225 / 294
220話、光を宿した闇の警告
しおりを挟む
「アルビス師匠~、いつまで寝てんの? ほら、早く起きなって」
「むぅ……」
まどろむ明るい闇の中。騒々しい声が遠くから響いてきて、闇に一閃の亀裂が入り、上下へ広がっていく。
眩しく開けた視界の先に、蒼白色でぽやっとした真顔のフローガンズが映り込んだ。
「フローガンズぅ……?」
「おっ! やっと起きたー。夢の中だってのに、いくら何でも寝過ぎだよ」
「夢の、中ぁ?」
こいつは、寝起き様に何を言っているんだ? まあいい、とにかく一旦起きるとしよう。
勝手に開く口を無視しつつ、やたらと重く感じる状態を起こし、眠気がこびりついた瞼を擦る。
体に居座る眠気も振り払う為、上体を限界まで伸ばし、辺りの様子を確かめてみた。
「ここは、余らの家じゃないか」
しかし、なんだか妙な違和感を覚える光景だ。一見、何の変哲も無さそうな部屋だが、細部に注目すると、余の記憶に無い変な歪みがあり。
部屋の間取りや棚の配置も、微妙に異なっている。極め付けは、匂いと感触。共に、まったくと言っていいほど感じ取れない。これが一番おかしいんだ。
鼻は詰まっていないし、体調も良好。しかし、嗅ぎ慣れた部屋の匂いがしなければ、肌と服が擦れ合う感触さえ分からない。
一体どうしてなんだ? ここは、確かにアカシック・ファーストレディの家で間違いない。故に余は、沼地帯に居るはず。が、感覚的に、まるで『常闇地帯』に居るような───。
「待てよ? なんで余は、沼地帯に居るんだ?」
常闇地帯という単語を思い浮かべたら、記憶に一瞬だけ砂嵐が走った。そうだ。まず、ここに余らが居る事自体がおかしい。
思い出せ。寝る前に余は、どこに居た? 沼地帯だけじゃないのは確かだ。山岳地帯の寝床は、とうの昔に破棄したので除外。当然、他の地帯も違う。
「もしかして、意識が夢に囚われる感じ? はっは~ん」
「夢? ……あ」
夢に囚われている。なるほど? どうやら夢の中に入ると、記憶があやふやに書き換えられるらしい。だからこそ、夢を夢だと気付けなかったのか。
「ねえ、アルビス師匠~。昨日、あたしと熱い一夜を過ごしたのも、全部忘れちゃったのぉ~?」
「余を騙そうなぞ、百年早いぞ? 熱い夜を過ごしたいなら、夜空とまとめてブレスで焼き払ってやろうか?」
「げっ……、意識が覚醒してんじゃん。クソぅ、焦り倒すアルビス師匠が見れると思ったのにぃ」
企みを暴露したフローガンズが、悔しそうに指を鳴らした。危ない。意識が覚醒していなかったら、真に受けて激しく動揺していただろう。
「ふっ、一歩遅かったな。それよりも、アカシック・ファーストレディに何か言いたかったんじゃないのか?」
「そうだ! でもさ、どこに居るんだろうね?」
「さあな。ここには居ないから、とりあえず外へ出てみよう」
「そうだね」
そう提案すると、フローガンズが扉に向かい歩き出した。余もベッドから降り、華奢な背中を追おうとした矢先。扉を開けたフローガンズが、「あっ!」と声を上げた。
「居たぁぁぁっーーー!! アカシックぅぅ……」
「なんだ、もう見つけたのか」
余も扉に近づき、日差しの明るさに慣れていない目を眩ませながら、フローガンズが駆けていった方角へ顔をやる。
そこには、倒れたアカシック・ファーストレディに跨り、満面の笑顔で再会を喜ぶフローガンズの姿。その二人の横に、苦笑いをしているプネラが居た。
「アカシックぅ~、久しぶりー! 元気にしてたー!?」
「ちょ、ちょっと待て! まだ頭の整理が、まったく追い付いてない状態なんだ! お前が居ると余計に混乱するから、一回離れてくれ!」
「やだっ! もう絶対離さないもんねー! ふんっ!」
「ぐおっ!?」
絶対に逃がさまいと、慌てふためくアカシック・ファーストレディの体に抱きつくフローガンズ。
早速戦いを申し込むとばかり思っていたが、普通に仲が良いじゃないか。
「よかった、元気そうでなによりだ」
ここが現実世界ではないものの。普段と変わりないアカシック・ファーストレディの姿を見られたのが、何よりも嬉しい。最高の瞬間だ。
っと、こうしちゃいられない。余も、あいつらと合流して、一刻も早く『闇産ぶ谷』から脱出せねば。
「あっ、アルビスお兄ちゃん!」
「やあ、プネラ」
騒がしく小競り合いをしている二人に、早足で近づくや否や。余の気配に気付いたプネラが、屈託の無い笑みを向けてきた。
プネラは、幼少期のアカシック・ファーストレディの姿を借りているのだが。幼少期の頃のあいつは、こんな笑顔を皆に振る舞っていたんだな。見ているだけで、心に不思議と暖かい活力が漲ってくる。
「まずは、万謝を申し上げたい。アカシック・ファーストレディに治療を施してくれて、誠に感謝する」
「いいよ、そんなに畏まらなくても。私がやりたくてやった事だし、とりあえず楽にしてちょうだい」
「そ、そうか。なら、言葉に甘えさせてもらおう」
しかし、プネラは余やサニーの恩人とも言える存在。なるべく粗相をおかさないよう心掛けねば。そう決めた余は、プネラからやや離れた距離で正座をした。
「そういやさ、アカシック! あたしと別れてから、もう七十年以上経ってるのに、なんでおばあちゃんになってないの? 別人じゃないよね?」
「……い、色々訳があって、今は不老の体になってるんだ。だから私は、永遠に二十四歳の、まま、なんだ……」
「えっ、そうなの!? だったら、ずっとあたしと戦ってられるじゃん! やったー!」
「ぐおっ……!」
かなり力を込めているのか。フローガンズに抱きしめられたアカシック・ファーストレディの体から、『ギリギリ』と鈍いを音を発し始めた。
一応ここは、夢の中なのだが。アカシック・ファーストレディは苦しそうな表情をしているし、やはり痛いのだろうか?
試しに自分の頬を抓ってみたが、痛みがまったく伝わってこない。じゃあ、アカシック・ファーストレディは、なんであんなに苦しんでいるんだ?
「そうだ。なあ、プネラ。一つ聞きたい事があるんだが」
「聞きたい事? うん、いいよ! なんでも言って!」
「ありがとう。その、あまり大きな声で言えないんだが。外の方は、どうなってる?」
「外? ……ああ! 現実世界の方だね。心配しなくても大丈夫だよ。闇の精霊は、脳まで侵入しないと夢に介入出来ないんだ。で、お父さんは今、アルビスお兄ちゃんの約束をちゃんと守ってて、みんなの護衛をしてくれてるよ」
「そうか。それを聞けて安心した」
現在、現実世界の余らは眠っているので、完全なる無防備状態。一応シャドウは、余との約束は守ってくれているらしい。
そして、たとえ闇の精霊と言えど、離れていれば夢への介入は不可能。ならば、シャドウに監視されているかもしれないという懸念も払える。
プネラは、決して嘘をついてなんかいない。この子も闇の精霊だが、他に例えるなら純粋無垢の光。で、シャドウは何色にも染まらない生粋の闇と言えよう。
「でさでさ! アルビスお兄ちゃん。アカシックお姉ちゃんの治療、あと五分もすれば完全に終わるよ」
「おお、そうか! すまない、プネラ。貴様には、なんとお礼をすればいいやら」
「ふふんっ。お礼の方は、アカシックお姉ちゃんにも言ったけど。私の頭をいっぱい撫でたり、いっぱい遊んでくれればいいからね!」
「ははっ、分かった。沼地帯へ行ったら、余らと色んな思い出を作りながら遊ぼうじゃないか。きっとサニーも、貴様を歓迎してくれるだろう」
「うっ……」
サニーの名前を出した途端。プネラの体にばつの悪そうな小波が立ち、表情がしょぼくれていく。
「……その、サニーお姉ちゃんなんだけどさ。私が、アカシックお姉ちゃんをここへ連れて来たその日から、ずっとふさぎ込んじゃってるんだよね」
「む……。や、やはりか」
「うん。誰とも話そうとしないし、朝から家の扉の前で座って、夜遅くまでずっとそうしてるんだよね。それで、そのまま寝落ちしちゃったら、ヴェルインお兄ちゃんやウィザレナお姉ちゃん達が、家の中へ運んでるんだ。食事やお水をろくに取ってないから、すごく心配なんだよね……」
「なるほど……」
当然だ。サニーにも、ある程度の事情は説明したものの。母親であるアカシック・ファーストレディと、もう十日間も離れ離れのままなんだ。
その強烈な孤独感は、余ですら計り知れん。プネラの言っている事が本当であれば、サニーはかなり衰弱しているだろう。早く、一秒でも早く帰ってやらねば。
「プネラ。夢の外へ出たら、すぐに帰るぞ」
「そうだね。でも、気を付けてね。アルビスお兄ちゃん」
「シャドウ様にか?」
即座に言葉を返してみれば、プネラもすぐに頷いてみせた。
「今日のお父さん、ちょっと様子が変なんだよね。どこか浮かれ気味で、はしゃいでるというか。なんだか、すごく楽しそうにしてるんだ。まるで、新しい玩具を見つけたような感じでね」
「余が玩具、ねぇ」
「うん。だから、また何かしてくるかもしれないから、片眼鏡みたいに壊されないよう気を付けてね」
余に、背筋が凍り付きかねない警告をしてきたプネラの表情は、感情が一切乗っていない真顔。……なんとも冷たく、気圧される警告だ。
幼いアカシック・ファーストレディの顔で言われたせいもあり、余計に深い恐怖を感じてしまった。
「わ、分かってる。しかし、余だけでは何かと不安だ。貴様も、シャドウ様を説得してみてくれ」
「当たり前だよ! いの一番に起きて、みんなを守ってあげるからね!」
「ありがとう。貴様がこちら側へ付いてくれるのは、なんとも心強い。頼りにしてるからな」
「うん!」
今度は、全ての闇を寄せ付けぬ笑顔で了承してくれた。さあ、時間はまだ少しだけある。アカシック・ファーストレディとフローガンズにも説明して、起きた時の対処に備えなければ。
「むぅ……」
まどろむ明るい闇の中。騒々しい声が遠くから響いてきて、闇に一閃の亀裂が入り、上下へ広がっていく。
眩しく開けた視界の先に、蒼白色でぽやっとした真顔のフローガンズが映り込んだ。
「フローガンズぅ……?」
「おっ! やっと起きたー。夢の中だってのに、いくら何でも寝過ぎだよ」
「夢の、中ぁ?」
こいつは、寝起き様に何を言っているんだ? まあいい、とにかく一旦起きるとしよう。
勝手に開く口を無視しつつ、やたらと重く感じる状態を起こし、眠気がこびりついた瞼を擦る。
体に居座る眠気も振り払う為、上体を限界まで伸ばし、辺りの様子を確かめてみた。
「ここは、余らの家じゃないか」
しかし、なんだか妙な違和感を覚える光景だ。一見、何の変哲も無さそうな部屋だが、細部に注目すると、余の記憶に無い変な歪みがあり。
部屋の間取りや棚の配置も、微妙に異なっている。極め付けは、匂いと感触。共に、まったくと言っていいほど感じ取れない。これが一番おかしいんだ。
鼻は詰まっていないし、体調も良好。しかし、嗅ぎ慣れた部屋の匂いがしなければ、肌と服が擦れ合う感触さえ分からない。
一体どうしてなんだ? ここは、確かにアカシック・ファーストレディの家で間違いない。故に余は、沼地帯に居るはず。が、感覚的に、まるで『常闇地帯』に居るような───。
「待てよ? なんで余は、沼地帯に居るんだ?」
常闇地帯という単語を思い浮かべたら、記憶に一瞬だけ砂嵐が走った。そうだ。まず、ここに余らが居る事自体がおかしい。
思い出せ。寝る前に余は、どこに居た? 沼地帯だけじゃないのは確かだ。山岳地帯の寝床は、とうの昔に破棄したので除外。当然、他の地帯も違う。
「もしかして、意識が夢に囚われる感じ? はっは~ん」
「夢? ……あ」
夢に囚われている。なるほど? どうやら夢の中に入ると、記憶があやふやに書き換えられるらしい。だからこそ、夢を夢だと気付けなかったのか。
「ねえ、アルビス師匠~。昨日、あたしと熱い一夜を過ごしたのも、全部忘れちゃったのぉ~?」
「余を騙そうなぞ、百年早いぞ? 熱い夜を過ごしたいなら、夜空とまとめてブレスで焼き払ってやろうか?」
「げっ……、意識が覚醒してんじゃん。クソぅ、焦り倒すアルビス師匠が見れると思ったのにぃ」
企みを暴露したフローガンズが、悔しそうに指を鳴らした。危ない。意識が覚醒していなかったら、真に受けて激しく動揺していただろう。
「ふっ、一歩遅かったな。それよりも、アカシック・ファーストレディに何か言いたかったんじゃないのか?」
「そうだ! でもさ、どこに居るんだろうね?」
「さあな。ここには居ないから、とりあえず外へ出てみよう」
「そうだね」
そう提案すると、フローガンズが扉に向かい歩き出した。余もベッドから降り、華奢な背中を追おうとした矢先。扉を開けたフローガンズが、「あっ!」と声を上げた。
「居たぁぁぁっーーー!! アカシックぅぅ……」
「なんだ、もう見つけたのか」
余も扉に近づき、日差しの明るさに慣れていない目を眩ませながら、フローガンズが駆けていった方角へ顔をやる。
そこには、倒れたアカシック・ファーストレディに跨り、満面の笑顔で再会を喜ぶフローガンズの姿。その二人の横に、苦笑いをしているプネラが居た。
「アカシックぅ~、久しぶりー! 元気にしてたー!?」
「ちょ、ちょっと待て! まだ頭の整理が、まったく追い付いてない状態なんだ! お前が居ると余計に混乱するから、一回離れてくれ!」
「やだっ! もう絶対離さないもんねー! ふんっ!」
「ぐおっ!?」
絶対に逃がさまいと、慌てふためくアカシック・ファーストレディの体に抱きつくフローガンズ。
早速戦いを申し込むとばかり思っていたが、普通に仲が良いじゃないか。
「よかった、元気そうでなによりだ」
ここが現実世界ではないものの。普段と変わりないアカシック・ファーストレディの姿を見られたのが、何よりも嬉しい。最高の瞬間だ。
っと、こうしちゃいられない。余も、あいつらと合流して、一刻も早く『闇産ぶ谷』から脱出せねば。
「あっ、アルビスお兄ちゃん!」
「やあ、プネラ」
騒がしく小競り合いをしている二人に、早足で近づくや否や。余の気配に気付いたプネラが、屈託の無い笑みを向けてきた。
プネラは、幼少期のアカシック・ファーストレディの姿を借りているのだが。幼少期の頃のあいつは、こんな笑顔を皆に振る舞っていたんだな。見ているだけで、心に不思議と暖かい活力が漲ってくる。
「まずは、万謝を申し上げたい。アカシック・ファーストレディに治療を施してくれて、誠に感謝する」
「いいよ、そんなに畏まらなくても。私がやりたくてやった事だし、とりあえず楽にしてちょうだい」
「そ、そうか。なら、言葉に甘えさせてもらおう」
しかし、プネラは余やサニーの恩人とも言える存在。なるべく粗相をおかさないよう心掛けねば。そう決めた余は、プネラからやや離れた距離で正座をした。
「そういやさ、アカシック! あたしと別れてから、もう七十年以上経ってるのに、なんでおばあちゃんになってないの? 別人じゃないよね?」
「……い、色々訳があって、今は不老の体になってるんだ。だから私は、永遠に二十四歳の、まま、なんだ……」
「えっ、そうなの!? だったら、ずっとあたしと戦ってられるじゃん! やったー!」
「ぐおっ……!」
かなり力を込めているのか。フローガンズに抱きしめられたアカシック・ファーストレディの体から、『ギリギリ』と鈍いを音を発し始めた。
一応ここは、夢の中なのだが。アカシック・ファーストレディは苦しそうな表情をしているし、やはり痛いのだろうか?
試しに自分の頬を抓ってみたが、痛みがまったく伝わってこない。じゃあ、アカシック・ファーストレディは、なんであんなに苦しんでいるんだ?
「そうだ。なあ、プネラ。一つ聞きたい事があるんだが」
「聞きたい事? うん、いいよ! なんでも言って!」
「ありがとう。その、あまり大きな声で言えないんだが。外の方は、どうなってる?」
「外? ……ああ! 現実世界の方だね。心配しなくても大丈夫だよ。闇の精霊は、脳まで侵入しないと夢に介入出来ないんだ。で、お父さんは今、アルビスお兄ちゃんの約束をちゃんと守ってて、みんなの護衛をしてくれてるよ」
「そうか。それを聞けて安心した」
現在、現実世界の余らは眠っているので、完全なる無防備状態。一応シャドウは、余との約束は守ってくれているらしい。
そして、たとえ闇の精霊と言えど、離れていれば夢への介入は不可能。ならば、シャドウに監視されているかもしれないという懸念も払える。
プネラは、決して嘘をついてなんかいない。この子も闇の精霊だが、他に例えるなら純粋無垢の光。で、シャドウは何色にも染まらない生粋の闇と言えよう。
「でさでさ! アルビスお兄ちゃん。アカシックお姉ちゃんの治療、あと五分もすれば完全に終わるよ」
「おお、そうか! すまない、プネラ。貴様には、なんとお礼をすればいいやら」
「ふふんっ。お礼の方は、アカシックお姉ちゃんにも言ったけど。私の頭をいっぱい撫でたり、いっぱい遊んでくれればいいからね!」
「ははっ、分かった。沼地帯へ行ったら、余らと色んな思い出を作りながら遊ぼうじゃないか。きっとサニーも、貴様を歓迎してくれるだろう」
「うっ……」
サニーの名前を出した途端。プネラの体にばつの悪そうな小波が立ち、表情がしょぼくれていく。
「……その、サニーお姉ちゃんなんだけどさ。私が、アカシックお姉ちゃんをここへ連れて来たその日から、ずっとふさぎ込んじゃってるんだよね」
「む……。や、やはりか」
「うん。誰とも話そうとしないし、朝から家の扉の前で座って、夜遅くまでずっとそうしてるんだよね。それで、そのまま寝落ちしちゃったら、ヴェルインお兄ちゃんやウィザレナお姉ちゃん達が、家の中へ運んでるんだ。食事やお水をろくに取ってないから、すごく心配なんだよね……」
「なるほど……」
当然だ。サニーにも、ある程度の事情は説明したものの。母親であるアカシック・ファーストレディと、もう十日間も離れ離れのままなんだ。
その強烈な孤独感は、余ですら計り知れん。プネラの言っている事が本当であれば、サニーはかなり衰弱しているだろう。早く、一秒でも早く帰ってやらねば。
「プネラ。夢の外へ出たら、すぐに帰るぞ」
「そうだね。でも、気を付けてね。アルビスお兄ちゃん」
「シャドウ様にか?」
即座に言葉を返してみれば、プネラもすぐに頷いてみせた。
「今日のお父さん、ちょっと様子が変なんだよね。どこか浮かれ気味で、はしゃいでるというか。なんだか、すごく楽しそうにしてるんだ。まるで、新しい玩具を見つけたような感じでね」
「余が玩具、ねぇ」
「うん。だから、また何かしてくるかもしれないから、片眼鏡みたいに壊されないよう気を付けてね」
余に、背筋が凍り付きかねない警告をしてきたプネラの表情は、感情が一切乗っていない真顔。……なんとも冷たく、気圧される警告だ。
幼いアカシック・ファーストレディの顔で言われたせいもあり、余計に深い恐怖を感じてしまった。
「わ、分かってる。しかし、余だけでは何かと不安だ。貴様も、シャドウ様を説得してみてくれ」
「当たり前だよ! いの一番に起きて、みんなを守ってあげるからね!」
「ありがとう。貴様がこちら側へ付いてくれるのは、なんとも心強い。頼りにしてるからな」
「うん!」
今度は、全ての闇を寄せ付けぬ笑顔で了承してくれた。さあ、時間はまだ少しだけある。アカシック・ファーストレディとフローガンズにも説明して、起きた時の対処に備えなければ。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる