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212話、どの属性にも該当しない未知の魔力
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「……んっ。……あれ、ここは?」
明るい闇に横一閃の亀裂が入り、ぼやけた柔らかな光に包まれ、だんだん色付いてきた視線の先。鮮烈な群青を誇る空の中に、ゆらゆらと揺れる木の枝が見え。
あまり感覚が無い上体を起こし、辺りを見渡してみれば。すぐ近くに私の家があり、背後に顔をやると物静かな林があった。
「うたた寝でも、してたのか?」
それにしては、何かと違和感のある場所だ。そよ風が吹いているのに、体を撫でていく感触がしないし。群生した白い花や、若草の匂いも感じ取れない。
そして、なぜ誰も居ないんだ? 普段、一体以上は必ず常駐しているゴーレムも、今は影一つすら伺えない。そういえば、アルビスも居なくなっているじゃないか。
サニーもどこへ行った? 家の中は灯りがついていなく、気配は無い。ウィザレナ達の家も、私の家と同じく、もぬけの殻だ。
「……いや、待てよ? なんで私は、ここに居るんだ?」
そうだ。まだ記憶は曖昧だけど、それ自体に違和感がある。私は今まで、何をしていた? 沼地帯に居ないのだけは確かだ。
思い出せ。私の傍に、もう一人誰か居た気がする。サニーとアルビスは違う。私は黒い水の魔物に攫われて、林の中へ……。
「……そうだ。私はプネラと再会して、『闇産ぶ谷』へ連れて行かれたはずじゃ?」
「やっと意識が覚醒したね、アカシックお姉ちゃん」
「ふぉわっ!?」
突然、視界外から幼い私の声が聞こえてきたせいで、体を大きく波立たせる私。
慌てて視界を左下へ移すと、そこにはちょこんと座り、微笑んだ顔を私に合わせているプネラが居た。
「ぷ、プネラか……」
「ふふっ。大きくなっても、アカシックお姉ちゃんはあんまり変わんないね」
「大きく? ……む?」
そういえば、私は普通に座っているのに対し、プネラがやたらと小さく見えるような? それに私の声も、大人びているような気が……。
手の平や体の大きさも、そう。いつもの見慣れた大きさだ。着ている服も、サニーから借りた上下一体の白い衣服ではなく。普段から身に纏っている、大人物の黒いローブに変わっていた。
「もしかして、大人の姿に戻ったのか?」
「九割方ね。あとは心臓にある『不死鳥のくちばし』を取り除けば、完璧に元の姿に戻るよ」
「え? し、心臓?」
「うん! 今ね、私がアカシックお姉ちゃんの体内に入って、『不死鳥のくちばし』を取り除いてるんだ。毛細血管、指と足の先、各細胞や他の末端と脳を含んだ内臓も行き終わったから、これから心臓に行くんだ!」
「は、はぁ……」
寝起き様に、何かと信じられない状況を、屈託の無い明るい笑顔で説明されてしまったが……。嘘をついているようにも見えないし、色々と疑問点が浮かんできてしまった。
なぜプネラは、私の体内へ入り込み、『不死鳥のくちばし』を取り除いているのか。そして、私の体内に入り込んでいるはずのプネラが、なぜ今目の間に居るのか。
なんで『闇産ぶ谷』へ連れて行かれたはずの私が、沼地帯に居るのかなどなど。あまり悠長に話すのも、何かとアレだと思うけれども。とりあえず、聞いてみるとしよう。
「なあ、プネラ。色々聞いてみてもいいか?」
「うん、いいよ! なんでも言って!」
「そうか。ならまず、ここって沼地帯だよな? 確か私は、お前が出した『黒闇の通路』に落とされて、『闇産ぶ谷』に連れて行かれたはずだろ? 私が気を失ってる間に、『闇産ぶ谷』から戻ってきたのか?」
「ううん。アカシックお姉ちゃんは、まだ『闇産ぶ谷』でぐっすり眠ってるよ」
「『闇産ぶ谷』で眠ってる? ……ああ、なるほど? そういう事か」
プネラの一言により、この場にある違和感の正体が、ようやく掴めた。同時に、なぜ私の体内へ入っているはずのプネラが、目の前で座っているのかもな。
「ここ、私の夢の中か」
「正解! アカシックお姉ちゃんが夢を見出したから、思わず入ってきちゃったんだ」
「そういう事か。しかし、今回はあまり面白味がない夢だな。どうせだったら、また教会に行きたかった」
そうすれば、また『レム』さんや『ピース』と逢えたかもしれないのに。もう一度見てみたいな、あの夢を。
「そうだ! アカシックお姉ちゃん、私も色々文句が言いたいんだけど」
「も、文句?」
空を仰いでいた顔を、プネラの方へ戻してみると。プネラは怒った様子でいて、しかめっ面を私に合わせていた。
「そう! アカシックお姉ちゃんの体の中、不純物がとんでもなく多かったよ? そのせいで、塞がってる血管がいくつもあったし。ちゃんと処理されて無害化してたけど、他の成分と反応して、変異し掛けてた毒もかなりあったんだからね? 一応、全部取り除いたけど、もっと自分の体を大事にしなきゃ」
「うっ……。そ、そんなに、すごかったのか? 私の体の中は?」
「すごいって言うか、ありえないほど酷かったよ。ここ、本当に人間の体内だよね? って、疑うぐらいにね」
まだ、私の心が闇に堕ちていた頃。あらゆる魔物や獣の部位をはぎ取り、効果や成分がハッキリと分かっていない薬草と毒草を調合して、自分の体で試していた時期が、約五十年ぐらいあったからな。
不老化、食事や睡眠をする必要も無くなり、肌で温度を感じ取れなくなったなど、それなりに異常はきたしていたが……。やはり、相当酷使していたらしい。
「……すまない、プネラ。なんとお礼をすればいいやら」
「本当だよ。治療が終わって目が覚めたら、頭をいっぱい撫でてよね? あと、アカシックお姉ちゃんやサニーお姉ちゃんと、いっぱい遊んでみたいな」
「ふふっ、分かった。お前が満足するまで、付き合ってやるからな」
「うん! 絶対だからね!」
そう弾けた笑みになり、体をゆらゆらと揺らすプネラ。そういえば、初めてプネラと出会った時も、別れ際にそんな事を言っていたっけ……、待てよ?
確か私って、サニーやアルビスと合流する前に、『闇産ぶ谷』へ連れて行かれたよな? しかも、二人には何の説明も無いままに。
「あと、アカシックお姉ちゃん。もういくつか、質問いい?」
「質問? なんだ?」
「アカシックお姉ちゃんの、体を循環してた時なんだけどさ。七属性の、どの属性にも該当しない魔力を感じたんだよね」
「へ? 七属性の、どの属性にも該当しない、魔力?」
七属性と言えば、一般的に水、火、風、土、氷、光、闇の属性を差す。
他にも、まだ解析が進んでいない雷属性や、ウィザレナとレナだけが保持している、月属性の魔力があるものの。
普通の人間が保持している魔力は、基本的に七属性だけだ。あり得るとすれば、ウィザレナ達が保持している月属性の魔力が、何かの理由で入り込んだぐらいだが。
一応、プネラに色を聞いてみるか。もし白か虹っぽい色をしていたら、月属性の魔力と見ていいはずだ。
「うん。頭の部分を循環してる時、何度か感じたんだよね。なんだか、とても不思議な魔力だったなぁ」
「なあ、プネラ。感じた魔力の色って、どんな色をしてたんだ?」
「色? えっとねぇ~……。感じた度に違ってたから、参考になるかな?」
「色が、変わってた?」
「そう。三、四色ぐらいだったかな? 透き通った青でしょ? 薄い黄色が溶け込んだような白の時もあったし、赤が混じった紫の時もあったよ」
感じる度に、異なった色をしている魔力だと? なんだ、それ? 本当に魔力なのか? しかしプネラは、闇の精霊だ。魔力の源と言っても過言ではない者が、魔力を他の物と間違えるはずがない。
そもそも、色が変わる魔力ってなんなんだ? 属性その物が変わらない限り、色が変わるなんてあり得ないぞ? ……これも、数多の調合薬を飲んだせいによる、副作用か何かなのか?
「ちなみになんだが……。プネラには、その魔力に何かしらの覚えはあるのか?」
「えっと……、ごめん。私も初めて感じた魔力だから、分かんないだ。だから、あとでお父さんに聞いてみるね。お父さんだったら、何か知ってるかもしれないし」
「そうだな。目が覚めた後でいいから、聞いてみてくれ」
プネラの父親は、闇を司る大精霊『シャドウ』様だ。プネラの言う通り、何か知っているかもしれない。それでも分からなかったら、私もシルフやウンディーネに聞いてみよう。
それにしても、気になる事だけが増えていく一方で、質問しようとしていた内容の大半が、頭からすっ飛んでいってしまった。
とにかく、今は私よりも外の状況だ。アルビス達、とても心配しているだろうな。
「プネラ。次は、私が質問してもいいか?」
「あっ、ごめん! 私ばっかりしちゃってたもんね。いいよ」
「ありがとう。お前と現実世界で再会して早々に、私はアルビスとサニーの目の前で、何の説明も無しに連れて行かれただろ? あいつら、今頃大騒ぎをしてるんじゃないか?」
「ああ! それだったら、半分大丈夫だよ。うまく説明が出来なかった私の代わりに、シルフ様がアルビスお兄ちゃんに全部教えてくれたから」
「シルフが?」
唐突に、シルフの名が出てきたという事は。もしかして、解呪方法を見つけ出してくれたのか?
だったら、今回の件に一枚嚙んでいても、なんら不自然ではないが。半分っていうのが、少し引っかかるな。
「うん! でね、アルビスお兄ちゃんが雪原地帯に着くまで、ずっとお話しをしてたら、すごく仲良くなれたんだ!」
「へえ、アルビスとも顔見知りになれたのか。よかったじゃ……、ん? 雪原地帯?」
雪原地帯って、湿地帯の先にある海を越えた場所にある、あの雪原地帯か?
もしそこだったら、私が沼地帯から出発して、限界速度を維持し続けても、到着までに最低七日間は掛かるんだぞ?
そして、アルビスの飛行速度は、私よりやや遅い。少なく見積もっても、八日間以上は掛かるはず。
で、一体何の目的で、アルビスが雪原地帯まで行ったのかは、一旦置いといてだ。アルビスが、雪原地帯に到着しているという事は……。
「ぷ、プネラ? 私とお前が、沼地帯で再会した日から、これまで何日経過してるんだ……?」
「何日間? えっとぉ~……。数時間前に、アルビスお兄ちゃんが雪原地帯に到着したから~……。もう少しで、十日間経つかな?」
「と、十日間っ!?」
おい、なんの冗談だ? 嘘だろ? プネラと再会を果たしてから、もう十日間が経っているだと? 感覚的には、まだ五分すら経っていないというのに。
駄目だ、また理解が追い付かなくなってきた。止めどなく出てくる、とんでもない新しい情報群が、私の冷静さを根こそぎ削いで、頭を真っ白に染め上げていく。
……少し、質問を止めて休憩しよう。このまま質問を重ねていくと、怒涛の如く押し寄せてくる情報の荒波に飲まれて、頭が爆発してしまうかもしれない。
明るい闇に横一閃の亀裂が入り、ぼやけた柔らかな光に包まれ、だんだん色付いてきた視線の先。鮮烈な群青を誇る空の中に、ゆらゆらと揺れる木の枝が見え。
あまり感覚が無い上体を起こし、辺りを見渡してみれば。すぐ近くに私の家があり、背後に顔をやると物静かな林があった。
「うたた寝でも、してたのか?」
それにしては、何かと違和感のある場所だ。そよ風が吹いているのに、体を撫でていく感触がしないし。群生した白い花や、若草の匂いも感じ取れない。
そして、なぜ誰も居ないんだ? 普段、一体以上は必ず常駐しているゴーレムも、今は影一つすら伺えない。そういえば、アルビスも居なくなっているじゃないか。
サニーもどこへ行った? 家の中は灯りがついていなく、気配は無い。ウィザレナ達の家も、私の家と同じく、もぬけの殻だ。
「……いや、待てよ? なんで私は、ここに居るんだ?」
そうだ。まだ記憶は曖昧だけど、それ自体に違和感がある。私は今まで、何をしていた? 沼地帯に居ないのだけは確かだ。
思い出せ。私の傍に、もう一人誰か居た気がする。サニーとアルビスは違う。私は黒い水の魔物に攫われて、林の中へ……。
「……そうだ。私はプネラと再会して、『闇産ぶ谷』へ連れて行かれたはずじゃ?」
「やっと意識が覚醒したね、アカシックお姉ちゃん」
「ふぉわっ!?」
突然、視界外から幼い私の声が聞こえてきたせいで、体を大きく波立たせる私。
慌てて視界を左下へ移すと、そこにはちょこんと座り、微笑んだ顔を私に合わせているプネラが居た。
「ぷ、プネラか……」
「ふふっ。大きくなっても、アカシックお姉ちゃんはあんまり変わんないね」
「大きく? ……む?」
そういえば、私は普通に座っているのに対し、プネラがやたらと小さく見えるような? それに私の声も、大人びているような気が……。
手の平や体の大きさも、そう。いつもの見慣れた大きさだ。着ている服も、サニーから借りた上下一体の白い衣服ではなく。普段から身に纏っている、大人物の黒いローブに変わっていた。
「もしかして、大人の姿に戻ったのか?」
「九割方ね。あとは心臓にある『不死鳥のくちばし』を取り除けば、完璧に元の姿に戻るよ」
「え? し、心臓?」
「うん! 今ね、私がアカシックお姉ちゃんの体内に入って、『不死鳥のくちばし』を取り除いてるんだ。毛細血管、指と足の先、各細胞や他の末端と脳を含んだ内臓も行き終わったから、これから心臓に行くんだ!」
「は、はぁ……」
寝起き様に、何かと信じられない状況を、屈託の無い明るい笑顔で説明されてしまったが……。嘘をついているようにも見えないし、色々と疑問点が浮かんできてしまった。
なぜプネラは、私の体内へ入り込み、『不死鳥のくちばし』を取り除いているのか。そして、私の体内に入り込んでいるはずのプネラが、なぜ今目の間に居るのか。
なんで『闇産ぶ谷』へ連れて行かれたはずの私が、沼地帯に居るのかなどなど。あまり悠長に話すのも、何かとアレだと思うけれども。とりあえず、聞いてみるとしよう。
「なあ、プネラ。色々聞いてみてもいいか?」
「うん、いいよ! なんでも言って!」
「そうか。ならまず、ここって沼地帯だよな? 確か私は、お前が出した『黒闇の通路』に落とされて、『闇産ぶ谷』に連れて行かれたはずだろ? 私が気を失ってる間に、『闇産ぶ谷』から戻ってきたのか?」
「ううん。アカシックお姉ちゃんは、まだ『闇産ぶ谷』でぐっすり眠ってるよ」
「『闇産ぶ谷』で眠ってる? ……ああ、なるほど? そういう事か」
プネラの一言により、この場にある違和感の正体が、ようやく掴めた。同時に、なぜ私の体内へ入っているはずのプネラが、目の前で座っているのかもな。
「ここ、私の夢の中か」
「正解! アカシックお姉ちゃんが夢を見出したから、思わず入ってきちゃったんだ」
「そういう事か。しかし、今回はあまり面白味がない夢だな。どうせだったら、また教会に行きたかった」
そうすれば、また『レム』さんや『ピース』と逢えたかもしれないのに。もう一度見てみたいな、あの夢を。
「そうだ! アカシックお姉ちゃん、私も色々文句が言いたいんだけど」
「も、文句?」
空を仰いでいた顔を、プネラの方へ戻してみると。プネラは怒った様子でいて、しかめっ面を私に合わせていた。
「そう! アカシックお姉ちゃんの体の中、不純物がとんでもなく多かったよ? そのせいで、塞がってる血管がいくつもあったし。ちゃんと処理されて無害化してたけど、他の成分と反応して、変異し掛けてた毒もかなりあったんだからね? 一応、全部取り除いたけど、もっと自分の体を大事にしなきゃ」
「うっ……。そ、そんなに、すごかったのか? 私の体の中は?」
「すごいって言うか、ありえないほど酷かったよ。ここ、本当に人間の体内だよね? って、疑うぐらいにね」
まだ、私の心が闇に堕ちていた頃。あらゆる魔物や獣の部位をはぎ取り、効果や成分がハッキリと分かっていない薬草と毒草を調合して、自分の体で試していた時期が、約五十年ぐらいあったからな。
不老化、食事や睡眠をする必要も無くなり、肌で温度を感じ取れなくなったなど、それなりに異常はきたしていたが……。やはり、相当酷使していたらしい。
「……すまない、プネラ。なんとお礼をすればいいやら」
「本当だよ。治療が終わって目が覚めたら、頭をいっぱい撫でてよね? あと、アカシックお姉ちゃんやサニーお姉ちゃんと、いっぱい遊んでみたいな」
「ふふっ、分かった。お前が満足するまで、付き合ってやるからな」
「うん! 絶対だからね!」
そう弾けた笑みになり、体をゆらゆらと揺らすプネラ。そういえば、初めてプネラと出会った時も、別れ際にそんな事を言っていたっけ……、待てよ?
確か私って、サニーやアルビスと合流する前に、『闇産ぶ谷』へ連れて行かれたよな? しかも、二人には何の説明も無いままに。
「あと、アカシックお姉ちゃん。もういくつか、質問いい?」
「質問? なんだ?」
「アカシックお姉ちゃんの、体を循環してた時なんだけどさ。七属性の、どの属性にも該当しない魔力を感じたんだよね」
「へ? 七属性の、どの属性にも該当しない、魔力?」
七属性と言えば、一般的に水、火、風、土、氷、光、闇の属性を差す。
他にも、まだ解析が進んでいない雷属性や、ウィザレナとレナだけが保持している、月属性の魔力があるものの。
普通の人間が保持している魔力は、基本的に七属性だけだ。あり得るとすれば、ウィザレナ達が保持している月属性の魔力が、何かの理由で入り込んだぐらいだが。
一応、プネラに色を聞いてみるか。もし白か虹っぽい色をしていたら、月属性の魔力と見ていいはずだ。
「うん。頭の部分を循環してる時、何度か感じたんだよね。なんだか、とても不思議な魔力だったなぁ」
「なあ、プネラ。感じた魔力の色って、どんな色をしてたんだ?」
「色? えっとねぇ~……。感じた度に違ってたから、参考になるかな?」
「色が、変わってた?」
「そう。三、四色ぐらいだったかな? 透き通った青でしょ? 薄い黄色が溶け込んだような白の時もあったし、赤が混じった紫の時もあったよ」
感じる度に、異なった色をしている魔力だと? なんだ、それ? 本当に魔力なのか? しかしプネラは、闇の精霊だ。魔力の源と言っても過言ではない者が、魔力を他の物と間違えるはずがない。
そもそも、色が変わる魔力ってなんなんだ? 属性その物が変わらない限り、色が変わるなんてあり得ないぞ? ……これも、数多の調合薬を飲んだせいによる、副作用か何かなのか?
「ちなみになんだが……。プネラには、その魔力に何かしらの覚えはあるのか?」
「えっと……、ごめん。私も初めて感じた魔力だから、分かんないだ。だから、あとでお父さんに聞いてみるね。お父さんだったら、何か知ってるかもしれないし」
「そうだな。目が覚めた後でいいから、聞いてみてくれ」
プネラの父親は、闇を司る大精霊『シャドウ』様だ。プネラの言う通り、何か知っているかもしれない。それでも分からなかったら、私もシルフやウンディーネに聞いてみよう。
それにしても、気になる事だけが増えていく一方で、質問しようとしていた内容の大半が、頭からすっ飛んでいってしまった。
とにかく、今は私よりも外の状況だ。アルビス達、とても心配しているだろうな。
「プネラ。次は、私が質問してもいいか?」
「あっ、ごめん! 私ばっかりしちゃってたもんね。いいよ」
「ありがとう。お前と現実世界で再会して早々に、私はアルビスとサニーの目の前で、何の説明も無しに連れて行かれただろ? あいつら、今頃大騒ぎをしてるんじゃないか?」
「ああ! それだったら、半分大丈夫だよ。うまく説明が出来なかった私の代わりに、シルフ様がアルビスお兄ちゃんに全部教えてくれたから」
「シルフが?」
唐突に、シルフの名が出てきたという事は。もしかして、解呪方法を見つけ出してくれたのか?
だったら、今回の件に一枚嚙んでいても、なんら不自然ではないが。半分っていうのが、少し引っかかるな。
「うん! でね、アルビスお兄ちゃんが雪原地帯に着くまで、ずっとお話しをしてたら、すごく仲良くなれたんだ!」
「へえ、アルビスとも顔見知りになれたのか。よかったじゃ……、ん? 雪原地帯?」
雪原地帯って、湿地帯の先にある海を越えた場所にある、あの雪原地帯か?
もしそこだったら、私が沼地帯から出発して、限界速度を維持し続けても、到着までに最低七日間は掛かるんだぞ?
そして、アルビスの飛行速度は、私よりやや遅い。少なく見積もっても、八日間以上は掛かるはず。
で、一体何の目的で、アルビスが雪原地帯まで行ったのかは、一旦置いといてだ。アルビスが、雪原地帯に到着しているという事は……。
「ぷ、プネラ? 私とお前が、沼地帯で再会した日から、これまで何日経過してるんだ……?」
「何日間? えっとぉ~……。数時間前に、アルビスお兄ちゃんが雪原地帯に到着したから~……。もう少しで、十日間経つかな?」
「と、十日間っ!?」
おい、なんの冗談だ? 嘘だろ? プネラと再会を果たしてから、もう十日間が経っているだと? 感覚的には、まだ五分すら経っていないというのに。
駄目だ、また理解が追い付かなくなってきた。止めどなく出てくる、とんでもない新しい情報群が、私の冷静さを根こそぎ削いで、頭を真っ白に染め上げていく。
……少し、質問を止めて休憩しよう。このまま質問を重ねていくと、怒涛の如く押し寄せてくる情報の荒波に飲まれて、頭が爆発してしまうかもしれない。
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