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191話、宝の居場所

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『天地万物に等しき光明を差す、闇と対を成す光に告ぐ。“光柱の管理人”、“天翔ける極光鳥”、天罰を下す刻が来た! 差す光明を今一度閉じよ!』

 『天翔ける極光鳥』を多重召喚する為に、空いた片手を掲げながら詠唱を始めると、上下左右に、光芒の紋章が描かれた魔法陣が出現。
 性懲りもなく、またこの二つを召喚してしまったが。私や周辺の人物に危険が及ばず、なおかつ超広範囲の攻撃が可能な召喚獣は、『光柱の管理人』と『天翔ける極光鳥』しか覚えていない。
 大体覚えているのは、私だけに危害が及ばない、対象物以外も平気で巻き込む魔法ばかりだ。

『“光柱の管理人”に告ぐ! ありったけだ! 私の魔力が続く限り、目の前に鎮座する『大地の覇者』を攻撃し続けてくれ! “天翔ける極光鳥”に告ぐ! お前達もありったけだ! 召喚され次第、光芒となりノームを探しながら『大地の覇者』を貫き続けてくれ! 契約者の名は“アカシック”!』

 なりふり構わない滅裂な指示を出し、合図まで出す。すると、天空から豆粒みたいにつぶらな『光柱の管理人』が、『大地の覇者』目掛けて豪雨の如く降り注ぎ出し。
 視界の半分を埋め尽くす光芒群が、瞬時に『大地の覇者』との間合いを詰めていく。風穴は……、胴体が厚過ぎるせいで開いているのか分からない。
 おまけに、こいつも再生持ちのようだ。『光柱の管理人』が体中を掠めて傷付けているが、すぐに塞がっている。何かの悪い冗談だと思いたいな、この完全に手詰まった状況を。
 ここまでされたら、シルフを除いた私の勝ち筋は、たった一つ。運良く『奥の手』が発動し、土属性の魔法を制限する事のみ。私の中で最強の威力を持つ『終焉』は、軽く対処されてしまうだろう。

『嬢ちゃん、俺様は目の前に居るんだぜえ? お得意の『ふわふわ』は使わないのかい?』

「生憎、射程外だ。そんなに束縛されたいなら、後でやってやる」

『そうかい! そいつは楽しみだぜえ!』

 ノームめ。『ふわふわ』という最大の脅威が去った今、声が活気に満ち溢れている。仕方ない、付き合ってやるか。あいつの大好きな、真っ向勝負とやらに。

『それじゃあ、始めようかあ? 純粋な殴り合いをよお』

「物理的な殴り合いは専門外だ。魔法で殴り合うなら、私も大賛成だぞ」

『それじゃあつまらねえ! 御託はいいから、さっさといくぜぇーーッ!! 大地の鉄拳、とくと味わってみなあ!!』

 大地が先に裂けかねない轟音絶叫を合図に、振り上げた『大地の覇者』の拳が太陽を隠す。そして、幾重にも発生した白い壁を突き破りながら迫ってきた。

「空から大陸が降ってきたな! どうする、アカシック殿!?」

「あれから逃げる暇や余裕は無い! 全力をぶつけて正面突破するぞ!」

「了解した! 『穿つは死兆星! 最速の輝きを放ち、爆ぜる死を殲滅せん! 四連『一番星』!』」

『魂をも焼き尽くすは、不老不死の爆ぜる颶風ぐふう! 生死の概念から解き放たれし者に、思考をも許されない永遠の眠りを! 『不死鳥の息吹』!』

 二つの呪文名が重なると、目先が極太の純白と灼熱の大熱線に支配された。空振を伴う衝撃波と絶えない爆発音が、交互に体を殴り付けてくる。
 視界は目が眩む絶不調。しかし、『不死鳥の息吹』が大地の拳と接敵したらしく。全身を押し返されてしまいそうな重圧感を感知。
 が、数秒後。全身が嘘のようにふっと軽くなった。よし、『不死鳥の息吹』が拳を貫通した証拠だ。

「ウィザレナ、私の方は貫通した! そっちはどうだ!?」

「こっちも今貫通した!」

「よし、突っ切るぞ!」

 火の杖を前方に固定したまま、限界速度で突っ切ろうとした矢先。先に拳が私達に届いたらしく、辺りを鋭い風切り音が木霊する闇に包まれた。

「グゥッ……! 風圧がすごいな、体ごと持っていかれそうだ!」

「頑張って耐えろ! もう抜けるぞ!」

 言ったそばから視界が晴れ、右上は体勢を崩した『大地の覇者』が。正面下に、『光柱の管理人』と『天翔ける極光鳥』が入り乱れるだだっ広い腕の荒野を視認。

「ウィザレナ! まずは、ここで宝探しを始めるぞ! なるべく広範囲を攻撃しつつ、背後へ回ろう!」

「分かった! 四連『流星群』!」

『“極光蟲”と“風壊砲”に告ぐ! 下にある荒野に向けて、攻撃を始めてくれ!』

 背後で待機していた召喚獣に指示を出しつつ、『不死鳥の息吹』を放ち終えた火の杖を退避させ。
 指招きで氷の杖を私の前方斜めに固定し、ついでに風の杖を右手に持った。

『吹雪く夜空を凍結させるは、怪狼のたけり! 儚き熱を携え抗う者を、銷魂しょうこんの極点に誘いたまえ! 『古怪狼の凍咆!』』

 土の魔法陣を凍結させる意味も込めて、詠唱を唱え終えると。視界の下半分を隠す形で、凛々しいフェンリルの頭部が描かれ、白みを帯びた青色の魔法陣が出現。
 その魔法陣が淡い水色の光を発すると、爪斬撃に似た氷晶を混じえた暴風雪が広範囲に渡って吹き出し。攻撃を受けて激しく損傷している荒野を、雪原に変えながら爪斬撃の氷晶が抉っていく。
 これなら、『光柱の管理人』も腕に深く潜り込めるだろう。しかし、そんな事は無用と言わんばかりに。ウィザレナが放った『流星群』が、より遠い位置で大暴れしている。
 凄まじい破壊力もさながら、一掃力も兼ね揃えた超広範囲型の重層光線よ。上手く広範囲にバラけているけど、腕の切断までは叶わないか。

「アカシック様! アカシック様の前方に、土の壁が出来てます!」

「分かった! ついでに、ご尊顔にも挨拶しておこう」

 杖先を下に構えた風の杖を、力任せに振り上げ。先が歪で鋭利に曲がっていて、薄緑色をした風の大回転刃を二十枚召喚。
 その大回転刃が高速回転しながら雪原へ落下し、次々と大量の火花を散らして駆けていき、前方を塞いだ土の壁と接触。
 一枚目の大回転刃で粉々に吹き飛ぶも、威力は落ちぬまま先へ進んでいった。

「今度は縦横無尽に駆け巡れ!」

 指示を与えながら、追加で風の大回転刃を三十枚召喚。滑らかではなく、ほぼ直角で曲折しては、浮かび上がった魔法陣を切り刻んでいく大回転刃を見届け、更にもう五十枚出す。

『グォッ!?』

 先行組が顔に到着したのか。ノームの虚を衝かれた様な声が響き渡り、荒廃し尽くした腕の雪原が激しく揺れた。……なるほど? お目当ての宝は、どうやら顔に居るようだな。

「ウィザレナ! ここから奴の顔を攻撃出来るか!?」

「顔?」

 目を丸くさせ、私に合わせていた顔を逸らしたウィザレナの口角が、すぐに柔らかく上がった。

「出来るぞ! でかいのを一発お見舞いしてみせようか?」

 ここから顔まで、約数十km以上は離れているというのに。なんて頼り甲斐のある笑みと返事なんだ。これは、すごい物が見れるかもしれない。

「なら頼む! 露払いは私がやるから、派手にやってしまえ!」

「よし、任せろッ!!」

 熱い滾りを感じるウィザレナが弓に構えたのは、これまで見てきた弓矢と、どの色とも該当しない異彩で煌びやかな虹色の光を纏っている。
 私の杖だって、各属性の魔力を圧縮して具現化させた物なのだが……。あの弓矢から感じる魔力は、悪寒すら覚える程に濃い。一体、どれだけの魔力を圧縮させているんだ?

いにしえの深淵へ追いやられし、往生も叶わぬ星屑よ! かつての輝きを取り戻し、極光の鼓動を鳴らせ!』

 呼び掛けに近い詠唱を唱え始めると、虹色の矢先に直径三十cmはあろう、こじんまりとしていながらも力強い虹色の輝きを放つ魔法陣が出現。
 いや、それだけじゃない。その魔法陣の約百m先に、倍以上の大きさはあろう魔法陣が。更にその先にも現れ始めている。
 幾重にも連なり大きくなっていく魔法陣は、やがて『大地の覇者』よりも高く登り。最終的には、『大地の覇者』の頭上の遥か上空を陣取った。

『深淵を照らし老闇を駆けろ! 原初の産声を聴き回帰せよ!』

 詠唱が続く度に、弓矢の煌めきが激しく増していき、ウィザレナの全身を包み込んでいく。

「アカシック様、全方位から土の触手が迫ってきてます!」

「分かった!」

 レナの索敵を追い、『古怪狼の凍咆』が発動している氷の杖の固定を解除。そのまま数m前方に飛ばし、右腕を前に伸ばして、すぐに横へ切る。
 すると、氷の杖が私の周囲を高速で回り出し。先端が鋭利に尖った土の触手群に『古怪狼の凍咆』を浴びせ、分厚い氷に沈んだ所を爪斬撃の氷晶が砕いていった。

『天上天下の願いを携え、我の元へ集結せん!』

 が、周辺だけ黙らせても意味がない。攻撃が届かない場所から、新たな土の触手群が無数に伸びていき、私達の頭上に集まり始めている。

「今度は上か!」

「いえ、もう大丈夫です。間に合いました」

『出でよ、『星雲瀑布』!!』

 レナの柔らかな制止に、私の意識が向いた瞬間。視界が白の閃光に染まり、体が流されかねない突風と鳴動がレナの声を掻き消した。

「グッ……!」

 耐えかねて目を瞑り、両手で耳を塞ぐ私。状況を確認するべく、背後に顔をやり、片目だけ開けた。
 強烈な白が瞬く視線の先。出現した幾重の魔法陣を目指しつつ、貫きながら巨大化していく一筋の流星を視認。
 魔法陣を壊しながら育っていく魔法なんて、見た事も聞いた事もないぞ? それに、魔法陣を一枚貫く度に、魔力が一気に増幅していっている。

 ノームも見惚みほれているのか。新たな動きは無く、硝子を砕いた時に生じる音に似た爆発音だけが、辺りに響いていく。
 そして、上空を陣取る一際雄大な魔法陣に到達した直後。大流星が炸裂するも、大きさは変わらず。
 そのまま空へ昇っていったかと思えば、全ての大流星が意志を持っているかの様に、中心へ向かい方向転換した。

『こりゃあ……、やべえな』

 大流星群の落下元に居るノームが、ようやく弱音を見せてくれた途端。視界下にある荒野が重々しく脈動し、左側へ滑っては、頭の方へ移動していく。
 両腕を合わせると、両拳を頭部へ回し、上空からの攻撃に特化した防御態勢に入った。『大地の覇者』ですら、防御に専念せざるを得ない威力という訳か。
 その間にも、大流星群が落ちていく軌跡に新たな魔法陣が現れ、貫いては大きさを保ったまま数を増やしていく。
 数にして五十以上。大流星一本の太さは、『大地の覇者』の腕一本に換算すると、それの約五分の一相当。もしかして、このままいけるんじゃないか……?

「はぁ、はぁ、はぁ……。私が覚えてる中で、最強の魔法です。是非、味わってみて下さい。ノーム様」

『グゥッ!?』

 息を切らしたウィザレナの挑発を待たず、大流星群が『大地の覇者』の腕に着弾。
 が、威力は衰えないまま易々と貫通。ノームが居座る頭部まで簡単に貫き、股下へ抜けていった。

『グゥゥォォオオオーーーーッッ!!』

 間髪を容れぬ大流星群の嵐が、『大地の覇者』に容赦なく襲い掛かる。
 一本、また一本と全身を貫き、ノームの悲痛な叫び声が後を追う。効いている。あの天変地異に、ノームに効いているぞ!

「アカシック殿、またと無い好機だ。私達も頭部まで行って、畳み掛けるか?」

 腕を追って行った『光柱の管理人』が居なくなり。虚空を揺るがす大流星群の飛来音や、ノームの叫び声と甲高い岩砕音だけが鳴り響く中。
 透明感のある落ち着いたウィザレナの声が混ざり込んだ。

「お前は大丈夫なのか? ウィザレナ」

「ああ! アカシック殿がくれた秘薬を飲んだから、いつでもいけるぞ!」

 虚勢や噓偽りではなく、この通りと言わんばかりに固い握り拳を掲げ、凛とほくそ笑むウィザレナ。
 確かに、枯渇寸前だった魔力が蘇っているし。表情を見るからに、活力が爆発しそうなほど漲っている。ちゃんと秘薬を飲んで、心身共に全快したようだ。ならば……!

「よし。なら、一気に畳み掛けよう! 行くぞ!」

「おう!」
「はい!」

 ウィザレナが放った『星雲瀑布』は、未だ健在。ノームは、まだ大流星群の嵐に撃たれている最中。意識が私達から逸れているから、その隙を突き、この戦いを終わらせてやる!
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