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237話、仮初め兄妹をやめにして
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シルフ、ウンディーネ、ノーム、プネラ。その大精霊達に畏怖し、体の震えが終始止まらないフローガンズ。私から片時も離れなかったアルビスと、今後について話が纏まった後。
雑談に入った所を見計らい、アルビスが耳打ちで『エリィ』さんについて聞いてきた。最初は、なんでアルビスが、サニーの本当の母親であるエリィさんを知っていたのか、驚いたものの。
どうやら『闇産ぶ谷』で、シャドウに体を操られていながらも、私とシャドウのやり取りを、一部始終聞いていたらしい。
流石に知られてしまったからには、隠す訳にもいかず。私とエリィさんの関係について全てを話したら、あいつは『明日、余もエリィ殿の墓参りに行きたい』と言い出してきた。
もちろん私は快諾し、あいつの嬉しそうな顔を拝んでから、ウンディーネの『水の揺りかご』に入って眠りに就き。
次の日の昼下がり。お墓参り用のお供え花を持ったアルビスは、私が跨った箒の後ろに座り、エリィさんのお墓がある場所まで飛んでいった。
「ここが、エリィ殿の墓か」
静かに呟いたアルビスが、辺りの景色をゆっくり見渡している中。
私以外の墓参者を歓迎するかのように、柔らかな風が純白の花びらを舞い上げ、颯爽と流していく。
「うん、とても良い場所じゃないか。落ち着いた静けさで、空気も澄み渡っている。一帯にある花の存在も相まって、なんだか神聖な雰囲気を感じるな」
穏やかな感想を口にしたアルビスが、鼻から深呼吸をして、そのまま吐き出した。神聖な雰囲気については、私も最近思っていた。
ほぼ毎日、ここへお墓参りに来ているのだが。一年ほど前から、光の魔力の濃度が徐々に上がってきているんだ。
もしかしたら、見知らぬ光の精霊が、お墓参りに来ているのかもしれない。
一旦黙り込んだアルビスが、再び深呼吸をする。今度は口から大きく吐き出すと、なぜか私に顔を近づけてきた。
「な、なあ、アカシック。余は、貴様の何に当たると思う?」
「何に当たるって、どういう意味だ?」
よく分からない質問に、私の質問を重ねてみれば。妙に緊張していそうなアルビスの顔が、更に迫ってきた。
「家族構成だ」
「か、家族構成?」
「そうだ。貴様と余は家族だろ? だからエリィ殿には、アカシックの家族ですと、堂々自己紹介が出来る。それに、執事とも気兼ねなく言えるだろうが……」
そことなく、ぎこちなさが窺えるアルビスが、一回エリィさんのお墓に顔を移し、私へ戻してきた。
「少し、見栄を張りたくなってな」
「見栄」
ややぶっきらぼうに返すと、アルビスが食い気味に二度頷く。珍しいな、アルビスが見栄を張りたがっているだなんて。
「ほら。貴様はエリィ殿に代わって、サニーを育ててる母親だろ? だから余も、それに近い間柄を言いたくなってな。無論、父親はおこがまし過ぎて言えん。しかし、アカシックの執事ですと言っても、サニーを育てるには力不足感が否めないだろ? だから、その……。エリィ殿を安心させる事が出来るような間柄を、余も言いたいのだ」
たぶん、意を決して私に言ってきたんだろうな。感情の昂ぶりが丸分かりだし、アルビスの鼻息が何度も顔に当たってきている。
私との間柄か。正直、そこまで深く考えていなかった。家族という意味を一括りにして、収めていたかもしれない。
確かに、改めて思うとなんだか味気無さがある。だったら───。
「なら、私の兄でいいんじゃないか?」
「兄ッ!」
アルビスの為を想い、打開策を一つ上げた瞬間。すぐ傍にあった紫色の龍眼が、カッと見開いた。
「い、いいのか? 余が、貴様の兄になってしまっても?」
「タートじゃ設定上、私達は兄妹として周知されてるだろ? でも、そろそろ設定なんか取っ払って、本当の兄妹になってもいいんじゃないか?」
そう打ち明けるも、アルビスの表情は凛とした真顔になり、返答も無し。しかし、数秒後。口元が緩み始め、ピクピクと震える口角が吊り上がっていった。
なんだ、あのいやらしい口元は? 一体、どんな事を思っていて、どんな感情が宿っている?
あと、その口の形を今すぐ崩して欲しい。なんだかシャドウを思い出す。
「……いいんだな? 余が、貴様の兄になっても? 言っておくが、余は貴様が思ってる以上に単純だからな? もし、タートで貴様の話題が出たら、余の自慢の妹ですと、こぞって言いふらすぞ?」
「それは、ただ私が恥ずかしい思いをするだけだから、やめてくれないか……?」
「それは重々承知だ。貴様が恥ずかしい思いをするのは、余も耐えられん。しかし、今は無理だ。あまりにも嬉し過ぎて、感情が抑えられん」
「そ、そこまでなのか」
あまりにも裏表が無い弁解は、アルビスらしいけれども。嬉しさが爆発すると、凛とした顔が見るも無残に崩れてしまうのか。
……逆に言ってしまえば。私が妹になると、アルビスはここまで喜んでくれるんだな。剥き出しの喜びが、全て表情に出てしまうほどに。
「当たり前だろ。いいか、余はな? 父さんや母さんと居た三十年前後。ベルラザ達と居た五、六十年前後。貴様と居た六十年前後を除いても、約三百五十年以上もの間、孤独な日々を過ごしてたんだ。そして余には、兄弟なんて居なかった。……そんな余に、妹が出来たんだぞ? もう、感極まって涙が出そうだ」
あ、本当だ。龍眼をよく見てみると、下の方に涙が溜まっている。
しかし、ちょっとずるいな。そこまで言われたら、何も言い返せなくなってしまうじゃないか。
「ならせめて、買い出しに行く二階層だけに留めてくれよ?」
「いいのか!? 分かった、約束しよう」
仕方なく私が折れて許可を出すと、アルビスの表情は凛々しいながらも、屈託の無い笑みに変わった。
どんな風に言いふらすのか、気になる所だし。色々と落ち着いてきたら、今度アルビスと一緒に買い出しへ行ってみよう。
「それよりも、エリィさんが待ってるぞ。早く会ってあげてくれ」
「おっと! そうだな。じゃあ、行ってくる」
当初の目的を思い出したアルビスが、ふわりとほくそ笑んだ後。私に背を向け、喉を温めながらエリィさんのお墓へ向かって行った。
雑談に入った所を見計らい、アルビスが耳打ちで『エリィ』さんについて聞いてきた。最初は、なんでアルビスが、サニーの本当の母親であるエリィさんを知っていたのか、驚いたものの。
どうやら『闇産ぶ谷』で、シャドウに体を操られていながらも、私とシャドウのやり取りを、一部始終聞いていたらしい。
流石に知られてしまったからには、隠す訳にもいかず。私とエリィさんの関係について全てを話したら、あいつは『明日、余もエリィ殿の墓参りに行きたい』と言い出してきた。
もちろん私は快諾し、あいつの嬉しそうな顔を拝んでから、ウンディーネの『水の揺りかご』に入って眠りに就き。
次の日の昼下がり。お墓参り用のお供え花を持ったアルビスは、私が跨った箒の後ろに座り、エリィさんのお墓がある場所まで飛んでいった。
「ここが、エリィ殿の墓か」
静かに呟いたアルビスが、辺りの景色をゆっくり見渡している中。
私以外の墓参者を歓迎するかのように、柔らかな風が純白の花びらを舞い上げ、颯爽と流していく。
「うん、とても良い場所じゃないか。落ち着いた静けさで、空気も澄み渡っている。一帯にある花の存在も相まって、なんだか神聖な雰囲気を感じるな」
穏やかな感想を口にしたアルビスが、鼻から深呼吸をして、そのまま吐き出した。神聖な雰囲気については、私も最近思っていた。
ほぼ毎日、ここへお墓参りに来ているのだが。一年ほど前から、光の魔力の濃度が徐々に上がってきているんだ。
もしかしたら、見知らぬ光の精霊が、お墓参りに来ているのかもしれない。
一旦黙り込んだアルビスが、再び深呼吸をする。今度は口から大きく吐き出すと、なぜか私に顔を近づけてきた。
「な、なあ、アカシック。余は、貴様の何に当たると思う?」
「何に当たるって、どういう意味だ?」
よく分からない質問に、私の質問を重ねてみれば。妙に緊張していそうなアルビスの顔が、更に迫ってきた。
「家族構成だ」
「か、家族構成?」
「そうだ。貴様と余は家族だろ? だからエリィ殿には、アカシックの家族ですと、堂々自己紹介が出来る。それに、執事とも気兼ねなく言えるだろうが……」
そことなく、ぎこちなさが窺えるアルビスが、一回エリィさんのお墓に顔を移し、私へ戻してきた。
「少し、見栄を張りたくなってな」
「見栄」
ややぶっきらぼうに返すと、アルビスが食い気味に二度頷く。珍しいな、アルビスが見栄を張りたがっているだなんて。
「ほら。貴様はエリィ殿に代わって、サニーを育ててる母親だろ? だから余も、それに近い間柄を言いたくなってな。無論、父親はおこがまし過ぎて言えん。しかし、アカシックの執事ですと言っても、サニーを育てるには力不足感が否めないだろ? だから、その……。エリィ殿を安心させる事が出来るような間柄を、余も言いたいのだ」
たぶん、意を決して私に言ってきたんだろうな。感情の昂ぶりが丸分かりだし、アルビスの鼻息が何度も顔に当たってきている。
私との間柄か。正直、そこまで深く考えていなかった。家族という意味を一括りにして、収めていたかもしれない。
確かに、改めて思うとなんだか味気無さがある。だったら───。
「なら、私の兄でいいんじゃないか?」
「兄ッ!」
アルビスの為を想い、打開策を一つ上げた瞬間。すぐ傍にあった紫色の龍眼が、カッと見開いた。
「い、いいのか? 余が、貴様の兄になってしまっても?」
「タートじゃ設定上、私達は兄妹として周知されてるだろ? でも、そろそろ設定なんか取っ払って、本当の兄妹になってもいいんじゃないか?」
そう打ち明けるも、アルビスの表情は凛とした真顔になり、返答も無し。しかし、数秒後。口元が緩み始め、ピクピクと震える口角が吊り上がっていった。
なんだ、あのいやらしい口元は? 一体、どんな事を思っていて、どんな感情が宿っている?
あと、その口の形を今すぐ崩して欲しい。なんだかシャドウを思い出す。
「……いいんだな? 余が、貴様の兄になっても? 言っておくが、余は貴様が思ってる以上に単純だからな? もし、タートで貴様の話題が出たら、余の自慢の妹ですと、こぞって言いふらすぞ?」
「それは、ただ私が恥ずかしい思いをするだけだから、やめてくれないか……?」
「それは重々承知だ。貴様が恥ずかしい思いをするのは、余も耐えられん。しかし、今は無理だ。あまりにも嬉し過ぎて、感情が抑えられん」
「そ、そこまでなのか」
あまりにも裏表が無い弁解は、アルビスらしいけれども。嬉しさが爆発すると、凛とした顔が見るも無残に崩れてしまうのか。
……逆に言ってしまえば。私が妹になると、アルビスはここまで喜んでくれるんだな。剥き出しの喜びが、全て表情に出てしまうほどに。
「当たり前だろ。いいか、余はな? 父さんや母さんと居た三十年前後。ベルラザ達と居た五、六十年前後。貴様と居た六十年前後を除いても、約三百五十年以上もの間、孤独な日々を過ごしてたんだ。そして余には、兄弟なんて居なかった。……そんな余に、妹が出来たんだぞ? もう、感極まって涙が出そうだ」
あ、本当だ。龍眼をよく見てみると、下の方に涙が溜まっている。
しかし、ちょっとずるいな。そこまで言われたら、何も言い返せなくなってしまうじゃないか。
「ならせめて、買い出しに行く二階層だけに留めてくれよ?」
「いいのか!? 分かった、約束しよう」
仕方なく私が折れて許可を出すと、アルビスの表情は凛々しいながらも、屈託の無い笑みに変わった。
どんな風に言いふらすのか、気になる所だし。色々と落ち着いてきたら、今度アルビスと一緒に買い出しへ行ってみよう。
「それよりも、エリィさんが待ってるぞ。早く会ってあげてくれ」
「おっと! そうだな。じゃあ、行ってくる」
当初の目的を思い出したアルビスが、ふわりとほくそ笑んだ後。私に背を向け、喉を温めながらエリィさんのお墓へ向かって行った。
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