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19話、意味がある謎の行動
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数分。いや、数十分は空を眺めていただろうか。時の流れすら曖昧になるほど空を仰いでいたら、地面に突いていた手からふと、微振動を感じ取り出した。
最初は気に掛けていなかったが、だんだんと微振動が振動へと変わり、時が経つにつれ大きくなっていく。
流石に無視する事も出来ず、鬱陶しくなってきたので、仕方なく顔を花畑にやった。
右側は異常無し。正面や背後もそう。だが左側に顔を向けてみると、純白の大地には邪魔にさえ感じる、茶色の異物が混ざり込んでいた。
目を細めて確認せずとも、その異物の正体は分かる。予想を立てるまでもなく、異物はゴーレム達だと確信が持てた。
数は五体。先ほどのゴーレム達だろうか? まだ遠くに居るが、徐々にこちらへ向かって来ている。まるで、何か目的を持っている様な足取りで。
サニーはまだ気付いていない。絵を描くのに夢中になっている。そろそろ完成しそうなので、極力邪魔はしないでおこう。
なのでゴーレム達が迫って来ようとも、身動きがまったく取れない状態だ。万が一という事態もあるので、サニーの体に『ふわふわ』をかけておく。
かなり距離を詰められ、それに相まって体が浮く勢いの振動にまでなると、サニーがやっと異変に気付き、画用紙から顔を離した。
そして辺りを見渡し、間近まで迫って来たゴーレム達の姿を目視すると、また会えて嬉しくなったのか、表情をぱあっと明るくさせた。
「わぁ~っ、ごーれむさんだ! ままっ、ごーれむさんがいるよっ!」
「そうだな」
目前まで来ているゴーレム達を見据えながら、適当に言葉を返す私。黙って見続けていると、ゴーレム達は私達を囲み、上以外の逃走経路を遮断させる。
圧倒的な広さを誇っていた空間を狭め、威圧的な圧迫感を与えてくるゴーレム達。
私は五体の立っている場所を全て確認し、いつでも指を鳴らせる様に構えると、目の前に居るゴーレムに顔を合わせた。
「なんの用だ?」
ゴーレムは基本喋る事が出来ないので、こいつの出方次第では一斉に凍らせてやる。サニーが居るので、粉々に砕きまではしないが。
ぶっきらぼうに問い掛けてみると、目の前に居たゴーレムが、左手の平をそっと私達の前に差し伸べる。
敵意も無ければ殺意も無い。まるで乗れと言わんばかりの手だ。私はゴーレムの顔から手の平に視線を移し、再び戻した。
「乗れと?」
合っているのか、ゴーレムが二度頷く。意図がまったく分からない。しかし、私達を襲うつもりが無いのであれば、差し伸べてきたこの手を無下に出来なくなってきた。
「私達を乗せて、一体どうするつもりだ?」
意図が知りたいので、無意味だと思うが追及する。すると、隣に居たゴーレムが自分に指を差し、棒立ちした後。両手を広げて肘を曲げ、元気になった様な恰好をした。
ゴーレムが棒立ちすると、元気になる。その意味がありそうな行動を理解しようとして思案するも、結局は分からず終いで、訳が分からない謎だけが深まっていく。
確か、一体だけ喋れるゴーレムが居たはず。そいつにさえ会れば、この行動の意味するものがすぐに分かるのだが。
「すまない、全然伝わってこないんだが」
腕を組みながらそう告げると、ゴーレムは動作の意味を伝える為か、大袈裟に肩を落とす。
これなら分かる。私が理解していないので、がっかりしているのだろう。たぶん。
だが、今ので友好的である事は理解出来たので、手の平に乗ってみるとするか。
「サニー、この手に乗るぞ。そろそろどいてくれ」
「わかったっ」
やっとサニーが、私の元から離れてくれた。ずっと同じ体勢でいたせいか、両足に未だかつてない痺れを感じる。
足を震わせながら立ち上がり、地面に敷いていた布を中腰で片付け、他の物と一緒に布袋にしまい込む。
そして、ぎこちない足取りで先に手の平に乗り、身をもって安全を確認した後。地面に居るサニーを見下ろした。
「来い」
「わーいっ! ごーれむさんのてだー!」
急にはしゃぎ出したサニーが、ぴょんと飛び乗ってくると、そのまま無防備な私の足に抱きついた。
「あうっ……」
抱きついた衝撃が起爆剤となり、足を襲っている痺れが、何とも言えない震えに変わって全身を駆け巡り、頭の先まで伝わっていく。
サニーに注意しようとする前に、乗っていたゴーレムの手が動き出し、右肩まで移動する。
右肩に着くと手の動きが止まったので、私は真横にまで来たゴーレムの顔を視界に入れた。
「こ、今度は、肩に乗れば、いいのか?」
念の為に問い掛けてみれば、ゴーレムも私に顔を合わせて頷いた。ここで私は、このゴーレムが私達をどこかに連れて行こうとしているのだと予想する。
違うゴーレムの行動から察するに、棒立ちすると元気になる場所へ。そこに私達を連れて行って、一体どうするつもりなのだろうか?
少々興味が湧いてきたので、サニーを足に触らせないよう抱っこし、足の痺れに気を掛けつつ、ゴーレムの肩に腰を下ろす。
すると左手が離れていき、周りに居るゴーレム達が頷くと、来た道とは逆の方角を目指して一斉に歩き出した。
「うわぁ~っ、うごきだしたっ!」
「あうっ、あうっ、あうっ、はうぁっ……」
ゴーレムが一歩歩む度に、景色は激しく上下に揺れ、全身で感じる振動が痺れている足に襲い掛かってきて、情けない声が勝手に漏れ出していく私。
当然サニーにも聞こえているようで、不思議そうにしている顔を私に向けてきては、澄んだ青い瞳をぱちくりとさせた。
「まま、どうしたの?」
「なんでも、あうっ、ない、ふぉっ……。気に、あうっ……、する、にゃっ……」
余計に気になってしまったのか、サニーが首を傾げる。もしかしたら、立っていた方が幾分マシだったかもしれない。
が、立っていれば立っていればで、サニーが足に抱きついてくるだろう。どちらにせよ軽い拷問でしかない。しばらく耐えるとするか。
その内に足の痺れも消え、煩く上下に揺れる景色にも集中出来るだろう。そう覚悟を決めた私は口を力強く紡ぎ、勝手に漏れ出していく声を押し殺した。
最初は気に掛けていなかったが、だんだんと微振動が振動へと変わり、時が経つにつれ大きくなっていく。
流石に無視する事も出来ず、鬱陶しくなってきたので、仕方なく顔を花畑にやった。
右側は異常無し。正面や背後もそう。だが左側に顔を向けてみると、純白の大地には邪魔にさえ感じる、茶色の異物が混ざり込んでいた。
目を細めて確認せずとも、その異物の正体は分かる。予想を立てるまでもなく、異物はゴーレム達だと確信が持てた。
数は五体。先ほどのゴーレム達だろうか? まだ遠くに居るが、徐々にこちらへ向かって来ている。まるで、何か目的を持っている様な足取りで。
サニーはまだ気付いていない。絵を描くのに夢中になっている。そろそろ完成しそうなので、極力邪魔はしないでおこう。
なのでゴーレム達が迫って来ようとも、身動きがまったく取れない状態だ。万が一という事態もあるので、サニーの体に『ふわふわ』をかけておく。
かなり距離を詰められ、それに相まって体が浮く勢いの振動にまでなると、サニーがやっと異変に気付き、画用紙から顔を離した。
そして辺りを見渡し、間近まで迫って来たゴーレム達の姿を目視すると、また会えて嬉しくなったのか、表情をぱあっと明るくさせた。
「わぁ~っ、ごーれむさんだ! ままっ、ごーれむさんがいるよっ!」
「そうだな」
目前まで来ているゴーレム達を見据えながら、適当に言葉を返す私。黙って見続けていると、ゴーレム達は私達を囲み、上以外の逃走経路を遮断させる。
圧倒的な広さを誇っていた空間を狭め、威圧的な圧迫感を与えてくるゴーレム達。
私は五体の立っている場所を全て確認し、いつでも指を鳴らせる様に構えると、目の前に居るゴーレムに顔を合わせた。
「なんの用だ?」
ゴーレムは基本喋る事が出来ないので、こいつの出方次第では一斉に凍らせてやる。サニーが居るので、粉々に砕きまではしないが。
ぶっきらぼうに問い掛けてみると、目の前に居たゴーレムが、左手の平をそっと私達の前に差し伸べる。
敵意も無ければ殺意も無い。まるで乗れと言わんばかりの手だ。私はゴーレムの顔から手の平に視線を移し、再び戻した。
「乗れと?」
合っているのか、ゴーレムが二度頷く。意図がまったく分からない。しかし、私達を襲うつもりが無いのであれば、差し伸べてきたこの手を無下に出来なくなってきた。
「私達を乗せて、一体どうするつもりだ?」
意図が知りたいので、無意味だと思うが追及する。すると、隣に居たゴーレムが自分に指を差し、棒立ちした後。両手を広げて肘を曲げ、元気になった様な恰好をした。
ゴーレムが棒立ちすると、元気になる。その意味がありそうな行動を理解しようとして思案するも、結局は分からず終いで、訳が分からない謎だけが深まっていく。
確か、一体だけ喋れるゴーレムが居たはず。そいつにさえ会れば、この行動の意味するものがすぐに分かるのだが。
「すまない、全然伝わってこないんだが」
腕を組みながらそう告げると、ゴーレムは動作の意味を伝える為か、大袈裟に肩を落とす。
これなら分かる。私が理解していないので、がっかりしているのだろう。たぶん。
だが、今ので友好的である事は理解出来たので、手の平に乗ってみるとするか。
「サニー、この手に乗るぞ。そろそろどいてくれ」
「わかったっ」
やっとサニーが、私の元から離れてくれた。ずっと同じ体勢でいたせいか、両足に未だかつてない痺れを感じる。
足を震わせながら立ち上がり、地面に敷いていた布を中腰で片付け、他の物と一緒に布袋にしまい込む。
そして、ぎこちない足取りで先に手の平に乗り、身をもって安全を確認した後。地面に居るサニーを見下ろした。
「来い」
「わーいっ! ごーれむさんのてだー!」
急にはしゃぎ出したサニーが、ぴょんと飛び乗ってくると、そのまま無防備な私の足に抱きついた。
「あうっ……」
抱きついた衝撃が起爆剤となり、足を襲っている痺れが、何とも言えない震えに変わって全身を駆け巡り、頭の先まで伝わっていく。
サニーに注意しようとする前に、乗っていたゴーレムの手が動き出し、右肩まで移動する。
右肩に着くと手の動きが止まったので、私は真横にまで来たゴーレムの顔を視界に入れた。
「こ、今度は、肩に乗れば、いいのか?」
念の為に問い掛けてみれば、ゴーレムも私に顔を合わせて頷いた。ここで私は、このゴーレムが私達をどこかに連れて行こうとしているのだと予想する。
違うゴーレムの行動から察するに、棒立ちすると元気になる場所へ。そこに私達を連れて行って、一体どうするつもりなのだろうか?
少々興味が湧いてきたので、サニーを足に触らせないよう抱っこし、足の痺れに気を掛けつつ、ゴーレムの肩に腰を下ろす。
すると左手が離れていき、周りに居るゴーレム達が頷くと、来た道とは逆の方角を目指して一斉に歩き出した。
「うわぁ~っ、うごきだしたっ!」
「あうっ、あうっ、あうっ、はうぁっ……」
ゴーレムが一歩歩む度に、景色は激しく上下に揺れ、全身で感じる振動が痺れている足に襲い掛かってきて、情けない声が勝手に漏れ出していく私。
当然サニーにも聞こえているようで、不思議そうにしている顔を私に向けてきては、澄んだ青い瞳をぱちくりとさせた。
「まま、どうしたの?」
「なんでも、あうっ、ない、ふぉっ……。気に、あうっ……、する、にゃっ……」
余計に気になってしまったのか、サニーが首を傾げる。もしかしたら、立っていた方が幾分マシだったかもしれない。
が、立っていれば立っていればで、サニーが足に抱きついてくるだろう。どちらにせよ軽い拷問でしかない。しばらく耐えるとするか。
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