ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

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171話、その場に居る誰もが予想していなかった出来事

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 私とサニー、シルフが『天翔ける極光鳥』に群がられ、羽団子状態になった後。意外と人懐っこい『天翔ける極光鳥』達のお陰で、みんなで笑い合える平和な時間が続いた。
 やや羨ましがっていたレナも、無事に群がられて輝く羽団子と化し。ウンディーネ様、ウィザレナ、カッシェさん達には、肩や頭に数羽ずつ留まってくれたものの。
 なぜかヴェルインだけにはやや攻撃的で、一旦は大人しく留まってくれたのだが、少しするとヴェルインを軽くついばみ出し。最終的には、大群の『天翔ける極光鳥』が逃げ惑うヴェルインを追いかけていた。
 しかし、あくまで『天翔ける極光鳥』なりにじゃれ合っていたようで。それを互いに理解し合い、最後はヴェルインが一番大きな羽団子になった。

 それにしても、本当に楽しいなぁ。この楽しい時間が実現したのも、全てはウンディーネ様とシルフの助言のお陰だ。二人には後で、改めてお礼を言っておかないと。
 そして、心なしか『天翔ける極光鳥』達も楽しそうにしている。こんな楽しい時間を共有し合えるのであれば、もっと早く召喚していればよかった。
 ならばこれからは、天気が良い日にでも召喚して、空を自由気ままに飛んでもらったり、満足するまで羽を休ませてあげよう。うん、絶対にそうした方がいい。
 それじゃあ、『天翔ける極光鳥』達と充分に交流が出来た事だし。最後に、光属性最上級の回復魔法『フェアリーヒーリング』で癒してあげるとするか。









「いやぁ~……。本当にあったけぇなあ、こいつら。最初は食い散らかされるかと思ったけど、結構いい奴らじゃねえか」

「さっきまで『レディ! 助けてくれーッ!』って泣き叫びながら逃げてたものね。あんなに焦って逃げてるあんた、初めて見たわ」

 ほっこりとした表情で、一番大きな羽団子状態になったヴェルインが口を開き。
 クスクスと笑っているカッシェさんが、肩に乗せた『天翔ける極光鳥』を撫でながら言う。

「ヴェルイン殿の言う通り、心地が良いなぁ~。暖炉の火よりも暖かく、風呂に入ってる時よりも気持ちがいいぞぉ~」

「だよね! もう、病みつきになっちゃいそうだよ」

 同じく『天翔ける極光鳥』に群がられて羽団子になり、骨抜きされたウィザレナが緩いにやけ面を浮かべ、数羽と戯れているレナが追う。
 どうやら、ここに居る全員と仲良くなれたようだ。これなら今後召喚しても、なんの問題もなく『天翔ける極光鳥』達と交流が出来そうだ。

「それじゃあ、最後の仕上げをするか」

「最後の仕上げって?」

 アルビスに『ふわふわ』をかけられ、『天翔ける極光鳥』と一緒に低空で併飛していたサニーが反応を示し、両手を広げながら私の目前まで迫って来た。
 サニーを筆頭とし、左右には数十羽の『天翔ける極光鳥』が滞空しているし。小さな背中には、隙間なくビッチリと留まっている。その姿は、さながらおさみたいな風貌だ。

「ほら。お前も見たがってたもう一つの魔法を、これから使うんだ」

「あっ! もしかして回復魔法を使うのっ!?」

「そうだ。これだけ距離が近いと周りが見えないから、少し下がってくれ」

「わかった!」

 今の会話を、アルビスも耳にしていたようで。間近にあったサニーの笑顔が、水平を保ちつつゆっくりと離れていく。
 そして隊列を崩す事無く、器用にサニーの後を追い掛けていく『天翔ける極光鳥』よ。すごい追い方をしているけども、一体どうやって飛んでいるんだ?

「アカシック。大体の奴らは傍に居るけど、全員範囲内に入れるのか?」

「あれの効果範囲は、半径が大体三十m前後だから……」

 頭に『天翔ける極光鳥』を数羽留まらせたシルフの懸念を確認するべく、辺りを確認してみた。近くの木々に留まっている者が居るけども、ギリギリ範囲内に居る。
 空もそう。全羽が地上に居るようで、星々が佇む夜空が見えるだけ。今宵の夜空には雲が無く、遠くまではっきりと拝める。どこまでも透き通った良い夜空だ、見ていて気持ちがいい。

「みんな範囲内に居るから、大丈夫だと思う」

「そうか。なら、全員癒してやってくれ」

「分かった」

 シルフの『天翔ける極光鳥』よりも明るい笑顔を認めてから、両手を大きく広げる私。みんなに回復魔法を見せるのは、これが初めてだ。
 だからこそ、緊張してきてしまった。私の鼓動が、どんどん早まっていく。大きく息を吸って、吸った以上に吐いても、鼓動は一向に収まってくれない。もういい、このまま唱えてしまおう。

『『あまねく癒しの光は、汝の飢えた心の穢れを祓い。讃歌さんかの調べを謳う妖精は、印された体の爪痕を撫で潤す。汝を癒す妖精の光が、正しき道を往く道標にならんことを。『フェアリーヒーリング』』

 ややぎこちなく詠唱を唱え終えた直後。私を中心として、足元に光の魔法陣が浮かび上がり、勢いよく広範囲に広がっていく。よし、全員範囲内に居るな。
 広がりが収まると呪文の効果が発動し、魔法陣のふちから淡い光の壁が夜空へと昇っていき、魔法陣全体から虹色の光が湧き出してきて、魔法陣内を暖かく満たしていった。
 『フェアリーヒーリング』を最後に使用したのは、サニーの本当の母親である『エリィ』さんを、あの世へ見送る前だったけども。体の隅々まで沁みていくような暖かさを感じる。

「うわぁーっ! すごいすごいっすごーいっ!! 太陽が昇ってる時よりも明るくなっちゃった!」

「……ほう、これが光属性最上級の回復魔法か。なんて暖かく、心地が良い光なんだ」

 虹色の光を吹き飛ばしかねないサニーの絶叫に混じる、アルビスの静かな感想。
 サニーの絶叫を間近で浴びたのにも関わらず、『天翔ける極光鳥』達は微動だにしていない。すごい胆力―――。

「……む?」

 サニーの背中に留まっている一匹の『天翔ける極光鳥』が、『フェアリーヒーリング』が発している虹色の光と、同じ物を体から出しているような?
 いや、そいつだけじゃない。周りに視線を滑らせてみると、何羽もの『天翔ける極光鳥』達が、同じ虹色の光を体から発している。

「おい、ディーネ? まさか、これ……」

「……ええ。どうやら天翔ける極光鳥の『昇華条件』を、満たしてしまったようですね」

「おいおい、嘘だろ? 天翔ける極光鳥の昇華条件って、こんなに緩いもんだったのか?」

 なにやらウンディーネ様とシルフが、ばつの悪そうな声色で会話をしているが。なんだ、『昇華条件』って? 『天翔ける極光鳥』達が発している光と、何か関係しているのだろうか?

「む?」

 更に辺りの様子を探ろうとした矢先。一際強い虹色の光を帯びた『天翔ける極光鳥』が、私の前に飛んで来たかと思えば、その場に滞空し。
 黙ったまま見つめ合っていると、不意に空から流星の如く眩い煌めきが降り注いできて、目の前に居た『天翔ける極光鳥』を包み込みこんでいった。

「うっ……!」

 目の眩むような眩しさに、逸らした顔を腕で覆い隠してしまったが。なんだ、一体何が起こっている? こんな不可解な挙動、今まで見た事がないぞ。

『おい、お前ら。ちょいと話があるから、俺らの正体を知らない奴らを一旦眠らせるぞ』

 まだ強烈な光が収まらず、目すら開けられないでいる中。やや沈んだシルフの声が、頭から直接響いてきた。

「ね、眠らせる? なんでだ?」

『聞かれたらまずいからだよ。もう寝かしちまったけど、十分ぐらいで起きるよう調整したから安心してくれ』

『アカシックさん、アルビスさん、ウィザレナさん、レナさん。虹色の光が収まり、アカシックさんが『禁断の召喚魔法』を習得し次第、話を始めます。ですが、今から話す内容も他言無用でお願いしますね』

「はい……? 禁断の、召喚魔法? ……む?」

 聞き慣れぬ物騒なウンディーネ様の説明に、思わずウンディーネ様が居る方へ顔を向けてみれば。
 目の前で滞空していた『天翔ける極光鳥』はどこにも居らず、代わりに一枚の色褪せた紙が、その場にふよふよと浮いていた。
 その紙に向かい、なんの警戒心を抱かずに両手を伸ばし、優しく掴んでから手前まで引き寄せた。なんとも古い文字だけど、何か文章が記されているな。

「えっと? 日出ずる地に、汝あり。日没ひぼっす地に、我は―――」

「おいアカシック、読むのをやめろ! 誤って召喚しちまったらどうするんだ!」

 古文書を挟んで飛んできた、シルフの焦りが極まった怒号に、体を波立たせた私の読み口が止まった。
 古文書を恐る恐る下げてみると、視線の先には、顔と腕が項垂れたヴェルイン、カッシェさんの姿があり。
 目を瞑って眠っているサニーを、大事に抱えているアルビスに。辺りとキョロキョロと見渡しているウィザレナとレナ。
 そして、腕を組んで私を睨みつけているシルフと、心配そうな眼差しで私を捉えているウンディーネ様の姿があった。

「……召喚って。もしかしてこれが、禁断の召喚魔法というやつなのか?」

「そうだ。一応確認しときたいんだが、その紙に書かれてる召喚獣の名前はなんだ?」

「名前……?」

 名前。詠唱文の中に記されているだろうけど……。一旦魔力を込めず、声に出さないで読んでみるか。
 『日出ずる地に、汝あり。日没ひぼっす地に、我は舞う。轟かすは光の残響。萌ゆる闇を摘み、清き朝露を育まん。我、『天照らす極楽鳥』の名の元に告ぐ。汝に、日出ずる安寧の刻を約束せん』。
 一通り読んでみた限り、なんとも不思議な詠唱だ。詠唱というよりも、召喚獣が術者に語り掛けてきているように感じる。
 問題の名前は、たぶん『天照らす極楽鳥』だな。他に名前らしき文字羅列は見当たらないし、これで合っているだろう。

「『天照らす極楽鳥』、かな?」

「ああ、なるほど? に確認した通りだったか……」

 落胆と、どこかやってしまったと言わんばかりに重い返答したシルフが、溜息をつきながら項垂れていく。

「まあ……。何も知らない俺らが良かれと思って、勧めちまった事だしなぁ」

「そうですね。あのお方も、アカシックさんなら心配ないと言っていましたし。とりあえず勧告だけしておきましょう」

「だな」

 どうやら二人の話が纏まったようで。もう一度ため息を吐いたシルフが、どこか気だるげそうに腕を組んだ。
 色々と気になるけど、質問をする空気じゃないな。とりあえず、多少聞き返す程度だけにしておかないと。

「でだ、アカシック。今習得した、『天照らす極楽鳥』なんだが。今後、俺達大精霊の誰かが許可を出すまで、使用を一切禁ずる。分かったな?」

「それは絶対に守るけど。そんなにまずいのか? この召喚魔法は」

「禁断の召喚魔法は、どれも世界の均衡をいとも容易く崩す威力を誇ります。ですので、『天照らす極楽鳥』も例外ではありません」

「は、はぁ……」

 世界の均衡をいとも容易く崩すって……、どれだけの威力があるんだ? それに、今までその時が訪れなかったという事は、習得した者は居なかったのだろうか?
 試すつもりは毛頭ないけど、変な探求心が疼いてきてしまった。

「それに、アルビス、ウィザレナ、レナ。お前らもちゃんと聞いたな? もし、アカシックが変な気を起こそうとしたら、引っ叩いて止めてくれ」

「承知致しました」

「わ、分かりました!」

「は、はいっ!」

 みんな、やけに気合の入った良い返事をするじゃないか。特に、アルビスの覚悟を決めたような鋭い龍眼よ。
 私を絶対に止めてみせるという、気迫とやる気に満ち溢れている。

「み、みんな? 少しでもいいから、私を信用してくれないか?」

「安心しろ、アカシック・ファーストレディ。余が、命に代えてでも貴様を止めてやる」

「そ、そんな……」

「ふっ、冗談だ」

 鼻で小さく笑い、凛とした笑みを見せるアルビス。あいつめ。こんな時にまで、冗談を交わしてくるなんて……。
 おちょくられてしまったが。一応それを、私に対する信用の形として受け取っておこう。

「へっへっへっ。んじゃ、堅苦しい真面目な話はこれで終わりにして、そろそろ皆を起こすぞ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、シルフ! 数分だけいいから、気持ちを切り替える時間が欲しい」

「んだよ、今更ビビりやがって。お前、そんな柄じゃねえだろ?」

「シルフ様、ここは穏便にお済ませ下さい。下手に刺激しますと、例の禁断魔法が飛んできますよ?」

「おっと! そうだったな、危ねえ危ねえ。アカシック、すまん! 気を悪くしないでくれ」

 私にも聞こえるよう、シルフに耳打ちをしてから、わざとらしくチラチラと横目を流してくるアルビスに。
 大袈裟に頭を下げ、肩を小刻みに震わせているシルフ。シルフの奴、絶対に笑っているな?
 それに、アルビスもだ。いつもと様子が違うし、そことなく楽しそうに私をイジってきている。
 私も分かっているので、悪い気にはなっていないけども。……この流れに、悪乗りした方がいいのかな?

「えと……。それじゃあ、魔力を込めないで詠唱を始めるから、ちゃんと私を止めてくれよ?」

「ぶふっ! ふっ、ふふふっ……。なあ、アルビス。アカシックも、めちゃくちゃ面白え奴だな」

「ええ、余の自慢の家族です」

「やはりアカシックさんであれば、何の心配もいりませんね」

 あれ? 身構えてくれるとばかり思っていたのに、なんだか和やかな空気になってしまった。もしかして、聞き方を間違えたか?

「なあ、シルフ。詠唱を始めるぞ? 準備はいいか?」

「ま、待て……。後数十秒ぐらいで、ふふっ……。皆起きちまうから、無理にやらなくても、いいぞ……、ふっふっふっ……」

「ああ、そうなのか。分かった」

 そう言葉を返すと、こうべを垂らしていたシルフが腹を抱え、そのまま地面にうずくまっていった。なんでシルフは、あそこまで笑っているんだ?
 ……しかし、『天照らす極楽鳥』か。また変なタイミングで、とんでもない召喚魔法を覚えてしまったな。
 世界の均衡を簡単に崩しかねない召喚魔法らしいし、極力忘れるようにしておかないと。
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