ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

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170話、光の申し子と呼ばれている所以

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 ウンディーネ様とシルフの設定に振り回されて、サニーに範囲型の回復魔法である『フェアリーヒーリング』と、『天翔ける極光鳥』を見せる約束をした後。
 そこからは、なんとも平和な時間を過ごせた。初めて口にする料理の数々に、嬉々と舌鼓したつづみを打ち、幸せそうに唸りを上げるウンディーネ様とシルフ。
 特に二人は、前々から食べたがっていたシチューを気に入ってくれたらしい。なんでも理由は、人に食べてほしいという気持ちが詰まっていて、心身共にポカポカと暖まったとの事。

 その二人の嬉しい感想に、ヴェルインとアルビスも賛同しながら食いついてきた。そういえば二人も、未だに私のシチューを、美味しそうに食べてくれている。
 元々シチューは、サニーの大好物なので作っていたのだが。まさか、全員ここまで気に入ってくれるとは。共通の話題も出来たので、料理やシチューについて盛り上がっていた。
 しかし、ここまで料理の話題になると……。相反して、ウィザレナ達が可哀想になってくる。無論、シチューを食べられないエルフのウィザレナは、口を尖らせてながら羨ましそうに眺めていた。
 このままだと、ウィザレナに合わせて料理を制限しているレナも、みんなから取り残されてしまうし。明日から、エルフでも食べられる料理を開発してみよう。

 そうウィザレナ達に伝えてみれば、二人の表情はぱあっと明るくなり、『おおっ! すまない、アカシック殿! 楽しみに待ってるぞ!』と期待に胸を膨らませて、元気を取り戻してくれた。
 よし。言ってしまったからには、明日にでも料理本を買い漁り、研究と開発をしていかないと。これについては、アルビスの知恵も借りよう。
 さて、そろそろ長くも楽しい夕食が終わりを迎える事だし。次は、興奮し出したサニーの前で、外に出て二つの魔法を披露してやらないと。









「でよ、アカシック。どっちから使うんだ?」

 心なしか。料理を食べ過ぎて腹が少し膨れているシルフが、腕を組みながら言ってきた。

「召喚魔法を使ってから、回復魔法を使おうと思ってる。そうすれば、召喚したあいつらも一緒に癒せるだろ?」

「とても良い案ですね。召喚獣さんも、お喜びになるかと思います」

「だな。それじゃあアカシック、どーんとやっちまえ!」

「お母さんっ! 早くっ、早くっ!」

 両手を合わせて私の案を褒めてくれたウンディーネ様に、握り拳を掲げて催促するシルフと、その場に飛び跳ねてもっと激しく催促してくるサニー。
 闇夜を振り払わんとする、活力に満ち溢れたサニーの姿よ。サニーも、かなりの料理を食べたはずなのだが。よくもまあ、あそこまで元気よく動けるものだ。

「そう焦るな、今からやる」

 サニーを落ち着かせる意味も込めて答えつつ、右手を前にかざす私。

「出て来い、“光”」

 杖を召喚する合図を出すと、かざした手の先から、淡い光を放つ粒子が集まり出し。歪な丸い光と化すると、音も無く弾け飛び、中から光の杖が現れた。
 みんなを待たせる訳にもいかないので、召喚した杖をすぐに掴み。両手を大きく広げ、柄にもなく緊張している私の心を静めるべく、一度浅く息を吐いた。

『天地万物に等しき光明を差す、闇と対を成す光に告ぐ。“天翔ける極光鳥”、天罰を下す刻が来た。差す光明を今一度閉じよ』

 詠唱を唱え始めると、私を挟む形で、太陽の紋章が描かれた光の魔法陣が二つ出現。今まで、視覚的に暖かな光を放っていたけど。やはり、心が安らぐ暖かさを肌で感じる。
 それにしても、『天罰を下す刻が来た』という詠唱の部分よ。ちゃんと唱えないと呪文が発動してくれないので、仕方なく唱えたけど、今の状況だと物騒極まりないな。

『“天翔ける極光鳥”に告ぐ。召喚され次第、私の後方で待機してくれ。契約者の名は“アカシック”』

 合図まで唱え終えると、私を挟んだ二つの魔法陣が、妖しくも神秘的な光が増していき。
 その魔法陣から、鳥の形をした虹色の光が大量に飛び出してきた。

「わっ! 綺麗な鳥さんが、いっぱい出てきたっ!」

 召喚獣を認めたサニーの興奮具合が、一気に上がっていく様を認めてから、背後を確認してみる。
 やはり今日も、私を起点として巨大な天使の翼を彷彿とさせる隊列を組んでいた。
 近い過去に、二度『天翔ける極光鳥』を召喚しているものの。なぜいつも、こんな隊列を組むのだろうか? だんだん気になってきてしまった。

「わっ、わっ! わあーっ!! お母さんが天使さんみたいになっちゃった!」

 視界外から聞こえてくる、『天翔ける極光鳥』を吹き飛ばさんとする大声。ウンディーネ様も、『天翔ける極光鳥』でトドメを刺す前に、この姿を天使と比喩していたが……。改めて意識したせいで、少しだけ恥ずかしくなってきた。
 数秒すると、ようやく召喚され切ったのか。魔法陣から絶え間なく出てきていた『天翔ける極光鳥』が途切れ、役目を終えた魔法陣が光の粒子となり、たおやかな夜風に乗って流れていく。
 そして、全ての『天翔ける極光鳥』達が隊列を組み終えると、一度優雅に羽ばたき、虹色に光る羽を辺りに撒き散らしていった。

 その虹色の羽が、ヒラヒラと舞い落ちている中、顔をサニー達の居る方へやる。
 戻った視線の先には、青い瞳が太陽よりも熱そうで、月明りよりも眩しく輝いているサニーが、両手をバンザイさせながら何度も飛び跳ねていた。

「どうだ、サニー? この姿が、私が『光の申し子』と呼ばれてる所以だ」

「うわぁーっ! わぁーっ!! すごく綺麗ーーっ! お母さんかっこいいーーっ!!」

「か、かっこいい?」

 かっこいい。もしかして私、サニーに褒められたのか? かっこいい。ほう、なるほど。かっこいい、そうか。かっこいいのか、今の私。
 なんだ。そんなに褒められるのであれば、もっと早く色んな魔法を見せておけばよかった。それにしても、良い響きだなぁ。かっこいいって。もっとサニーに言われてみたい。

「やっぱ、いつ見ても圧巻だなあ、あれ。夜になると、虹色の光がより一層映えて美しいぜ」

「ええ、なんともみやびやかですが。色々と苦い思い出が蘇ってきます……」

 後頭部に両手を当て、ニッと笑うシルフに。小刻みに震えている手を頬に添え、強張った苦笑いを浮かべるウンディーネ様。

「アカシック。そいつらを、いつまでもそうさせとくのは悪いだろ? 早く休ませてやれよ」

「おっと、そうだな」

 そう、今回は召喚して終わりじゃない。シルフの言う通り、『天翔ける極光鳥』達を休ませてあげないと。

『“天翔ける極光鳥”、召喚して悪いが。今日は、文字通り羽を休めてほしい。各々、自由に行動してくれ』

 召喚獣にとって、藪から棒な指示を出した瞬間。翼の形を成した陣形が崩れたかと思えば、我先にと言わんばかりの勢いで、私に目掛けて一斉に飛んできた。

「へ……?」

 思いもせぬ『天翔ける極光鳥』の行動に、私は呆ける暇も無く。硬直して動くのが遅れた私の体に、隙間なく器用に留まっていった。
 が、召喚された数が数なだけあり。私の体に留まれず溢れた『天翔ける極光鳥』達が、私を狙うかのように周りを囲っていき、逃げ場さえも閉ざしていく。
 おい。なんだ、この状況? なんで近場の枝に留まらず、わざわざ私の体に留まってくるんだ?
 まるで陽の光を浴びているかのように暖かいけど、ビッチリ留まっているからまったく動けないぞ。

「……お、お前ら? 私の体が、いいのか?」

 恐る恐る問い掛けてみると、『天翔ける極光鳥』達は意志が通じ合っているかのように、一寸の狂いもなく全羽がうなずいてきた。
 統率が取れた行動にも驚いたけど……。私の言っている言葉の意味を、ちゃんと理解しているんだな。

「だあーっはっはっはっ! 見てみろよカッシェ! 今のレディ、羽団子になって太陽みたいに光ってんぞ!」

「ふふっ。アカシックさんには悪いけど、正に光の申し子ね」

「すごいぞアカシック殿! あまりにも眩しくて直視出来ないぞ!」

「ほんの少しだけ、羨ましいかも……」

「お母さんだけずるいっ! 私も、そんな風にされてみたいっ!」

 十人十色の感想が聞こえてくるも、ヴェルインの馬鹿笑いが全てを掻き消していく。とりあえず、ヴェルインは一旦無視をしてだ。
 サニーもされてみたいと言っていたようだし。ついでに数羽だけ指示を出し、レナにも寄り添ってあげてもらうか。

『順番待ちの“天翔ける極光鳥”達。すまないが、あそこに子供と白髪のエルフが居るだろ? 子供の方には、私と同じように留まってもらい。エルフの方にも、数羽だけ付き合ってあげてくれないか?』

 先ほどよりも細かい指示を出すと、聞き受けてくれた『天翔ける極光鳥』達が羽ばたき出し、サニー達に向かって飛んでいってくれた。
 その数もなかなか圧巻で、虹色の波打つ水面みたいな姿が出来上がっていた。

「わっ、わあっ! いっぱい飛んできたっ!」

「あれ? なんだか、俺の方にも飛んで来て……、ちょっ、お前ら!? 俺は子供じゃ―――」

「ん?」

 波打つ光のせいで、向こう側の状況が見えないけども。なんだか急に、シルフが騒ぎ出していたな。『子供じゃ』で声が途切れたけど、もしかして……?
 嫌な予感が芽生え始めてくると、波打つ虹色の光が纏まっていき、だんだんと収まっていく。
 そしてなぜか、私は『子供に』と指示を出したのに対し、視線の先には『天翔ける極光鳥』の羽団子が、二つ出来上がっていた。
 一つの羽団子には、ほっこりとした表情で『天翔ける極光鳥』の暖かさを堪能しているサニーが。もう一つの羽団子には、私をジーッと睨みつけてきているシルフが捕らえられていた。

「おい、バカシック。お前さん所の召喚獣、一体どうなってんだよ? 俺はこう見えても、ウィザレナより全然年上だからな?」

「ふわぁ~、暖かーいっ……」

 片や、不満気にボヤキを飛ばしてくるシルフ。片や、風呂に入っている時よりも気持ちよさそうに、表情をとろけさせているサニー。……まずい。あの状況、見ていてものすごく面白いぞ。

「す、すまん……。特徴も言っておけばよかった、ふっ、ふふふっ……」

「あんまり悪そびれてねえな? 確かに、めちゃくちゃ暖かいけどよ。頼むから、どうにかしてくれよ」

「わ、分かっ……。ふふっ、あっはっはっはっはっ」

「おーい! なに笑ってんだ! お前が笑うのは俺とて嬉しいけど、今じゃねえ!」

 シルフが微動だにせず怒っているし、『天翔ける極光鳥』達を早くどかしてあげたいけど。もう駄目だ、笑いが止められない。笑い過ぎたせいで、涙まで出てきてしまった。
 しかし、シルフもそこまで怒っていなかったのか。私の笑い声の中に、シルフの笑い声も混じっている。
 ああ、楽しいなぁ。本当に楽しい時間だ。シルフには申し訳ないけど、もう少しだけ笑っていよう。
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