329 / 384
87話-3、思い出深い酒
しおりを挟む
温泉街に提灯の淡い光が灯り、夜闇に包まれようとも活気に満ち溢れている、夜の七時五十分頃。
定食屋付喪で夕食を済ませた花梨一行は、茨木童子の酒天と合流するべく、永秋にある露天風呂の一つ、『秋夜の湯』に向かっていた。
各々着替えとバスタオルを携え、数多の妖怪が行き来する廊下を歩きつつ、牛鬼牧場で食べた物について会話を弾ませていく。
そのまま『健康の湯』、『美の湯』、『泡の湯』を通り過ぎ、突き当たりを左に曲がった矢先。
クロは、目的の『秋夜の湯』に続く入口の前で、邪魔にならぬよう立っている酒天を見つけ。ほぼ同時、酒天も花梨達の姿を認め、大きく手を振ってきた。
「みなさーん、お疲れ様っスー!」
周りの喧騒を跳ね飛ばす酒天の挨拶に、花梨も負けじ手を振り返し、「酒天さーん、お疲れ様でーす!」と喧騒ごと跳ね返しかねない挨拶を交わす。
そのまま『秋夜の湯』の入口まで行くと、酒天は仕事疲れを見せない元気な笑みを、ニッと浮かべた。
「やあ、酒天。待たせてすまなかったな」
「いえいえ。あたしも色々と準備をしてたので、つい今さっき来たばかりっス」
その言葉が嘘ではないと証明するかのように、酒天は体ごと後ろに振り向き、背中に背負っていたリュックサックを見せつける。
「これまたパンパンになってますね」
「ギッチギチだわっ」
「ファスナーが悲鳴上げてる」
「花梨さんのリクエストに、なるべく応えられるよう様々な温度の酒を持ってきたっス。もちろん念を入れて、クロさんのボトルキープも持ってきたっスよ」
「おっ、それは嬉しいな。なら今日は、ちょっと羽目を外しちまうか」
クロ分のボトルキープと聞き、好奇心が湧いてきた花梨が、「へぇ~」と食い気味に反応した。
「クロさん、『居酒屋浴び呑み』でボトルキープをしてるんですね」
「まあな。ぬらりひょん様が、私を想って勧めてきた酒なんだが、これがまた美味くてよ。つい止まらなくなっちまうんだ」
「そうなんですね。ちょっと気になるなぁ」
まだ限度を見極めていない下戸の花梨が、クロお気に入りの酒に興味を持ち始めるも、体を前に戻してリュックサックを背負い直した酒天が、やや難しい顔をする。
「超特濃本醸造酒と度数は変わらないんスけど、とても飲みやすい酒なんでグイグイいけちゃうんスよね」
「げっ。じゃあ、今飲むのはまずいか」
酒天の説明に、一度飲むと歯止めが効かなくなると察したのか。酒天と風呂に入るのが目的であり、酔っ払う為ではないと即座に聞き分け、大人しく諦める花梨。
しかし、一連の会話で妙案を思い付いたクロは、保険を掛けるチャンスだと確信し、皆と脱衣場に向かいながら話を続ける。
「なら花梨。明日、ぬらりひょん様と居酒屋浴び呑みに行く予定なんだが、お前も一緒に来るか?」
「えっ? いいんですか?」
「ああ、むしろお前なら大歓迎さ。ゴーニャと纏も、どうだ? 私が奢ってやるぞ?」
「いいのっ? じゃあ行くわっ!」
「行く」
「みんな、もう行く気満々だね。それじゃあ、私もお邪魔させてもらいますね!」
「分かった。ぬらりひょん様と一緒になって、楽しみにしてるよ」
妹達を蔑ろにする訳にもいかないので、とりあえず全員を誘ったクロは、後は、ぬらりひょん様にも事情を説明して、居酒屋浴び呑みに誘っておかないと。と、今後の流れを頭に組み込んでいく。
薄っすらと湿気を感じる脱衣場に着き、着ていたハイカラな白い和服を脱ぎ始めた酒天が、「クロさん、クロさん」と割って入る。
「んっ、なんだ?」
「実は明日、楓さんと雅さんも十時ぐらいに来る予定なんスよ。それでなんですが、皆さんと合流して大部屋で飲み会を開くなんて、どうっスかね?」
ただ楽しい席を作りたいだけで、よかれと思い提案してきた酒天に、クロは、これは、千載一遇のチャンスじゃないか? と心がざわめき、思わず口角を上げる。
更に、あいつらが居れば、花梨の羽目も外れるだろうし、ここで断る理由は無いな。と心に決め、上げた口角を隠すようにほくそ笑んだ。
「いいな、それ。なら私から、あいつらに言っておくよ」
「本当っスか? ありがとうございます! では、美味しい酒やつまみを、たんまり用意しておきますね」
「用意だけじゃなくて、たまにはお前も参加したらどうだ?」
「えっ? あたしもっスか?」
よもやの誘いに、酒天が獣染みた金色の瞳を丸くさせると、クロは当然のようにコクンと頷いた。
「どうせだ。酒羅凶も誘って、皆でどんちゃん騒ぎをしようぜ」
「わあっ、親分もっスか? いいっスねぇ! 分かりました! 親分には、あたしが言っておくっス!」
「ああ、頼んだ。明日は、久々に酒の席が楽しくなりそうだな」
「そうっスね。今から待ち遠しいっス!」
本当に心待ちにしているようで。酒天が弾けた笑顔になると、隣で耳を傾けていた花梨達に顔をやり、今の話した内容を振り出した。
そして、皆で盛り上がり始めると、やり取りを静かに見ているクロは、ごめんな、花梨。と心の中で謝罪し、罪悪感を覚えながら体にタオルを巻いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
止まぬ会話を交わしつつ、一列に並んで頭や体を洗い終えたクロ達は、『秋夜の湯』に浸かり、ライトアップされた紅葉の山々を眺めていた。
更に夜空では、十三夜月を筆頭に、夜闇を埋め尽くす天然のプラネタリウムが開演しており、目のやり場に困っていた花梨が、長めのため息をついた。
「永秋にあるお風呂は、『地獄の湯』以外全部入ってきたけど。やっぱり『秋夜の湯』が一番いいなぁ~」
「あたしもっスぅ~。とにかく景色が最高なんスよねぇ~」
仕事をしていて体に溜まっていた疲れが、湯に溶け込んでいく感覚を味わっていた酒天は、「さってと!」と気持ちを切り替え、縁に並べていた酒を手に取った。
「風呂といったら、やっぱり熱燗っスよねぇ。はい、クロさんもどうぞっス」
「おっ、ありがとう」
左隣で黄昏ていたクロに、『極白』のラベルが貼られた一升瓶と酒グラスを渡し。右隣でとろけ切った表情で、夜空を仰いでいた花梨の前に、とっくりとおちょこを置いていく酒天。
「花梨さんも、どうぞっス」
「すみません、ありがとうございます」
「中身はもちろん、超特濃本醸造酒っス。熱いので、気を付けて下さいね」
花梨の笑みを認めた酒天が、ニッと微笑み返すと、自分用のおちょこを手に取り、酒を注いでいく。
一足先に、酒天が酒を嗜んで「くぅ~っ!」と唸りを上げている中。花梨は酒をおちょこに注ぎながら、気になっていたクロの酒に注目した。
「クロさん。そのお酒が、ボトルキープしてたお酒ですか?」
「んっ? ああ、そうだ。私にとって、最高の酒さ」
どこかしみじみとしていて、嬉しそうに一升瓶を眺めていたクロが、持っていた酒グラスをゆらゆらと揺らす。
「確か、ぬらりひょん様が勧めてくれたお酒なんですよね?」
「ああ。ぬらりひょん様と二人で飲んでる時、『お前さんの名はクロだが、心はきっと、こんな色をしているはずだ』って言ってきて勧められたんだ。当時の私はまだ幼かったし、とある揉め事の方が付いたばかりだったから、心が震えるほど嬉しくなったよ」
ぬらりひょんから『極白』を勧められた経緯を濁して語ったクロが、酒を少しだけ口にし、凛としていた顔をほころばせる。
色々と気になるワードが出てきたものの。花梨は特に質問を続けず、おちょこに注いだ酒をクイッと飲んだ。
「それじゃあクロさんにとって、そのお酒は思い出深いお酒なんですね」
「まあな。それでだ花梨。お前は、どれぐらい飲む気でいるんだ?」
「私ですか? そうですね~……。とりあえず、皆さんと一緒にお風呂を楽しみたいので、おちょこ三杯分ぐらいに抑えておきます」
「そうか。なら、味わって飲まないとだな」
「はい。大事にチビチビ飲みます」
己の許容量を見極めたい花梨に、柔らかくほくそ笑んだクロは、それぐらいの量じゃ、流石の花梨も酔わないだろうな。と今日は諦め、『秋夜の湯』に身を委ねていく。
そのまま夜空に視線を移し、気持ち良さそうなため息をつくと、明日の飲み会、楽しみだな。と心を弾ませ、思い出深い酒を口にした。
定食屋付喪で夕食を済ませた花梨一行は、茨木童子の酒天と合流するべく、永秋にある露天風呂の一つ、『秋夜の湯』に向かっていた。
各々着替えとバスタオルを携え、数多の妖怪が行き来する廊下を歩きつつ、牛鬼牧場で食べた物について会話を弾ませていく。
そのまま『健康の湯』、『美の湯』、『泡の湯』を通り過ぎ、突き当たりを左に曲がった矢先。
クロは、目的の『秋夜の湯』に続く入口の前で、邪魔にならぬよう立っている酒天を見つけ。ほぼ同時、酒天も花梨達の姿を認め、大きく手を振ってきた。
「みなさーん、お疲れ様っスー!」
周りの喧騒を跳ね飛ばす酒天の挨拶に、花梨も負けじ手を振り返し、「酒天さーん、お疲れ様でーす!」と喧騒ごと跳ね返しかねない挨拶を交わす。
そのまま『秋夜の湯』の入口まで行くと、酒天は仕事疲れを見せない元気な笑みを、ニッと浮かべた。
「やあ、酒天。待たせてすまなかったな」
「いえいえ。あたしも色々と準備をしてたので、つい今さっき来たばかりっス」
その言葉が嘘ではないと証明するかのように、酒天は体ごと後ろに振り向き、背中に背負っていたリュックサックを見せつける。
「これまたパンパンになってますね」
「ギッチギチだわっ」
「ファスナーが悲鳴上げてる」
「花梨さんのリクエストに、なるべく応えられるよう様々な温度の酒を持ってきたっス。もちろん念を入れて、クロさんのボトルキープも持ってきたっスよ」
「おっ、それは嬉しいな。なら今日は、ちょっと羽目を外しちまうか」
クロ分のボトルキープと聞き、好奇心が湧いてきた花梨が、「へぇ~」と食い気味に反応した。
「クロさん、『居酒屋浴び呑み』でボトルキープをしてるんですね」
「まあな。ぬらりひょん様が、私を想って勧めてきた酒なんだが、これがまた美味くてよ。つい止まらなくなっちまうんだ」
「そうなんですね。ちょっと気になるなぁ」
まだ限度を見極めていない下戸の花梨が、クロお気に入りの酒に興味を持ち始めるも、体を前に戻してリュックサックを背負い直した酒天が、やや難しい顔をする。
「超特濃本醸造酒と度数は変わらないんスけど、とても飲みやすい酒なんでグイグイいけちゃうんスよね」
「げっ。じゃあ、今飲むのはまずいか」
酒天の説明に、一度飲むと歯止めが効かなくなると察したのか。酒天と風呂に入るのが目的であり、酔っ払う為ではないと即座に聞き分け、大人しく諦める花梨。
しかし、一連の会話で妙案を思い付いたクロは、保険を掛けるチャンスだと確信し、皆と脱衣場に向かいながら話を続ける。
「なら花梨。明日、ぬらりひょん様と居酒屋浴び呑みに行く予定なんだが、お前も一緒に来るか?」
「えっ? いいんですか?」
「ああ、むしろお前なら大歓迎さ。ゴーニャと纏も、どうだ? 私が奢ってやるぞ?」
「いいのっ? じゃあ行くわっ!」
「行く」
「みんな、もう行く気満々だね。それじゃあ、私もお邪魔させてもらいますね!」
「分かった。ぬらりひょん様と一緒になって、楽しみにしてるよ」
妹達を蔑ろにする訳にもいかないので、とりあえず全員を誘ったクロは、後は、ぬらりひょん様にも事情を説明して、居酒屋浴び呑みに誘っておかないと。と、今後の流れを頭に組み込んでいく。
薄っすらと湿気を感じる脱衣場に着き、着ていたハイカラな白い和服を脱ぎ始めた酒天が、「クロさん、クロさん」と割って入る。
「んっ、なんだ?」
「実は明日、楓さんと雅さんも十時ぐらいに来る予定なんスよ。それでなんですが、皆さんと合流して大部屋で飲み会を開くなんて、どうっスかね?」
ただ楽しい席を作りたいだけで、よかれと思い提案してきた酒天に、クロは、これは、千載一遇のチャンスじゃないか? と心がざわめき、思わず口角を上げる。
更に、あいつらが居れば、花梨の羽目も外れるだろうし、ここで断る理由は無いな。と心に決め、上げた口角を隠すようにほくそ笑んだ。
「いいな、それ。なら私から、あいつらに言っておくよ」
「本当っスか? ありがとうございます! では、美味しい酒やつまみを、たんまり用意しておきますね」
「用意だけじゃなくて、たまにはお前も参加したらどうだ?」
「えっ? あたしもっスか?」
よもやの誘いに、酒天が獣染みた金色の瞳を丸くさせると、クロは当然のようにコクンと頷いた。
「どうせだ。酒羅凶も誘って、皆でどんちゃん騒ぎをしようぜ」
「わあっ、親分もっスか? いいっスねぇ! 分かりました! 親分には、あたしが言っておくっス!」
「ああ、頼んだ。明日は、久々に酒の席が楽しくなりそうだな」
「そうっスね。今から待ち遠しいっス!」
本当に心待ちにしているようで。酒天が弾けた笑顔になると、隣で耳を傾けていた花梨達に顔をやり、今の話した内容を振り出した。
そして、皆で盛り上がり始めると、やり取りを静かに見ているクロは、ごめんな、花梨。と心の中で謝罪し、罪悪感を覚えながら体にタオルを巻いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
止まぬ会話を交わしつつ、一列に並んで頭や体を洗い終えたクロ達は、『秋夜の湯』に浸かり、ライトアップされた紅葉の山々を眺めていた。
更に夜空では、十三夜月を筆頭に、夜闇を埋め尽くす天然のプラネタリウムが開演しており、目のやり場に困っていた花梨が、長めのため息をついた。
「永秋にあるお風呂は、『地獄の湯』以外全部入ってきたけど。やっぱり『秋夜の湯』が一番いいなぁ~」
「あたしもっスぅ~。とにかく景色が最高なんスよねぇ~」
仕事をしていて体に溜まっていた疲れが、湯に溶け込んでいく感覚を味わっていた酒天は、「さってと!」と気持ちを切り替え、縁に並べていた酒を手に取った。
「風呂といったら、やっぱり熱燗っスよねぇ。はい、クロさんもどうぞっス」
「おっ、ありがとう」
左隣で黄昏ていたクロに、『極白』のラベルが貼られた一升瓶と酒グラスを渡し。右隣でとろけ切った表情で、夜空を仰いでいた花梨の前に、とっくりとおちょこを置いていく酒天。
「花梨さんも、どうぞっス」
「すみません、ありがとうございます」
「中身はもちろん、超特濃本醸造酒っス。熱いので、気を付けて下さいね」
花梨の笑みを認めた酒天が、ニッと微笑み返すと、自分用のおちょこを手に取り、酒を注いでいく。
一足先に、酒天が酒を嗜んで「くぅ~っ!」と唸りを上げている中。花梨は酒をおちょこに注ぎながら、気になっていたクロの酒に注目した。
「クロさん。そのお酒が、ボトルキープしてたお酒ですか?」
「んっ? ああ、そうだ。私にとって、最高の酒さ」
どこかしみじみとしていて、嬉しそうに一升瓶を眺めていたクロが、持っていた酒グラスをゆらゆらと揺らす。
「確か、ぬらりひょん様が勧めてくれたお酒なんですよね?」
「ああ。ぬらりひょん様と二人で飲んでる時、『お前さんの名はクロだが、心はきっと、こんな色をしているはずだ』って言ってきて勧められたんだ。当時の私はまだ幼かったし、とある揉め事の方が付いたばかりだったから、心が震えるほど嬉しくなったよ」
ぬらりひょんから『極白』を勧められた経緯を濁して語ったクロが、酒を少しだけ口にし、凛としていた顔をほころばせる。
色々と気になるワードが出てきたものの。花梨は特に質問を続けず、おちょこに注いだ酒をクイッと飲んだ。
「それじゃあクロさんにとって、そのお酒は思い出深いお酒なんですね」
「まあな。それでだ花梨。お前は、どれぐらい飲む気でいるんだ?」
「私ですか? そうですね~……。とりあえず、皆さんと一緒にお風呂を楽しみたいので、おちょこ三杯分ぐらいに抑えておきます」
「そうか。なら、味わって飲まないとだな」
「はい。大事にチビチビ飲みます」
己の許容量を見極めたい花梨に、柔らかくほくそ笑んだクロは、それぐらいの量じゃ、流石の花梨も酔わないだろうな。と今日は諦め、『秋夜の湯』に身を委ねていく。
そのまま夜空に視線を移し、気持ち良さそうなため息をつくと、明日の飲み会、楽しみだな。と心を弾ませ、思い出深い酒を口にした。
1
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鬼の御宿の嫁入り狐
梅野小吹
キャラ文芸
▼2025.2月 書籍 第2巻発売中!
【第6回キャラ文芸大賞/あやかし賞 受賞作】
鬼の一族が棲まう隠れ里には、三つの尾を持つ妖狐の少女が暮らしている。
彼女──縁(より)は、腹部に火傷を負った状態で倒れているところを旅籠屋の次男・琥珀(こはく)によって助けられ、彼が縁を「自分の嫁にする」と宣言したことがきっかけで、羅刹と呼ばれる鬼の一家と共に暮らすようになった。
優しい一家に愛されてすくすくと大きくなった彼女は、天真爛漫な愛らしい乙女へと成長したものの、年頃になるにつれて共に育った琥珀や家族との種族差に疎外感を覚えるようになっていく。
「私だけ、どうして、鬼じゃないんだろう……」
劣等感を抱き、自分が鬼の家族にとって本当に必要な存在なのかと不安を覚える縁。
そんな憂いを抱える中、彼女の元に現れたのは、縁を〝花嫁〟と呼ぶ美しい妖狐の青年で……?
育ててくれた鬼の家族。
自分と同じ妖狐の一族。
腹部に残る火傷痕。
人々が語る『狐の嫁入り』──。
空の隙間から雨が降る時、小さな体に傷を宿して、鬼に嫁入りした少女の話。
真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~
椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」
仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。
料亭『吉浪』に働いて六年。
挫折し、料理を作れなくなってしまった――
結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。
祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて――
初出:2024.5.10~
※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。
狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される
茶柱まちこ
キャラ文芸
雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。
ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。
呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。
神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。
(旧題:『大神様のお気に入り』)
帝都の守護鬼は離縁前提の花嫁を求める
緋村燐
キャラ文芸
家の取り決めにより、五つのころから帝都を守護する鬼の花嫁となっていた櫻井琴子。
十六の年、しきたり通り一度も会ったことのない鬼との離縁の儀に臨む。
鬼の妖力を受けた櫻井の娘は強い異能持ちを産むと重宝されていたため、琴子も異能持ちの華族の家に嫁ぐ予定だったのだが……。
「幾星霜の年月……ずっと待っていた」
離縁するために初めて会った鬼・朱縁は琴子を望み、離縁しないと告げた。
―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》
EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。
歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。
そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。
「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。
あやかし猫の花嫁様
湊祥@書籍13冊発売中
キャラ文芸
アクセサリー作りが趣味の女子大生の茜(あかね)は、二十歳の誕生日にいきなり見知らぬ神秘的なイケメンに求婚される。
常盤(ときわ)と名乗る彼は、実は化け猫の総大将で、過去に婚約した茜が大人になったので迎えに来たのだという。
――え⁉ 婚約って全く身に覚えがないんだけど! 無理!
全力で拒否する茜だったが、全く耳を貸さずに茜を愛でようとする常盤。
そして総大将の元へと頼りに来る化け猫たちの心の問題に、次々と巻き込まれていくことに。
あやかし×アクセサリー×猫
笑いあり涙あり恋愛ありの、ほっこりモフモフストーリー
第3回キャラ文芸大賞にエントリー中です!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる