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71話-4、分け隔てのない関係
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唐突に言われた弟子という設定のせいで、大きな不安と緊張感を胸に抱きつつ、受付から出た花梨とゴーニャは、女天狗のクロの横に並び、顔を正面に持っていく。
目線の先には、今日一日下に付いてくれるであろう女天狗が八人おり、全員が全員、花梨達に期待の眼差しを向けていた。
花梨とゴーニャが目のやり場に困り、黒い瞳をキョロキョロと泳がせている中。クロは腕を組み、凛とした表情を保ったまま微笑んだ。
「よお、お前ら。おはようさん。今日はまた早く来たな」
仲間ともあってか親し気に挨拶をすると、女天狗達は「おはようございます、クロさん!」と声を綺麗に揃えて挨拶を返し、頭を下げる。
そしてすぐに頭を上げると、待ちきれない様子で、我も我もと喋り出す。
「そりゃあそうですよ。クロさんの弟子様が見たくて、いつもより早く起きましたからね」
「クロさんクロさん、この方々がそうなんですか?」
「やっぱりクロさんの弟子様ともあってか、強者のオーラをひしひしと感じる……」
「とんでもなく強いんだろうなぁ……」
八人が一斉に喋っているせいで、会話の内容が何一つとして頭に入ってこないクロが、「おいおい、聞き取れないから一人ずつ喋れ」と軽く一蹴し、花梨達に顔をやる。
「花梨、ゴーニャ、こいつらがさっき言った私の仲間達だ。お前らも自己紹介してやれ」
「は、はいっ。分かりました」
「わ、わかったわっ」
緊張しているせいで、姉妹はやや甲高くて震えた声で返事をすると、一旦目を瞑って深呼吸し、固くなっている気持ちを和らげてから目を開いた。
「初めまして! クロさんにいっぱい鍛えられています、秋風 花梨といいます! 今日一日よろしくお願いします!」
「あ、秋風 ゴーニャですっ! 今日一日、よろしくお願いしますっ!」
第一印象を悪くしないようハキハキとした声で自己紹介を終え、深々と頭を下げる姉妹。
数秒置いてから頭を上げると、離れて立っていたハズの女天狗達が目の間に居て、目を輝かせながら更に距離を詰めてきていた。
不意の出来事に、花梨は「ぬおっ!?」と声を上げて一歩後退るも、四人の女天狗に囲まれてしまい逃げ場を失う。
「よろしくお願いします! あの、普段はどんな修行をしてるんですか!?」
「やっぱり修行中のクロさんって、すごく厳しいんですか!?」
「お願いがあります! テングノウチワを振ってみて下さい!」
「あのクロさんが弟子にする程のお方……。あの、握手して下さい!」
「えあっ、ちょ……。あのっ、そのっ……!」
四方から飛び交ってくる怒涛の質問攻めにたじろぎ、首をひっきりなしに動かし、一人ではどうにもならないと悟ったのか、ゴーニャに助けを求めるべく視線を送る。
しかし隣では、同じく女天狗達が逃がさまいとゴーニャを囲っており、許可を得つつ、柔らかい頬をプニプニと触っていた。
助け舟も四面楚歌状態であり、質問が絶え間なく積み重なっていく壁に閉じ込められていくと、呆れ返ったクロが、全員を我に返そうとして手を二度叩く。
「はいはい、弟子達が困ってるだろ? 質問は各々一人ずつやれ」
クロの静かな鶴の一声により、女天狗達は頬を赤らめながらハッとした表情になると、そそくさと前に居た位置に戻っていった。
我に返ったものの、未だに興奮が止まないでいる女天狗達が、標的をほくそ笑んでいるクロに変える。
「ずるいですよクロさん。あたし達も愛弟子にして下さい!」
「そうだそうだー!」
「なんなら、私はクロさんの右腕になりたいです!」
「それなら私を左腕に!」
偽りの弟子である花梨達を羨ましく思ったのか。女天狗達がやいのやいのと欲望を叫び上げるも、クロはこの現状に慣れた様子でいて、口角をいやらしく上げた。
「よーし。そこまで言うなら、長を代わってくれた奴を私の弟子にしてやろう。誰かやりたい奴はいるか?」
ねっとりとした口調で破格の案を出すも、誰一人として名乗る者はおらず、全員がクロから目を背け、そっぽを向く。
流石にその反応には気に食わなかったようで。クロは左端に居る女天狗の元へ歩いていき、両頬を摘んで引っ張り始めた。
「なーんでいっつも、これだけには無反応なんだあ? コラ」
「やだぁ~……。おざだけにばなりだくない~……。グロざんどばなれだぐないよぉ~……、アイダダダダ……」
傍から見ると痛々しい光景ではあるものの。微笑ましさも垣間見えるやり取りに、自由の身となった花梨が「あっははは……」と苦笑いし、ふわっと笑う。
「皆さん方、クロさんととても仲良しなんですね」
花梨の本音が混じった呟きに、クロは頬を引っ張るのを止め、振り向きざまに女天狗の頭に手をポスンと置いた。
「まあな。こいつらは部下ではなく、私の仲間だ。友達や親友に近い関係とも言える。遠慮されたり気を使われるのも嫌だしな。これぐらいが丁度いいのさ」
恥ずかし気もなく関係を明かすと、クロは手を動かして頭を撫で始める。すると女天狗は、嬉しかったのかにんまりと笑い、「ですです」と相槌を打つ。
「クロさんは長様ですが、すっごく優しくて、半人前のあたし達でも分け隔てなく接してくれる、とても頼もしくてカッコイイお方なんですよ」
「調子いい事言いやがって。初めて私と出会った時、私に怯えて泣いてたくせによお」
「ぎゃっ!? ちょっ、弟子様の前で言わないで下さいよ! そんな事を言ったら、大体の人が泣いてるじゃないですか!」
クロが悪どい笑みを浮かべつつ、女天狗にとって恥ずかしい話を暴露すると、他の女天狗達もほろ苦い過去を思い出したのか、顔をヒクつかせていく。
「あったな~、そんな事。私も最初は怖くて、ビクビクしてたもん」
「私なんか前日から泣いちゃってて、枕を濡らしてたよね……」
「長様っていう響きだけで、勝手に怖い人だって想像しちゃうもんねー。弟子様方は、どうでしたか?」
各々が晒してきた醜態に思いふけていると、一人の女天狗が、蚊帳の外に持って行かれていた姉妹に話を振る。
すると、他の女天狗達も途端に視線を姉妹達に向け、早く当時の出会いを明かしてほしいと言わんばかりに、耳を傾けていく。
再び目のやり場に困り、不本意に注目を集められてしまった花梨は、視線を天井に持っていきながら頬をポリポリと掻き、「え~っと……」と言う。
「私は~、その~……。初めてクロさんに出会った時は、長様だった事を知らなかったので、特に恐怖心とかは無かったですね」
「私もっ。特に怖いとは思わなかったわっ」
姉妹がただ心の中で思った事を口にするも、じりじりとにじり寄って来ていた女天狗達は、「おお~っ……」と感銘のこもった声を漏らす。
同時に深い敬畏の念を全員が抱き、生唾をゴクリと飲み込む者や、手の甲で顎に滴ってきた汗を拭う者。
両手を握り合い、震え出した体を落ち着かせようとし、その体を寄せ合う者達など、様々な反応を見せた。
「や、やはりクロさんが認めた方々……。根っこの部分からあたし達と何かが違う……!」
「一体どれだけの修羅場を潜り抜ければ、あんな凄まじい胆力が身に付くんだろう……?」
「やっぱり、とんでもなく強いんだろうなぁ……」
「……よしっ!」
敬畏や畏怖の念に取り込まれ、七人の女天狗が姉妹に戦慄していると、とある覚悟を決めた一人の女天狗が、躍起気味に花梨の元へと近づいていく。
そして、女天狗達の反応に困惑している花梨の前まで来ると、浅い呼吸をしながら頭を深く下げ、怖じ気付いている右手を差し伸べた。
「お願いします弟子様! 握手して下さいっ!」
「あ、握手、ですか?」
予想だにしていなかった女天狗の行動に、花梨は抜けた声で返答し、ワケの分からぬまま困惑が増していく。
「はいっ! 出来れば長くお願いしますっ!」
「はあ、私なんかでよければ―――」
「あっ、一人だけ抜け駆けはずるいよ! 弟子様、あたしもお願いします!」
「わ、私も!」
「へっ?」
一人の女天狗の願いを聞いてしまったせいか。未だに恐怖心の方が勝っているものの、羨ましいと切に思った女天狗達も、我が先にと前に並んでいく。
様変わりする女天狗達の心境に、とうとう着いて行けなくなった花梨は、一人目の女天狗と固い握手をかわしつつ、呆気に取られている目を、すぐ隣まで来たクロへと向ける。
そのまま、顔をクロの耳元まで寄せ、ボソボソと喋り出した。
「あの、クロさん……。皆さん方を騙しているようで、心が痛いんですが……」
「じゃあ、本当の師弟になるか? 私はいつでも大歓迎だぞ」
「いや、なるんでしたら……。やっぱ、まだいいです」
何か別の事を言いかけようよするも、慌てて口を閉ざした花梨に、不思議に思ったクロが首を傾げる。
「なんだ? 勿体振らずに言ってみろよ」
「ここで言うのは恥ずかしいので、夜にでも……」
「ん~……。そうか、分かった。じゃあ夜になったら―――」
花梨の隠している物が気になるも、夜になれば分かると自分に言い聞かせたクロが、今聞くのは諦めようとした途端。
前方から別の女天狗が、「クロー。開店三十分前だから、そろそろ準備した方がいいよー」と手を振りながら告げてきて、その報告を耳にしたクロが「なにぃっ!?」と驚き、時計に目をやった。
「げっ、もう七時半か! 教えたい事がまだ山ほどあったんだが……、仕方ない。おいお前ら、そろそろ準備するぞ」
「嘘ぉっ!? もうそんな時間なんですか!?」
「私、まだ弟子様と握手してないのにー……」
「私もー」
開店時間が迫るも、姉妹と握手出来ていない女天狗達が文句を垂れるも、クロは「後にしろ、後に」とバッサリ切る。
「花梨、ゴーニャ、すまん。少々おふざけが過ぎた。予定を変更するから、ちょっと待っててくれ」
「分かりました」
「わかったわっ」
クロが姉妹に向かい、両手を合わせて申し訳なさそうな表情で謝ると、開店の準備を始める為に、一度受付の中へ入っていった。
目線の先には、今日一日下に付いてくれるであろう女天狗が八人おり、全員が全員、花梨達に期待の眼差しを向けていた。
花梨とゴーニャが目のやり場に困り、黒い瞳をキョロキョロと泳がせている中。クロは腕を組み、凛とした表情を保ったまま微笑んだ。
「よお、お前ら。おはようさん。今日はまた早く来たな」
仲間ともあってか親し気に挨拶をすると、女天狗達は「おはようございます、クロさん!」と声を綺麗に揃えて挨拶を返し、頭を下げる。
そしてすぐに頭を上げると、待ちきれない様子で、我も我もと喋り出す。
「そりゃあそうですよ。クロさんの弟子様が見たくて、いつもより早く起きましたからね」
「クロさんクロさん、この方々がそうなんですか?」
「やっぱりクロさんの弟子様ともあってか、強者のオーラをひしひしと感じる……」
「とんでもなく強いんだろうなぁ……」
八人が一斉に喋っているせいで、会話の内容が何一つとして頭に入ってこないクロが、「おいおい、聞き取れないから一人ずつ喋れ」と軽く一蹴し、花梨達に顔をやる。
「花梨、ゴーニャ、こいつらがさっき言った私の仲間達だ。お前らも自己紹介してやれ」
「は、はいっ。分かりました」
「わ、わかったわっ」
緊張しているせいで、姉妹はやや甲高くて震えた声で返事をすると、一旦目を瞑って深呼吸し、固くなっている気持ちを和らげてから目を開いた。
「初めまして! クロさんにいっぱい鍛えられています、秋風 花梨といいます! 今日一日よろしくお願いします!」
「あ、秋風 ゴーニャですっ! 今日一日、よろしくお願いしますっ!」
第一印象を悪くしないようハキハキとした声で自己紹介を終え、深々と頭を下げる姉妹。
数秒置いてから頭を上げると、離れて立っていたハズの女天狗達が目の間に居て、目を輝かせながら更に距離を詰めてきていた。
不意の出来事に、花梨は「ぬおっ!?」と声を上げて一歩後退るも、四人の女天狗に囲まれてしまい逃げ場を失う。
「よろしくお願いします! あの、普段はどんな修行をしてるんですか!?」
「やっぱり修行中のクロさんって、すごく厳しいんですか!?」
「お願いがあります! テングノウチワを振ってみて下さい!」
「あのクロさんが弟子にする程のお方……。あの、握手して下さい!」
「えあっ、ちょ……。あのっ、そのっ……!」
四方から飛び交ってくる怒涛の質問攻めにたじろぎ、首をひっきりなしに動かし、一人ではどうにもならないと悟ったのか、ゴーニャに助けを求めるべく視線を送る。
しかし隣では、同じく女天狗達が逃がさまいとゴーニャを囲っており、許可を得つつ、柔らかい頬をプニプニと触っていた。
助け舟も四面楚歌状態であり、質問が絶え間なく積み重なっていく壁に閉じ込められていくと、呆れ返ったクロが、全員を我に返そうとして手を二度叩く。
「はいはい、弟子達が困ってるだろ? 質問は各々一人ずつやれ」
クロの静かな鶴の一声により、女天狗達は頬を赤らめながらハッとした表情になると、そそくさと前に居た位置に戻っていった。
我に返ったものの、未だに興奮が止まないでいる女天狗達が、標的をほくそ笑んでいるクロに変える。
「ずるいですよクロさん。あたし達も愛弟子にして下さい!」
「そうだそうだー!」
「なんなら、私はクロさんの右腕になりたいです!」
「それなら私を左腕に!」
偽りの弟子である花梨達を羨ましく思ったのか。女天狗達がやいのやいのと欲望を叫び上げるも、クロはこの現状に慣れた様子でいて、口角をいやらしく上げた。
「よーし。そこまで言うなら、長を代わってくれた奴を私の弟子にしてやろう。誰かやりたい奴はいるか?」
ねっとりとした口調で破格の案を出すも、誰一人として名乗る者はおらず、全員がクロから目を背け、そっぽを向く。
流石にその反応には気に食わなかったようで。クロは左端に居る女天狗の元へ歩いていき、両頬を摘んで引っ張り始めた。
「なーんでいっつも、これだけには無反応なんだあ? コラ」
「やだぁ~……。おざだけにばなりだくない~……。グロざんどばなれだぐないよぉ~……、アイダダダダ……」
傍から見ると痛々しい光景ではあるものの。微笑ましさも垣間見えるやり取りに、自由の身となった花梨が「あっははは……」と苦笑いし、ふわっと笑う。
「皆さん方、クロさんととても仲良しなんですね」
花梨の本音が混じった呟きに、クロは頬を引っ張るのを止め、振り向きざまに女天狗の頭に手をポスンと置いた。
「まあな。こいつらは部下ではなく、私の仲間だ。友達や親友に近い関係とも言える。遠慮されたり気を使われるのも嫌だしな。これぐらいが丁度いいのさ」
恥ずかし気もなく関係を明かすと、クロは手を動かして頭を撫で始める。すると女天狗は、嬉しかったのかにんまりと笑い、「ですです」と相槌を打つ。
「クロさんは長様ですが、すっごく優しくて、半人前のあたし達でも分け隔てなく接してくれる、とても頼もしくてカッコイイお方なんですよ」
「調子いい事言いやがって。初めて私と出会った時、私に怯えて泣いてたくせによお」
「ぎゃっ!? ちょっ、弟子様の前で言わないで下さいよ! そんな事を言ったら、大体の人が泣いてるじゃないですか!」
クロが悪どい笑みを浮かべつつ、女天狗にとって恥ずかしい話を暴露すると、他の女天狗達もほろ苦い過去を思い出したのか、顔をヒクつかせていく。
「あったな~、そんな事。私も最初は怖くて、ビクビクしてたもん」
「私なんか前日から泣いちゃってて、枕を濡らしてたよね……」
「長様っていう響きだけで、勝手に怖い人だって想像しちゃうもんねー。弟子様方は、どうでしたか?」
各々が晒してきた醜態に思いふけていると、一人の女天狗が、蚊帳の外に持って行かれていた姉妹に話を振る。
すると、他の女天狗達も途端に視線を姉妹達に向け、早く当時の出会いを明かしてほしいと言わんばかりに、耳を傾けていく。
再び目のやり場に困り、不本意に注目を集められてしまった花梨は、視線を天井に持っていきながら頬をポリポリと掻き、「え~っと……」と言う。
「私は~、その~……。初めてクロさんに出会った時は、長様だった事を知らなかったので、特に恐怖心とかは無かったですね」
「私もっ。特に怖いとは思わなかったわっ」
姉妹がただ心の中で思った事を口にするも、じりじりとにじり寄って来ていた女天狗達は、「おお~っ……」と感銘のこもった声を漏らす。
同時に深い敬畏の念を全員が抱き、生唾をゴクリと飲み込む者や、手の甲で顎に滴ってきた汗を拭う者。
両手を握り合い、震え出した体を落ち着かせようとし、その体を寄せ合う者達など、様々な反応を見せた。
「や、やはりクロさんが認めた方々……。根っこの部分からあたし達と何かが違う……!」
「一体どれだけの修羅場を潜り抜ければ、あんな凄まじい胆力が身に付くんだろう……?」
「やっぱり、とんでもなく強いんだろうなぁ……」
「……よしっ!」
敬畏や畏怖の念に取り込まれ、七人の女天狗が姉妹に戦慄していると、とある覚悟を決めた一人の女天狗が、躍起気味に花梨の元へと近づいていく。
そして、女天狗達の反応に困惑している花梨の前まで来ると、浅い呼吸をしながら頭を深く下げ、怖じ気付いている右手を差し伸べた。
「お願いします弟子様! 握手して下さいっ!」
「あ、握手、ですか?」
予想だにしていなかった女天狗の行動に、花梨は抜けた声で返答し、ワケの分からぬまま困惑が増していく。
「はいっ! 出来れば長くお願いしますっ!」
「はあ、私なんかでよければ―――」
「あっ、一人だけ抜け駆けはずるいよ! 弟子様、あたしもお願いします!」
「わ、私も!」
「へっ?」
一人の女天狗の願いを聞いてしまったせいか。未だに恐怖心の方が勝っているものの、羨ましいと切に思った女天狗達も、我が先にと前に並んでいく。
様変わりする女天狗達の心境に、とうとう着いて行けなくなった花梨は、一人目の女天狗と固い握手をかわしつつ、呆気に取られている目を、すぐ隣まで来たクロへと向ける。
そのまま、顔をクロの耳元まで寄せ、ボソボソと喋り出した。
「あの、クロさん……。皆さん方を騙しているようで、心が痛いんですが……」
「じゃあ、本当の師弟になるか? 私はいつでも大歓迎だぞ」
「いや、なるんでしたら……。やっぱ、まだいいです」
何か別の事を言いかけようよするも、慌てて口を閉ざした花梨に、不思議に思ったクロが首を傾げる。
「なんだ? 勿体振らずに言ってみろよ」
「ここで言うのは恥ずかしいので、夜にでも……」
「ん~……。そうか、分かった。じゃあ夜になったら―――」
花梨の隠している物が気になるも、夜になれば分かると自分に言い聞かせたクロが、今聞くのは諦めようとした途端。
前方から別の女天狗が、「クロー。開店三十分前だから、そろそろ準備した方がいいよー」と手を振りながら告げてきて、その報告を耳にしたクロが「なにぃっ!?」と驚き、時計に目をやった。
「げっ、もう七時半か! 教えたい事がまだ山ほどあったんだが……、仕方ない。おいお前ら、そろそろ準備するぞ」
「嘘ぉっ!? もうそんな時間なんですか!?」
「私、まだ弟子様と握手してないのにー……」
「私もー」
開店時間が迫るも、姉妹と握手出来ていない女天狗達が文句を垂れるも、クロは「後にしろ、後に」とバッサリ切る。
「花梨、ゴーニャ、すまん。少々おふざけが過ぎた。予定を変更するから、ちょっと待っててくれ」
「分かりました」
「わかったわっ」
クロが姉妹に向かい、両手を合わせて申し訳なさそうな表情で謝ると、開店の準備を始める為に、一度受付の中へ入っていった。
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