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105話、脳筋を司る大精霊の妙案

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「行ってしまいましたか……。はぁ~っ……」

 これから一体どうすればいいのやら……。ピースさんの肉体が消滅している今、彼を生き返らせる事が出来るのは、世界各地に散らばっている大精霊達と契約を結んだ後。
 『時の墓場』へ行き、行方不明になっている時の大精霊様の代わりを務めている、無の大精霊『フォスグリア』様の試練を突破し、『無の魔法』と『時の魔法』を習得する他無いというのに。
 本来であれば、アカシックさんと出会うのは、当分先の予定でした。今日出会ってしまったのは、単なる私の不注意及び警戒不足のせい。アルビスさんの不注意を濁すべく、私が嘘を付いたのが全ての始まりでしたね。

『――――――ネ様』

 故に焦ってしまい、支離滅裂に話を進めてしまって……。結果、皆様方に多大なるご迷惑をお掛けしてしまいました。
 今思えば、アルビスさんがアカシックさんの気配に気付いた時、私は姿を消していればよかったですね。

『―――ディーネ様っ』

 それに何ですか、先の一連の流れは? 振り返らずとも、何もかもがずさんで酷過ぎる。大精霊にとって、あるまじき行為の数々。だから二度も、アカシックさんに呆れられてしまった。

『ウンディーネ様っ!』

 私も意固地にならず、機会をうかがって一旦引き下がるべきでしたね。アルビスさんを手に掛けようとした時点で、もう何もかもがおかしくなっていました。
 ああ……。今から『フォスグリア』様の元へ行き、時を巻き戻してもらいたい気分です。アカシックさんと出会ってしまう、数分前に―――。

『脳筋を司る大精霊様ーーーーっっ!!』

「ひゃうっ!?」

 脳の許容を超えた咆哮紛いな『伝心でんしん』に、全身にビリビリとした激しい衝撃が走る私。
 ビックリした、ビックリした! もし分身体だったら、体が弾け飛んでいたかもしれない威力でした。それに―――。

『ちょ、ちょっと! 一体何なんですか、脳筋を司る大精霊って!? 流石に失礼だと思いますよ!?』

『脳筋もいい所じゃないですか! なんですか、先の雑が極まったやり取りは!? 誰が見たって怒りますよ!』

『あっ……。もしかして、見ていらっしゃったの、ですか?』

『一部始終、瞬きもせずに見ていましたっ!』

 ……まずい。焦りが先行してしまい、見られていたのを、すっかりと忘れていました。そういえば、アカシックさんと出会ってしまった時から、ずっと羨ましそうに叫ばれていましたね。

『す、すみません。私が不器用なばっかりに……』

『本当ですよ! いきなり、やれ戦えだの。アルビスさんを殺すだの。『水の瞑想場』に移動しては、秘奥義の『水天楼すいてんろう』を展開し。禁断の召喚魔法まで放とうとする始末! 仕舞いには、アカシックさんを瀕死にまで追い込んで!』

 『水天楼すいてんろう』。アカシックさんが“気まぐれな中立者”を召喚した後、私が展開した秘奥義。
 あそこで私が本気を出していれば、アカシックさんを倒すのに二秒も掛からなかったでしょう。

『あ、あの、ほらっ! あの時は、実力の一割も出していなかったので……』

『知っていますよ! もし出していたら、この世で勝てる人が居なくなってしまいますからね! それに私、聞き逃しませんでしたよ? ウンディーネ様が、アカシックさんの魔法壁を二枚貫いた時、思わず漏れ出したであろう「あっ……」という言葉を』

『そ、それまで聞いていたのですか……?』

『もちろんです。あと、アカシックさんが吹き飛ばされた時もそうです。あの時、分身体に紛れて自ら助けに行っていましたよね? そして、アカシックさんが自力で治療をしだしたので、慌てて水天楼の中へ逃げ―――』

『わ、わっ! も、もういいでしょう!? 申し訳ございません! 私が全て悪いのです……。もう、ご勘弁を……』

『ご勘弁しません! これからどうするのですか? ウンディーネ様のせいで、アカシックさんの大事な夢が潰えてしまったのですよ?』

『あ、あうぅ~……』

 そう。ピースさんを生き返らせるという、たった一つの術しかない道を、不器用な私が閉ざしてしまった。一応、蘇生魔法はいくつか存在します。ですが、ほとんどは肉体が無いと蘇生は不可能。
 ピースさんを生き返らせる唯一の方法は、『時の魔法』をピースさんの魂に使用して、肉体が存在していた時まで時間を巻き戻すのみ。
 そのうえ『時の魔法』を習得するには、世界へ旅立つのが大前提。なのに対し、愚かなる私がアカシックさんを説得するのに失敗してしまい、ピースさんを生き返らせるというアカシックさんの夢を、潰えさせてしまったのですから……。

『うう~っ……。これからぁ、一体どうしましょう~……? ……あれ? ちょっと待って下さい』

 『時の魔法』を習得する方法。それは、火、水、風、土、氷、闇、光の大精霊の試練を突破、それか認められ、『最上級のマナの結晶体』を受け取り、契約を交わす。これは、最低限やらなければならない事。
 そして私は、迫害の地でアカシックさんと契約を交わした。つまり、ここは逆転の発想。アカシックさんが大精霊達の元へ行かないのであれば、私達自らがアカシックさんに会いに行けばいいのでは?

『……フッ、ウフフッ……。ウフフフフフフ』

『う、ウンディーネ様? 急にどうなされたのですか? 表情が、そことなくいやらしいものになっておりますが……』

『そうですっ!!』

『ひゃっ!? び、ビックリしたぁ……! どうなされたのですか、急に』

『妙案を思い付いたのですよ。アカシックさんの夢を成就させる事が出来る、妙案をですね』

『本当ですか!? それは一体、どういった妙案でしょうか?』

『簡単な話です。先ほど私は、アカシックさんと契約を交わしましたよね?』

『はい。多大なるご迷惑をお掛けしたお詫びとして、していましたね』

『そう。この地で、契約を交わしましたよね?』

『そうですね。迫害の地で……』

 途中で伝心が途切れた所を察するに、私の目論見に感付いたご様子ですね。こちら側に来てから日は浅いものの、彼女がとても勤勉な事は知っています。事の重大さも、同時に気付いたでしょう。

『ウンディーネ様、もしかして……?』

『そうです。全員この地へ呼び、アカシックさんと契約を交わしてもらいます』

『やっぱり! 大丈夫なのですか、その案?』

『全然大丈夫ではありません、前代未聞の大問題です。ですが、アカシックさんの夢を成就させる為には、もうこの方法しかないのです。ほら、元々この地には『シャドウ』さんが住んでいますし。『イフリート』さんも、火山地帯を安息の地にしていますしね。あとは『シルフ』さん、『ノーム』さん、『フラウ』さんに話を付けるだけです』

『た、確かに……。なんなら『フラウ』様と『シルフ』様も、稀にその地へ訪れていますしね。ですがウンディーネ様、『レム』様はどうなされるのですか?』

『その質問をしてくるという事は、アカシックさんについて、まだ全ては聞かされていないのですか?』

『はい、まだでございます』

 となると、教会で過ごしていた頃の話は、まだされていない様ですね。なら、丁度いい。アカシックさんの過去を語ってあげるついでに、出会う機会も作ってあげましょう。

『なるほどです。では、『レム』さんについてはご安心下さい。アカシックさんはもう、過去に『光の試練』を突破しています』

『えっ!? そうなのですか?』

『実は、そうなのですよ。ですが、契約はまだ交わしていません。だから“エリィ”さん。時が来たら、その瞬間に限り『大精霊権限』をあなたに与えます。ですのでアカシックさんとの契約は、あなたにお任せます』

『私がですかっ!? ……え、ちょっと待って下さい? それって、つまりっ……!』

『はい。『レム』さんには、私から話を付けておきます。流れをまとめて説明致しますので、後日そちらへ向かいますね』

 そう説明しようとも、エリィさんからの伝心は無し。数秒して理解が追いついたのか。返ってきたのは、息を大きく呑む音だった。

『……ありがとうございます、ウンディーネ様っ!! やったーっ! ようやくアカシックさんと逢えるのですねっ!』

『まだ、当分先ですがね。必ずや逢わせてあげますので、楽しみにしていて下さい』

『はいっ! 分かりました! 本当にありがとうございます、ウンディーネ様!』

 この弾けた喜びよう、思わず私も感化されてしまいそうです。ですが、無理もありませんね。本来であれば、逢える機会は二度と無かったのですから。
 さてと、ここからが大変ですね。やる事があまりにも多すぎます。ですがその前に、アカシックさんの生涯を、エリィさんに教えてあげないと。
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