ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

文字の大きさ
上 下
23 / 301

22話、まだ助けられる命

しおりを挟む
「ゴーレム。そろそろ私達をここに連れて来た理由を、……む?」

 問い掛けようとするもゴーレム達の姿を目にし、思わず言葉を止める私。
 ゴーレム達は揃って小川に入り込んでいて、周りに飛んでいるマナの飛光体と同じ様に、棒立ちさせている体を薄水色に発光させていた。

「……何をしてるんだ?」

 興味の内容がすり替わり、別の質問を投げかける。
 すると一体のゴーレムが、周りのマナを転々と指差し、かき集める様な動作を両手でおこなった後。広げた両腕を曲げ、元気になった様な恰好をした。

「魔力を、取り込んでいるのか?」

 合っていたのか、ゴーレムは食い気味に二度うなずく。

「魔力を取り込んで元気になる? ……そうか、なるほど」

 ここに来て、やっと一つの謎が解けた。

 ゴーレムの動力源は魔力だ。魔力が体から枯渇した途端、こいつらはピクリとも動かなくなり、ただの石像と化す。
 全快の状態から枯渇するまで、確か三十日間も掛からない。そうだ、最初からそこに違和感を持つべきだった。
 なぜ放棄されたゴーレム達が、十年以上も動き続ける事が出来たのかと。その問題を解決するのが、このマナの泉だ。

 ならば、もしかすると―――。いや、それは後にしておこう。

 もう一つの謎がまだ解けていない。ゴーレム達はなぜ、私達をここに連れて来たのか?
 それに、この場所を教えてしまうのは、ゴーレム達にとって悪手どころの騒ぎじゃない。 
 ここは、ゴーレム達の唯一の生命線。聖域とも言える場所。そんな大事な場所を、他者に教えるなんて自殺行為に等しいのに。

「なんで、私達をこの場所に連れて来たんだ?」

 腕を組んだ私は、本来知りたかった質問を再度投げかける。無い耳で聞いたのか、一番手前に居たゴーレムが私に顔を向けると、後を追って私に指を差してきた。
 次にゴーレムは、浮かんでいるマナに指を差す。その後に両手を前に差し出し、右手、左手を交互に見て、何かを探す様に辺りをキョロキョロと見始めた。

「私、マナ……」

 マナと口にすると、ゴーレムは首を横に振った。どうやら、マナは間違っているようだ。

「マナではない……、魔力か?」

 魔力が合っているようで、ゴーレムはブンブンと首を縦に振る。

「私、魔力……、見当たらない?」

 ゴーレムが横に首を振った。このやり取りが面倒臭い。喋る事が出来ない者と意思疎通を交わすのが、これ程難しいとは。

「違うのか。両手を見た後、辺りを見渡す行為……。無くなった?」

 意味が通じたのか、素早く五度もうなずくゴーレム。私の魔力が無くなった。多少の手掛かりを得れたので、朧気ながらも答えに近づいて来た気がする。
 私が魔力を消費した理由は、箒で花畑地帯へ飛んで来た時。それと、ゴーレムを助けた際に少しだけ消費した。
 もしかしてこいつらは、私の魔力を回復させる為だけに、ここへ連れて来たというのか? 念の為、ちゃんと答え合わせをしておかねば。

「おい、私が助けたゴーレムはどいつだ?」

 新たな質問を雑にしてみれば、ここに私を連れて来た理由を伝えていたゴーレムが手を挙げた。
 下半身部分を確認してみると、膝の部分に水が乾いた跡が薄っすらと残っている。間違いない、このゴーレムだ。

「私がお前を助けた時、確かに魔力を消費した。で、その消費した魔力を回復させる為だけに、私をここへ連れて来たのか?」

 ようやく伝えたい内容がハッキリと伝わったのか、ゴーレムは自分の両手を握り締め、嬉しそうに頷いてみせた。

 合っていたようだ。合っていてしまった。こいつらは、他者にこの場所を教える危険性を、まるで分かっていない。
 もし私が、泉にあるマナ結晶体群と、水を全て奪ってしまったら、お前らは魔力を取り込む事が出来なくなり、死んだと同義であるただの石像と化してしまうのに。

「……愚か者」

 蔑みを含んだ声で私がそう言えば、平和に満ちていた空気が一変し、ゴーレムは握っていた手を解いていく。

「お前は恩返しがしたく、私をここに招いたのだろうが、それは悪手だ。もし、私が泉にあるマナの結晶体群と、水を全て奪ってみろ? そうしたらお前らは、魔力を補給出来なくなり、動けなくなってしまうんだぞ? それを分かってて教えたのか?」

 己が仕出かした行動の愚かさを理解したのか、ゴーレムの首が右往左往した後、地面に向かって垂れ下がっていった。
 仕草から察するに、やはり分かっていなかったようだ。ただ良かれと思い、消費した私の魔力を回復させたいが為だけに、この場所に招いたのか。

「いいか? 今後も生き残っていきたいのであれば、もう二度と、この場所を他者に教えるな。誰にもだぞ? 分かったな?」

 残りの四体に顔を移しながら言い聞かせると、ちゃんと理解したようで、重く頷いてくれた。分かればいい。
 言いたい事を全て吐けてスッキリしたので、私は次の行動を起こすべく、左手に漆黒色の箒を召喚。
 私の横に居たサニーに、『ふわふわ』をかけて箒に跨らせ、私も腰を下ろして宙へ浮く。そして、地面で棒立ちしているゴーレム達を見下した。

「この中に、まだ長時間動ける者はいるか? 試したい事がある」

 私の質問に対し、ゴーレムは各々の顔を見合わせ、三体のゴーレムが手を挙げた。

「充分だ。悪いが、森の一番近くにある墓標を荒らさせてもらうぞ」

 流れる様に墓荒らし宣言をしてみれば、ゴーレム達は憤慨したのか、一斉に無機質な殺気を放ち、両手を強く握り締める。
 やはりこいつらは、感情も持ち合わせているようだ。なら次の説明を聞けば、すんなりと行動を起こしてくれるだろう。

「そう怒るな、聞け。お前達は、魔力が枯渇してしまった仲間を、ここに連れて来た事はあるか?」

 先に墓荒らしをすると言ってしまったせいで、ゴーレム達は聞き耳を持たず、硬い握り拳に力を込めていく。

「勝手に無いと判断するぞ。その地面の中で死に就いた仲間をここに連れて来れば、蘇る可能性がある」
 
 希望が垣間見える説明を淡々と続けると、ゴーレム達は握り拳を解いて殺気を放つの止め、両手を地面に垂らしていった。呆気に取られているようだな。
 花畑でゴーレムの墓標を見つけた時、場の空気に飲まれてしまっていたが。穴に落ちたゴーレムは、実は死んだ訳じゃない。

 魔力が枯渇して、ただ動けなくなっただけ。石像と化しただけだ。確かゴーレムの体のどこかに、魔力を蓄えられる事が出来る核があるはず。
 その核さえ壊れていなければ、四肢がもげようとも活動自体は可能。もし壊れている場合、魔力を含んだ泉の水をかけても無反応で終わるが。

「なので、森の一番近くに居るゴーレムを地上に出すから、手を挙げた三体、お前達がここまで連れて来い。それで、もし蘇った場合、私がお前達の仲間を全員助けてやる」

 先ほど手を挙げた三体のみならず、他の二体も『本当?』と言わんばかりに小川から出て、私の下まで歩んで来た。
 だんだんとこいつらの細かな仕草で、言いたい事が分かってきた気がする。気がするだけだが。

「まま、もうかえっちゃうの?」

 全くもって現状を把握していないサニーが、私に顔を合わせてあっけらかんと言ってきた。難しい話のせいで、少しも理解出来ていないのだろう。

「違う。これからゴーレムを助けに行く」

「えっ? もうたすけたよ?」

「まだ五十体以上居る。もし一体のゴーレムを助ける事が出来たら、全員助けるんだ」

「ごじゅう……?」

 初めて聞く数字に、サニーが目をきょとんとさせながら首をかしげた。そうだ、サニーはまだ数が数えられないんだった。来年にでも、勉学を教えてやらねば。
 そうなると、私がサニーに教えないといけないのか。いや、ヴェルインに頼む手もある。あいつも多少の知識は持ち合わせているから、暇な時に手伝ってもらおう。

「よし。手を挙げてないゴーレムは、小川に戻ってろ。魔力が全快次第、手を貸してもらう。残りは私に付いて来い」

 指示を出すと、三体のゴーレムが高々と右手を掲げた。やる気に満ちている。そりゃそうだ。もしかしたら、死んだはずの仲間と再会できるかもしれないのだから。
 言ってしまったからには、やるしかない。もう一体助けてしまったんだ。十体も五十体も変わりはしない。
 昔の私だったら、こんな事は絶対にしないだろう。己自ら他者の命を救うだなんて。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...