ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

文字の大きさ
上 下
242 / 301

237話、仮初め兄妹をやめにして

しおりを挟む
 シルフ、ウンディーネ、ノーム、プネラ。その大精霊達に畏怖し、体の震えが終始止まらないフローガンズ。私から片時も離れなかったアルビスと、今後について話が纏まった後。
 雑談に入った所を見計らい、アルビスが耳打ちで『エリィ』さんについて聞いてきた。最初は、なんでアルビスが、サニーの本当の母親であるエリィさんを知っていたのか、驚いたものの。
 どうやら『闇ぶ谷』で、シャドウに体を操られていながらも、私とシャドウのやり取りを、一部始終聞いていたらしい。

 流石に知られてしまったからには、隠す訳にもいかず。私とエリィさんの関係について全てを話したら、あいつは『明日、余もエリィ殿の墓参りに行きたい』と言い出してきた。
 もちろん私は快諾し、あいつの嬉しそうな顔を拝んでから、ウンディーネの『水の揺りかご』に入って眠りに就き。
 次の日の昼下がり。お墓参り用のお供え花を持ったアルビスは、私が跨った箒の後ろに座り、エリィさんのお墓がある場所まで飛んでいった。











「ここが、エリィ殿の墓か」

 静かに呟いたアルビスが、辺りの景色をゆっくり見渡している中。
 私以外の墓参者を歓迎するかのように、柔らかな風が純白の花びらを舞い上げ、颯爽と流していく。

「うん、とても良い場所じゃないか。落ち着いた静けさで、空気も澄み渡っている。一帯にある花の存在も相まって、なんだか神聖な雰囲気を感じるな」

 穏やかな感想を口にしたアルビスが、鼻から深呼吸をして、そのまま吐き出した。神聖な雰囲気については、私も最近思っていた。
 ほぼ毎日、ここへお墓参りに来ているのだが。一年ほど前から、光の魔力の濃度が徐々に上がってきているんだ。
 もしかしたら、見知らぬ光の精霊が、お墓参りに来ているのかもしれない。
 一旦黙り込んだアルビスが、再び深呼吸をする。今度は口から大きく吐き出すと、なぜか私に顔を近づけてきた。

「な、なあ、アカシック。余は、貴様の何に当たると思う?」

「何に当たるって、どういう意味だ?」

 よく分からない質問に、私の質問を重ねてみれば。妙に緊張していそうなアルビスの顔が、更に迫ってきた。

「家族構成だ」

「か、家族構成?」

「そうだ。貴様と余は家族だろ? だからエリィ殿には、アカシックの家族ですと、堂々自己紹介が出来る。それに、執事とも気兼ねなく言えるだろうが……」

 そことなく、ぎこちなさがうかがえるアルビスが、一回エリィさんのお墓に顔を移し、私へ戻してきた。

「少し、見栄を張りたくなってな」

「見栄」

 ややぶっきらぼうに返すと、アルビスが食い気味に二度うなずく。珍しいな、アルビスが見栄を張りたがっているだなんて。

「ほら。貴様はエリィ殿に代わって、サニーを育ててる母親だろ? だから余も、それに近い間柄を言いたくなってな。無論、父親はおこがまし過ぎて言えん。しかし、アカシックの執事ですと言っても、サニーを育てるには力不足感が否めないだろ? だから、その……。エリィ殿を安心させる事が出来るような間柄を、余も言いたいのだ」

 たぶん、意を決して私に言ってきたんだろうな。感情の昂ぶりが丸分かりだし、アルビスの鼻息が何度も顔に当たってきている。
 私との間柄か。正直、そこまで深く考えていなかった。家族という意味を一括りにして、収めていたかもしれない。
 確かに、改めて思うとなんだか味気無さがある。だったら───。

「なら、私の兄でいいんじゃないか?」

「兄ッ!」

 アルビスの為を想い、打開策を一つ上げた瞬間。すぐ傍にあった紫色の龍眼が、カッと見開いた。

「い、いいのか? 余が、貴様の兄になってしまっても?」

「タートじゃ設定上、私達は兄妹として周知されてるだろ? でも、そろそろ設定なんか取っ払って、本当の兄妹になってもいいんじゃないか?」

 そう打ち明けるも、アルビスの表情は凛とした真顔になり、返答も無し。しかし、数秒後。口元が緩み始め、ピクピクと震える口角が吊り上がっていった。
 なんだ、あのいやらしい口元は? 一体、どんな事を思っていて、どんな感情が宿っている? 
 あと、その口の形を今すぐ崩して欲しい。なんだかシャドウを思い出す。

「……いいんだな? 余が、貴様の兄になっても? 言っておくが、余は貴様が思ってる以上に単純だからな? もし、タートで貴様の話題が出たら、余の自慢の妹ですと、こぞって言いふらすぞ?」

「それは、ただ私が恥ずかしい思いをするだけだから、やめてくれないか……?」

「それは重々承知だ。貴様が恥ずかしい思いをするのは、余も耐えられん。しかし、今は無理だ。あまりにも嬉し過ぎて、感情が抑えられん」

「そ、そこまでなのか」

 あまりにも裏表が無い弁解は、アルビスらしいけれども。嬉しさが爆発すると、凛とした顔が見るも無残に崩れてしまうのか。
 ……逆に言ってしまえば。私が妹になると、アルビスはここまで喜んでくれるんだな。剥き出しの喜びが、全て表情に出てしまうほどに。

「当たり前だろ。いいか、余はな? 父さんや母さんと居た三十年前後。ベルラザ達と居た五、六十年前後。貴様と居た六十年前後を除いても、約三百五十年以上もの間、孤独な日々を過ごしてたんだ。そして余には、兄弟なんて居なかった。……そんな余に、妹が出来たんだぞ? もう、感極まって涙が出そうだ」

 あ、本当だ。龍眼をよく見てみると、下の方に涙が溜まっている。
 しかし、ちょっとずるいな。そこまで言われたら、何も言い返せなくなってしまうじゃないか。

「ならせめて、買い出しに行く二階層だけに留めてくれよ?」

「いいのか!? 分かった、約束しよう」

 仕方なく私が折れて許可を出すと、アルビスの表情は凛々しいながらも、屈託の無い笑みに変わった。
 どんな風に言いふらすのか、気になる所だし。色々と落ち着いてきたら、今度アルビスと一緒に買い出しへ行ってみよう。

「それよりも、エリィさんが待ってるぞ。早く会ってあげてくれ」

「おっと! そうだな。じゃあ、行ってくる」

 当初の目的を思い出したアルビスが、ふわりとほくそ笑んだ後。私に背を向け、喉を温めながらエリィさんのお墓へ向かって行った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...