174 / 301
171話、その場に居る誰もが予想していなかった出来事
しおりを挟む
私とサニー、シルフが『天翔ける極光鳥』に群がられ、羽団子状態になった後。意外と人懐っこい『天翔ける極光鳥』達のお陰で、みんなで笑い合える平和な時間が続いた。
やや羨ましがっていたレナも、無事に群がられて輝く羽団子と化し。ウンディーネ様、ウィザレナ、カッシェさん達には、肩や頭に数羽ずつ留まってくれたものの。
なぜかヴェルインだけにはやや攻撃的で、一旦は大人しく留まってくれたのだが、少しするとヴェルインを軽くついばみ出し。最終的には、大群の『天翔ける極光鳥』が逃げ惑うヴェルインを追いかけていた。
しかし、あくまで『天翔ける極光鳥』なりにじゃれ合っていたようで。それを互いに理解し合い、最後はヴェルインが一番大きな羽団子になった。
それにしても、本当に楽しいなぁ。この楽しい時間が実現したのも、全てはウンディーネ様とシルフの助言のお陰だ。二人には後で、改めてお礼を言っておかないと。
そして、心なしか『天翔ける極光鳥』達も楽しそうにしている。こんな楽しい時間を共有し合えるのであれば、もっと早く召喚していればよかった。
ならばこれからは、天気が良い日にでも召喚して、空を自由気ままに飛んでもらったり、満足するまで羽を休ませてあげよう。うん、絶対にそうした方がいい。
それじゃあ、『天翔ける極光鳥』達と充分に交流が出来た事だし。最後に、光属性最上級の回復魔法『フェアリーヒーリング』で癒してあげるとするか。
「いやぁ~……。本当にあったけぇなあ、こいつら。最初は食い散らかされるかと思ったけど、結構いい奴らじゃねえか」
「さっきまで『レディ! 助けてくれーッ!』って泣き叫びながら逃げてたものね。あんなに焦って逃げてるあんた、初めて見たわ」
ほっこりとした表情で、一番大きな羽団子状態になったヴェルインが口を開き。
クスクスと笑っているカッシェさんが、肩に乗せた『天翔ける極光鳥』を撫でながら言う。
「ヴェルイン殿の言う通り、心地が良いなぁ~。暖炉の火よりも暖かく、風呂に入ってる時よりも気持ちがいいぞぉ~」
「だよね! もう、病みつきになっちゃいそうだよ」
同じく『天翔ける極光鳥』に群がられて羽団子になり、骨抜きされたウィザレナが緩いにやけ面を浮かべ、数羽と戯れているレナが追う。
どうやら、ここに居る全員と仲良くなれたようだ。これなら今後召喚しても、なんの問題もなく『天翔ける極光鳥』達と交流が出来そうだ。
「それじゃあ、最後の仕上げをするか」
「最後の仕上げって?」
アルビスに『ふわふわ』をかけられ、『天翔ける極光鳥』と一緒に低空で併飛していたサニーが反応を示し、両手を広げながら私の目前まで迫って来た。
サニーを筆頭とし、左右には数十羽の『天翔ける極光鳥』が滞空しているし。小さな背中には、隙間なくビッチリと留まっている。その姿は、さながら長みたいな風貌だ。
「ほら。お前も見たがってたもう一つの魔法を、これから使うんだ」
「あっ! もしかして回復魔法を使うのっ!?」
「そうだ。これだけ距離が近いと周りが見えないから、少し下がってくれ」
「わかった!」
今の会話を、アルビスも耳にしていたようで。間近にあったサニーの笑顔が、水平を保ちつつゆっくりと離れていく。
そして隊列を崩す事無く、器用にサニーの後を追い掛けていく『天翔ける極光鳥』よ。すごい追い方をしているけども、一体どうやって飛んでいるんだ?
「アカシック。大体の奴らは傍に居るけど、全員範囲内に入れるのか?」
「あれの効果範囲は、半径が大体三十m前後だから……」
頭に『天翔ける極光鳥』を数羽留まらせたシルフの懸念を確認するべく、辺りを確認してみた。近くの木々に留まっている者が居るけども、ギリギリ範囲内に居る。
空もそう。全羽が地上に居るようで、星々が佇む夜空が見えるだけ。今宵の夜空には雲が無く、遠くまではっきりと拝める。どこまでも透き通った良い夜空だ、見ていて気持ちがいい。
「みんな範囲内に居るから、大丈夫だと思う」
「そうか。なら、全員癒してやってくれ」
「分かった」
シルフの『天翔ける極光鳥』よりも明るい笑顔を認めてから、両手を大きく広げる私。みんなに回復魔法を見せるのは、これが初めてだ。
だからこそ、緊張してきてしまった。私の鼓動が、どんどん早まっていく。大きく息を吸って、吸った以上に吐いても、鼓動は一向に収まってくれない。もういい、このまま唱えてしまおう。
『『遍く癒しの光は、汝の飢えた心の穢れを祓い。讃歌の調べを謳う妖精は、印された体の爪痕を撫で潤す。汝を癒す妖精の光が、正しき道を往く道標にならんことを。『フェアリーヒーリング』』
ややぎこちなく詠唱を唱え終えた直後。私を中心として、足元に光の魔法陣が浮かび上がり、勢いよく広範囲に広がっていく。よし、全員範囲内に居るな。
広がりが収まると呪文の効果が発動し、魔法陣の縁から淡い光の壁が夜空へと昇っていき、魔法陣全体から虹色の光が湧き出してきて、魔法陣内を暖かく満たしていった。
『フェアリーヒーリング』を最後に使用したのは、サニーの本当の母親である『エリィ』さんを、あの世へ見送る前だったけども。体の隅々まで沁みていくような暖かさを感じる。
「うわぁーっ! すごいすごいっすごーいっ!! 太陽が昇ってる時よりも明るくなっちゃった!」
「……ほう、これが光属性最上級の回復魔法か。なんて暖かく、心地が良い光なんだ」
虹色の光を吹き飛ばしかねないサニーの絶叫に混じる、アルビスの静かな感想。
サニーの絶叫を間近で浴びたのにも関わらず、『天翔ける極光鳥』達は微動だにしていない。すごい胆力―――。
「……む?」
サニーの背中に留まっている一匹の『天翔ける極光鳥』が、『フェアリーヒーリング』が発している虹色の光と、同じ物を体から出しているような?
いや、そいつだけじゃない。周りに視線を滑らせてみると、何羽もの『天翔ける極光鳥』達が、同じ虹色の光を体から発している。
「おい、ディーネ? まさか、これ……」
「……ええ。どうやら天翔ける極光鳥の『昇華条件』を、満たしてしまったようですね」
「おいおい、嘘だろ? 天翔ける極光鳥の昇華条件って、こんなに緩いもんだったのか?」
なにやらウンディーネ様とシルフが、ばつの悪そうな声色で会話をしているが。なんだ、『昇華条件』って? 『天翔ける極光鳥』達が発している光と、何か関係しているのだろうか?
「む?」
更に辺りの様子を探ろうとした矢先。一際強い虹色の光を帯びた『天翔ける極光鳥』が、私の前に飛んで来たかと思えば、その場に滞空し。
黙ったまま見つめ合っていると、不意に空から流星の如く眩い煌めきが降り注いできて、目の前に居た『天翔ける極光鳥』を包み込みこんでいった。
「うっ……!」
目の眩むような眩しさに、逸らした顔を腕で覆い隠してしまったが。なんだ、一体何が起こっている? こんな不可解な挙動、今まで見た事がないぞ。
『おい、お前ら。ちょいと話があるから、俺らの正体を知らない奴らを一旦眠らせるぞ』
まだ強烈な光が収まらず、目すら開けられないでいる中。やや沈んだシルフの声が、頭から直接響いてきた。
「ね、眠らせる? なんでだ?」
『聞かれたらまずいからだよ。もう寝かしちまったけど、十分ぐらいで起きるよう調整したから安心してくれ』
『アカシックさん、アルビスさん、ウィザレナさん、レナさん。虹色の光が収まり、アカシックさんが『禁断の召喚魔法』を習得し次第、話を始めます。ですが、今から話す内容も他言無用でお願いしますね』
「はい……? 禁断の、召喚魔法? ……む?」
聞き慣れぬ物騒なウンディーネ様の説明に、思わずウンディーネ様が居る方へ顔を向けてみれば。
目の前で滞空していた『天翔ける極光鳥』はどこにも居らず、代わりに一枚の色褪せた紙が、その場にふよふよと浮いていた。
その紙に向かい、なんの警戒心を抱かずに両手を伸ばし、優しく掴んでから手前まで引き寄せた。なんとも古い文字だけど、何か文章が記されているな。
「えっと? 日出ずる地に、汝あり。日没す地に、我は―――」
「おいアカシック、読むのをやめろ! 誤って召喚しちまったらどうするんだ!」
古文書を挟んで飛んできた、シルフの焦りが極まった怒号に、体を波立たせた私の読み口が止まった。
古文書を恐る恐る下げてみると、視線の先には、顔と腕が項垂れたヴェルイン、カッシェさんの姿があり。
目を瞑って眠っているサニーを、大事に抱えているアルビスに。辺りとキョロキョロと見渡しているウィザレナとレナ。
そして、腕を組んで私を睨みつけているシルフと、心配そうな眼差しで私を捉えているウンディーネ様の姿があった。
「……召喚って。もしかしてこれが、禁断の召喚魔法というやつなのか?」
「そうだ。一応確認しときたいんだが、その紙に書かれてる召喚獣の名前はなんだ?」
「名前……?」
名前。詠唱文の中に記されているだろうけど……。一旦魔力を込めず、声に出さないで読んでみるか。
『日出ずる地に、汝あり。日没す地に、我は舞う。轟かすは光の残響。萌ゆる闇を摘み、清き朝露を育まん。我、『天照らす極楽鳥』の名の元に告ぐ。汝に、日出ずる安寧の刻を約束せん』。
一通り読んでみた限り、なんとも不思議な詠唱だ。詠唱というよりも、召喚獣が術者に語り掛けてきているように感じる。
問題の名前は、たぶん『天照らす極楽鳥』だな。他に名前らしき文字羅列は見当たらないし、これで合っているだろう。
「『天照らす極楽鳥』、かな?」
「ああ、なるほど? あいつに確認した通りだったか……」
落胆と、どこかやってしまったと言わんばかりに重い返答したシルフが、溜息をつきながら項垂れていく。
「まあ……。何も知らない俺らが良かれと思って、勧めちまった事だしなぁ」
「そうですね。あのお方も、アカシックさんなら心配ないと言っていましたし。とりあえず勧告だけしておきましょう」
「だな」
どうやら二人の話が纏まったようで。もう一度ため息を吐いたシルフが、どこか気だるげそうに腕を組んだ。
色々と気になるけど、質問をする空気じゃないな。とりあえず、多少聞き返す程度だけにしておかないと。
「でだ、アカシック。今習得した、『天照らす極楽鳥』なんだが。今後、俺達大精霊の誰かが許可を出すまで、使用を一切禁ずる。分かったな?」
「それは絶対に守るけど。そんなにまずいのか? この召喚魔法は」
「禁断の召喚魔法は、どれも世界の均衡をいとも容易く崩す威力を誇ります。ですので、『天照らす極楽鳥』も例外ではありません」
「は、はぁ……」
世界の均衡をいとも容易く崩すって……、どれだけの威力があるんだ? それに、今までその時が訪れなかったという事は、習得した者は居なかったのだろうか?
試すつもりは毛頭ないけど、変な探求心が疼いてきてしまった。
「それに、アルビス、ウィザレナ、レナ。お前らもちゃんと聞いたな? もし、アカシックが変な気を起こそうとしたら、引っ叩いて止めてくれ」
「承知致しました」
「わ、分かりました!」
「は、はいっ!」
みんな、やけに気合の入った良い返事をするじゃないか。特に、アルビスの覚悟を決めたような鋭い龍眼よ。
私を絶対に止めてみせるという、気迫とやる気に満ち溢れている。
「み、みんな? 少しでもいいから、私を信用してくれないか?」
「安心しろ、アカシック・ファーストレディ。余が、命に代えてでも貴様を止めてやる」
「そ、そんな……」
「ふっ、冗談だ」
鼻で小さく笑い、凛とした笑みを見せるアルビス。あいつめ。こんな時にまで、冗談を交わしてくるなんて……。
おちょくられてしまったが。一応それを、私に対する信用の形として受け取っておこう。
「へっへっへっ。んじゃ、堅苦しい真面目な話はこれで終わりにして、そろそろ皆を起こすぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、シルフ! 数分だけいいから、気持ちを切り替える時間が欲しい」
「んだよ、今更ビビりやがって。お前、そんな柄じゃねえだろ?」
「シルフ様、ここは穏便にお済ませ下さい。下手に刺激しますと、例の禁断魔法が飛んできますよ?」
「おっと! そうだったな、危ねえ危ねえ。アカシック、すまん! 気を悪くしないでくれ」
私にも聞こえるよう、シルフに耳打ちをしてから、わざとらしくチラチラと横目を流してくるアルビスに。
大袈裟に頭を下げ、肩を小刻みに震わせているシルフ。シルフの奴、絶対に笑っているな?
それに、アルビスもだ。いつもと様子が違うし、そことなく楽しそうに私をイジってきている。
私も分かっているので、悪い気にはなっていないけども。……この流れに、悪乗りした方がいいのかな?
「えと……。それじゃあ、魔力を込めないで詠唱を始めるから、ちゃんと私を止めてくれよ?」
「ぶふっ! ふっ、ふふふっ……。なあ、アルビス。アカシックも、めちゃくちゃ面白え奴だな」
「ええ、余の自慢の家族です」
「やはりアカシックさんであれば、何の心配もいりませんね」
あれ? 身構えてくれるとばかり思っていたのに、なんだか和やかな空気になってしまった。もしかして、聞き方を間違えたか?
「なあ、シルフ。詠唱を始めるぞ? 準備はいいか?」
「ま、待て……。後数十秒ぐらいで、ふふっ……。皆起きちまうから、無理にやらなくても、いいぞ……、ふっふっふっ……」
「ああ、そうなのか。分かった」
そう言葉を返すと、頭を垂らしていたシルフが腹を抱え、そのまま地面に蹲っていった。なんでシルフは、あそこまで笑っているんだ?
……しかし、『天照らす極楽鳥』か。また変なタイミングで、とんでもない召喚魔法を覚えてしまったな。
世界の均衡を簡単に崩しかねない召喚魔法らしいし、極力忘れるようにしておかないと。
やや羨ましがっていたレナも、無事に群がられて輝く羽団子と化し。ウンディーネ様、ウィザレナ、カッシェさん達には、肩や頭に数羽ずつ留まってくれたものの。
なぜかヴェルインだけにはやや攻撃的で、一旦は大人しく留まってくれたのだが、少しするとヴェルインを軽くついばみ出し。最終的には、大群の『天翔ける極光鳥』が逃げ惑うヴェルインを追いかけていた。
しかし、あくまで『天翔ける極光鳥』なりにじゃれ合っていたようで。それを互いに理解し合い、最後はヴェルインが一番大きな羽団子になった。
それにしても、本当に楽しいなぁ。この楽しい時間が実現したのも、全てはウンディーネ様とシルフの助言のお陰だ。二人には後で、改めてお礼を言っておかないと。
そして、心なしか『天翔ける極光鳥』達も楽しそうにしている。こんな楽しい時間を共有し合えるのであれば、もっと早く召喚していればよかった。
ならばこれからは、天気が良い日にでも召喚して、空を自由気ままに飛んでもらったり、満足するまで羽を休ませてあげよう。うん、絶対にそうした方がいい。
それじゃあ、『天翔ける極光鳥』達と充分に交流が出来た事だし。最後に、光属性最上級の回復魔法『フェアリーヒーリング』で癒してあげるとするか。
「いやぁ~……。本当にあったけぇなあ、こいつら。最初は食い散らかされるかと思ったけど、結構いい奴らじゃねえか」
「さっきまで『レディ! 助けてくれーッ!』って泣き叫びながら逃げてたものね。あんなに焦って逃げてるあんた、初めて見たわ」
ほっこりとした表情で、一番大きな羽団子状態になったヴェルインが口を開き。
クスクスと笑っているカッシェさんが、肩に乗せた『天翔ける極光鳥』を撫でながら言う。
「ヴェルイン殿の言う通り、心地が良いなぁ~。暖炉の火よりも暖かく、風呂に入ってる時よりも気持ちがいいぞぉ~」
「だよね! もう、病みつきになっちゃいそうだよ」
同じく『天翔ける極光鳥』に群がられて羽団子になり、骨抜きされたウィザレナが緩いにやけ面を浮かべ、数羽と戯れているレナが追う。
どうやら、ここに居る全員と仲良くなれたようだ。これなら今後召喚しても、なんの問題もなく『天翔ける極光鳥』達と交流が出来そうだ。
「それじゃあ、最後の仕上げをするか」
「最後の仕上げって?」
アルビスに『ふわふわ』をかけられ、『天翔ける極光鳥』と一緒に低空で併飛していたサニーが反応を示し、両手を広げながら私の目前まで迫って来た。
サニーを筆頭とし、左右には数十羽の『天翔ける極光鳥』が滞空しているし。小さな背中には、隙間なくビッチリと留まっている。その姿は、さながら長みたいな風貌だ。
「ほら。お前も見たがってたもう一つの魔法を、これから使うんだ」
「あっ! もしかして回復魔法を使うのっ!?」
「そうだ。これだけ距離が近いと周りが見えないから、少し下がってくれ」
「わかった!」
今の会話を、アルビスも耳にしていたようで。間近にあったサニーの笑顔が、水平を保ちつつゆっくりと離れていく。
そして隊列を崩す事無く、器用にサニーの後を追い掛けていく『天翔ける極光鳥』よ。すごい追い方をしているけども、一体どうやって飛んでいるんだ?
「アカシック。大体の奴らは傍に居るけど、全員範囲内に入れるのか?」
「あれの効果範囲は、半径が大体三十m前後だから……」
頭に『天翔ける極光鳥』を数羽留まらせたシルフの懸念を確認するべく、辺りを確認してみた。近くの木々に留まっている者が居るけども、ギリギリ範囲内に居る。
空もそう。全羽が地上に居るようで、星々が佇む夜空が見えるだけ。今宵の夜空には雲が無く、遠くまではっきりと拝める。どこまでも透き通った良い夜空だ、見ていて気持ちがいい。
「みんな範囲内に居るから、大丈夫だと思う」
「そうか。なら、全員癒してやってくれ」
「分かった」
シルフの『天翔ける極光鳥』よりも明るい笑顔を認めてから、両手を大きく広げる私。みんなに回復魔法を見せるのは、これが初めてだ。
だからこそ、緊張してきてしまった。私の鼓動が、どんどん早まっていく。大きく息を吸って、吸った以上に吐いても、鼓動は一向に収まってくれない。もういい、このまま唱えてしまおう。
『『遍く癒しの光は、汝の飢えた心の穢れを祓い。讃歌の調べを謳う妖精は、印された体の爪痕を撫で潤す。汝を癒す妖精の光が、正しき道を往く道標にならんことを。『フェアリーヒーリング』』
ややぎこちなく詠唱を唱え終えた直後。私を中心として、足元に光の魔法陣が浮かび上がり、勢いよく広範囲に広がっていく。よし、全員範囲内に居るな。
広がりが収まると呪文の効果が発動し、魔法陣の縁から淡い光の壁が夜空へと昇っていき、魔法陣全体から虹色の光が湧き出してきて、魔法陣内を暖かく満たしていった。
『フェアリーヒーリング』を最後に使用したのは、サニーの本当の母親である『エリィ』さんを、あの世へ見送る前だったけども。体の隅々まで沁みていくような暖かさを感じる。
「うわぁーっ! すごいすごいっすごーいっ!! 太陽が昇ってる時よりも明るくなっちゃった!」
「……ほう、これが光属性最上級の回復魔法か。なんて暖かく、心地が良い光なんだ」
虹色の光を吹き飛ばしかねないサニーの絶叫に混じる、アルビスの静かな感想。
サニーの絶叫を間近で浴びたのにも関わらず、『天翔ける極光鳥』達は微動だにしていない。すごい胆力―――。
「……む?」
サニーの背中に留まっている一匹の『天翔ける極光鳥』が、『フェアリーヒーリング』が発している虹色の光と、同じ物を体から出しているような?
いや、そいつだけじゃない。周りに視線を滑らせてみると、何羽もの『天翔ける極光鳥』達が、同じ虹色の光を体から発している。
「おい、ディーネ? まさか、これ……」
「……ええ。どうやら天翔ける極光鳥の『昇華条件』を、満たしてしまったようですね」
「おいおい、嘘だろ? 天翔ける極光鳥の昇華条件って、こんなに緩いもんだったのか?」
なにやらウンディーネ様とシルフが、ばつの悪そうな声色で会話をしているが。なんだ、『昇華条件』って? 『天翔ける極光鳥』達が発している光と、何か関係しているのだろうか?
「む?」
更に辺りの様子を探ろうとした矢先。一際強い虹色の光を帯びた『天翔ける極光鳥』が、私の前に飛んで来たかと思えば、その場に滞空し。
黙ったまま見つめ合っていると、不意に空から流星の如く眩い煌めきが降り注いできて、目の前に居た『天翔ける極光鳥』を包み込みこんでいった。
「うっ……!」
目の眩むような眩しさに、逸らした顔を腕で覆い隠してしまったが。なんだ、一体何が起こっている? こんな不可解な挙動、今まで見た事がないぞ。
『おい、お前ら。ちょいと話があるから、俺らの正体を知らない奴らを一旦眠らせるぞ』
まだ強烈な光が収まらず、目すら開けられないでいる中。やや沈んだシルフの声が、頭から直接響いてきた。
「ね、眠らせる? なんでだ?」
『聞かれたらまずいからだよ。もう寝かしちまったけど、十分ぐらいで起きるよう調整したから安心してくれ』
『アカシックさん、アルビスさん、ウィザレナさん、レナさん。虹色の光が収まり、アカシックさんが『禁断の召喚魔法』を習得し次第、話を始めます。ですが、今から話す内容も他言無用でお願いしますね』
「はい……? 禁断の、召喚魔法? ……む?」
聞き慣れぬ物騒なウンディーネ様の説明に、思わずウンディーネ様が居る方へ顔を向けてみれば。
目の前で滞空していた『天翔ける極光鳥』はどこにも居らず、代わりに一枚の色褪せた紙が、その場にふよふよと浮いていた。
その紙に向かい、なんの警戒心を抱かずに両手を伸ばし、優しく掴んでから手前まで引き寄せた。なんとも古い文字だけど、何か文章が記されているな。
「えっと? 日出ずる地に、汝あり。日没す地に、我は―――」
「おいアカシック、読むのをやめろ! 誤って召喚しちまったらどうするんだ!」
古文書を挟んで飛んできた、シルフの焦りが極まった怒号に、体を波立たせた私の読み口が止まった。
古文書を恐る恐る下げてみると、視線の先には、顔と腕が項垂れたヴェルイン、カッシェさんの姿があり。
目を瞑って眠っているサニーを、大事に抱えているアルビスに。辺りとキョロキョロと見渡しているウィザレナとレナ。
そして、腕を組んで私を睨みつけているシルフと、心配そうな眼差しで私を捉えているウンディーネ様の姿があった。
「……召喚って。もしかしてこれが、禁断の召喚魔法というやつなのか?」
「そうだ。一応確認しときたいんだが、その紙に書かれてる召喚獣の名前はなんだ?」
「名前……?」
名前。詠唱文の中に記されているだろうけど……。一旦魔力を込めず、声に出さないで読んでみるか。
『日出ずる地に、汝あり。日没す地に、我は舞う。轟かすは光の残響。萌ゆる闇を摘み、清き朝露を育まん。我、『天照らす極楽鳥』の名の元に告ぐ。汝に、日出ずる安寧の刻を約束せん』。
一通り読んでみた限り、なんとも不思議な詠唱だ。詠唱というよりも、召喚獣が術者に語り掛けてきているように感じる。
問題の名前は、たぶん『天照らす極楽鳥』だな。他に名前らしき文字羅列は見当たらないし、これで合っているだろう。
「『天照らす極楽鳥』、かな?」
「ああ、なるほど? あいつに確認した通りだったか……」
落胆と、どこかやってしまったと言わんばかりに重い返答したシルフが、溜息をつきながら項垂れていく。
「まあ……。何も知らない俺らが良かれと思って、勧めちまった事だしなぁ」
「そうですね。あのお方も、アカシックさんなら心配ないと言っていましたし。とりあえず勧告だけしておきましょう」
「だな」
どうやら二人の話が纏まったようで。もう一度ため息を吐いたシルフが、どこか気だるげそうに腕を組んだ。
色々と気になるけど、質問をする空気じゃないな。とりあえず、多少聞き返す程度だけにしておかないと。
「でだ、アカシック。今習得した、『天照らす極楽鳥』なんだが。今後、俺達大精霊の誰かが許可を出すまで、使用を一切禁ずる。分かったな?」
「それは絶対に守るけど。そんなにまずいのか? この召喚魔法は」
「禁断の召喚魔法は、どれも世界の均衡をいとも容易く崩す威力を誇ります。ですので、『天照らす極楽鳥』も例外ではありません」
「は、はぁ……」
世界の均衡をいとも容易く崩すって……、どれだけの威力があるんだ? それに、今までその時が訪れなかったという事は、習得した者は居なかったのだろうか?
試すつもりは毛頭ないけど、変な探求心が疼いてきてしまった。
「それに、アルビス、ウィザレナ、レナ。お前らもちゃんと聞いたな? もし、アカシックが変な気を起こそうとしたら、引っ叩いて止めてくれ」
「承知致しました」
「わ、分かりました!」
「は、はいっ!」
みんな、やけに気合の入った良い返事をするじゃないか。特に、アルビスの覚悟を決めたような鋭い龍眼よ。
私を絶対に止めてみせるという、気迫とやる気に満ち溢れている。
「み、みんな? 少しでもいいから、私を信用してくれないか?」
「安心しろ、アカシック・ファーストレディ。余が、命に代えてでも貴様を止めてやる」
「そ、そんな……」
「ふっ、冗談だ」
鼻で小さく笑い、凛とした笑みを見せるアルビス。あいつめ。こんな時にまで、冗談を交わしてくるなんて……。
おちょくられてしまったが。一応それを、私に対する信用の形として受け取っておこう。
「へっへっへっ。んじゃ、堅苦しい真面目な話はこれで終わりにして、そろそろ皆を起こすぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、シルフ! 数分だけいいから、気持ちを切り替える時間が欲しい」
「んだよ、今更ビビりやがって。お前、そんな柄じゃねえだろ?」
「シルフ様、ここは穏便にお済ませ下さい。下手に刺激しますと、例の禁断魔法が飛んできますよ?」
「おっと! そうだったな、危ねえ危ねえ。アカシック、すまん! 気を悪くしないでくれ」
私にも聞こえるよう、シルフに耳打ちをしてから、わざとらしくチラチラと横目を流してくるアルビスに。
大袈裟に頭を下げ、肩を小刻みに震わせているシルフ。シルフの奴、絶対に笑っているな?
それに、アルビスもだ。いつもと様子が違うし、そことなく楽しそうに私をイジってきている。
私も分かっているので、悪い気にはなっていないけども。……この流れに、悪乗りした方がいいのかな?
「えと……。それじゃあ、魔力を込めないで詠唱を始めるから、ちゃんと私を止めてくれよ?」
「ぶふっ! ふっ、ふふふっ……。なあ、アルビス。アカシックも、めちゃくちゃ面白え奴だな」
「ええ、余の自慢の家族です」
「やはりアカシックさんであれば、何の心配もいりませんね」
あれ? 身構えてくれるとばかり思っていたのに、なんだか和やかな空気になってしまった。もしかして、聞き方を間違えたか?
「なあ、シルフ。詠唱を始めるぞ? 準備はいいか?」
「ま、待て……。後数十秒ぐらいで、ふふっ……。皆起きちまうから、無理にやらなくても、いいぞ……、ふっふっふっ……」
「ああ、そうなのか。分かった」
そう言葉を返すと、頭を垂らしていたシルフが腹を抱え、そのまま地面に蹲っていった。なんでシルフは、あそこまで笑っているんだ?
……しかし、『天照らす極楽鳥』か。また変なタイミングで、とんでもない召喚魔法を覚えてしまったな。
世界の均衡を簡単に崩しかねない召喚魔法らしいし、極力忘れるようにしておかないと。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?


【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる