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81話、種明かしを含めた反省会
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アルビスが本当の魔王になる前に、私がなんとかなだめた後。
何も知らないファートのせいで、全ての経緯を分かってしまったサニーによる、なんとも空気が重い反省会が始まった。
私だけが立っている中。様子が変だと悟り、途中から加わったヴェルイン。見るからに酷く落ち込んでいるアルビスは、地面に正座をしていて。
サニーは、プリプリと怒りながら頬をプクッと膨らませていて、腰に手を当てつつアルビスの事を睨み付けている。
「アルビスさんっ! お母さんを傷付けて一体どういうつもりなのっ!?」
「……違うんだ小娘、聞いてくれ……」
普段は堂々とした態度で喋っているあのアルビスが、そよ風に飛ばされていきそうなほどか細い声で、ボソボソと喋っている。目を瞑って聞いてみたら、もはや誰の声か分からない。
「なにが違うのっ!?」
「……アガジッグ・ブァーズドレディ……、だずげでぐれぇ……」
口から出た途端に消えてしまいそうなアルビスの声が、とうとう涙声になった。泣くのを我慢しているのか、全身が小刻みに震えている。
そりゃそうだ。二十日間も掛けて練った設定を、満を持して披露するも、ほんの二分足らずの惨劇で水の泡と化してしまったのだから。
その惨劇を起こしたファートは、アルビスの隣でずっと土下座をしていて、「申し訳ございません」と高速で詫び続けている。
「サニー、アルビスは私を傷付けてなんかないぞ」
「嘘だよっ! だって、着てる服が焦げててボロボロになってるじゃんか!」
「これはさっきファートが言った通り、変身魔法でボロボロに見せてるだけだ。アルビス、私にかけた変身魔法を解いてくれ」
サニーの誤解を解くべく、アルビスに指示を出してみれば。アルビスは俯いたまま私に指を差してきて、何を言ってるのか分からない声で何かを唱え出した。
すると、アルビスの心境が移っているのか。やたらと儚い白色の魔法陣が、私の足元に出現。瞬くように輝き出すと、光の輪が風を巻き込みながら昇っていき、光の粒子に変わって消えていった。
それを追っていた目線を私の体に移すと、ローブは最初から何事も無かったかのように、焦げた跡も綺麗さっぱり無くなっていた。
「本当だっ。いつも通りの服になっちゃった」
「な? 言った通りだろ?」
「で、でもっ! 顔中が真っ黒だよ、それは何なの!?」
「これはだな」
これさえ明かせば、サニーはアルビスの事を許してくれるだろう。確証を得つつ、私は両手の平で自分の顔を拭う。
手の平に灰が付着しているのを確認してから、私の手の平をサニーに見せてやった。
「ただの灰だ」
「灰?」
「そう。枯れ葉を焼いてできた黒い灰を、顔に塗りたくっただけだ。だから私は、アルビスに一切攻撃されてないし、傷も付けられていない」
ちゃんと傷付けられていない事も伝えると、サニーの小さな口がポカンと開き、怒り顔が真顔にすり替わっていった。よし、手応えありだ。サニーはちゃんと理解して、認め始めている。
だんだんと落ち着きを取り戻してきたサニーが、一旦アルビスの方へと向く。そして私に戻してきた顔は、色々と知りたがっている様な困り顔をしていた。
「じゃあ、なんでこんな事をしたの?」
穏やかな質問に対し、私はサニーの前にしゃがみ込み、腕を組む。
「それはな、アルビスは、お前を本当の勇者にしてあげようとしてたんだ」
「私を、勇者に?」
青い瞳をきょとんさせたサニーに対し、私は無言で深めに頷く。
「ここで暮らしてて、魔物が襲ってきた事なんてあったか?」
「あったよ。お母さんこの前、スライムさんに襲われてたじゃんか!」
「サニーちゃん。そのスライムってのは、俺だ」
「えっ?」
よもやという顔になったサニーが、話に割り込んできたヴェルインの方へ向く。
「黄土色のスライムの事を言ってんだろ? あれは、変身魔法で姿を変えた俺様だ」
「あのスライムさん、ヴェルインさんだったの!?」
本当に知らなかった様子のサニーに、人差し指と中指を立てて、成功と言わんばかりにニッと笑うヴェルイン。
「そっ。俺もアルビスと同様、サニーちゃんを勇者にしたくてやった訳よ。どうだ、俺の演技? 中々すごかっただろ?」
ヴェルインめ。本当は私のわがままを叶える為に、動いてくれたというのに。まさか、私まで匿ってくれるとは。後でお礼を言っておかないと。
「……うん。本物のスライムさんが、お母さんをイジメてたんだと思ってた」
「おっと……、演技でもごめんな。レディの上で、ぴょんぴょん飛び跳ねたりしちゃってよ」
申し訳なさそうに謝りを入れたヴェルインが、やや不貞腐れ気味になったサニーの頭を撫でる。
「あれは腰がいい具合に刺激されて、本当に気持ち良かった。またやってくれないか?」
「またかよ。ま、気が向いたらな」
曖昧な返事ながらも、しつこくお願いすれば、またやってくれるかもしれない。よし、明日にでも頼んでみよう。
「それじゃあサニー、一つの種を明かした所で話を戻すぞ」
話題を戻そうとすると、ヴェルインは頭を撫でていた前足をサニーの背中へ移し、導くようにサニーの体を私の方へ動かしていく。
サニーはと言うと、握っている両手をもじもじとさせていて、顔と視線は地面に落ちていた。
「ここで暮らしてて、魔物が襲ってきた事なんてあったか?」
同じ質問をすると、サニーは首を小さく横に振る。
「ううん、ない」
本当は一度だけある。あれは確か、サニーが初めて絵を描いた日の夕刻。
外に出ていたサニーが、蜂に似た大型の魔物に襲われそうになっていた所を、ヴェルインが助けてくれたんだ。
けれどもサニーは忘れているのか、そもそも襲われたと思っていないのか、その事を口にしようとはしない。ならば好都合だ。このまま話を続けてしまおう。
「だろ? ここは平和に満ちてる場所だ。このままここで暮らしてると、サニーは一生勇者になれないと思ったアルビスが、率先して行動してくれてたんだ。誰に言われた訳でもなく、私も知らない間に一人でな」
「お母さんも、知らなかったの?」
「ああ、今朝アルビスに言われて初めて知った。アルビスはすごいんだぞ? サニーを必ず勇者にしてあげる為に、二十日間も掛けて三十以上の設定を練ってたんだ。一部の設定だけ聞いたけれども、どれもよくサニーの事を一番に考えてて、綿密に練られた素晴らしい内容だった」
サニーを説得していると、弾んだ様にも聞こえるアルビスの咳払いが聞こえてきた。どうやら、ちゃっかりと聞いているようだ。
「じゃあ……。ボロボロだった服も、顔が灰だらけだったのも、アルビスさんの考えたものなの?」
「そうだ。場の雰囲気を、より現実味を持たせる為のものらしい。すっかり騙されてただろ?」
「……うん。最初はお母さんが死んじゃったかもしれないと思って、泣きそうになっちゃった……」
……しまった、かなりやり過ぎたようだ。状況が状況だし、真っ先にそう思うもの無理はない。
考慮は完璧だったけれども、相手に対する気持ちへの配慮が足りなかったな。
「サニー、そこはすまなかった。私も謝る。だけど、サニーに対するアルビスの想いは本物だ。だから、アルビスを叱らないでくれ。頼む」
やや強引だったけれども、これで大丈夫だろう。その証拠に、サニーはもう怒っていなく、口を少し尖らせて、これからどうしようか悩んでいる顔をしている。
アルビスを叱ろうか、許そうか、心の中で葛藤しているに違いない。だが、サニーは勇者だ。答えはもう決まっているはず。
数秒後、答えが出たようで。サニーはしょぼくれた顔を私に合わせてきて、小さく頷く。そのままアルビスの元へ駆けて行き、目の前に立った。
「アルビスさん。さっきお母さんが言ってたことは、全部ほんと?」
「……ああ、間違いない」
顔は伏せているものの、アルビスの声に覇気が戻ってきている。さて、ここからサニーはどう出るか……。
「アルビスさん、顔を上げて」
「む? こう―――」
サニーの指示に従い、アルビスが浮かない顔を上げたと同時に、サニーがアルビスの体を抱きしめた。
「な、なんだ? 小娘よ」
「アルビスさん。サニーを勇者にしようとしてくれて、ありがとう」
「むっ……」
詰まった声を発して、固まるアルビス。サニーの顔に隠れているせいで、アルビスの表情を窺う事が出来ないが、たぶん頬が赤く染まっているだろう。
「余を……、許してくれるのか?」
「許すもなにも。アルビスさんは、最初から悪いことを何もしてないもん。次やる時になったら、ちゃんとサニーにも言ってね」
全てを許してくれたサニーが、アルビスから体を離す。ようやく見えたアルビスの顔は、いつも通り凛とした笑みを浮かべているも、どこか嬉しそうでいた。
「……そうか。小娘はもう、心まで立派な勇者になってたようだ。ここまで出来た人間は、今まで見た事がない」
「ううん、私はまだ勇者になってないよ。だから、さっきの続きをやろっ!」
「さっきの、続き?」
「うん! だって、魔王ルービスをまだ倒してないもん! アルビスさん、なってなって!」
年相応にはしゃぎ出したサニーが、私の元に走って来ては、無邪気にぴょんぴょんと飛び跳ね出した。
「お母さんも! 私と一緒に戦って、魔王ルービスを倒そうよ!」
サニーが催促してくるも、私の頭が現状を追えていないのか。「あ、ああ……」といった腑抜けた返答しか出来なかった。
よもや、またやろうとまで言い出してくるだなんて。という事は、うやむやになってしまった、サニーと共闘戦が出来るという訳かっ?
「よし。聞いたな、アカシック・ファーストレディよ。さっさと持ち場に戻れッ!」
頭の整理が追いついてくると、やたらと嬉しそうにしている声が耳に入り込んできたので、視線を横へずらしていく。
視線の先には、既に魔王ルービスと化していたアルビスがおり。更に強大な力を付けたのか、体中に紅蓮の炎を纏っていた。
「ほらお母さん! 魔王ルービスが現れたよ! 早く倒さないと!」
「ああ、そうだな。よし、一緒に戦おう。出て来い、“氷”」
「ええ~、ずりいぞ皆して。俺も参加してえ」
まさか、もう一度サニーと共闘戦が出来るとは。サニーにも公認された事だし、これから毎日色んな設定で楽しめるかもしれない。
もしそうなった場合、私も設定を練ってみよう。ヴェルインも『参加したい』と言っていたし、全員で出来るような設定をな。
何も知らないファートのせいで、全ての経緯を分かってしまったサニーによる、なんとも空気が重い反省会が始まった。
私だけが立っている中。様子が変だと悟り、途中から加わったヴェルイン。見るからに酷く落ち込んでいるアルビスは、地面に正座をしていて。
サニーは、プリプリと怒りながら頬をプクッと膨らませていて、腰に手を当てつつアルビスの事を睨み付けている。
「アルビスさんっ! お母さんを傷付けて一体どういうつもりなのっ!?」
「……違うんだ小娘、聞いてくれ……」
普段は堂々とした態度で喋っているあのアルビスが、そよ風に飛ばされていきそうなほどか細い声で、ボソボソと喋っている。目を瞑って聞いてみたら、もはや誰の声か分からない。
「なにが違うのっ!?」
「……アガジッグ・ブァーズドレディ……、だずげでぐれぇ……」
口から出た途端に消えてしまいそうなアルビスの声が、とうとう涙声になった。泣くのを我慢しているのか、全身が小刻みに震えている。
そりゃそうだ。二十日間も掛けて練った設定を、満を持して披露するも、ほんの二分足らずの惨劇で水の泡と化してしまったのだから。
その惨劇を起こしたファートは、アルビスの隣でずっと土下座をしていて、「申し訳ございません」と高速で詫び続けている。
「サニー、アルビスは私を傷付けてなんかないぞ」
「嘘だよっ! だって、着てる服が焦げててボロボロになってるじゃんか!」
「これはさっきファートが言った通り、変身魔法でボロボロに見せてるだけだ。アルビス、私にかけた変身魔法を解いてくれ」
サニーの誤解を解くべく、アルビスに指示を出してみれば。アルビスは俯いたまま私に指を差してきて、何を言ってるのか分からない声で何かを唱え出した。
すると、アルビスの心境が移っているのか。やたらと儚い白色の魔法陣が、私の足元に出現。瞬くように輝き出すと、光の輪が風を巻き込みながら昇っていき、光の粒子に変わって消えていった。
それを追っていた目線を私の体に移すと、ローブは最初から何事も無かったかのように、焦げた跡も綺麗さっぱり無くなっていた。
「本当だっ。いつも通りの服になっちゃった」
「な? 言った通りだろ?」
「で、でもっ! 顔中が真っ黒だよ、それは何なの!?」
「これはだな」
これさえ明かせば、サニーはアルビスの事を許してくれるだろう。確証を得つつ、私は両手の平で自分の顔を拭う。
手の平に灰が付着しているのを確認してから、私の手の平をサニーに見せてやった。
「ただの灰だ」
「灰?」
「そう。枯れ葉を焼いてできた黒い灰を、顔に塗りたくっただけだ。だから私は、アルビスに一切攻撃されてないし、傷も付けられていない」
ちゃんと傷付けられていない事も伝えると、サニーの小さな口がポカンと開き、怒り顔が真顔にすり替わっていった。よし、手応えありだ。サニーはちゃんと理解して、認め始めている。
だんだんと落ち着きを取り戻してきたサニーが、一旦アルビスの方へと向く。そして私に戻してきた顔は、色々と知りたがっている様な困り顔をしていた。
「じゃあ、なんでこんな事をしたの?」
穏やかな質問に対し、私はサニーの前にしゃがみ込み、腕を組む。
「それはな、アルビスは、お前を本当の勇者にしてあげようとしてたんだ」
「私を、勇者に?」
青い瞳をきょとんさせたサニーに対し、私は無言で深めに頷く。
「ここで暮らしてて、魔物が襲ってきた事なんてあったか?」
「あったよ。お母さんこの前、スライムさんに襲われてたじゃんか!」
「サニーちゃん。そのスライムってのは、俺だ」
「えっ?」
よもやという顔になったサニーが、話に割り込んできたヴェルインの方へ向く。
「黄土色のスライムの事を言ってんだろ? あれは、変身魔法で姿を変えた俺様だ」
「あのスライムさん、ヴェルインさんだったの!?」
本当に知らなかった様子のサニーに、人差し指と中指を立てて、成功と言わんばかりにニッと笑うヴェルイン。
「そっ。俺もアルビスと同様、サニーちゃんを勇者にしたくてやった訳よ。どうだ、俺の演技? 中々すごかっただろ?」
ヴェルインめ。本当は私のわがままを叶える為に、動いてくれたというのに。まさか、私まで匿ってくれるとは。後でお礼を言っておかないと。
「……うん。本物のスライムさんが、お母さんをイジメてたんだと思ってた」
「おっと……、演技でもごめんな。レディの上で、ぴょんぴょん飛び跳ねたりしちゃってよ」
申し訳なさそうに謝りを入れたヴェルインが、やや不貞腐れ気味になったサニーの頭を撫でる。
「あれは腰がいい具合に刺激されて、本当に気持ち良かった。またやってくれないか?」
「またかよ。ま、気が向いたらな」
曖昧な返事ながらも、しつこくお願いすれば、またやってくれるかもしれない。よし、明日にでも頼んでみよう。
「それじゃあサニー、一つの種を明かした所で話を戻すぞ」
話題を戻そうとすると、ヴェルインは頭を撫でていた前足をサニーの背中へ移し、導くようにサニーの体を私の方へ動かしていく。
サニーはと言うと、握っている両手をもじもじとさせていて、顔と視線は地面に落ちていた。
「ここで暮らしてて、魔物が襲ってきた事なんてあったか?」
同じ質問をすると、サニーは首を小さく横に振る。
「ううん、ない」
本当は一度だけある。あれは確か、サニーが初めて絵を描いた日の夕刻。
外に出ていたサニーが、蜂に似た大型の魔物に襲われそうになっていた所を、ヴェルインが助けてくれたんだ。
けれどもサニーは忘れているのか、そもそも襲われたと思っていないのか、その事を口にしようとはしない。ならば好都合だ。このまま話を続けてしまおう。
「だろ? ここは平和に満ちてる場所だ。このままここで暮らしてると、サニーは一生勇者になれないと思ったアルビスが、率先して行動してくれてたんだ。誰に言われた訳でもなく、私も知らない間に一人でな」
「お母さんも、知らなかったの?」
「ああ、今朝アルビスに言われて初めて知った。アルビスはすごいんだぞ? サニーを必ず勇者にしてあげる為に、二十日間も掛けて三十以上の設定を練ってたんだ。一部の設定だけ聞いたけれども、どれもよくサニーの事を一番に考えてて、綿密に練られた素晴らしい内容だった」
サニーを説得していると、弾んだ様にも聞こえるアルビスの咳払いが聞こえてきた。どうやら、ちゃっかりと聞いているようだ。
「じゃあ……。ボロボロだった服も、顔が灰だらけだったのも、アルビスさんの考えたものなの?」
「そうだ。場の雰囲気を、より現実味を持たせる為のものらしい。すっかり騙されてただろ?」
「……うん。最初はお母さんが死んじゃったかもしれないと思って、泣きそうになっちゃった……」
……しまった、かなりやり過ぎたようだ。状況が状況だし、真っ先にそう思うもの無理はない。
考慮は完璧だったけれども、相手に対する気持ちへの配慮が足りなかったな。
「サニー、そこはすまなかった。私も謝る。だけど、サニーに対するアルビスの想いは本物だ。だから、アルビスを叱らないでくれ。頼む」
やや強引だったけれども、これで大丈夫だろう。その証拠に、サニーはもう怒っていなく、口を少し尖らせて、これからどうしようか悩んでいる顔をしている。
アルビスを叱ろうか、許そうか、心の中で葛藤しているに違いない。だが、サニーは勇者だ。答えはもう決まっているはず。
数秒後、答えが出たようで。サニーはしょぼくれた顔を私に合わせてきて、小さく頷く。そのままアルビスの元へ駆けて行き、目の前に立った。
「アルビスさん。さっきお母さんが言ってたことは、全部ほんと?」
「……ああ、間違いない」
顔は伏せているものの、アルビスの声に覇気が戻ってきている。さて、ここからサニーはどう出るか……。
「アルビスさん、顔を上げて」
「む? こう―――」
サニーの指示に従い、アルビスが浮かない顔を上げたと同時に、サニーがアルビスの体を抱きしめた。
「な、なんだ? 小娘よ」
「アルビスさん。サニーを勇者にしようとしてくれて、ありがとう」
「むっ……」
詰まった声を発して、固まるアルビス。サニーの顔に隠れているせいで、アルビスの表情を窺う事が出来ないが、たぶん頬が赤く染まっているだろう。
「余を……、許してくれるのか?」
「許すもなにも。アルビスさんは、最初から悪いことを何もしてないもん。次やる時になったら、ちゃんとサニーにも言ってね」
全てを許してくれたサニーが、アルビスから体を離す。ようやく見えたアルビスの顔は、いつも通り凛とした笑みを浮かべているも、どこか嬉しそうでいた。
「……そうか。小娘はもう、心まで立派な勇者になってたようだ。ここまで出来た人間は、今まで見た事がない」
「ううん、私はまだ勇者になってないよ。だから、さっきの続きをやろっ!」
「さっきの、続き?」
「うん! だって、魔王ルービスをまだ倒してないもん! アルビスさん、なってなって!」
年相応にはしゃぎ出したサニーが、私の元に走って来ては、無邪気にぴょんぴょんと飛び跳ね出した。
「お母さんも! 私と一緒に戦って、魔王ルービスを倒そうよ!」
サニーが催促してくるも、私の頭が現状を追えていないのか。「あ、ああ……」といった腑抜けた返答しか出来なかった。
よもや、またやろうとまで言い出してくるだなんて。という事は、うやむやになってしまった、サニーと共闘戦が出来るという訳かっ?
「よし。聞いたな、アカシック・ファーストレディよ。さっさと持ち場に戻れッ!」
頭の整理が追いついてくると、やたらと嬉しそうにしている声が耳に入り込んできたので、視線を横へずらしていく。
視線の先には、既に魔王ルービスと化していたアルビスがおり。更に強大な力を付けたのか、体中に紅蓮の炎を纏っていた。
「ほらお母さん! 魔王ルービスが現れたよ! 早く倒さないと!」
「ああ、そうだな。よし、一緒に戦おう。出て来い、“氷”」
「ええ~、ずりいぞ皆して。俺も参加してえ」
まさか、もう一度サニーと共闘戦が出来るとは。サニーにも公認された事だし、これから毎日色んな設定で楽しめるかもしれない。
もしそうなった場合、私も設定を練ってみよう。ヴェルインも『参加したい』と言っていたし、全員で出来るような設定をな。
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