ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

文字の大きさ
上 下
240 / 301

235話、いずれ対峙する、フローガンズの師匠

しおりを挟む
 体温を感じ取れないサニーの体を、せめて私の体で温めてあげようとして、更に強く抱きしめた矢先。
 急にサニーが、私の抱擁を振り払い、涙と鼻水まみれの顔を合わせてきたかと思えば。
 第二に発した言葉は、ガラガラな大声での「おながずいだぁっ!!」。あまりに唐突な訴えだったので、圧倒されて一瞬呆けてしまったものの。
 私や周りに居た者達は、慌てふためきつつ、食事の準備に取り掛かった。しかし、サニーは約十日間以上もの間、ロクに食事や水分を取っていなかった。
 なのでまず、胃慣らしから始めるべく、サニーに秘薬を飲ませ。次に、ゴブリンの医療班による指導の下、粉末状にした滋養強壮効果のある薬草を溶け込ませた白湯を、二杯ほど飲ませた。

 すると泣きじゃくっていたサニーが、ようやく落ち着いてきてくれたのだが。
 いきなりガッツリ食べさせると、胃が受け付けてくれなく、全て吐いてしまうかもしれないと医療班に注意されたので。
 次は、お湯でクタクタになるまで煮た穀物を、私が冷ましながら食べさせてあげた。
 味付けは、塩味のある調味料を少々のみだったけど、サニーは笑顔で「おいしい」と言ってくれた。

 一応、時間を掛けて鍋一杯分食べさせたのだが、サニーの食欲は留まる事を知らず。どうしても固形物を食べたいというサニーの為に、食事班のゴブリン達が頭を悩ませた結果。
 油分がほとんど無く、口当たりの良いサッパリとした肉の赤身を焼き。食べやすいよう小さく切り分け、医療班に叱られつつ食べさせている最中。
 私が帰って来て安心したのか、はたまた緊張が途切れたのか。大判の赤身肉が二枚目に差し掛かった途端、サニーは私に寄り掛かって寝てしまった。

 その寝顔は、とても安らかでいて、柔らかく微笑んでいた。が、サニーはまだ、食事を食べてくれるようになっただけ。
 体調自体は万全に戻っていなく、見るからに栄養失調の疑いがあり。「ここからは、私に任せて下さい」とウンディーネが張り切り出し、眠りに就いたサニーに、『水の揺りかご』という治癒魔法をかけた。
 見た目は、宙に浮いた水の球体そのもの。しかし、この『水の揺りかご』なる治癒魔法。なんでも最上位魔法に当たり、生命維持に欠かせない栄養素がふんだんに含まれているらしい。
 なのでウンディーネいわく、寝ている間サニーを中に入れておけば、約三日間前後で全快するとの事。

 そしてついでにと、私とアルビスが全員にお礼を言って回った後。
 サニーを付きっきりで護衛してくれていた、ヴェルインとカッシェさん率いる一味、ウィザレナとレナ、ファートや全ゴブリン達も、『水の揺りかご』へ入り、眠りに就いていった。

 私とアルビスも、一日だけ『水の揺りかご』の中で眠りに就いた、次の日。
 現在起きているのは、私とアルビス。ウンディーネ、シルフ、起きて合流したノームとプネラ、フローガンズだけになる。
 さてと。ここからは、問題が山積みな情報を共有していかなければ。人間界と精霊界に関わる、未曾有たる問題を。









「どうだ? ウンディねぇ。アカシックの体に、時の魔力はあったか?」

 椅子に座って腕を組み、私の頭に両手を添えているウンディーネに向かい、シルフが言う。

「はい、かなり集中して探らないと分かりませんが。シャドウさんの言う通り、頭の中に微量の魔力を感じ取れました」

「……なるほど? ならシャドウにぃは、嘘をついてねえみたいだな」

 ウンディーネの報告に、やや落胆気味に肩を落としたシルフが、アルビスお気に入りのハーブティーをすする。

「あの野郎。よくも俺様を操って、こき使ってくれたなあ。ぜってえ許さねえぞお。あいつが戻って来たら、とっちめてやらあ」

「狼藉者を許せないのは、余も同じです。ですので、ノーム様。シャドウを滅する日が来ましたら、余も同行させて下さいませ」

「おお、龍の兄ちゃん! 話を聞いた限り、あんたも散々な目に遭ったらしいじゃねえかあ。よーし! 同盟を組んで、シャドウをとっちめてやろうぜえ!」

「仰せのままに」

 私の心臓を奪うという目的を完遂させる為に、利用されたアルビスとノームが同盟を組み、固い握手を交わした。
 片や、ニッと雄々しく笑うノーム。片や、鋭い眼光に剥き出しの殺意を宿したアルビス。私も、アルビスと共闘する約束をしているから、あの同盟に組み込まれそうだな。

「ちょ……。あ、あっ、アカシックぅ……?」

「ん?」

 不意に、着ているローブを軽く引っ張られたので、左側に顔を向けてみれば。
 蒼白色の顔がより青ざめていて、完全に委縮しているフローガンズが、涙目の同心円眼を私に合わせてきていた。

「お前が、そんなに震えるなんて珍しいな。一体どうしたんだ?」

「ど、どうしたって言いたいのは、こっちの方だよぉ……。大精霊様同士が、同じ場所に居る事自体、滅多に有り得ないってのにぃ……。なんで、水と風と土を司る大精様達が、あんたの家でくつろいでんのさぁ……。そ、それに、プネラ様まで、闇を司る大精霊様になっちゃったし……」

 弱々しく訴えかけてきたフローガンズが、助けを求めるように、私のローブを両手で握ってきた。言われてみれば、確かにそうだ。
 私達にとって、当たり前な光景になりつつあるけれども。大精霊とは、もしかしたら居るかもしれないという、未だ憶測の域で語られている伝説の存在。
 そんな、世界では幻とも謳われた大精霊達が、現在私の家に四人も居る。

「私はお父さんの代理をやってるだけなので、元はただの精霊です。なので、普通に話してきて下さい!」

 椅子に座っている私の太ももに座っていたプネラが、フローガンズに無邪気な笑顔を送る。

「ぷ、プネラ様、無茶を言わないで下さい……。たとえ代理であっても、あなた様は今、大精霊様なんです。とてもじゃないですが───」

「おうおう、フローガンズ。大層な師匠が居るクセに、なに今更ビビってんだよ」

「ふぉあっ!? し、シルフ様。師匠は、長年あたしの稽古をつけてくれてましたので、なんと言いますか……」

 あの破天荒なフローガンズが、気軽に話し掛けてきたシルフに畏怖し、両手をわたわたとさせながら弁解している。
 かなり珍しい光景だから、見ているのがだんだん面白くなってきた。

「よく弟子についてお話をされていましたけど、フローガンズさんだったのですね。あいつは努力の天才だとか、アタシを越すのはあいつしか居ねえと、いつも熱弁していましたよ」

「ふぇっ……、や、あのっ……。は、恥ずかしくて、溶けちゃいそぅ……」

 よかれと踏んだウンディーネの暴露話に、トドメを刺されて顔を真っ赤にさせたフローガンズが、煙が昇り出した顔を両手で覆い隠し、テーブルに塞ぎ込んだ。
 そういえばフローガンズは、夢の中で師匠とやらに助けを求めようと言っていたっけ。シルフやウンディーネと関りがありそうだし、……まさか?

「なあ、シルフ。フローガンズの師匠って、もしかして?」

「ここまで聞かれたら、流石に察しちまうよな。けど、お前と対峙すんのはもうちょい先だ。それまでの間、体を温めて待ってろ」

「……ああ。やっぱり、そういう事なんだな」

 シルフのお陰で、確信出来てしまった。つまり、フローガンズの師匠は、氷を司る大精霊になる。この人はノームと同じく、戦闘は避けられないだろう。
 さて、どうしたものか。フローガンズの師匠であれば、戦い方もきっと似ているだろう。なので、主な攻撃は近接格闘。魔法も使用してくるだろうし、中、長距離からの攻撃も飛んで来るはず。
 ノームと戦った時は、絶大な束縛力を発揮する『ふわふわ』があったので、私に近づけなかったものの。対策が無い今、氷を司る大精霊と私の相性は最悪だ。
 しかもフローガンズは、攻撃や魔法を回避するのが上手い。だからこそ、十日間前後戦っても、あいつに決定打を与えられなかった。

 ちょっとまずいな。距離を詰めて来るのが速いと、私は詠唱はすら唱えられなくなってしまう。
 魔法が使えなければ、私はただの非力な人間に過ぎない。シルフの言う通り、今の内に、何か対策を講じておかないとな。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...