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186話、ノームの小手調べから得た情報

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 相手との距離、おおよそ数kmといった所。一番上に居る黒点へ迫った『光柱の管理人』だけが、粉々に破壊されたり、あらぬ方向へ吹き飛ばされている。
 たぶん、あそこにノームが居るはず。黒点の数は、おおよそ二十以上。『光柱の管理人』が着々と数を減らしてくれている。
 しかし、これから無限に増えていく事を想定して、そろそろ迎え撃たなければ。

「ウィザレナ! 一度の攻撃で、何体ぐらい倒せる!?」

「視界を不良にしていいのであれば、たぶん殲滅可能だ!」

「よし、ならやってくれ! そのまま突破して、一旦敵の裏手に回ろう!」

「了解した! ならば行くぞッ!」

 気合のこもった返答をしたウィザレナが、右手に煌めく矢を四本召喚し、各指の間に挟み込む。
 左手に持っていた大型の弓を横に構え、右手を弓に装着して一気に引いた。

『穿つは死兆星! 最速の輝きを放ち、黒き死を殲滅せん!』

 ウィザレナにしては、珍しく詠唱を唱え始めると。少し離れた場所に、流星を描いた巨大な魔法陣が一列に並んで四つ出現。
 なんだか、やけに大きい。右側に出現した魔法陣なんて、私の進路と被っているぞ。それに、ウィザレナは今まで詠唱なんて一度も唱えた事なんてない。
 もしかして、あの凄まじい威力と貫通力がある『流星群』という魔法は、下位か中位程度の魔法だったのか?

『四連『一番星』!』

 魔法名だと思われる詠唱を唱え、各魔法陣を同時に弓矢で射った矢先。魔法陣を通して見えていた景色が、全て純白に染まり。
 今まで聞こえていた甲高い風切り音を、耳底を殴り付ける轟音に塗り替えていった。空振を伴う衝撃波も強く、上手く水平を保てない。
 空を軽く仰いでも、ほとんどが極太の純白で埋もれている。光線の類だろうけど、上下合わせて四十m以上はありそうだ。

「すまない、アカシック殿! 二体逃した!」

「それは構わないけど、もう相手に届いたのか?」

「ああ、複数の手応えを『一番星』から感じた。取りこぼした奴が、あと五秒ほどで私達の頭上を通過するぞ」

 確信を得たウィザレナが『一番星』を解きながら、顔を真上へやる。すると、ノームの高笑いを掻き消す、突風と衝撃波を兼ね揃えた『竜のくさび』の腹部分が一瞬空を隠し、高速で背後へ流れていった。
 通過した数は、ウィザレナの言う通り二体。あの一撃で、大体の『竜の楔』を迎え撃ったのか。
 遥か遠くまで行った『竜の楔』が、迂回している最中。残っていた内の一体を、『光柱の管理人』が仕留めた。

「よし、後一体だな!」

「いや、油断するな。残りの一体に、ノームが乗ってた。あいつを倒さない限り、こんな事がずっと続くと思った方がいい」

「だったら先手必勝だ! 『剛星』!」

 方向転換しつつ、先ほど土怒涛を炸裂させた赤い弓矢を、生き残った『竜の楔』の頭部目掛けて放つウィザレナ。
 寸分の狂いもなく頭部へ向かっていくも、ノームが弾き飛ばしたのか。着弾寸前で赤い弓矢が直角に曲がり、本物の星になるべく空へ昇っていった。

「よぉぉおーーーしッ! エルフの嬢ちゃんも合格だぜえ!!」

 返ってきたやまびこを跳ね返しそうな、間近で聞いたら鼓膜が破きかねないノームの野太い絶叫に、私の視野が思わず狭まった。
 なんてうるささだ。かなり距離が離れているというのに、耳元で叫ばれたような声量をしていたぞ。

「合格?」

「たぶんさっきの攻撃で、ノームに認められたんじゃないか?」

 先の『一番星』なる魔法が、下位なのか中位に属するのかは置いといて。
 月属性の魔法は、速さと威力が軒並み秀でている。真正面から放たれたら、私は避ける動作を始める前に消し飛ばされるだろう。

「なるほど、それは素直に嬉しいが。言い換えてしまえば、先の怒涛も『竜の禊』とやらも、私達の力量を測る小手調べだった事になるな」

「ああ、そうなってしまうな」

 怒涛もさることながら。一応『竜の禊』は、土属性最上位の召喚魔法になる。それを二十体以上同時召喚した攻撃が、ノームにとっては、ただの小手調べか。
 私も先に色々召喚して、場を固めて準備していなかったら、そこでもう苦戦を強いられる戦いになっていたかもしれない。

「エルフの嬢ちゃんも、魔女の嬢ちゃんと見劣りしねえ力を持ってそうだなあ! だったら、俺様も少しは本気を出していいって訳だな!」

 視界を小刻みに揺るがすノームの絶叫を合図に、目に映る全ての荒野から、一斉に淡い朱色の光を帯び出した。ノームの魔法陣と化した証拠の光だ。

「いくぜえ、嬢ちゃん達ィ! 『吼え乱れろ世界! 舞い狂え空! 蒼天に轟然たる霹靂を埋め尽くし、万雷挽歌を大地に刻めえ!』」

 ノームが詠唱らしき語りを始めると、帯びた朱色の光がより一層強まった大地と、遠くに見えるノームの体から、全身が押し潰されてしまいそうな禍々しい圧を宿した魔力が湧き出してきた。
 一帯の空気が潰れてしまったのか、息苦しささえ感じてきた。とんでもない密度の魔力だ。高圧縮された魔力が、私の全身を締め付けてきている。

「来るぞ、二人共!」

『双臥龍狂宴!』

 詠唱を終えて呼び覚ますは、より一層光を纏った大地から生えるように伸び、空を目指して昇っていく『竜の楔』群。なんて、おぞましい数だ。パッと見ただけでも、千以上はくだらないぞ。

「アカシック様、ウィザレナ! 下からも来てます!」

「チィッ! 行くぞウィザレナ!」

 呆けた頭を殴り飛ばすレナの警告に、私は反射的に箒を急発進させ。隣にウィザレナが居る事を認めてから、背後に顔をやる。
 悪寒すら催す、『竜の禊』が数を増していく景色が見える視界の中。『風壊砲』から放たれた鋭い螺旋状の竜巻が、『竜の禊』の頭部を的確に貫いていて。
 追い打ちに螺旋状の竜巻が一気に膨れ上がり、勢いよく爆ぜて残りの体を粉微塵に砕いていった。
 爆ぜた竜巻の威力も申し分無い。近くに居た『竜の禊』も巻き添えにして、確実に頭部を貫いて仕留めている。

「空が狭くなってきたな! アカシック殿、どうすれば増殖を止められる!?」

「術者のノームを気絶させるか、魔力の供給を絶つか、魔法を止めさせるしかない!」

「そのノーム様は、数千を超す『竜の禊』に紛れてしまいました! 必死に探してますが、まったく見当たりません!」

 視界をどこに移せど、見えるのは暗雲の如く光を遮り始めている『竜の禊』群のみ。もはや、虫柱の中に閉じ込められた気分にさえなってきた。
 これが、戦闘意欲を持ち合わせた大精霊の初手攻撃。ウンディーネの手を抜いていた攻撃が、全て可愛く見えてくる。あの時は暴走していたけど、ちゃんと根は優しかったんだな。

「ウィザレナ! 一体倒す頃には百体以上増えてるだろうから、数を減らそうと思うな! 私達に向かって来る奴を確実に仕留めつつ、ノームを探そう!」

「要は、終わりが見えない持久戦だな! 大得意だぞ! 二連『剛星』!」

 正面から迫ってきた二体の頭部に赤い矢が貫通し、中腹付近で炸裂。そのまま魔力が無くなり、残った半身が地面へ自由落下していく。
 『光柱の管理人』は健在。空から降ってくれば、必ず数十体以上を倒してくれている。『極光蟲』と『風壊砲』もそう。
 百十以上はくだらない『極光蟲』は、直径三十cmはあろう光線を放ち。『風壊砲』も爆ぜる螺旋状の竜巻で応戦し、『竜の禊』を迎え撃ってくれている。
 二つの召喚獣の総数は、約百二、三十。私の背後で待機をしている『天翔ける極光鳥』と『光柱の管理人』を合わせれば、たぶん七、八百強。

 そして今は、『極光蟲』と『風壊砲』だけで場は凌げている。しかし、相手の数はほぼ無限。数万を超す一斉攻撃には、流石に耐えられない。
 ノームは、同じ召喚獣を複数召喚していた。……だったら、私にも出来るんじゃないか? 同じ召喚獣の同時多数召喚を。
 やり方は分からないけど、物は試しだ。その前に、もっと場を固めておかなければ。

『待たせたな、“天翔ける極光鳥”。お前達の出番だ。三体一組になり、空を狭くしている有象無象の頭部を貫いてくれ!』

 最も広範囲を移動してくれる『天翔ける極光鳥』に、効率的な指示を出してみれば。天使の翼を模した陣形を組んでいた『天翔ける極光鳥』が、一度優雅に羽ばたき、一気に光芒と化し散開。
 そのまま、光が少ない辺りに一筋の滑らかな線を幾重にも描きつつ、凄まじい速度で『竜の楔』を撃墜していった。
 すごいな。一定の距離を大きく移動しただけで、数十体以上の『竜の楔』が落ちていく。やはり同時召喚をするなら、こいつが一番だ。

「おお! 残骸になった『竜の楔』が地面に落ちて、雪みたいに積もっていってるぞ! すごいな、『天翔ける極光鳥』! 私も負けてられないぞ!」

「ウィザレナ。ちょっと面白い事を思い付いたんだが、試してみてもいいか?」

「面白い事? なんだ、それは?」

 とりあえず、召喚場所を増やしてみるべく。真正面に光の杖を浮かし、両手を水平に構える私。

「相手が無限に召喚してくるのであれば、私もそれに対抗してみようと思ってな」
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