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96話、夢を追い求め、夢に縛られた者
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「アカシックさんは、世界を旅した事はありますか?」
「旅ですか? いいえ、ありません」
世界を旅。旅はおろか、『タート領』と『迫害の地』以外の大地を踏んだ事すらない。世界各国の名前はなんとなく知っているけども、それは地図から得た知識。
情勢や人口、国の成り立ちといった細かな部分は学んでいないので、私にとってこの世界のほぼ全てが、未知なる領域だ。
「なら、旅をしてみたらどうでしょう?」
「私が、ですか?」
「はい。アカシックさんにとって、迫害の地はあまりにも狭すぎます。世界を股にかけ、視野を広めてみたらどうでしょうか?」
唐突に提案してきたウンディーネ様が、慈愛に満ちた眼差しを私に向けて来た。あまりにも突拍子もない提案だが、きっと何か深い意味があるのだろう。
が、旅なんて今の私には出来ない提案だ。世界を旅するという事は、迫害の地を離れなければならない。つまりそれは、アルビスとの別れを意味する。
私には、現在三つの夢がある。ピースを生き返らせる事。サニーを幸せにしてあげる事。そしてもう一つは、アルビスが平和な日常を送れるよう、全面的に協力して、約五百年分の幸せを与える事。
最後の一つは本人にも明かしていないし、明かすつもりもない。私が勝手に決めた夢だ。ピースとサニーの夢については、旅をしながらでも出来るだろう。
しかし、アルビスと共に旅をするのは不可能だ。過去の話から推測するに、アルビスの安住の地は、ここ『迫害の地』だけ。残りの大地に、あいつが安らげる場所は存在しない。
だからこそ、私は迫害の地を離れる訳にはいかないんだ。アルビスの夢が叶えられなくなってしまう。それだけは絶対に嫌だ。
「すみません、ウンディーネ様……。それは、出来ないご相談です」
「なぜなんでしょうか?」
やはり、理由を知りたがるだろう。ウンディーネ様は、たぶんアルビスと親交があるお方だ。なら、アルビスの過去の経緯もそれなりに知っているはず。
「私には、三つの夢があります」
「三つの夢。はい、それで?」
「それでなんですが……。これから話す事については、内密にしてほしいんです」
「なるほど、分かりました」
即答とはな。けど、絶対の信頼感がある即答だ。約束してくれたウンディーネ様に、軽くを頭を下げ、すぐに上げる。
「ありがとうございます。では、三つある夢の内の一つは、アルビスの事についてなんです」
「アルビスさん? はい」
「ウンディーネ様は、アルビスの過去についてはご存知でしょうか?」
「申し訳ありませんが、それについて答える事は出来かねます」
これも即答。答える事が出来かねるという事は、知っているけども答えられないと捉えるべきだな。
「分かりました。それでは、簡潔に言ってしまいます。アルビスについての夢。それは、あいつが平和な日常を過ごせるよう、私が影から全面的に協力して、約五百年分の幸せを与える事です」
夢の内容を明かすも、ウンディーネ様からの返答は無い。けれども、表情は真剣そのもの。ここは、話を続けてしまおう。
「私は、アルビスの五十年間を奪う行為を、これまでし続けてきました」
「はい、存じております」
三度目の即答に、視野が限界以上に広まった。
「し、知ってたん、ですか?」
口を閉ざしたままのウンディーネ様が、分かりやすくゆっくりと頷く。……どういう事だ? ウンディーネ様は一体、私をどこまで知っていて、いつから見守ってくれていたんだ?
少なくとも五十年以上も前から、ウンディーネ様は私という存在を認めている事になる。聞いてみたいけども、話が逸れてしまう。ここは我慢して、アルビスの夢について―――。
「アカシックさんの事については、大体の事を知っているつもりですよ」
私の思考を遮ったウンディーネ様の言葉に、全身が殴打された様な衝撃が走り、その衝撃で強張った肩が、意に反してストンと落ちた。
「半生ほどは耳から聞き。残りの半生は、しかと目で見ていました」
「あ、あの、いやっ……、はあ……」
もう駄目だ。頭が混乱し過ぎて、状況の整理が追いつかない。私のこれまでを、昨日までの一生を、ウンディーネ様は見てきただなんて……。耳から聞いたという事は、それを教えた人がいるはずだ。
けど、今それを聞いたところで、ほぼ無意味だ。万が一にウンディーネ様が答えてくれたとしても、十中八九、私が知らない人物の名前が出てくるだろう。気になる情報が更に増えてしまう。
もう、これ以上の新しい情報は欲しくない。知りたい欲求が抑えられなくなる。語る口が欲求に染まり切る前に、まずはアルビスの夢についてをだ。
「私の欲求が抑えられなくなる前に、一旦っ、話を戻しますっ」
「まあ、意思がお強いですね。どうぞ」
そう華やかに声を弾ませ、妖々しく微笑むウンディーネ様。もしかしてウンディーネ様は、私を試している? 試している内容は、たぶん私が語ろうとしている夢の強さについて。
唐突に、私を魅惑させる話題を振り、話を故意に逸らそうとしているのが、いい証拠だとも取れる。理由は分からないけども、ひとまず語ってしまおう。
「私は、アルビスの過去について断片的に知ってるつもりです。あいつは迫害の地に来る前からも、常に追われ身で、心が安らぐ時間がほとんど無かったそうなんです」
語り始めると、ウンディーネ様は頷きで無言の相槌を打った。
「その期間、おおよそ四百五十年以上。私が奪ってしまった五十年を足すと、五百年以上になります。追われてた理由は、たぶん、私が襲ってた理由と同じでしょう」
私がアルビスを襲い続けていた理由。それは、ブラックドラゴンの希少な部位欲しさにだ。ブラックドラゴンの部位さえあれば、ピースを生き返らせる事が出来るかもしれない。
そんな、まるで確証が無い理由で、アルビスを襲い続けていたんだ。今思うと、あまりにも愚行で、浅はかで、私利私欲にまみれた救いようのない理由だ。
「アカシックさんは、どうしてアルビスさんを襲い続けていたんですか?」
「ブラックドラゴンの部位欲しさにです。とにかくあいつの部位さえあれば、私の夢の一つが叶えられるかもしれないと思ってました」
「それは、ピースさんの事についてですか?」
やはりウンディーネ様は、ピースについても知っているか。事前に、私の事を大体知っていると情報を得られたので、なんとか狼狽えずに済めた。
もし先に、ウンディーネ様の口からピースの名前が出ていた場合。私は酷く動揺して、思考を放棄して質問攻めを始めていただろう。
「そうです。もしかしたらピースを生き返らせる事が出来るかもしれないという、確証が無い曖昧な希望にすがり続け、アルビスの部位欲しさに襲ってました」
「そうですか。なら、アルビスさんが平和な日常を送れるよう、影から全面的に協力をするというのは、罪滅ぼしの為ですか?」
「む……」
かなり鋭利な棘のあるお言葉だ。傍から見ると、そう思われるのも無理はない。けれども、私のこの想いは、決して罪滅ぼしの為ではない。
この夢は、私が自分を魔女だと自覚した、幼少期の頃。『私達と同じような立場に居る人達を、光属性の魔法や私が作った薬で少しでも癒してあげて、幸せにしてあげたい』という決心からくる想いだ。
「それは違います」
そうキッパリ断言すると、ウンディーネ様の表情が、何か勘繰る様な凍てつきが宿った。
「では、どういった事で?」
「説明するとなると、私の生い立ちから始めなければなりませんが、よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
慣れてきた即答に、頭を浅く下げ、すぐに上げる私。
「ありがとうございます。私は、神父様の『レムさん』に拾われた孤児です。それで、私が自分を魔女だと自覚した頃、一つの決心をしたんです」
「確か、自分達と同じ立場に居る人達を、少しでも幸せにしてあげたいとかでしたっけ?」
私の決心までも知っている。まさか、大精霊様方に私の存在を教えたのは、ピースじゃないだろうな? そう思ってしまう程に、私の事をよく知っているじゃないか。
「そうです。その決心からくる想いで、アルビスが平和な日常を送れるよう協力し、幸せにしてあげたいんです。決して、罪滅ぼしの為ではありません」
とは言ったものの……。少なからず、その気持ちはあるかもしれない。どう足掻こうとも、アルビスから奪ってしまった五十年間という月日は、取り戻す事は出来ないのだから。
それに、私はまだその事を引きずっている。重い罪悪感だって残っているさ。でも、私はその罪悪感から目を絶対に背けない。むしろ向き合うべき罪悪感だ。
私が同じ過ちを二度と犯さぬよう、心に永遠と刻んでおくべき罪悪感なんだ。ちゃんとした真意を伝えてから、数秒後。ウンディーネ様は小さく頷き、表情をほころばせた。
「アカシックさんの夢については分かりました。では、今度は私が質問をします」
「は、はい」
「その夢とやらを邪魔する者が現れた場合、アカシックさんならどうしますか?」
「夢を邪魔する者、ですか?」
「そうです。例えば、アルビスさんの命を奪おうとする者が現れたら、どうします?」
どうするも何も、倒すに決まっているじゃないか。なんの為にアルビスの命を奪おうとするのか、理由をしかと聞いてからな。
「理由を聞いてから倒します」
「へえ、倒すですか。ずいぶんと呑気ですね。アルビスさんが死んでしまうかもしれないんですよ? 殺さなくてよろしいんですか?」
避けていた表現なのに、わざわざ言い直させようと煽ってきている? まさか、ウンディーネ様の口から殺すという単語が出てくるだなんて……。
しかも、今までのおしとやかで清楚な印象が一気に台無しになってしまうほど、乱暴かつ鼻につく語り口だった。これも私を試しているのだろうか?
どう言えば正解なのか分からないけども、いきなり殺すのだけは駄目だ。とにかく理由が知りたい。アルビスの命を狙う理由を。殺すか生かすかは、その後に決める。
「いきなりは殺しません。アルビスの命を狙ってる理由を聞き次第、殺すか判断します」
「そいつが、話が通じない相手だったらどうするつもりだ?」
ウンディーネ様の口調が更に荒々しく、厳しいものになった。だが、ここで怖気づいてはいけない。話が通じないという条件なのであれば、答えは一つのみ。
「その場合、すぐに殺します」
「よろしい。なら、それを踏まえた上で質問を続ける。その話が通じない相手が、もし私だった場合、お前はどうする?」
「……え?」
「旅ですか? いいえ、ありません」
世界を旅。旅はおろか、『タート領』と『迫害の地』以外の大地を踏んだ事すらない。世界各国の名前はなんとなく知っているけども、それは地図から得た知識。
情勢や人口、国の成り立ちといった細かな部分は学んでいないので、私にとってこの世界のほぼ全てが、未知なる領域だ。
「なら、旅をしてみたらどうでしょう?」
「私が、ですか?」
「はい。アカシックさんにとって、迫害の地はあまりにも狭すぎます。世界を股にかけ、視野を広めてみたらどうでしょうか?」
唐突に提案してきたウンディーネ様が、慈愛に満ちた眼差しを私に向けて来た。あまりにも突拍子もない提案だが、きっと何か深い意味があるのだろう。
が、旅なんて今の私には出来ない提案だ。世界を旅するという事は、迫害の地を離れなければならない。つまりそれは、アルビスとの別れを意味する。
私には、現在三つの夢がある。ピースを生き返らせる事。サニーを幸せにしてあげる事。そしてもう一つは、アルビスが平和な日常を送れるよう、全面的に協力して、約五百年分の幸せを与える事。
最後の一つは本人にも明かしていないし、明かすつもりもない。私が勝手に決めた夢だ。ピースとサニーの夢については、旅をしながらでも出来るだろう。
しかし、アルビスと共に旅をするのは不可能だ。過去の話から推測するに、アルビスの安住の地は、ここ『迫害の地』だけ。残りの大地に、あいつが安らげる場所は存在しない。
だからこそ、私は迫害の地を離れる訳にはいかないんだ。アルビスの夢が叶えられなくなってしまう。それだけは絶対に嫌だ。
「すみません、ウンディーネ様……。それは、出来ないご相談です」
「なぜなんでしょうか?」
やはり、理由を知りたがるだろう。ウンディーネ様は、たぶんアルビスと親交があるお方だ。なら、アルビスの過去の経緯もそれなりに知っているはず。
「私には、三つの夢があります」
「三つの夢。はい、それで?」
「それでなんですが……。これから話す事については、内密にしてほしいんです」
「なるほど、分かりました」
即答とはな。けど、絶対の信頼感がある即答だ。約束してくれたウンディーネ様に、軽くを頭を下げ、すぐに上げる。
「ありがとうございます。では、三つある夢の内の一つは、アルビスの事についてなんです」
「アルビスさん? はい」
「ウンディーネ様は、アルビスの過去についてはご存知でしょうか?」
「申し訳ありませんが、それについて答える事は出来かねます」
これも即答。答える事が出来かねるという事は、知っているけども答えられないと捉えるべきだな。
「分かりました。それでは、簡潔に言ってしまいます。アルビスについての夢。それは、あいつが平和な日常を過ごせるよう、私が影から全面的に協力して、約五百年分の幸せを与える事です」
夢の内容を明かすも、ウンディーネ様からの返答は無い。けれども、表情は真剣そのもの。ここは、話を続けてしまおう。
「私は、アルビスの五十年間を奪う行為を、これまでし続けてきました」
「はい、存じております」
三度目の即答に、視野が限界以上に広まった。
「し、知ってたん、ですか?」
口を閉ざしたままのウンディーネ様が、分かりやすくゆっくりと頷く。……どういう事だ? ウンディーネ様は一体、私をどこまで知っていて、いつから見守ってくれていたんだ?
少なくとも五十年以上も前から、ウンディーネ様は私という存在を認めている事になる。聞いてみたいけども、話が逸れてしまう。ここは我慢して、アルビスの夢について―――。
「アカシックさんの事については、大体の事を知っているつもりですよ」
私の思考を遮ったウンディーネ様の言葉に、全身が殴打された様な衝撃が走り、その衝撃で強張った肩が、意に反してストンと落ちた。
「半生ほどは耳から聞き。残りの半生は、しかと目で見ていました」
「あ、あの、いやっ……、はあ……」
もう駄目だ。頭が混乱し過ぎて、状況の整理が追いつかない。私のこれまでを、昨日までの一生を、ウンディーネ様は見てきただなんて……。耳から聞いたという事は、それを教えた人がいるはずだ。
けど、今それを聞いたところで、ほぼ無意味だ。万が一にウンディーネ様が答えてくれたとしても、十中八九、私が知らない人物の名前が出てくるだろう。気になる情報が更に増えてしまう。
もう、これ以上の新しい情報は欲しくない。知りたい欲求が抑えられなくなる。語る口が欲求に染まり切る前に、まずはアルビスの夢についてをだ。
「私の欲求が抑えられなくなる前に、一旦っ、話を戻しますっ」
「まあ、意思がお強いですね。どうぞ」
そう華やかに声を弾ませ、妖々しく微笑むウンディーネ様。もしかしてウンディーネ様は、私を試している? 試している内容は、たぶん私が語ろうとしている夢の強さについて。
唐突に、私を魅惑させる話題を振り、話を故意に逸らそうとしているのが、いい証拠だとも取れる。理由は分からないけども、ひとまず語ってしまおう。
「私は、アルビスの過去について断片的に知ってるつもりです。あいつは迫害の地に来る前からも、常に追われ身で、心が安らぐ時間がほとんど無かったそうなんです」
語り始めると、ウンディーネ様は頷きで無言の相槌を打った。
「その期間、おおよそ四百五十年以上。私が奪ってしまった五十年を足すと、五百年以上になります。追われてた理由は、たぶん、私が襲ってた理由と同じでしょう」
私がアルビスを襲い続けていた理由。それは、ブラックドラゴンの希少な部位欲しさにだ。ブラックドラゴンの部位さえあれば、ピースを生き返らせる事が出来るかもしれない。
そんな、まるで確証が無い理由で、アルビスを襲い続けていたんだ。今思うと、あまりにも愚行で、浅はかで、私利私欲にまみれた救いようのない理由だ。
「アカシックさんは、どうしてアルビスさんを襲い続けていたんですか?」
「ブラックドラゴンの部位欲しさにです。とにかくあいつの部位さえあれば、私の夢の一つが叶えられるかもしれないと思ってました」
「それは、ピースさんの事についてですか?」
やはりウンディーネ様は、ピースについても知っているか。事前に、私の事を大体知っていると情報を得られたので、なんとか狼狽えずに済めた。
もし先に、ウンディーネ様の口からピースの名前が出ていた場合。私は酷く動揺して、思考を放棄して質問攻めを始めていただろう。
「そうです。もしかしたらピースを生き返らせる事が出来るかもしれないという、確証が無い曖昧な希望にすがり続け、アルビスの部位欲しさに襲ってました」
「そうですか。なら、アルビスさんが平和な日常を送れるよう、影から全面的に協力をするというのは、罪滅ぼしの為ですか?」
「む……」
かなり鋭利な棘のあるお言葉だ。傍から見ると、そう思われるのも無理はない。けれども、私のこの想いは、決して罪滅ぼしの為ではない。
この夢は、私が自分を魔女だと自覚した、幼少期の頃。『私達と同じような立場に居る人達を、光属性の魔法や私が作った薬で少しでも癒してあげて、幸せにしてあげたい』という決心からくる想いだ。
「それは違います」
そうキッパリ断言すると、ウンディーネ様の表情が、何か勘繰る様な凍てつきが宿った。
「では、どういった事で?」
「説明するとなると、私の生い立ちから始めなければなりませんが、よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
慣れてきた即答に、頭を浅く下げ、すぐに上げる私。
「ありがとうございます。私は、神父様の『レムさん』に拾われた孤児です。それで、私が自分を魔女だと自覚した頃、一つの決心をしたんです」
「確か、自分達と同じ立場に居る人達を、少しでも幸せにしてあげたいとかでしたっけ?」
私の決心までも知っている。まさか、大精霊様方に私の存在を教えたのは、ピースじゃないだろうな? そう思ってしまう程に、私の事をよく知っているじゃないか。
「そうです。その決心からくる想いで、アルビスが平和な日常を送れるよう協力し、幸せにしてあげたいんです。決して、罪滅ぼしの為ではありません」
とは言ったものの……。少なからず、その気持ちはあるかもしれない。どう足掻こうとも、アルビスから奪ってしまった五十年間という月日は、取り戻す事は出来ないのだから。
それに、私はまだその事を引きずっている。重い罪悪感だって残っているさ。でも、私はその罪悪感から目を絶対に背けない。むしろ向き合うべき罪悪感だ。
私が同じ過ちを二度と犯さぬよう、心に永遠と刻んでおくべき罪悪感なんだ。ちゃんとした真意を伝えてから、数秒後。ウンディーネ様は小さく頷き、表情をほころばせた。
「アカシックさんの夢については分かりました。では、今度は私が質問をします」
「は、はい」
「その夢とやらを邪魔する者が現れた場合、アカシックさんならどうしますか?」
「夢を邪魔する者、ですか?」
「そうです。例えば、アルビスさんの命を奪おうとする者が現れたら、どうします?」
どうするも何も、倒すに決まっているじゃないか。なんの為にアルビスの命を奪おうとするのか、理由をしかと聞いてからな。
「理由を聞いてから倒します」
「へえ、倒すですか。ずいぶんと呑気ですね。アルビスさんが死んでしまうかもしれないんですよ? 殺さなくてよろしいんですか?」
避けていた表現なのに、わざわざ言い直させようと煽ってきている? まさか、ウンディーネ様の口から殺すという単語が出てくるだなんて……。
しかも、今までのおしとやかで清楚な印象が一気に台無しになってしまうほど、乱暴かつ鼻につく語り口だった。これも私を試しているのだろうか?
どう言えば正解なのか分からないけども、いきなり殺すのだけは駄目だ。とにかく理由が知りたい。アルビスの命を狙う理由を。殺すか生かすかは、その後に決める。
「いきなりは殺しません。アルビスの命を狙ってる理由を聞き次第、殺すか判断します」
「そいつが、話が通じない相手だったらどうするつもりだ?」
ウンディーネ様の口調が更に荒々しく、厳しいものになった。だが、ここで怖気づいてはいけない。話が通じないという条件なのであれば、答えは一つのみ。
「その場合、すぐに殺します」
「よろしい。なら、それを踏まえた上で質問を続ける。その話が通じない相手が、もし私だった場合、お前はどうする?」
「……え?」
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