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187話、現実離れが当たり前の場所

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『天地万物に等しき光明を差す、闇と対を成す光に告ぐ。“天翔ける極光鳥”、天罰を下す刻が来た。差す光明を今一度閉じよ!』

 魔法陣が複数出現するよう願いを込めて、詠唱を始めながら辺りを確認してみる。どうやら、やり方は正しかったらしく。
 私を中心として、上下左右、前後と合計六つの魔法陣が出現していた。なるほど? 杖と両手を構えていれば、最低でも三つの同時召喚が出来るらしい。
 普段は杖しか構えていなかったので、一つの魔法陣しか出なかったと考えるべきだろう。しかし、それだと私は『竜の禊』を三体しか召喚出来ない事を意味する。
 たぶん、違う召喚方法があるのだろうけども、今一人で考えても出ない答えだ。とりあえず、ノームのお陰で、また一つ賢くなったと喜んでおこう。

『“天翔ける極光鳥”に告ぐ! 最優先すべきは、ノームの索敵及び撃破! それを行いつつ、『竜の禊』群を仕留め続けてくれ! 更にもう一つ! 私の魔力が続く限り、召喚を維持しててくれ! 契約者の名は“アカシック”』

 無茶ぶりな指示を出して、合図まで終えれば。私を取り囲んだ六方の魔法陣が、柔らかい光を帯びて呼応してくれて、まるで激しい荒波の如く『天翔ける極光鳥』達が飛び出し。
 役目を果たさんと光芒化し、各々の方向へ散っていく。数が多いから、目を開けているのがやっとな眩しさだ。
 最早、分厚い弾幕になっているから、相手も反撃のしようも無いだろうが。視界が不良なので、これだと私の反応が遅れてしまう。次からは、時と場合を考慮した方が良さそうだ。

「すごいぞ、アカシック殿! 周りに居る大量の『竜の禊』が、みるみる落ちていく! 空を駆ける軌跡も美しいし、まるで意志を持った流星を見ているかのようだ!」

「うわぁ~、なんて激しい物量同士の戦いなんだろう……。でも圧倒的優位なのは、『天翔ける極光鳥』様達の方かな?」

「『天翔ける極光鳥』の耐久力は、そこら辺を飛んでる鳥となんら変わりないけど。一旦光芒になってしまえば、触れる事は叶わなくなる。それを、ずっと召喚し続けるんだ。相手にとっては、かなり厄介だろうな」

 おまけに、最優先対象であるノームを発見すれば、数千を超す防御不可能の光芒群が、一斉にそこへ向かっていく。
 目印も兼ねた最強の貫通力を誇る攻撃になるけども、大精霊相手だと決定打にまでは至らないだろう。やはり優先すべきは、『奥の手』の発動を早める事だな。

「二人共、辺りの様子はどうだ?」

「『天翔ける極光鳥』殿達が、『竜の禊』をかなり遠くまで押し込んでくれたから、だいぶ静かになったぞ」

「辺り一帯、どこを見渡しても『竜の禊』様は居ません。なので現在気を付けるべきなのは、空から降ってくる残骸だけになります」

「分かった、ありがとう。私は『奥の手』の発動時間を早めるから、何かあったらすぐ知らせてくれ」

「了解した!」

「はい!」

 『天翔ける極光鳥』の追加召喚で、それなりの魔力を持っていかれたが。水、風、光、この三つの『最上級のマナの結晶体』が私の魔力を回復してくれているお陰で、なんとか均衡を保てている。
 逆に一つでも欠けていたら、召喚の維持すらままならなかっただろう。『レム』さん。いや、光を司る大精霊『レム』。まだ子供だった頃の私に、とんでもない代物を贈ってくれたな。

『土の瞑想場よ。湧き出していく竜のせいで、大地がくすぐったくありませんか? 空を支配している有象無象が、煩わしいと思いませんか? 私の声に答えてくれれば、今すぐにでも消し去ってみせましょう』

 時間を置いた二語り目。その有象無象が、私の魔力を搔き乱しているせいで、土の瞑想場と上手く馴染めていない。これは時間が掛かりそうだ。

『大地に降り積もっていく残骸も、さぞかし邪魔でしょう。ですが、あなたの協力無しでは、私も手に負えません。なので、少しの間だけ私と手を組みませんか?』

 三語り目。その残骸を跳ね除けて、新たに生まれてきた『竜の禊』を、『天翔ける極光鳥』がすかさず倒している。
 さっきまで暗雲が支配していた空も晴れつつあり、かつての明るさが戻って来た。ひとまず、戦況は私達側に傾いてきたようだ。

「アカシック殿! やたらと群がってる光芒があるぞ!」

「なに? どこだ!?」

「アカシック殿から見て、やや右側の高高度だ!」

 ウィザレナの声を頼りに仰いだ、残骸が降り注ぐ視界の先。幾重にも連なる光芒の流線が、一体の『竜の禊』を集中的に攻撃している光景を視認。間違いない、あそこにノームが居る。
 しかし、不可解な火花が何度も散っているが……。まさか、光芒になった『天翔ける極光鳥』とまともにやりあっているんじゃないだろうな?

「どうします、アカシック様? あそこへ向かいますか?」

「行くしかないだろう。背後を取り、『天翔ける極光鳥』の加勢を―――」

「その必要はねえぜ、嬢ちゃん?」

「―――は? グッ!?」

 どこからともなく、ノームの声が湧いてきた瞬間。上、正面、右側にあった魔法陣が砕け散り、視界を覆っていた『怨祓いの白乱鏡』に何かが大量に衝突し、目まぐるしい数の波紋を立たせた。

「クッソ……! ノームめ、どこから湧いて来たんだ!?」

「大丈夫か、アカシック殿!?」

「私は大丈夫だ! だが……」
 
 今確かに、ノームの声が直に聞こえた。そして、私は何かをされて、『天翔ける極光鳥』を召喚している六つの魔法陣が全て破壊された。
 私が見ていた戦場からここまで、数十kmは離れているんだぞ? 普通ならありえない。いや、普通じゃないからありえるんだ。
 駄目だ、不意の一撃によって心が動揺している。落ち着け、私。全ての理不尽を当たり前の様に受け入れろ。どんなに現実離れした現象でも、ここでは日常茶飯事なんだ!

「二人共! 私は今何をされた!?」

「降って来た残骸がいきなり炸裂して、アカシック殿を襲ったぞ!」

「ノームの姿はあったか!?」

「炸裂した残骸の後ろに、一瞬だけ居たような気がします! ですが、すぐに消えてしまいました!」

 やはり、ノームは一瞬だけここに居たらしい。けど、もう姿はどこにも無い。光芒が固まっていた戦場もそう。ノームを見失った『天翔ける極光鳥』達が、右往左往しながら散開し始めている。
 確かに、ノームは先ほどまであそこに居た。だが、なんらかの手段を使い、一瞬で距離を詰め、私に攻撃をして姿をくらませた。
 残骸は、元々『竜の禊』。『竜の禊』の体は、主に岩石と土で構成されて……。ああ、そうか。私は、最初みんなに言った事をすっかり忘れていた。
 『光柱の管理人』で、空から降り注いでいた岩石を除去しただけで、どこか気が緩んでいた。今は最初の状態に戻り、より最悪な現実を突き付けられただけだ。

「二人共、これからは落ちてくる残骸にも気を付けろ! それらを媒介して、ノームが瞬時に移動してくるぞ!」

「なんだと!? そんな事がありえるのか!?」

「ウィザレナ! 残骸がまた沢山振ってくるよ!」

「なっ……、チィッ! 「流星群」!」

 私の言葉に半信半疑なウィザレナの後を追う、焦り出したレナの指差した方向へ、がむしゃらな『流星群』が放たれて、不自然に固まった残骸を吹き飛ばしていく。
 よくよく見てみれば。私達の頭上には、もう『竜の禊』はほとんど飛んでいない。薄い土埃を纏った青空が広がっている。
 ノームの奴め。残骸をわざわざ私達の頭上に集めて、大量に落として襲うタイミングを見計らっていたな?
 それにしてもまずいぞ。これからは、目視し辛い小さな石にも注意しなければ。

『“極光蟲”と“風壊砲”に告ぐ! 最優先攻撃対象はノーム! 次に『竜の禊』の頭部! そして、なんて事はない極小の石も、全て確実に消し飛ばしてくれ。どんなに小さな石でもだ、頼んだぞ!』

 新たな指示を追加するや否や。螺旋を描いた竜巻と光線が、何も無いありとあらゆる方向へ飛び交い出していく。
 本当に何も見えていないから、そこにあるのか分からない石を消し飛ばしているのか定かではないが。視認出来ない目標物の数が、意外と多いな。

「おい、アカシック殿……? まさか、そんな小粒の石からでも、ノーム様が現れるというのか?」

「可能性は十分ありえる。それと、立ち止まってるのも危険だ。相手からすれば、良い的になってしまう。これからは、速度は落としても止まるのは極力やめておこう」

「となると。次は常に移動しながら全方位の警戒、及び急襲への即対処をしろという訳だな……、ん?」

「……なんだ?」

 確信が持てない憶測ばかりで、やる事だけが増えていく作戦を伝え、ウィザレナも理解してくれた直後。耳底を這う空振と、重苦しい地鳴りがし始めた。
 地面は大いに揺れているようで。荒野を覆う残骸が、振動に耐えかねて細々と砕けては大きく隆起し出して―――。

「二人共! 地面から何か大きな、もの、が……」

 大量に積もった残骸を押しのけて生えてくるは、止まぬ空振と地鳴りを起こしている正体であろう、雄峰《ゆうほう》を軽く凌駕する巨躯な又竜頭。
 眩暈がしてくる巨大さだ。かつて、私が怒りの感情を取り戻した時に対峙した山蜘蛛が、なんとも小さく見えてくる。
 『タート』が丸ごと収まってしまいそうな首の太さや、蛇の様にうねりながら伸びていく胴体もそう。一体、どこまで伸びていくんだ? 顔を限界近くまで上げてしまったから、首が少し痛くなってきた。
 二つの顔は、怒りを司る龍そのもの。ノームの新しい詠唱が聞こえてこなかった事を察するに、『双臥龍狂宴』の本体なのか?

「まるで生きた厄災を見ているかのようだ。胴体の至る箇所から『竜の禊』も生まれてるし、あの厄災が親玉と考えるべきだな」

「たぶん合ってるだろう。でも、いかんせん数が多いから、うかつに近づけないな」

 胴体から下は地面に埋まっている。動かないのであれば、本体自体は恰好の的。しかし、わざわざ近づいたとして、どこを攻撃すればいい?
 定石は目や顔だが……。生憎、相手の体は岩石や土だ。きっとただの飾りだろう。どこかに心臓を模した核とか、あからさまな弱点があってくれると助かるんだが。
 どちらにせよ、ウィザレナ達と模索しながら戦っていくしかない。いつ襲って来るのか分からない、ノームを警戒しつつ。
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