あやかし温泉街、秋国

桜乱捕り

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95話-3、色々なご縁がありますように

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 煩悩まみれな女天狗のクロとぬえは、ぬらりひょんの指示により、常香炉じょうこうろの煙を集中的に頭に浴びせて清め。
 花梨達は、適度な量の煙を集め、全身をゆっくり清めていく。数分して清め終わると、本殿へ向かう為、再び参拝客の流れに乗った。

「そういや、ぬらさん。かえでの神楽って、どこでやってんだ?」

 秋国で、初めて正月を迎えた鵺が、燻製とウィスキーを取り扱った出店を探しながら言う。

「本殿の奥でやっている。中は広いから、立ち止まって見られるぞ」

「へえ、本殿の中でやってんのか。入った事ねえから、どんな内装になってんのか気になんなあ」

「私も妖狐神社で初詣するのは初めてだから、ちょっと楽しみだな」

 ようやく、燻製とウィスキー欲を断ち切れて、気持ちを切り替えられたクロが、豚汁の出店を目で追っていく。

「クロさんも、妖狐神社のお参りが初めてだなんで、意外ですね。毎年どこかに行ってたんですか?」

 同じく、豚汁の出店をガッツリ見ている花梨も、会話に参加した。

「まあな。ちょっとした用があって、正月は現世うつしよに行ってたんだ。その用は去年で終わったから、今年初参加って訳さ」

 毎年、学生時代の花梨と共に正月を迎え、初詣に行っていたなんて明かせるはずもなく。用の内容を濁したクロが、凛とほくそ笑んだ。

「へえ~、そうだったんですね。ならクロさん、今日は一緒に楽しみましょうね!」

「ああ、そうだな。正月は休みを入れてるし、明日以降も存分に遊びたい所だが……。確かお前、三日と四日は空いてないんだよな?」

「えっ? ……ああっ! そ、そうだったや……」

 一月四日に開催される『河童の日』に、主催側で出る花梨は本番に備え。三日に打ち合わせと、全体の流れを通した予行練習があり。
 クロの一言で現実に引き戻された花梨が、途端に元気を無くし、上体が項垂れていった。

「く、クロさん。私の勇姿を、是非見に来て下さいね……」

「もちろんさ。最前列でずっと応援してるから、頑張れよ」

「ううっ、ありがとうございます」

 項垂れた花梨の頭を、クロが優しく撫で始めた中。一行は出店ゾーンを抜け、従業員の妖狐達が、数多の参拝客を誘導している本殿近くまで来た。
 花梨達が居る場所は、中央階段から見てやや右側で、三列一組の列に誘導され。前にぬらりひょん、クロ、鵺。その後ろにゴーニャ、花梨、纏と並んでいく。

「それにしても、すごい数の参拝客ねっ。私達の後ろにも、どんどん並んでいってるわっ」

永秋えいしゅうの他にも、二十を越す温泉旅館があるし、全旅館部屋が埋まってたらしいからなあ。たぶん、数千人以上は居るぜ」

「あふぃぐにふぁいにんふぃ」

 お上りさん気味に辺りを見渡すゴーニャへ、並ぶのに飽きてきた鵺が、纏の顔をプニプニといじりながら説明を挟む。

「数千人っ! すごい人数だわっ。ちなみに、鵺っ。鵺オススメの温泉旅館って、あるのかしら?」

「ん、ブッチギリで永秋」

「ふっふっふっ。そうだろうそうだろう? やはり、秋国を代表する温泉旅館といえば、永秋だよな」

「そこで女将をしてる私も、誇らしい限りです」

 鵺の、あっけらかんとしたさも当然だろうという返しに、さり気なく聞いていたぬらりひょんとクロが、鼻高々と満足気に語る。

「中にある温泉もそうですけど。温泉街の景観を楽しめたり、紅葉の山々を一望出来る露天風呂も最高なんですよね」

「そうそう。飯も美味えし、夜は静かでめちゃくちゃ落ち着くし、居心地が抜群に良いんだよなあ。一生住んでてえわ」

「ああ~、なるほどなあ。お前さんも分かっているじゃないか」

「最早、第二の故郷と言っても過言じゃないですからね。鵺が骨抜きされるのも無理はありません」

 周りの参拝客にも聞こえるよう、永秋の良さについて猛アピールする鵺と花梨に、ぬらりひょんとクロは自分の様に嬉しくなり、鼻がどんどん高くなっていく。
 そのまま、二人の永秋アピールは止まる事を知らず。ゴーニャと纏も参加し出し、周りに居る参拝客の興味を惹いてから、約数分後。
 一行は中央階段へと差し掛かり、一段一段をゆっくりと上っていき、ようやく賽銭箱がある場所まで来るも。
 賽銭箱までとの距離は、まだ遠くにあるようで。背伸びをして、やっと賽銭箱を視認出来た花梨は、自分の番がいつ来てもいいようにと、ポケットから小銭入れを取り出した。

「やっぱお賽銭と言えば、五円玉だよね~」

「ご縁がありますようにってな。私も七枚ぐらい持ってっけど、やっぱあればあるだけいいのか?」

「確か枚数によっては、縁起の悪い語呂合わせとかあった気がするぞ。五円玉が十三枚、つまり六十五円で、ろくなご縁に合わないとかな」

「あと、十円玉は使わない方がいいぞ。遠縁とうえんと読み、ご縁を遠ざけてしまうと言われている。が、五円玉二枚なら大丈夫だ。その時は、重ね重ねご縁がありますようにと意味が変わる。ちなみに七枚は、再三ご縁がありますようにだったはずだ」

 皆も五円玉を用意し出すと、クロとぬらりひょんが知っている語呂合わせを披露し。この場で最もご利益を得られるようになった鵺が、小さくガッツポーズをした。

「よっしゃ! 持っといてよかったぜ。来年は、もっと用意しとこ」

「ねえ、纏っ。五円玉どのぐらい持ってるのかしらっ?」

「三枚ある」

「むう、纏の方が多いわねっ。私は二枚しかないわっ」

 ぬらりひょん達のうんちくを聞き、こぞって五円玉の枚数を確認しては、順位がどんどん移り変わっていく。
 最終的に花梨、クロ、ぬらりひょんが一枚ずつ。ゴーニャが二枚、纏が三枚と続き。七枚の鵺が、圧倒的差を付けて一位になった。

「うっし。今年は、しょっぱなから幸先がいいぜ。このままおみくじでも大吉を引いて、気持ち良く寝よっと」

「そうだ! 鵺さん。どっちがいい運勢を引くか、勝負しましょうよ」

「おっ、面白そうだな。現在、最強のご縁持ち確定の私が、相手してやろうじゃねえか」

 勝負魂に火がつき、小悪党さながらの悪どい笑みを浮かべた二人が、周りに迷惑がかからぬよう小さな火花を散らし出す。

「で? 負けた方はどうするよ?」

「もちろん、お昼か極寒甘味処ごっかんかんみどころの奢りで!」

「上等! パフェの二の舞にしてやらあ。また六万円用意しとけな」

「その言葉、そっくり返してあげますよ。しっかり大吉を引いて、あっと言わせてやりますからね!」

 共に勝つ気でいる二人が、バチが当たりそうな賭けをしている所。そのやり取りを目で追っていたクロが、「なあ」と割って入る。

「その勝負、引き分けた場合はどうするんだ?」

「引き分け? そりゃあ~……、羽子板とかで勝負するか?」

「二回引くわけにもいかないですし、その方がいいかもしれませんね」

 クロの疑問を解消するついでに、次なる勝負を設けるや否や。花梨と鵺の口角が、ニヤリと吊り上がった。

「よお、秋風。負けた方は、分かってんだろうなあ?」

「ええ、もちろんです。超濃い墨、用意しときますぜ?」

 勝負魂が燃え上がり過ぎて、だんだんテンションがおかしくなってきた二人は、いやらしい笑いを発しながら熱い握手を交わす。

「ねえ、纏っ。私達も、その羽子板っていうのやりましょっ」

「いいよ。けど私達は墨無しでやろう」

「なら、ぬらりひょん様。せっかくなので、私達もやりませんか?」

「ワシらもか? まあ、たまには童心に帰るのも悪くはないか。よろしい、相手してやろう」

 各々で話が盛り上がっていき、正月を満遍なく楽しむ流れが出来上がっていくと、分かれていた個々の話が合流し、やがて一纏めになっていく。
 そして、話は絶えぬまま続いていき、一行は賽銭箱がある最前列へと進んで行った。
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