る程度に残した、輪っか状の物体に変わっていた。

「あんなに大きかった岩が、ほとんど無くなっちゃった!!」

 元々『不死鳥の息吹』は、何度か左右に薙ぎ払えば、小さな村や町なんて、あっという間に蒸発してしまう威力を持っていたが……。
 今放った威力だと、数分あれば大国だって半壊してしまうぞ。

「お母さんっ、お母さんっ! 早くもっと見せてっ!!」

 が、サニーの興奮は天井知らずな状態で、おぞましい威力なぞ眼中に無く、ただひたすら無邪気な声で催促されてしまった。

「あ、ああ、分かった。ノーム、ルシル。次を頼む」

 二人の了承を待たずして、火の杖から氷の杖に持ち替える。数秒すると、『パチン』という音が一回だけ鳴り、新しい岩石を召喚するのかと思いきや。
 空中に浮かんでいた、輪っか状の物体が外側から再生を始め。三度瞬きをした頃には、岩石が綺麗に再生していた。
 なるほど。新たに召喚するよりも、消滅しかけていた岩石を再生させる方が、色々と手間が省ける訳か。

「よし、行くぞ!」

「うんっ!」

 サニーに合図を出しながら、氷の杖先を岩石へかざす。

『吹雪く夜空を凍結させるは、怪狼のたけり! 儚き熱を携え抗う者を、銷魂しょうこんの極点に誘いたまえ! 『古怪狼の凍咆!』』

「うわぁーーーっ!! すごい吹雪ーー!!」

「ああ~、なるほど? これは、流石に師匠ほどじゃないなー」

 やっぱり、『古怪狼の凍咆』の威力も段違いに上がっている。
 爪斬撃の氷晶は、メリューゼさん本体、ノームが召喚した『大地の覇者』の腕を、抉るぐらいしか出来なかったものの。
 今では、一つ一つの爪斬撃が巨大化していて、岩石を軽く貫通してしまっているし。暴風雪自体も、岩石を悠々と凍らせては着実に削っていっている。
 なぜこうも、各魔法の威力が凶悪なまでに上がっているんだ?

『……もしかして、私がアカシックお姉ちゃんを、治療したからかな?』

『え?』

『プネラ。それ、どういう意味だ?』

 憶測気味な声量で、頭の中から湧いてきたプネラの『伝心でんしん』を追う、シルフの『伝心』。

『あの、ですね。子供になったアカシックお姉ちゃんを、私が治療したじゃないですか? その時、アカシックお姉ちゃんの体内を隅々まで見て回ったんですけど……。不純物がすごくあったり、塞がってる血管がいくつもあったり。ちゃんと処理されて無害化してたんですが、変異し掛けてた毒も相当あって、かなり酷い状態になってたんです。だからそれらを残さず、全部綺麗に取り除いたんです』

『ああ。そういや、そんな事言ってたな』

『はい。それで、アカシックお姉ちゃんの体調が、たぶん万全になったじゃないですか。それで魔法の威力も、いつも通りに戻ったんじゃないかなって、思いまして』

 プネラに治療された事により、私の魔法の威力が元に戻った? それだと今までの私は、全力を出せていなかった事になってしまうが……。

『えっと? つまりだ。今までアカシックは、常々絶不調の状態だったけど。プネラが治療した事により、通常の状態、じゃねえな。絶好調になったと言いたいんだな?』

『はい、そうです』

『な、なるほどぉ? じゃあ、今アカシックが放ってる魔法の威力が、本来の威力になるって事か……』

『こ、これが……、私本来の、力?』

 突然、魔法の威力が向上した訳ではなく。今放っている魔法の威力こそが、本来出せているはずだった私の本気?
 私の心が闇に堕ちていた頃。魔物や獣の部位を剥ぎ取っては調合し、どんな効果が出るのか分からないまま飲み、己の体で試していた時期が、おおよそ四、五十年以上あったけれども。
 その間に、私の体に不純物や毒が大量に蓄積していき、体が壊れてしまわない程度に蝕んでいて、本来の実力をほとんど出せていなかったいう訳なのか?

「……ははっ、なんだそりゃ」

 つまり私は、今まで本当に弱体化していた事になる。自業自得が招いた、実に馬鹿らしい弱体化をな。今放っている魔法こそ、私本来の力。
 ……サニーについた嘘が、嘘じゃ無くなってしまった。私は本当に弱体化していて、プネラに治してもらっていたんだ。
 本当、プネラには感謝してもし切れないな。ありがとう、プネラ。私の体を治療して、本調子まで戻してくれて。
 さて、ここからはちょっと羽目を外して、少しだけ大暴れしてしまおう。私本来の力は、私自身知らないからな。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

白い結婚をめぐる二年の攻防

藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」 「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」 「え、いやその」  父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。  だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。    妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。 ※ なろうにも投稿しています。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】元妃は多くを望まない

つくも茄子
恋愛
シャーロット・カールストン侯爵令嬢は、元上級妃。 このたび、めでたく(?)国王陛下の信頼厚い側近に下賜された。 花嫁は下賜された翌日に一人の侍女を伴って郵便局に赴いたのだ。理由はお世話になった人達にある書類を郵送するために。 その足で実家に出戻ったシャーロット。 実はこの下賜、王命でのものだった。 それもシャーロットを公の場で断罪したうえでの下賜。 断罪理由は「寵妃の悪質な嫌がらせ」だった。 シャーロットには全く覚えのないモノ。当然、これは冤罪。 私は、あなたたちに「誠意」を求めます。 誠意ある対応。 彼女が求めるのは微々たるもの。 果たしてその結果は如何に!?

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

処理中です...