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55話、哀れで騒がしい死霊使い
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サニーと固く手を繋ぎ、二歩、三歩と歩み出した直後。左右からボッと音が鳴り、申し訳程度に暗闇を払う明かりが灯り出した。
この仕掛けも知っているが、左右の壁に横目を送る。やや見上げる程の高い位置に蝋燭があり、共に青い炎を怪しく灯していた。
視線を下へ滑らせると、そこには色褪せた黒い木棺が、私達を監視しているかの様に立て掛けられている。
あの木棺の中にはファートが作り出した手下の、アンデッドとスケルトンが一体ずつ入っている。神殿内には木棺が十四基あるので、合計で二十八体。
ここへ来るのは約八年振りぐらいだが、意外と覚えているものだな。前は七日に一度の頻度で来ていたから、最早頭に染み付いているのだろう。
「火がついたっ。ママがつけたの?」
「いや。あの蝋燭を通り過ぎると、勝手につくようになってるんだ」
これも恐怖心を煽る為の、ファートの演出だ。左右にある木棺から細い魔法の糸が伸びていて、それに触れると千切れ、蝋燭に書き込まれた火の魔法が発動するようになっている。
これは一度っきりの仕掛けなので、毎回仕込まないといけない。なので人が居ない時に、ファートがいそいそと仕込んでいるらしい。面倒臭くないのだろうか?
「へぇ~、魔法みたいだね」
「魔法で合ってる。奥へ行くに連れ、色がだんだん変わってくから見ててみろ」
「そうなんだ、わかったっ」
神殿内にある仕掛けをこまめに説明しつつ、二本目の蝋燭に差し掛かる。次の蝋燭に灯った炎も青色、三本目から五本目も青色。が、六本目からは黄色の炎が灯った。
「あっ、色が変わった!」
「黄色になったな。もう三本先へ進むと、今度は赤色の炎が灯る。これらを警告色と言うんだ」
「けいこくしょく……、初めて聞いたっ」
来た。あえて難しい事を説明したが、やはり知らなかった様だな。なら次に、木棺についても触れておかねばなるまい。
「警告色とは、事前に危険を教えてくれる色の事だ。先ほど通り過ぎた青色は、最初の警告。今ある黄色は、危険。もう少し先に行けば赤色の炎が蝋燭に灯るんだが、それは最終警告みたいなものだ」
「じゃあ、もうあぶないんだ! 赤色の炎が灯ると、なにが起きるの?」
「いい質問だ。蝋燭の下に、木の箱みたいな物があるだろ?」
木棺の事について触れられる質問ではないが、強引に話を変え、すかさず木棺に向かい指を差す私。サニーも私の指先を見てから、なぞる様に顔を木棺へ移していく。
「あるね」
「あれは木棺と言う。中にとある魔物が一体ずつ入っていて……、次に奥を見ろ」
流れるがままに指先を中央奥に向け、人工的に作られた石の台座の上にある、蝋燭の炎が薄っすらと照らしている鉄の棺を差す。
「あっ、似たような箱がある!」
「あの中に、今日会う予定の『ファート』が居る。そのファートという奴が合図を出すと、木棺から『アンデッド』と『スケルトン』という魔物が出てきて、私達に襲い掛かって来るんだ」
「あっ! その二つは絵本で出てきたから知ってる! 「ヴァ~」って言う人と、体が骨の人だよね!」
『襲い掛かって来る』という単語よりも、アンデッドとスケルトンに全意識が行き、特徴を嬉々と説明し出すサニー。
流石に、この二つは知っていたか。あわよくば、特徴から生態まできめ細かく説明しようと思っていたが……。絵本に先を越されてしまったな。
「合ってるぞ。本物を見てみたいか?」
「見てみたいっ!」
まったく慄く様子を見せないサニーが、神殿内の光源を増やさんばかりに青い瞳を眩く輝かせ、元気な返事を辺りに響かせる。
たぶん今の返事は、鉄の棺の中に居るファートの耳にも届いているだろう。が、奴はとある事を必ずするので、棺の前まで行かないと意地でも反応を示さないのだ。
とある事をやった後。意気揚々にファートが合図を送り、アンデッドとスケルトンを操り、木棺から勢いよく出現させ、神殿内に来た者を恐怖のどん底へ突き落とす。これが一連の流れである。
「なら、鉄の棺の前に行くぞ。そいつらを出すには、とある条件を満たさなければいけないからな」
「わかったっ!」
早く見たいのか、歩き出した私の一歩先を行くサニー。歩幅もやや広い。私がサニーに引っ張られる形になっている。
っと。あまり鉄の棺に近づき過ぎると、最後の仕掛けが発動してしまうから、サニーを止めなければ。
「待てサニー」
「んっ? なに?」
慌てて制止させると、前を向いていたサニーの顔が私の方へと向く。その半歩先にあるサニーの足元には、違和感のある溝とも言える太い線が引かれていた。
呼ぶのがもう少し遅れていたら、説明したかった最後の仕掛けが発動していたな。危ない危ない。
「足元を見てみろ」
「足元……?」
私の説明の意図が掴めなかったサニーが、視線を足元に向ける。しかし、見ても何も分からなかったのか「見たよ」という、あっけらかんな返答しかしなかった。
「足の先に、太い線みたいな物があるだろ?」
「線、線……。あっ、あった!」
「その線を超えると、最後の仕掛けが発動する」
私に顔を戻したサニーが、首を傾げる。
「この線を超えると、何が起きるの?」
「今まで灯った炎が一斉に消えて、神殿内が真っ暗になる。その後、ファートが地を這う声で喋り出すんだ」
「へぇ~っ。ねえ、線を超えてもいいっ?」
「ああ、いいぞ。超えればすぐに蝋燭の炎が消えるからな」
「わかった!」
赤い炎の光が、淡く移っている顔を微笑ませるサニー。これで全ての説明が出来た。かなり満足できたし、楽しい時間だった。
あと説明が出来るのは、奥にある宝物庫ぐらいだろうか。あそこは、勝手に入るとファートが激怒するので、ちゃんと許可を取ってから入るとしよう。
そう考えていた矢先。サニーの足が線を超えたようで、辺りが音も無く闇に染まる。目が明かりに慣れていたせいで、闇を纏ったサニーを一瞬見失ったが、徐々に目が闇に慣れてきて、ぼんやりと浮かぶ様にサニーの姿が見えてきた。
「本当に暗くなっちゃった。ほんの少しだったけど、何も見えなかったや」
「怖くなかったか?」
「うんっ。ママと手を繋いでたから、平気だよ!」
「そうか。ならよか―――」
『―――し、神殿に誘われし罪深き迷い人よ。警告を顧みず、奥まで来てしまったようだな。ここが、お前らの人生の終着点となる。覚悟しておけ』
サニーに言葉を返そうとした直後。私達の会話に割り込んで、頭に直接語りかけてくる様な、反響がかかったファートの事務的な戯言が聞こえてきた。
普段なら、意気揚々と滑らかに聞こえてくるのだが……。今日の戯言は、やたらと投げやりで震えていたな。それに、心なしか怒りも含まれている気がする。
「ファート、声が震えてるぞ」
「誰のせいだと思ってんだぁぁああーーーッッ!!」」
私が指摘した瞬間。怒りが浸透した咆哮が響き、鉄の棺から半透明な体をしたファートが飛び出してきた。砂漠の過酷な環境に蝕まれたボロボロの黒いローブ。そのローブから露出しているは、人間の物に近い骨。
首からいくつもぶら下げている、純金と宝石が装飾された首飾り。右手には、先に髑髏が付いている杖を持っている。今日の身長は、推定四m前後。もちろん幽体なので、足は無い。
そんな怒り狂っているファートが、フードの奥底から禍々しく赤色に発光している眼光を私に合わせてきた。
「一体、誰のせいなんだ?」
本当に分かっていない私が、無粋に問いかけてみれば、ファートが骨の指先を私に向けてビッと差す。
「お前だよお前!! 数年振りに来たかと思えば! 丹精込めて仕掛けた罠を、連れて来たガキに一から十までぜーんぶ教えやがって!! ここは観光地じゃねえーんだよ、バーカッ!!」
ずっと棺の中で我慢していたのだろう。絶叫に近い叫び声で全てを吐き出したファートが、頭蓋骨である頭を垂らし、ぜえぜえと息を切らした。
……しまった。ファートの趣味は、神殿に来た者を恐怖のどん底に陥れ、その反応を楽しむ事だ。サニーに仕掛けの説明をするのが楽し過ぎて、途中からすっかりと忘れていた……。
「ほ、ほら。まだ手下達が残ってるだろ? それを一斉に出現させ―――」
「それも先に種明かししてんだろうが!! 見てみろ、お前が連れて来たガキの顔を! そっからどうすれば驚くっつうんだよ!?」
見せ場を作ってやろうかと思いきや、更に怒鳴り散らかしながらサニーに指を差すファート。
予想はついているが、隣に居るサニーの顔を覗いてみる。そのサニーは、興奮気味に鼻をふんふんと鳴らし、ギラギラに光っている眼差しでファートを捉えていた。
ダメだ。この時のサニーは、気分が舞い上がり、現状を楽しんでいる時のサニーだ。ここから驚かせるのは不可能に近い……。
完全にやる気が無くなったのか。再度息を切らし、呼吸を整えたファートが、やさぐれて空中でふて寝をしてしまった。
「一応、一応出してみたらどうだ? もしかしたら驚くかもしれないぞ?」
「あのよお。我の神殿内は、声がよく響くんだぞ? だからお前らの会話は、全て棺内で聞いてたわ。ファーストレディが傍に居ると、そのガキは驚かねえんだろ?」
「あ……、聞いてたのか」
ああ、もう八方塞がりだ。とは言ったものの、私が仕掛けを余す事なく説明していなくとも、サニーが驚く事はなかっただろう。たぶん。
今日はファートに今までの事を謝り、サニーに絵を描かせようと思っていたのに……。なんとかして軌道修正をせねば。
「頼む。一回だけ出してみてくれ」
「どうせ、そのガキに見せたいだけだろ? ……まあいい、せっかく来てくれたんだ。わがままを聞いてやるよ」
不貞腐れているもわがままを聞いてくれたファートが、右手に気だるげに持っている杖をかざした。……よかった。後は、杖の先端にある髑髏の無い目が発光し、カタカタと笑い出せばファートの手下達が出現する。
頼むサニー。演技でもいいから、怖がっている素振りをしてくれ。そう叶わぬであろう願いを強く思った私は、サニーの明るい表情を窺いつつ、辺りに目を配った。
この仕掛けも知っているが、左右の壁に横目を送る。やや見上げる程の高い位置に蝋燭があり、共に青い炎を怪しく灯していた。
視線を下へ滑らせると、そこには色褪せた黒い木棺が、私達を監視しているかの様に立て掛けられている。
あの木棺の中にはファートが作り出した手下の、アンデッドとスケルトンが一体ずつ入っている。神殿内には木棺が十四基あるので、合計で二十八体。
ここへ来るのは約八年振りぐらいだが、意外と覚えているものだな。前は七日に一度の頻度で来ていたから、最早頭に染み付いているのだろう。
「火がついたっ。ママがつけたの?」
「いや。あの蝋燭を通り過ぎると、勝手につくようになってるんだ」
これも恐怖心を煽る為の、ファートの演出だ。左右にある木棺から細い魔法の糸が伸びていて、それに触れると千切れ、蝋燭に書き込まれた火の魔法が発動するようになっている。
これは一度っきりの仕掛けなので、毎回仕込まないといけない。なので人が居ない時に、ファートがいそいそと仕込んでいるらしい。面倒臭くないのだろうか?
「へぇ~、魔法みたいだね」
「魔法で合ってる。奥へ行くに連れ、色がだんだん変わってくから見ててみろ」
「そうなんだ、わかったっ」
神殿内にある仕掛けをこまめに説明しつつ、二本目の蝋燭に差し掛かる。次の蝋燭に灯った炎も青色、三本目から五本目も青色。が、六本目からは黄色の炎が灯った。
「あっ、色が変わった!」
「黄色になったな。もう三本先へ進むと、今度は赤色の炎が灯る。これらを警告色と言うんだ」
「けいこくしょく……、初めて聞いたっ」
来た。あえて難しい事を説明したが、やはり知らなかった様だな。なら次に、木棺についても触れておかねばなるまい。
「警告色とは、事前に危険を教えてくれる色の事だ。先ほど通り過ぎた青色は、最初の警告。今ある黄色は、危険。もう少し先に行けば赤色の炎が蝋燭に灯るんだが、それは最終警告みたいなものだ」
「じゃあ、もうあぶないんだ! 赤色の炎が灯ると、なにが起きるの?」
「いい質問だ。蝋燭の下に、木の箱みたいな物があるだろ?」
木棺の事について触れられる質問ではないが、強引に話を変え、すかさず木棺に向かい指を差す私。サニーも私の指先を見てから、なぞる様に顔を木棺へ移していく。
「あるね」
「あれは木棺と言う。中にとある魔物が一体ずつ入っていて……、次に奥を見ろ」
流れるがままに指先を中央奥に向け、人工的に作られた石の台座の上にある、蝋燭の炎が薄っすらと照らしている鉄の棺を差す。
「あっ、似たような箱がある!」
「あの中に、今日会う予定の『ファート』が居る。そのファートという奴が合図を出すと、木棺から『アンデッド』と『スケルトン』という魔物が出てきて、私達に襲い掛かって来るんだ」
「あっ! その二つは絵本で出てきたから知ってる! 「ヴァ~」って言う人と、体が骨の人だよね!」
『襲い掛かって来る』という単語よりも、アンデッドとスケルトンに全意識が行き、特徴を嬉々と説明し出すサニー。
流石に、この二つは知っていたか。あわよくば、特徴から生態まできめ細かく説明しようと思っていたが……。絵本に先を越されてしまったな。
「合ってるぞ。本物を見てみたいか?」
「見てみたいっ!」
まったく慄く様子を見せないサニーが、神殿内の光源を増やさんばかりに青い瞳を眩く輝かせ、元気な返事を辺りに響かせる。
たぶん今の返事は、鉄の棺の中に居るファートの耳にも届いているだろう。が、奴はとある事を必ずするので、棺の前まで行かないと意地でも反応を示さないのだ。
とある事をやった後。意気揚々にファートが合図を送り、アンデッドとスケルトンを操り、木棺から勢いよく出現させ、神殿内に来た者を恐怖のどん底へ突き落とす。これが一連の流れである。
「なら、鉄の棺の前に行くぞ。そいつらを出すには、とある条件を満たさなければいけないからな」
「わかったっ!」
早く見たいのか、歩き出した私の一歩先を行くサニー。歩幅もやや広い。私がサニーに引っ張られる形になっている。
っと。あまり鉄の棺に近づき過ぎると、最後の仕掛けが発動してしまうから、サニーを止めなければ。
「待てサニー」
「んっ? なに?」
慌てて制止させると、前を向いていたサニーの顔が私の方へと向く。その半歩先にあるサニーの足元には、違和感のある溝とも言える太い線が引かれていた。
呼ぶのがもう少し遅れていたら、説明したかった最後の仕掛けが発動していたな。危ない危ない。
「足元を見てみろ」
「足元……?」
私の説明の意図が掴めなかったサニーが、視線を足元に向ける。しかし、見ても何も分からなかったのか「見たよ」という、あっけらかんな返答しかしなかった。
「足の先に、太い線みたいな物があるだろ?」
「線、線……。あっ、あった!」
「その線を超えると、最後の仕掛けが発動する」
私に顔を戻したサニーが、首を傾げる。
「この線を超えると、何が起きるの?」
「今まで灯った炎が一斉に消えて、神殿内が真っ暗になる。その後、ファートが地を這う声で喋り出すんだ」
「へぇ~っ。ねえ、線を超えてもいいっ?」
「ああ、いいぞ。超えればすぐに蝋燭の炎が消えるからな」
「わかった!」
赤い炎の光が、淡く移っている顔を微笑ませるサニー。これで全ての説明が出来た。かなり満足できたし、楽しい時間だった。
あと説明が出来るのは、奥にある宝物庫ぐらいだろうか。あそこは、勝手に入るとファートが激怒するので、ちゃんと許可を取ってから入るとしよう。
そう考えていた矢先。サニーの足が線を超えたようで、辺りが音も無く闇に染まる。目が明かりに慣れていたせいで、闇を纏ったサニーを一瞬見失ったが、徐々に目が闇に慣れてきて、ぼんやりと浮かぶ様にサニーの姿が見えてきた。
「本当に暗くなっちゃった。ほんの少しだったけど、何も見えなかったや」
「怖くなかったか?」
「うんっ。ママと手を繋いでたから、平気だよ!」
「そうか。ならよか―――」
『―――し、神殿に誘われし罪深き迷い人よ。警告を顧みず、奥まで来てしまったようだな。ここが、お前らの人生の終着点となる。覚悟しておけ』
サニーに言葉を返そうとした直後。私達の会話に割り込んで、頭に直接語りかけてくる様な、反響がかかったファートの事務的な戯言が聞こえてきた。
普段なら、意気揚々と滑らかに聞こえてくるのだが……。今日の戯言は、やたらと投げやりで震えていたな。それに、心なしか怒りも含まれている気がする。
「ファート、声が震えてるぞ」
「誰のせいだと思ってんだぁぁああーーーッッ!!」」
私が指摘した瞬間。怒りが浸透した咆哮が響き、鉄の棺から半透明な体をしたファートが飛び出してきた。砂漠の過酷な環境に蝕まれたボロボロの黒いローブ。そのローブから露出しているは、人間の物に近い骨。
首からいくつもぶら下げている、純金と宝石が装飾された首飾り。右手には、先に髑髏が付いている杖を持っている。今日の身長は、推定四m前後。もちろん幽体なので、足は無い。
そんな怒り狂っているファートが、フードの奥底から禍々しく赤色に発光している眼光を私に合わせてきた。
「一体、誰のせいなんだ?」
本当に分かっていない私が、無粋に問いかけてみれば、ファートが骨の指先を私に向けてビッと差す。
「お前だよお前!! 数年振りに来たかと思えば! 丹精込めて仕掛けた罠を、連れて来たガキに一から十までぜーんぶ教えやがって!! ここは観光地じゃねえーんだよ、バーカッ!!」
ずっと棺の中で我慢していたのだろう。絶叫に近い叫び声で全てを吐き出したファートが、頭蓋骨である頭を垂らし、ぜえぜえと息を切らした。
……しまった。ファートの趣味は、神殿に来た者を恐怖のどん底に陥れ、その反応を楽しむ事だ。サニーに仕掛けの説明をするのが楽し過ぎて、途中からすっかりと忘れていた……。
「ほ、ほら。まだ手下達が残ってるだろ? それを一斉に出現させ―――」
「それも先に種明かししてんだろうが!! 見てみろ、お前が連れて来たガキの顔を! そっからどうすれば驚くっつうんだよ!?」
見せ場を作ってやろうかと思いきや、更に怒鳴り散らかしながらサニーに指を差すファート。
予想はついているが、隣に居るサニーの顔を覗いてみる。そのサニーは、興奮気味に鼻をふんふんと鳴らし、ギラギラに光っている眼差しでファートを捉えていた。
ダメだ。この時のサニーは、気分が舞い上がり、現状を楽しんでいる時のサニーだ。ここから驚かせるのは不可能に近い……。
完全にやる気が無くなったのか。再度息を切らし、呼吸を整えたファートが、やさぐれて空中でふて寝をしてしまった。
「一応、一応出してみたらどうだ? もしかしたら驚くかもしれないぞ?」
「あのよお。我の神殿内は、声がよく響くんだぞ? だからお前らの会話は、全て棺内で聞いてたわ。ファーストレディが傍に居ると、そのガキは驚かねえんだろ?」
「あ……、聞いてたのか」
ああ、もう八方塞がりだ。とは言ったものの、私が仕掛けを余す事なく説明していなくとも、サニーが驚く事はなかっただろう。たぶん。
今日はファートに今までの事を謝り、サニーに絵を描かせようと思っていたのに……。なんとかして軌道修正をせねば。
「頼む。一回だけ出してみてくれ」
「どうせ、そのガキに見せたいだけだろ? ……まあいい、せっかく来てくれたんだ。わがままを聞いてやるよ」
不貞腐れているもわがままを聞いてくれたファートが、右手に気だるげに持っている杖をかざした。……よかった。後は、杖の先端にある髑髏の無い目が発光し、カタカタと笑い出せばファートの手下達が出現する。
頼むサニー。演技でもいいから、怖がっている素振りをしてくれ。そう叶わぬであろう願いを強く思った私は、サニーの明るい表情を窺いつつ、辺りに目を配った。
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