148 / 296
145話、天を穿つ癒しの激流
しおりを挟む
『水鏡』を挟んだ先の光景は、止む事のない大熱線の嵐。狙いの精度が向上しているようで、二本に一本は真正面に当たり。残りの大熱線は、確実に『水鏡』を掠めている。
もう、外へ出るのは厳しいな。避け続けるのが難しくなりつつある。出し惜しみせず、ウンディーネ様を召喚しておいてよかった。
「ウンディーネ様、先に申しておきます。今の私では、役に立つ事が出来ません。……どうしましょう?」
「アカシックさんの『奥の手』が発動しないのは、空と大地が『時の穢れ』に侵されているせいです。まずは『時の穢れ』を私が浄化し、アカシックさんの『奥の手』を発動させる事から始めます」
「時の穢れの浄化……、はあ」
この戦いの中で、よく出てくる『時の穢れ』という単語。不死鳥を狂わせるだけでなく、空や大地といった自然界にも影響を及ぼすとは。
まだ正体が全然掴めていないけど、状態異常の類だと思えばいいのだろうか?
「時の穢れにつきましては、後々お教えします。もう少しだけ辛抱して下さいね」
「あっ! は、はい……、ありがとうございます」
しまった。『時の穢れ』について、知りたいと顔に出ていたらしい。ちゃんとしろ、私よ。今は、目の前にある戦いだけに集中するんだ。
その緩み始めた気を引き締めるように、両頬を強めに二度叩き、深呼吸をした。
「……よし」
「うん、いい顔です。それでは始めましょう」
そう微笑んだウンディーネ様は、真剣な表情となった顔を前へやり。左手に携えていた紺碧の三叉槍の槍先を、渓谷に向けた。
それと呼応するかのように。渓谷の底から清らかな青色の光が昇り出し、薄暗く染まった辺りの景色を色付け、明るく照らしていった。
「穿て」
ウンディーネ様が呟いたと同時。明るい各渓谷から、まるで壁を思わせる紺碧の激流が数kmに渡って噴き出し、空を目指して一直線に上昇していく。
その勢いは留まらず、七つ以上に増えた激流が、上空にある黒雲を貫通。直後、黒雲が赤く瞬き、不死鳥の悲痛な奇声が渓谷地帯に響き渡った。
「……ただの水が、不死鳥に効いてる?」
黒雲を貫く勢いだ。確かに、絶大な威力だとは推測出来る。けれども、当たったのは、渓谷を流れている何の変哲もない水だぞ? そこまで効くのか?
「水の性質を、瞑想場にある水と同等の物に変化させましたからね。時の穢れに侵されている不死鳥にとって、唯一の弱点と言えるでしょう」
「そ、そんな事まで……」
「ええ。そして、次に雨を降らせれば、私はどこからでも魔法を放つ事が可能になります」
「え? それじゃあ、まさか……」
私は、ウンディーネ様は自身を水に溶け込ませて、最初に放った水魔法に侵入し、更にそこから魔法を放てると予想していた。
しかしウンディーネ様の言い方だと、私の予想を悪い方向へ遥かに上回り、より絶望色が濃くなってくるのだが……。
「はい。私は少量の水さえあれば、そこから魔法を放てます」
「やっぱり! じゃあ、私と戦ってた時に、水の中に溶け込んでいたのは……」
「あれは、私が絶対的優位に立つ為に、ただ隠れていただけです」
私の予想を全て打ち砕き、妖しく笑うウンディーネ様。……眩暈がする事実だ。もしあの時、ウンディーネ様が最初から冷静でいたら、私は十秒も持たなかったんじゃないか?
靴底が瞑想場の水に触れていたし……。ウンディーネ様が判断を誤り、戦い方の順序を間違え続けてくれたお陰で、私はなんとか辛勝出来たに過ぎない。もし、また戦う機会があったら、私は絶対に勝てないだろうな。
「なんだか、予想が間違っていたっていう顔をしていますね」
「ゔっ……!」
図星を的確に突かれ、肩を大きく波立たせる私。
「いいんですよ? また私と戦ってくれても。ですが次は、最初から本気を出させて頂きます」
「お断りします」
「ふふっ、ですよね」
おしとやかで柔らかな苦笑いを浮かべているけども。この人、私との再戦を諦めていないな……?
「さて、冗談はここまでにしておきましょう。準備の仕上げに入ります」
あまり冗談に聞こえなく、少々残念そうにしているウンディーネ様が、雄々しい紺碧の三叉槍を空へかざす。
『慈雨』
詠唱を省いた呪文名を唱えた声は、あまりにも慈悲深く、心が澄み渡るほどに穏やかで。思わず、地に片膝を付けたくなるような尊さがあり。
そのたおやかな声を全て拒絶するかの如く、空から強烈な断末魔が木霊し。瞬いていた赤い光が弱々しくなっていく。
そして、淑やかな大粒の雨が降ってくると。黒雲が力を無くしたかのように点々と穴が開き始め、神々しい光芒が差し出し、衰弱した大地を照らしていった。
「すごいな……」
私とアルビスでは、手の施しようが無かったというのに。ウンディーネ様は、たった一つの命令と呪文だけで、最悪な戦況を覆してしまった。……これが、大精霊様の力。ただただ圧倒的だ。
しばらくすると、断末魔がか細くなっていき。大地を照らす光芒の数が増え、空を隠していた黒雲が晴れていく。
その黒雲が霧散した先、天気雨を降らせている青空の高高度。首を大きく左右に動かさなければ、全体像が拝めない巨大過ぎる魔法陣が浮かんでいた。ここから距離が相当離れているようで、薄っすらと霞がかかっている。
「なんて大きさなんだ……、規模が違い過ぎる」
「水流は、ずいぶんと天高くまで昇り、拡散してくれたようですね。お陰で、渓谷地帯全域の穢れを払えそうです」
「という事は……。さっきの水流は、あんなに高くまで昇って―――」
腑抜けた相槌を打っている最中。煌く雫が降り注いでいる青空が、一瞬だけ白く瞬いた。今の光は、私の『奥の手』が発動した合図だ。
……そうか。やはりお前達も、大変な思いをしていたんだな。
「……すまなかった、渓谷地帯、空。お前達の置かれてる立場を考えずに、何度も催促してしまって」
湿った声で謝ると、空達は許してくれたのか。もう一度だけ白く瞬いてくれた。その傍らで、隣から流れてきた、静かに鼻を鳴らしたような音。
「さて。これでアカシックさんが、私よりも強くなりました。もう少ししたら、ちゃんと働いてもらいますからね」
「はぇっ? わ、私が……、ウンディーネ様、よりも……?」
突拍子もない虚言に、私の視野が限界まで見開き、顔をぎこちなくウンディーネ様へ向けてみれば。あの人は、口元を右手で覆い隠し、やや無邪気気味に微笑んでいた。
「ええ。アカシックさんの『奥の手』は、常軌を逸していますからね。特に、魔法制限。火の大精霊には、火属性魔法の制限を。風の大精霊には、風魔法の制限を。他にも、土、氷、闇、光。これだけは、各大精霊に絶大な効果を発揮します。制限された時点で、私達はお手上げ状態。降参せざるを得なくなります」
口にしていい情報なのかと、困惑が隠せないでいる中。ウンディーネ様は、口元を隠していた手を下げ、左腕を握る。
「ですので。もし、他の大精霊達と出会い、交戦状態になった場合。真っ先に『奥の手』を使用して下さい。必ずですよ? 先手を打たれたら、万が一にでもアカシックさんの勝ちは無くなります。肝に銘じておいて下さい」
とんでもない事を口走ったウンディーネ様が、今度はワンパクそうに笑った。これは、いずれ大精霊様方と鉢合わせて戦う事になるから、『奥の手』を必ず使えという、ウンディーネ様からの警告だ。
……まるで意図が掴めない。なぜ大精霊様方は、ただの一般人である私と出会おうとしているのか。
質問してみたいけど……、今はやめておこう。きっと、聞いても開示出来ない情報だと、はぐらかされるのがオチだ。
「い、色々と気になりますが……、分かりました。気を付けます」
「特に、土と氷の大精霊は喧嘩っ早いですからね。先に魔法壁を張っておく事をオススメしておきます」
「あっ……、はぁ」
まさか、ウンディーネ様から情報を開示してくれるとは……。口振りから察するに、最低でも土と氷の大精霊様と戦う事は確定したようなもの。
私の知らない場所で、何かが動いている。そして、近い未来に始まろうとしているのは確かだ。……やはり気になるから、無理も承知で、後日ウンディーネ様に聞いてみよう。
「さて、お喋りはここまでです。そろそろ不死鳥が姿を現すと思いますので、臨戦態勢に入って下さい」
「む」
緊張が走る再戦の知らせに、すぐさま空を仰ぎ、『慈雨』が降り注ぐ碧天を見渡してみれば。碧天には場違いで、陽炎の様な揺らめきを怪しく昇らせている、歪な球状の黒い何かを視界に捉えた。
たぶん、黒雲があそこまで収縮したのだろう。きっと、あの中に不死鳥が潜んでいる。それなりに厚そうだから、『慈雨』から身を守る魔法壁の役割を果たしていそうだ。
それなりに距離が離れているけど、『奥の手』が発動した今、私の攻撃は『渓谷地帯』全域に届く。もう、どこにも逃がさない。
「アルビスさん。準備の方は、いかがでしょうか?」
「後、二、三分少々頂ければ、いつでも発動出来ます」
「分かりました。それでは、アカシックさん」
「は、はい」
不意に呼ばれたので、慌てて顔を移してみると。私に顔を合わせていたウンディーネ様は、普段通りのおしとやかで清楚な表情をしているも。
紅色の瞳には、後退りしたくなるような闘志を滾らせていて、既に戦闘態勢へと入っていた。
「アカシックさんの好きなように、反撃の狼煙を上げちゃって下さい」
「……いいんですか?」
「はい。黒雲ごと凍らせるのもよし。激流で吹き飛ばすのもよし。烈風で黒雲を剥がすのもよしです。さあ、どうぞ」
そう物騒な反撃の狼煙を羅列し、華奢な手を空へかざすウンディーネ様。これは、ウンディーネ様なりの配慮なのだろう。
「ありがとうございます。では」
ウンディーネ様に深く一礼し、体を球状の黒雲がある方へ戻す。そのまま両手を広げ、浅く息を吐いた。
もう、外へ出るのは厳しいな。避け続けるのが難しくなりつつある。出し惜しみせず、ウンディーネ様を召喚しておいてよかった。
「ウンディーネ様、先に申しておきます。今の私では、役に立つ事が出来ません。……どうしましょう?」
「アカシックさんの『奥の手』が発動しないのは、空と大地が『時の穢れ』に侵されているせいです。まずは『時の穢れ』を私が浄化し、アカシックさんの『奥の手』を発動させる事から始めます」
「時の穢れの浄化……、はあ」
この戦いの中で、よく出てくる『時の穢れ』という単語。不死鳥を狂わせるだけでなく、空や大地といった自然界にも影響を及ぼすとは。
まだ正体が全然掴めていないけど、状態異常の類だと思えばいいのだろうか?
「時の穢れにつきましては、後々お教えします。もう少しだけ辛抱して下さいね」
「あっ! は、はい……、ありがとうございます」
しまった。『時の穢れ』について、知りたいと顔に出ていたらしい。ちゃんとしろ、私よ。今は、目の前にある戦いだけに集中するんだ。
その緩み始めた気を引き締めるように、両頬を強めに二度叩き、深呼吸をした。
「……よし」
「うん、いい顔です。それでは始めましょう」
そう微笑んだウンディーネ様は、真剣な表情となった顔を前へやり。左手に携えていた紺碧の三叉槍の槍先を、渓谷に向けた。
それと呼応するかのように。渓谷の底から清らかな青色の光が昇り出し、薄暗く染まった辺りの景色を色付け、明るく照らしていった。
「穿て」
ウンディーネ様が呟いたと同時。明るい各渓谷から、まるで壁を思わせる紺碧の激流が数kmに渡って噴き出し、空を目指して一直線に上昇していく。
その勢いは留まらず、七つ以上に増えた激流が、上空にある黒雲を貫通。直後、黒雲が赤く瞬き、不死鳥の悲痛な奇声が渓谷地帯に響き渡った。
「……ただの水が、不死鳥に効いてる?」
黒雲を貫く勢いだ。確かに、絶大な威力だとは推測出来る。けれども、当たったのは、渓谷を流れている何の変哲もない水だぞ? そこまで効くのか?
「水の性質を、瞑想場にある水と同等の物に変化させましたからね。時の穢れに侵されている不死鳥にとって、唯一の弱点と言えるでしょう」
「そ、そんな事まで……」
「ええ。そして、次に雨を降らせれば、私はどこからでも魔法を放つ事が可能になります」
「え? それじゃあ、まさか……」
私は、ウンディーネ様は自身を水に溶け込ませて、最初に放った水魔法に侵入し、更にそこから魔法を放てると予想していた。
しかしウンディーネ様の言い方だと、私の予想を悪い方向へ遥かに上回り、より絶望色が濃くなってくるのだが……。
「はい。私は少量の水さえあれば、そこから魔法を放てます」
「やっぱり! じゃあ、私と戦ってた時に、水の中に溶け込んでいたのは……」
「あれは、私が絶対的優位に立つ為に、ただ隠れていただけです」
私の予想を全て打ち砕き、妖しく笑うウンディーネ様。……眩暈がする事実だ。もしあの時、ウンディーネ様が最初から冷静でいたら、私は十秒も持たなかったんじゃないか?
靴底が瞑想場の水に触れていたし……。ウンディーネ様が判断を誤り、戦い方の順序を間違え続けてくれたお陰で、私はなんとか辛勝出来たに過ぎない。もし、また戦う機会があったら、私は絶対に勝てないだろうな。
「なんだか、予想が間違っていたっていう顔をしていますね」
「ゔっ……!」
図星を的確に突かれ、肩を大きく波立たせる私。
「いいんですよ? また私と戦ってくれても。ですが次は、最初から本気を出させて頂きます」
「お断りします」
「ふふっ、ですよね」
おしとやかで柔らかな苦笑いを浮かべているけども。この人、私との再戦を諦めていないな……?
「さて、冗談はここまでにしておきましょう。準備の仕上げに入ります」
あまり冗談に聞こえなく、少々残念そうにしているウンディーネ様が、雄々しい紺碧の三叉槍を空へかざす。
『慈雨』
詠唱を省いた呪文名を唱えた声は、あまりにも慈悲深く、心が澄み渡るほどに穏やかで。思わず、地に片膝を付けたくなるような尊さがあり。
そのたおやかな声を全て拒絶するかの如く、空から強烈な断末魔が木霊し。瞬いていた赤い光が弱々しくなっていく。
そして、淑やかな大粒の雨が降ってくると。黒雲が力を無くしたかのように点々と穴が開き始め、神々しい光芒が差し出し、衰弱した大地を照らしていった。
「すごいな……」
私とアルビスでは、手の施しようが無かったというのに。ウンディーネ様は、たった一つの命令と呪文だけで、最悪な戦況を覆してしまった。……これが、大精霊様の力。ただただ圧倒的だ。
しばらくすると、断末魔がか細くなっていき。大地を照らす光芒の数が増え、空を隠していた黒雲が晴れていく。
その黒雲が霧散した先、天気雨を降らせている青空の高高度。首を大きく左右に動かさなければ、全体像が拝めない巨大過ぎる魔法陣が浮かんでいた。ここから距離が相当離れているようで、薄っすらと霞がかかっている。
「なんて大きさなんだ……、規模が違い過ぎる」
「水流は、ずいぶんと天高くまで昇り、拡散してくれたようですね。お陰で、渓谷地帯全域の穢れを払えそうです」
「という事は……。さっきの水流は、あんなに高くまで昇って―――」
腑抜けた相槌を打っている最中。煌く雫が降り注いでいる青空が、一瞬だけ白く瞬いた。今の光は、私の『奥の手』が発動した合図だ。
……そうか。やはりお前達も、大変な思いをしていたんだな。
「……すまなかった、渓谷地帯、空。お前達の置かれてる立場を考えずに、何度も催促してしまって」
湿った声で謝ると、空達は許してくれたのか。もう一度だけ白く瞬いてくれた。その傍らで、隣から流れてきた、静かに鼻を鳴らしたような音。
「さて。これでアカシックさんが、私よりも強くなりました。もう少ししたら、ちゃんと働いてもらいますからね」
「はぇっ? わ、私が……、ウンディーネ様、よりも……?」
突拍子もない虚言に、私の視野が限界まで見開き、顔をぎこちなくウンディーネ様へ向けてみれば。あの人は、口元を右手で覆い隠し、やや無邪気気味に微笑んでいた。
「ええ。アカシックさんの『奥の手』は、常軌を逸していますからね。特に、魔法制限。火の大精霊には、火属性魔法の制限を。風の大精霊には、風魔法の制限を。他にも、土、氷、闇、光。これだけは、各大精霊に絶大な効果を発揮します。制限された時点で、私達はお手上げ状態。降参せざるを得なくなります」
口にしていい情報なのかと、困惑が隠せないでいる中。ウンディーネ様は、口元を隠していた手を下げ、左腕を握る。
「ですので。もし、他の大精霊達と出会い、交戦状態になった場合。真っ先に『奥の手』を使用して下さい。必ずですよ? 先手を打たれたら、万が一にでもアカシックさんの勝ちは無くなります。肝に銘じておいて下さい」
とんでもない事を口走ったウンディーネ様が、今度はワンパクそうに笑った。これは、いずれ大精霊様方と鉢合わせて戦う事になるから、『奥の手』を必ず使えという、ウンディーネ様からの警告だ。
……まるで意図が掴めない。なぜ大精霊様方は、ただの一般人である私と出会おうとしているのか。
質問してみたいけど……、今はやめておこう。きっと、聞いても開示出来ない情報だと、はぐらかされるのがオチだ。
「い、色々と気になりますが……、分かりました。気を付けます」
「特に、土と氷の大精霊は喧嘩っ早いですからね。先に魔法壁を張っておく事をオススメしておきます」
「あっ……、はぁ」
まさか、ウンディーネ様から情報を開示してくれるとは……。口振りから察するに、最低でも土と氷の大精霊様と戦う事は確定したようなもの。
私の知らない場所で、何かが動いている。そして、近い未来に始まろうとしているのは確かだ。……やはり気になるから、無理も承知で、後日ウンディーネ様に聞いてみよう。
「さて、お喋りはここまでです。そろそろ不死鳥が姿を現すと思いますので、臨戦態勢に入って下さい」
「む」
緊張が走る再戦の知らせに、すぐさま空を仰ぎ、『慈雨』が降り注ぐ碧天を見渡してみれば。碧天には場違いで、陽炎の様な揺らめきを怪しく昇らせている、歪な球状の黒い何かを視界に捉えた。
たぶん、黒雲があそこまで収縮したのだろう。きっと、あの中に不死鳥が潜んでいる。それなりに厚そうだから、『慈雨』から身を守る魔法壁の役割を果たしていそうだ。
それなりに距離が離れているけど、『奥の手』が発動した今、私の攻撃は『渓谷地帯』全域に届く。もう、どこにも逃がさない。
「アルビスさん。準備の方は、いかがでしょうか?」
「後、二、三分少々頂ければ、いつでも発動出来ます」
「分かりました。それでは、アカシックさん」
「は、はい」
不意に呼ばれたので、慌てて顔を移してみると。私に顔を合わせていたウンディーネ様は、普段通りのおしとやかで清楚な表情をしているも。
紅色の瞳には、後退りしたくなるような闘志を滾らせていて、既に戦闘態勢へと入っていた。
「アカシックさんの好きなように、反撃の狼煙を上げちゃって下さい」
「……いいんですか?」
「はい。黒雲ごと凍らせるのもよし。激流で吹き飛ばすのもよし。烈風で黒雲を剥がすのもよしです。さあ、どうぞ」
そう物騒な反撃の狼煙を羅列し、華奢な手を空へかざすウンディーネ様。これは、ウンディーネ様なりの配慮なのだろう。
「ありがとうございます。では」
ウンディーネ様に深く一礼し、体を球状の黒雲がある方へ戻す。そのまま両手を広げ、浅く息を吐いた。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる