ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

文字の大きさ
上 下
173 / 304

170話、光の申し子と呼ばれている所以

しおりを挟む
 ウンディーネ様とシルフの設定に振り回されて、サニーに範囲型の回復魔法である『フェアリーヒーリング』と、『天翔ける極光鳥』を見せる約束をした後。
 そこからは、なんとも平和な時間を過ごせた。初めて口にする料理の数々に、嬉々と舌鼓したつづみを打ち、幸せそうに唸りを上げるウンディーネ様とシルフ。
 特に二人は、前々から食べたがっていたシチューを気に入ってくれたらしい。なんでも理由は、人に食べてほしいという気持ちが詰まっていて、心身共にポカポカと暖まったとの事。

 その二人の嬉しい感想に、ヴェルインとアルビスも賛同しながら食いついてきた。そういえば二人も、未だに私のシチューを、美味しそうに食べてくれている。
 元々シチューは、サニーの大好物なので作っていたのだが。まさか、全員ここまで気に入ってくれるとは。共通の話題も出来たので、料理やシチューについて盛り上がっていた。
 しかし、ここまで料理の話題になると……。相反して、ウィザレナ達が可哀想になってくる。無論、シチューを食べられないエルフのウィザレナは、口を尖らせてながら羨ましそうに眺めていた。
 このままだと、ウィザレナに合わせて料理を制限しているレナも、みんなから取り残されてしまうし。明日から、エルフでも食べられる料理を開発してみよう。

 そうウィザレナ達に伝えてみれば、二人の表情はぱあっと明るくなり、『おおっ! すまない、アカシック殿! 楽しみに待ってるぞ!』と期待に胸を膨らませて、元気を取り戻してくれた。
 よし。言ってしまったからには、明日にでも料理本を買い漁り、研究と開発をしていかないと。これについては、アルビスの知恵も借りよう。
 さて、そろそろ長くも楽しい夕食が終わりを迎える事だし。次は、興奮し出したサニーの前で、外に出て二つの魔法を披露してやらないと。









「でよ、アカシック。どっちから使うんだ?」

 心なしか。料理を食べ過ぎて腹が少し膨れているシルフが、腕を組みながら言ってきた。

「召喚魔法を使ってから、回復魔法を使おうと思ってる。そうすれば、召喚したあいつらも一緒に癒せるだろ?」

「とても良い案ですね。召喚獣さんも、お喜びになるかと思います」

「だな。それじゃあアカシック、どーんとやっちまえ!」

「お母さんっ! 早くっ、早くっ!」

 両手を合わせて私の案を褒めてくれたウンディーネ様に、握り拳を掲げて催促するシルフと、その場に飛び跳ねてもっと激しく催促してくるサニー。
 闇夜を振り払わんとする、活力に満ち溢れたサニーの姿よ。サニーも、かなりの料理を食べたはずなのだが。よくもまあ、あそこまで元気よく動けるものだ。

「そう焦るな、今からやる」

 サニーを落ち着かせる意味も込めて答えつつ、右手を前にかざす私。

「出て来い、“光”」

 杖を召喚する合図を出すと、かざした手の先から、淡い光を放つ粒子が集まり出し。歪な丸い光と化すると、音も無く弾け飛び、中から光の杖が現れた。
 みんなを待たせる訳にもいかないので、召喚した杖をすぐに掴み。両手を大きく広げ、柄にもなく緊張している私の心を静めるべく、一度浅く息を吐いた。

『天地万物に等しき光明を差す、闇と対を成す光に告ぐ。“天翔ける極光鳥”、天罰を下す刻が来た。差す光明を今一度閉じよ』

 詠唱を唱え始めると、私を挟む形で、太陽の紋章が描かれた光の魔法陣が二つ出現。今まで、視覚的に暖かな光を放っていたけど。やはり、心が安らぐ暖かさを肌で感じる。
 それにしても、『天罰を下す刻が来た』という詠唱の部分よ。ちゃんと唱えないと呪文が発動してくれないので、仕方なく唱えたけど、今の状況だと物騒極まりないな。

『“天翔ける極光鳥”に告ぐ。召喚され次第、私の後方で待機してくれ。契約者の名は“アカシック”』

 合図まで唱え終えると、私を挟んだ二つの魔法陣が、妖しくも神秘的な光が増していき。
 その魔法陣から、鳥の形をした虹色の光が大量に飛び出してきた。

「わっ! 綺麗な鳥さんが、いっぱい出てきたっ!」

 召喚獣を認めたサニーの興奮具合が、一気に上がっていく様を認めてから、背後を確認してみる。
 やはり今日も、私を起点として巨大な天使の翼を彷彿とさせる隊列を組んでいた。
 近い過去に、二度『天翔ける極光鳥』を召喚しているものの。なぜいつも、こんな隊列を組むのだろうか? だんだん気になってきてしまった。

「わっ、わっ! わあーっ!! お母さんが天使さんみたいになっちゃった!」

 視界外から聞こえてくる、『天翔ける極光鳥』を吹き飛ばさんとする大声。ウンディーネ様も、『天翔ける極光鳥』でトドメを刺す前に、この姿を天使と比喩していたが……。改めて意識したせいで、少しだけ恥ずかしくなってきた。
 数秒すると、ようやく召喚され切ったのか。魔法陣から絶え間なく出てきていた『天翔ける極光鳥』が途切れ、役目を終えた魔法陣が光の粒子となり、たおやかな夜風に乗って流れていく。
 そして、全ての『天翔ける極光鳥』達が隊列を組み終えると、一度優雅に羽ばたき、虹色に光る羽を辺りに撒き散らしていった。

 その虹色の羽が、ヒラヒラと舞い落ちている中、顔をサニー達の居る方へやる。
 戻った視線の先には、青い瞳が太陽よりも熱そうで、月明りよりも眩しく輝いているサニーが、両手をバンザイさせながら何度も飛び跳ねていた。

「どうだ、サニー? この姿が、私が『光の申し子』と呼ばれてる所以だ」

「うわぁーっ! わぁーっ!! すごく綺麗ーーっ! お母さんかっこいいーーっ!!」

「か、かっこいい?」

 かっこいい。もしかして私、サニーに褒められたのか? かっこいい。ほう、なるほど。かっこいい、そうか。かっこいいのか、今の私。
 なんだ。そんなに褒められるのであれば、もっと早く色んな魔法を見せておけばよかった。それにしても、良い響きだなぁ。かっこいいって。もっとサニーに言われてみたい。

「やっぱ、いつ見ても圧巻だなあ、あれ。夜になると、虹色の光がより一層映えて美しいぜ」

「ええ、なんともみやびやかですが。色々と苦い思い出が蘇ってきます……」

 後頭部に両手を当て、ニッと笑うシルフに。小刻みに震えている手を頬に添え、強張った苦笑いを浮かべるウンディーネ様。

「アカシック。そいつらを、いつまでもそうさせとくのは悪いだろ? 早く休ませてやれよ」

「おっと、そうだな」

 そう、今回は召喚して終わりじゃない。シルフの言う通り、『天翔ける極光鳥』達を休ませてあげないと。

『“天翔ける極光鳥”、召喚して悪いが。今日は、文字通り羽を休めてほしい。各々、自由に行動してくれ』

 召喚獣にとって、藪から棒な指示を出した瞬間。翼の形を成した陣形が崩れたかと思えば、我先にと言わんばかりの勢いで、私に目掛けて一斉に飛んできた。

「へ……?」

 思いもせぬ『天翔ける極光鳥』の行動に、私は呆ける暇も無く。硬直して動くのが遅れた私の体に、隙間なく器用に留まっていった。
 が、召喚された数が数なだけあり。私の体に留まれず溢れた『天翔ける極光鳥』達が、私を狙うかのように周りを囲っていき、逃げ場さえも閉ざしていく。
 おい。なんだ、この状況? なんで近場の枝に留まらず、わざわざ私の体に留まってくるんだ?
 まるで陽の光を浴びているかのように暖かいけど、ビッチリ留まっているからまったく動けないぞ。

「……お、お前ら? 私の体が、いいのか?」

 恐る恐る問い掛けてみると、『天翔ける極光鳥』達は意志が通じ合っているかのように、一寸の狂いもなく全羽がうなずいてきた。
 統率が取れた行動にも驚いたけど……。私の言っている言葉の意味を、ちゃんと理解しているんだな。

「だあーっはっはっはっ! 見てみろよカッシェ! 今のレディ、羽団子になって太陽みたいに光ってんぞ!」

「ふふっ。アカシックさんには悪いけど、正に光の申し子ね」

「すごいぞアカシック殿! あまりにも眩しくて直視出来ないぞ!」

「ほんの少しだけ、羨ましいかも……」

「お母さんだけずるいっ! 私も、そんな風にされてみたいっ!」

 十人十色の感想が聞こえてくるも、ヴェルインの馬鹿笑いが全てを掻き消していく。とりあえず、ヴェルインは一旦無視をしてだ。
 サニーもされてみたいと言っていたようだし。ついでに数羽だけ指示を出し、レナにも寄り添ってあげてもらうか。

『順番待ちの“天翔ける極光鳥”達。すまないが、あそこに子供と白髪のエルフが居るだろ? 子供の方には、私と同じように留まってもらい。エルフの方にも、数羽だけ付き合ってあげてくれないか?』

 先ほどよりも細かい指示を出すと、聞き受けてくれた『天翔ける極光鳥』達が羽ばたき出し、サニー達に向かって飛んでいってくれた。
 その数もなかなか圧巻で、虹色の波打つ水面みたいな姿が出来上がっていた。

「わっ、わあっ! いっぱい飛んできたっ!」

「あれ? なんだか、俺の方にも飛んで来て……、ちょっ、お前ら!? 俺は子供じゃ―――」

「ん?」

 波打つ光のせいで、向こう側の状況が見えないけども。なんだか急に、シルフが騒ぎ出していたな。『子供じゃ』で声が途切れたけど、もしかして……?
 嫌な予感が芽生え始めてくると、波打つ虹色の光が纏まっていき、だんだんと収まっていく。
 そしてなぜか、私は『子供に』と指示を出したのに対し、視線の先には『天翔ける極光鳥』の羽団子が、二つ出来上がっていた。
 一つの羽団子には、ほっこりとした表情で『天翔ける極光鳥』の暖かさを堪能しているサニーが。もう一つの羽団子には、私をジーッと睨みつけてきているシルフが捕らえられていた。

「おい、バカシック。お前さん所の召喚獣、一体どうなってんだよ? 俺はこう見えても、ウィザレナより全然年上だからな?」

「ふわぁ~、暖かーいっ……」

 片や、不満気にボヤキを飛ばしてくるシルフ。片や、風呂に入っている時よりも気持ちよさそうに、表情をとろけさせているサニー。……まずい。あの状況、見ていてものすごく面白いぞ。

「す、すまん……。特徴も言っておけばよかった、ふっ、ふふふっ……」

「あんまり悪そびれてねえな? 確かに、めちゃくちゃ暖かいけどよ。頼むから、どうにかしてくれよ」

「わ、分かっ……。ふふっ、あっはっはっはっはっ」

「おーい! なに笑ってんだ! お前が笑うのは俺とて嬉しいけど、今じゃねえ!」

 シルフが微動だにせず怒っているし、『天翔ける極光鳥』達を早くどかしてあげたいけど。もう駄目だ、笑いが止められない。笑い過ぎたせいで、涙まで出てきてしまった。
 しかし、シルフもそこまで怒っていなかったのか。私の笑い声の中に、シルフの笑い声も混じっている。
 ああ、楽しいなぁ。本当に楽しい時間だ。シルフには申し訳ないけど、もう少しだけ笑っていよう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

白い結婚をめぐる二年の攻防

藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」 「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」 「え、いやその」  父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。  だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。    妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。 ※ なろうにも投稿しています。

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!

つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。 他サイトにも公開中。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...