278 / 384
79話-5、暴走する妄想の新婚生活
しおりを挟む
花梨が黒い羽群を纏い、天狗に変化している最中。雪女の雹華はビデオカメラの前に立ち、その様子をしかと撮っていた。
しばらくすると変化が終わり、花梨の周囲を凄まじいスピードで回っていた黒い羽が、弾けるように辺りへ四散していく。
勢いを失った黒い羽が、ヒラヒラと床へ落ちていき、防音氷の中へ溶けるように消えていった。
その黒い羽が回っていた場所には、黄色い修験装束を身に纏った花梨がおり。広げていた大きな漆黒の翼を、小さく畳んでいく。
既に役が入っているようで。腕を組みつつ、右手に持っていた黒い羽が連なったテングノウチワで、顔を悠々と仰いでいた。
「よーし、変化終わりっ」
「あっはぁ~……。雪女姿の花梨ちゃんも素敵だけども、やっぱり堕天使姿の花梨ちゃんも最強だわぁ~。見ているだけで、どんぶり飯を三杯は食べられそう~。でへへへへへ……」
ビデオカメラに噛みつく勢いで撮り続け、鼻の下をだらしなく伸ばしては、垂れ出した鼻血の距離を伸ばしていく雹華。
「さーてと、喋り方とかはどうしようかな?」
「あっ、はい!!」
花梨が役の設定を考えようとすると、雹華はここぞとばかりに声を張り上げ、右手を高らかに挙げる。
その元気が有り余る声に、花梨は雹華に手をかざし「はい、雹華さん」と言う。
「喋り方と雰囲気はクロちゃんみたいな感じで! 一人称は俺! 性格はちょっと小生意気ながらも、根本的にクールなのが好ましいわっ!」
前から綿密に考えていたようなリクエストを、雹華が饒舌な早口で並べていくと、花梨は口元に指を添え、視線を天井へ滑らせる。
「クロさんみたいな感じで、一人称は俺。小生意気な性格を抜かすと、大体クロさんに近いかな?」
おおよその形が見えてくると、天井を見ていた花梨の視線が雹華へ戻る。
「雹華さん。ちょっとだけ呼び捨てにしてもいいですか?」
「呼び捨て? ああもう、ぜんっぜん大丈夫よっ!」
「ありがとうございます! ではでは」
むしろそうしてくれと聞こえる快諾に、花梨は「んんっ」と喉を慣らし、雰囲気作りから入る為に腕を組み直す。
そのまま目を瞑ると、ほくそ笑むように口角を緩く上げて、瞑っていた目を薄く開けた。
「よう、雹華。今日も元気そうじゃねえか」
「ふぇやっ……!?」
なるべく男性寄りしている花梨の声色と喋り方に、雹華は思わず腑抜けた声を発し、純白の頬を真っ赤に染める。
「う、うん。元気、よ?」
「本当か? なんだか顔が赤いぞ? 風邪でもひいてんじゃねえか? 熱が出てないか確かめてやるから、前髪を上げろ」
「ひゃ、ひゃい……」
自分でリクエストしたのにも関わらず、予想を遥かに上回る破壊力に狼狽える事しか出来ない雹華が、手で前髪を上げ、普段は隠れている右目を露にさせた。
その姿を認めると、花梨は手の平で熱を確かめるのかと思いきや。雹華との距離を詰め、己の額を雹華の額にコツンと当てた。
「ふおっ!? ちょっ……! ちょえゃぁあああーーーーッッ!?」
「あー、やっぱいつもより熱い気がすんな」
「ちょ、ちょふおっ! 花梨ちゃん! タイム、タイムっ!!」
パニックを起こした雹華が、赤く発光した顔を花梨から遠ざけると、慌てて後ろ走りで距離を取る。
その途中で足を取られたのか。元から崩れていた体勢をもっと崩し、床に倒れて滑っていった。
「お、おい雹華、大丈夫か?」
雹華の荒いだタイムという言葉を、あえて無視した花梨が、小走りで未だに滑っている雹華の元へ近づいていく。
ほぼ無意識の内か、それとも自然になのか。回復体位の姿勢で倒れていた雹華の横に着くと、花梨はその場にしゃがみ込んだ。
「雹華、思いっきりぶっ倒れたけど、大丈夫なのか?」
「か、花梨ちゃん……。一旦、その役をやめて……、ちょうだい……。あ、あまりにも刺激が強すぎて、溶けちゃいそう……」
絞り出すように、甘い吐息を吐いている雹華がそう言うと、顔から湯気のような白い煙が昇り出した。
花梨が顔を覗いてみると、既に鼻血を凍らした後のようで。両鼻には真紅のツララが生えており、瞳の焦点は定まっておらず、グルグルと回っていた。
「す、すみません。少し調子に乗り過ぎちゃいました」
「でも、今の男性的魅力が強い花梨ちゃん、どストライクだったわぁ~……。結婚しろってせがまれたら、刹那で楓ちゃんの所にすっ飛んでいくかもぉ……」
「それは、ちょっと……」
「もし抱くぞって言われたら、喜んで服を脱ぐわ……」
「雹華さん、一回落ち着きましょう? ねっ?」
危なげな妄想をされる前に、まずは冷却にと、テングノウチワで雹華の赤く茹だった顔を仰ぐ花梨。
が、先を越されてしまったのか。鼻の下が真紅のツララよりも長く伸び、恍惚が極まった顔でニヤけ出した雹華が、「家は、新築の一軒家がいいわよねぇ~。ウェッヘヘヘへへ……」と妄想の内容を口走る。
「雹華さ~ん、そろそろ帰ってきて下さ~い」
「あらぁ。おかえりなさい、花梨ちゃん。いえ、あなたっ。ご飯にするぅ? お風呂にするぅ? それとも、わ・た・ぶふおっ!?」
新婚ホヤホヤのセリフを言わせまいと、花梨はテングノウチワを気持ち強めに仰ぎ、妄想ごと吹き飛ばす突風を雹華の顔に浴びせる。
今の一撃で桃色の妄想が全て消し飛び、顔もすっかりと冷却されると、雹華は「はっ!?」と声を上げ、丸くさせてる目を花梨に合わせた。
「あら、あなた? もうお風呂から上がったの?」
「雹華さん? 撮影会をやらなくていいんですか?」
まるで話を合わせようとはしない花梨の催促に、きょとんした雹華が辺りを見渡していく。
「あっ、そうだったわね。妄想に勤しんでいる場合じゃなかったわ。それじゃあ……、あら?」
上体を起こして女座りをした雹華が、膝に手を添えて立とうとする。しかし、そこから腰が上がる様子はなく、雹華は何度も「あら? えっ?」と困惑気味に声を漏らしていった。
「どうしたんですか?」
「どうやら、腰が抜けちゃったみたいで……。立てなくなっちゃった、かも」
「えっ、本当に言ってます?」
顔だけは立とうという意志を見せているものの。尻は地面の氷に張りついたようにビクともせず、ただただ腕を伸ばす事しか出来なかった。
「……花梨ちゃん。一旦、休憩しない?」
「どうやら、本当にダメみたいですね。なら、そうしましょうか」
元はと言えば、自分も調子に乗り過ぎた事も原因だと思った花梨は、軽い罪悪感に駆られながら雹華の横につく。
風切羽を傷つけぬよう座り込むと、雹華を暇にさせぬよう適当に話を持ち出し、明るい笑い声をスタッフルーム内に響かせていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
極寒甘味処を貸し切りで使えると知り、更に全品無料で食べられる状態のゴーニャと座敷童子の纏が、席に着いてから一時間が経過した頃。
ゴーニャは、メロンクリームソーダに舌鼓を打ち。纏は、十九杯目の超特大おしるこを飲み続けていた。
その圧巻とした飲みっぷりにも関わらず、五人の雪女達は慣れた様子で窺っており、一人の雪女が柔らかく苦笑いを浮かべる。
「この調子だと、小豆の在庫が無くなっちゃうかもね」
「ねー。確か、一回だけ無くなったんだよね」
「そうそう。あの時は閉店間際だったけど、全員で唖然としてたよ」
雑談を交え出した雪女をよそに、ごきゅっごきゅっと、豪快な音を立てて飲んでいた纏がおしるこを完飲し、「ぷはぁ」と呼吸を挟む。
「おかわり」
「分かりました、少々お待ち下さい」
纏が二十杯目のおかわりを頼むと、平然としている雪女が専用の特大器を貰い、厨房がある店の奥へ歩いていく。
その様を、口周りに溶けたバニラアイスのヒゲを生やしたゴーニャが目で追うと、レジに視線を移し、「けぷっ」とゲップをしている纏に顔を戻した。
「花梨達、遅いわね」
「何やってるんだろうね」
ゴーニャの言葉に反応した纏が、あんダンゴを口に運ぶ。
「秋風さん達は、今日一日スタッフルームから出て来ない予定ですので、会えるとしたら夕方過ぎになるかもです」
二人が持っていた疑問を解消するべく、事情を知っている雪女が説明を挟むと、ゴーニャと纏が顔を見合わせた後、雪女へ顔を移していく。
「花梨達は、いったい何をやってるのかしら?」
「とりあえず、お仕事とだけ」
雹華の業が深いわがままにより、二人だけで撮影会をしているとは言えるはずもなく。
嘘の説明を真に受けたゴーニャが「そうなのね」と言い、背もたれに寄りかかった。
「それじゃあ、邪魔するワケにもいかないわね」
「何をしてるのか気になる」
ダンゴも食べ終えた纏が、大きなどら焼きをもそっと齧る。
「企業秘密ですので、お答えする事が出来ません。ご了承下さい」
「むう、なら仕方ない」
ようやく詮索を止めた纏も、おはぎを口にしつつ背もたれに寄りかかった。
「きっと、メニューの開発とかじゃないかしら?」
「それか撮影とか」
きんつば焼きを持った纏の的を得た発言に、雪女達が体に小さな波を立たせる。
「あっ、ありそうっ! そうだ、すごいのよ花梨ったら。少し前の話なんだけども、いつの間にか雪女に変化してて、背後からツララをバーッて飛ばしてたのよっ!」
「なにそれ初耳。詳しく」
「いいわよ。あれは確か、花梨が初めてここで働いた時だったんだけど―――」
あんころ餅を食べ出した纏の食い気味な催促に、ゴーニャも嬉々としながら語り出す。
が、雪女達にはあまり触れてほしくない話題だったらしく。気が気でない雪女達をよそに、ゴーニャの楽しそうにしている語りは続いていった。
しばらくすると変化が終わり、花梨の周囲を凄まじいスピードで回っていた黒い羽が、弾けるように辺りへ四散していく。
勢いを失った黒い羽が、ヒラヒラと床へ落ちていき、防音氷の中へ溶けるように消えていった。
その黒い羽が回っていた場所には、黄色い修験装束を身に纏った花梨がおり。広げていた大きな漆黒の翼を、小さく畳んでいく。
既に役が入っているようで。腕を組みつつ、右手に持っていた黒い羽が連なったテングノウチワで、顔を悠々と仰いでいた。
「よーし、変化終わりっ」
「あっはぁ~……。雪女姿の花梨ちゃんも素敵だけども、やっぱり堕天使姿の花梨ちゃんも最強だわぁ~。見ているだけで、どんぶり飯を三杯は食べられそう~。でへへへへへ……」
ビデオカメラに噛みつく勢いで撮り続け、鼻の下をだらしなく伸ばしては、垂れ出した鼻血の距離を伸ばしていく雹華。
「さーてと、喋り方とかはどうしようかな?」
「あっ、はい!!」
花梨が役の設定を考えようとすると、雹華はここぞとばかりに声を張り上げ、右手を高らかに挙げる。
その元気が有り余る声に、花梨は雹華に手をかざし「はい、雹華さん」と言う。
「喋り方と雰囲気はクロちゃんみたいな感じで! 一人称は俺! 性格はちょっと小生意気ながらも、根本的にクールなのが好ましいわっ!」
前から綿密に考えていたようなリクエストを、雹華が饒舌な早口で並べていくと、花梨は口元に指を添え、視線を天井へ滑らせる。
「クロさんみたいな感じで、一人称は俺。小生意気な性格を抜かすと、大体クロさんに近いかな?」
おおよその形が見えてくると、天井を見ていた花梨の視線が雹華へ戻る。
「雹華さん。ちょっとだけ呼び捨てにしてもいいですか?」
「呼び捨て? ああもう、ぜんっぜん大丈夫よっ!」
「ありがとうございます! ではでは」
むしろそうしてくれと聞こえる快諾に、花梨は「んんっ」と喉を慣らし、雰囲気作りから入る為に腕を組み直す。
そのまま目を瞑ると、ほくそ笑むように口角を緩く上げて、瞑っていた目を薄く開けた。
「よう、雹華。今日も元気そうじゃねえか」
「ふぇやっ……!?」
なるべく男性寄りしている花梨の声色と喋り方に、雹華は思わず腑抜けた声を発し、純白の頬を真っ赤に染める。
「う、うん。元気、よ?」
「本当か? なんだか顔が赤いぞ? 風邪でもひいてんじゃねえか? 熱が出てないか確かめてやるから、前髪を上げろ」
「ひゃ、ひゃい……」
自分でリクエストしたのにも関わらず、予想を遥かに上回る破壊力に狼狽える事しか出来ない雹華が、手で前髪を上げ、普段は隠れている右目を露にさせた。
その姿を認めると、花梨は手の平で熱を確かめるのかと思いきや。雹華との距離を詰め、己の額を雹華の額にコツンと当てた。
「ふおっ!? ちょっ……! ちょえゃぁあああーーーーッッ!?」
「あー、やっぱいつもより熱い気がすんな」
「ちょ、ちょふおっ! 花梨ちゃん! タイム、タイムっ!!」
パニックを起こした雹華が、赤く発光した顔を花梨から遠ざけると、慌てて後ろ走りで距離を取る。
その途中で足を取られたのか。元から崩れていた体勢をもっと崩し、床に倒れて滑っていった。
「お、おい雹華、大丈夫か?」
雹華の荒いだタイムという言葉を、あえて無視した花梨が、小走りで未だに滑っている雹華の元へ近づいていく。
ほぼ無意識の内か、それとも自然になのか。回復体位の姿勢で倒れていた雹華の横に着くと、花梨はその場にしゃがみ込んだ。
「雹華、思いっきりぶっ倒れたけど、大丈夫なのか?」
「か、花梨ちゃん……。一旦、その役をやめて……、ちょうだい……。あ、あまりにも刺激が強すぎて、溶けちゃいそう……」
絞り出すように、甘い吐息を吐いている雹華がそう言うと、顔から湯気のような白い煙が昇り出した。
花梨が顔を覗いてみると、既に鼻血を凍らした後のようで。両鼻には真紅のツララが生えており、瞳の焦点は定まっておらず、グルグルと回っていた。
「す、すみません。少し調子に乗り過ぎちゃいました」
「でも、今の男性的魅力が強い花梨ちゃん、どストライクだったわぁ~……。結婚しろってせがまれたら、刹那で楓ちゃんの所にすっ飛んでいくかもぉ……」
「それは、ちょっと……」
「もし抱くぞって言われたら、喜んで服を脱ぐわ……」
「雹華さん、一回落ち着きましょう? ねっ?」
危なげな妄想をされる前に、まずは冷却にと、テングノウチワで雹華の赤く茹だった顔を仰ぐ花梨。
が、先を越されてしまったのか。鼻の下が真紅のツララよりも長く伸び、恍惚が極まった顔でニヤけ出した雹華が、「家は、新築の一軒家がいいわよねぇ~。ウェッヘヘヘへへ……」と妄想の内容を口走る。
「雹華さ~ん、そろそろ帰ってきて下さ~い」
「あらぁ。おかえりなさい、花梨ちゃん。いえ、あなたっ。ご飯にするぅ? お風呂にするぅ? それとも、わ・た・ぶふおっ!?」
新婚ホヤホヤのセリフを言わせまいと、花梨はテングノウチワを気持ち強めに仰ぎ、妄想ごと吹き飛ばす突風を雹華の顔に浴びせる。
今の一撃で桃色の妄想が全て消し飛び、顔もすっかりと冷却されると、雹華は「はっ!?」と声を上げ、丸くさせてる目を花梨に合わせた。
「あら、あなた? もうお風呂から上がったの?」
「雹華さん? 撮影会をやらなくていいんですか?」
まるで話を合わせようとはしない花梨の催促に、きょとんした雹華が辺りを見渡していく。
「あっ、そうだったわね。妄想に勤しんでいる場合じゃなかったわ。それじゃあ……、あら?」
上体を起こして女座りをした雹華が、膝に手を添えて立とうとする。しかし、そこから腰が上がる様子はなく、雹華は何度も「あら? えっ?」と困惑気味に声を漏らしていった。
「どうしたんですか?」
「どうやら、腰が抜けちゃったみたいで……。立てなくなっちゃった、かも」
「えっ、本当に言ってます?」
顔だけは立とうという意志を見せているものの。尻は地面の氷に張りついたようにビクともせず、ただただ腕を伸ばす事しか出来なかった。
「……花梨ちゃん。一旦、休憩しない?」
「どうやら、本当にダメみたいですね。なら、そうしましょうか」
元はと言えば、自分も調子に乗り過ぎた事も原因だと思った花梨は、軽い罪悪感に駆られながら雹華の横につく。
風切羽を傷つけぬよう座り込むと、雹華を暇にさせぬよう適当に話を持ち出し、明るい笑い声をスタッフルーム内に響かせていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
極寒甘味処を貸し切りで使えると知り、更に全品無料で食べられる状態のゴーニャと座敷童子の纏が、席に着いてから一時間が経過した頃。
ゴーニャは、メロンクリームソーダに舌鼓を打ち。纏は、十九杯目の超特大おしるこを飲み続けていた。
その圧巻とした飲みっぷりにも関わらず、五人の雪女達は慣れた様子で窺っており、一人の雪女が柔らかく苦笑いを浮かべる。
「この調子だと、小豆の在庫が無くなっちゃうかもね」
「ねー。確か、一回だけ無くなったんだよね」
「そうそう。あの時は閉店間際だったけど、全員で唖然としてたよ」
雑談を交え出した雪女をよそに、ごきゅっごきゅっと、豪快な音を立てて飲んでいた纏がおしるこを完飲し、「ぷはぁ」と呼吸を挟む。
「おかわり」
「分かりました、少々お待ち下さい」
纏が二十杯目のおかわりを頼むと、平然としている雪女が専用の特大器を貰い、厨房がある店の奥へ歩いていく。
その様を、口周りに溶けたバニラアイスのヒゲを生やしたゴーニャが目で追うと、レジに視線を移し、「けぷっ」とゲップをしている纏に顔を戻した。
「花梨達、遅いわね」
「何やってるんだろうね」
ゴーニャの言葉に反応した纏が、あんダンゴを口に運ぶ。
「秋風さん達は、今日一日スタッフルームから出て来ない予定ですので、会えるとしたら夕方過ぎになるかもです」
二人が持っていた疑問を解消するべく、事情を知っている雪女が説明を挟むと、ゴーニャと纏が顔を見合わせた後、雪女へ顔を移していく。
「花梨達は、いったい何をやってるのかしら?」
「とりあえず、お仕事とだけ」
雹華の業が深いわがままにより、二人だけで撮影会をしているとは言えるはずもなく。
嘘の説明を真に受けたゴーニャが「そうなのね」と言い、背もたれに寄りかかった。
「それじゃあ、邪魔するワケにもいかないわね」
「何をしてるのか気になる」
ダンゴも食べ終えた纏が、大きなどら焼きをもそっと齧る。
「企業秘密ですので、お答えする事が出来ません。ご了承下さい」
「むう、なら仕方ない」
ようやく詮索を止めた纏も、おはぎを口にしつつ背もたれに寄りかかった。
「きっと、メニューの開発とかじゃないかしら?」
「それか撮影とか」
きんつば焼きを持った纏の的を得た発言に、雪女達が体に小さな波を立たせる。
「あっ、ありそうっ! そうだ、すごいのよ花梨ったら。少し前の話なんだけども、いつの間にか雪女に変化してて、背後からツララをバーッて飛ばしてたのよっ!」
「なにそれ初耳。詳しく」
「いいわよ。あれは確か、花梨が初めてここで働いた時だったんだけど―――」
あんころ餅を食べ出した纏の食い気味な催促に、ゴーニャも嬉々としながら語り出す。
が、雪女達にはあまり触れてほしくない話題だったらしく。気が気でない雪女達をよそに、ゴーニャの楽しそうにしている語りは続いていった。
1
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち
鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。
心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。
悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。
辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。
それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。
社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ!
食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて……
神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】生贄娘と呪われ神の契約婚
乙原ゆん
キャラ文芸
生け贄として崖に身を投じた少女は、呪われし神の伴侶となる――。
二年前から不作が続く村のため、自ら志願し生け贄となった香世。
しかし、守り神の姿は言い伝えられているものとは違い、黒い子犬の姿だった。
生け贄など不要という子犬――白麗は、香世に、残念ながら今の自分に村を救う力はないと告げる。
それでも諦められない香世に、白麗は契約結婚を提案するが――。
これは、契約で神の妻となった香世が、亡き父に教わった薬草茶で夫となった神を救い、本当の意味で夫婦となる物語。

後宮浄魔伝~視える皇帝と浄魔の妃~
二位関りをん
キャラ文芸
桃玉は10歳の時に両親を失い、おじ夫妻の元で育った。桃玉にはあやかしを癒やし、浄化する能力があったが、あやかしが視えないので能力に気がついていなかった。
しかし桃玉が20歳になった時、村で人間があやかしに殺される事件が起き、桃玉は事件を治める為の生贄に選ばれてしまった。そんな生贄に捧げられる桃玉を救ったのは若き皇帝・龍環。
桃玉にはあやかしを祓う力があり、更に龍環は自身にはあやかしが視える能力があると伝える。
「俺と組んで後宮に蔓延る悪しきあやかしを浄化してほしいんだ」
こうして2人はある契約を結び、九嬪の1つである昭容の位で後宮入りした桃玉は龍環と共にあやかし祓いに取り組む日が始まったのだった。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる