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26話-2、雨の日でも明るい娯楽施設
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あの後。数回の休憩を挟んで三回岩盤浴を満喫した女王と家来は、汗でベタついた体を流す為に、休憩室の一角にあるシャワー室へと来ていた。
簡素な仕切りがあり、外からは足首だけが見える個室型のシャワー室に二人は入るなり、花梨を見上げながらゴーニャが口を開く。
「花梨っ、頭洗ってちょうだいっ!」
「あっ、今日はとことん甘える気だなぁ? それじゃあ目を瞑ってください、女王様」
そう言ってほくそ笑んだ花梨がしゃがみ込み、個室に備えられるシャンプーとリンスを床に置き、シャワーから適温のお湯を出し、ゴーニャの髪の毛を濡らし始めた。
満遍なく髪の毛が濡れた事を確認すると、シャンプーを手に取り、ゴーニャと向かい合いながら髪の毛を洗い始める。
髪の毛を洗っている途中、花梨は、ははっ、目と口を思いっ切りギュッてしてるや。毎回こんな顔をしながら洗ってるのかな? と微笑みつつ、ゴーニャのキュッとしたしかめっ面を覗き続けた。
「よしっ、女王様。後ろの髪の毛が洗いにくいので、体ごと後ろに回ってくださ~い」
「んっ……」
花梨の言葉を聞いたゴーニャは、ゆっくりと後ろに回り始める。そして、ちょうど背中が見えた所で花梨が「はいっ、ストーップ」と言い、ゴーニャの小さな両肩を手で掴み、再び髪の毛を洗い続けた。
毛先まで丹念に洗い終わると、シャワーで泡を洗い流す。リンスも同様に髪の毛全体に行き渡らせ、念入りに洗い流した。首を左右に激しく振り、辺りに水滴を飛ばした後にゴーニャが口を開く。
「今度は、私が花梨の頭を洗ってあげるわっ」
「ええっ? 自分で洗うから大丈夫だよ」
少々困惑気味の花梨の言葉にゴーニャは、腰に手を当て、鼻をふんっと鳴らしてから話を続ける。
「女王様命令よ。たまには私にも甘えてちょうだいっ!」
「う~ん、ここではちょっと恥ずかしいかなぁ……。それじゃあ、お風呂に行った時にでもお願いしようかな」
「むうっ……。じゃあ、絶対だからねっ!」
「うん、その時が来たら私から声をかけるね」
ゴーニャの機嫌を損なわぬよう断った花梨は、その場にいるゴーニャに泡が飛ばないようしゃがんでゆっくりと頭を洗い、洗い終わったら一緒に体を拭いてシャワー室を後にする。
やや肌寒さを感じるロッカールームに戻り、素早く服に着替え、岩盤浴用の服とタオルを受付に返却して岩盤浴場から出ていった。
「花梨っ、この後はどうするのかしら?」
「え~っと。ここの二階に娯楽施設があるんだけど、そこにあるマッサージ機を試してみたいなぁ」
「マッサージ機って、岩盤浴の休憩室でウィンウィン言ってた椅子のことよね」
「そう、固まった肩とか腰をほぐしてくれるから気持ちいいんだよね~」
「じゃあ、そこに行きましょっ」
次の目的地が決まると、花梨も初めて行く二階の娯楽施設へと向かい始める。どの通路も行き交う妖怪が多く、花梨は通行人とぶつからないようゴーニャを抱っこし、人混みを避けつつ二階に続く中央階段へと足を運んだ。
赤いフカフカの絨毯が敷いてある階段を上り、二階に着くや否や辺りを見渡してみると、娯楽施設場も妖怪達でごった返していた。
縦横無尽に駆け回る子供を注意する親の妖怪。広いソファーに一人で座り、温かな温泉の余韻に浸りながらぽけっとしている老体の妖怪。
卓球をしていて勝って喜んでいる妖怪と、負けて悔しがり「もう一回!」と、躍起になっている妖怪など。辺りは騒がしくも賑やかな声で溢れ返っている。
「こうやって見てみると、みんな姿形が違うだけで、普通の温泉や銭湯にいるような気分になってくるなぁ」
「みんな楽しそうにしてるわねっ」
「そうだねぇ、雨が降っているのを忘れるような明るさだ。さて、マッサージマッサージっと」
声を弾ませた花梨は卓球台を通り過ぎ、様々な妖怪の体や形に合わせたマッサージチェアが並んでいる場所まで来ると、自分達の体に合った大きさで、空いているマッサージチェアを探し始めた。
ちょうど、花梨とゴーニャの体に合ったマッサージチェアが並んでいるのを見つけると、小さい方にゴーニャを座らせ、花梨がマッサージチェアを操作するリモコンを見せながら説明を始める。
「この『スタート』って書いてるボタンを押すと、マッサージが始まるからね。最初は全自動でいいかな」
「私は、このまま座っていればいいのかしら?」
「うん、背中も頭もちゃんと付けて座ってね。始めるよ~」
緊張気味のゴーニャをよそに、花梨はスタートボタンを押す。すると、腰の部分からグッと押すように突起物が二つ飛び出してきて、そのまま腰を押しながら背中の方へと上がっていった。
「か、花梨っ! 背中でなんか動いてるわっ!」
「それがゴーニャをマッサージしてくれる物だよ。だから安心しな」
「わ、わかったわっ……」
声の震えたゴーニャは、不意に出てきた二つの突起物から逃げるように反らしていた体を、不安そうにゆっくりと、恐る恐るマッサージチェアにつけた。
その姿を見ていた花梨も、空いているマッサージチェアに身を委ねて座る。チェアを限界まで後ろに倒し、リモコンで揉む強さを『強』に選択し、スタートボタンを押した。
「ぬぉおおおっ……! ぐうっ……! お、思ってたよりも、体が、凝って……、イダダダダダッ! ……はんぬっ、ぬあっおっ……。ア"ア"ア"ア"ア"……」
「……花梨っ? 変な声が聞こえてくるんだけど、大丈夫なのっ?」
「だ、だいじょう、ぶっ! ふんぬぅおおおああっあっ……」
いきなり『強』を選択したせいか、首から腰にかけて激しく暴れて駆け回る二つの突起物は、休むことなく花梨の固くなった体を、岩盤を掘削するが如く揉みほぐしていく。
最初は、止まらないモンタージュ写真のように顔を歪め続けていた花梨は、コリが解れていくにつれ頬からたるんでいき、最終的には終始ニヤけた表情を保っていた。
「あっはぁ~……、そこそこっ……。う~~っ、効くぅぅ~……。ふぁあ~……、気持ちいい~」
「花梨てば、とっても気持ちよさそうにしてるわねっ。私は体が揺れてるだけで痛くも気持ちよくもないわっ」
「それはゴーニャの体が健康だって証拠さ。その内に分かるよ」
「ほんとっ? それじゃあ、楽しみにしてましょっ」
マッサージチェアの揺れに飽きたゴーニャは、花梨が揉まれているマッサージチェアによじ登り、ニヤけ顔の花梨の体の上に寝そべり、頬ずりをしてから話を続ける。
「花梨っ、マッサージされるのって気持ちいいのよねっ?」
「ぬおおおおっ……、ゴーニャの体の重みで腰が更に押されてすっごい効くぅ~……。うん、気持ちいいよ」
「わかったわっ。じゃあ、今度私が花梨をマッサージしてあるから、マッサージのやり方を教えてちょうだい」
「ははっ、嬉しいねぇ。分かった、後で教えてあげるね」
しばらく体にゴーニャを乗せてマッサージをされていると、終了の時間が来たのか突起物が中に納まり、ゆっくりとマッサージチェアが起き上がっていった。
ゴーニャは落ちないように花梨の膝の上に乗り、体をガッチリと抱き、上に上がっていく花梨の顔を見上げながら口を開く。
「花梨っ、どうする? まだマッサージやる?」
「う~ん、体のコリもすっかりと取れたし……、もういいかな? 次は何を―――」
「あっ、花梨がいるー! 久しぶりー」
次にやる事が無く、思案しようとした瞬間。不意に聞き慣れた声に名前を呼ばれ、花梨は声がした方向に目をやる。
そこには、手を小さく振っている妖狐の雅と茨木童子の酒天。その下にちょこんと居る座敷童子の纏。その纏の横には雪女の雹華が集まっていた。
珍しい組み合わせのメンバーを目にした花梨が、一旦全員と目を合わせて軽く挨拶を済ませた後、雅に目を向ける。
「久々だねー! みんな集まってるけど、いったいどうしたのさ?」
「雨が降っててみんな暇してたからさー、集まって食事処で食っちゃべってたんだー」
「そうなんだ。イヤだよねー、雨って」
「そだねー。参拝客も人っ子一人来やしないから、やんなっちゃうよー」
花梨が親しく妖狐と話している様が、新鮮で珍しいと思ったゴーニャが「花梨っ、あの妖狐誰なの?」と、二人の会話に割って入る。
「この人は、雅っていう人だよ。ここに来て最初にできた仕事仲間で、私の友達さ」
「へぇ~……」
花梨の説明を聞いたゴーニャは、雅がいる方向に顔を向ける。そして、雅の全体像をジロジロと眺め、ピンと立っている狐の耳と背後でゆらゆらと揺れている尻尾を見て、目をギンギンに輝かせつつロックオンした。
じっとゴーニャに見られ続け、不思議に思った雅がニッと笑みを向けると、ゴーニャに指を差しながら口を開く
「花梨、この子が例のゴーニャちゃん?」
「そうだよ、私の自慢の妹さ。ゴーニャ、雅に自己紹介しな」
「あ、秋風 ゴーニャよっ」
「んー、エラいエラい。雅だよー、よろしくねー」
「よ、よろしくっ」
ゴーニャの名前を聞いた雅が、再びニッと明るい笑みを浮かべ、そのまま花梨に目を向ける。
「そうだ。これからみんなでカラオケに行くんだけどさー、二人も一緒に行こうよー」
「カラオケ!? 行く行くっ!」
「よぉーし! それじゃあ、歌う時間を沢山増やして大部屋に変更だー、いっぱい歌うぞー!」
「オーッ!!」
雅のテンションが上がる声を聞き、花梨も右手を挙げながら声を上げる。すぐさまゴーニャを抱っこしながら立ち上がり、雅達の後ろを駆け足で追いかけた。
じっと雅を見続けていたゴーニャが、羨ましそうに指を咥え、楽しそうな表情をしている花梨に向かって声をかけた。
「花梨っ、雅の耳と尻尾……、触ってもいいかしらっ?」
「ぜ、絶対に触っちゃダメだよ?」
「ん~……、触りたいわっ……」
その言葉に花梨は、今までのゴーニャの素振りを振り返りつつ、そういや、雅や楓さんも、耳と尻尾を触られたらビクンと来るのだろうか……? ちょっと気になる……、いや、ダメだ! 今のは忘れよう……。と、生まれてきた好奇心を振り払うかのように、首を左右に振った。
そして、みんなに追いついてからカラオケの受付を済ませ、大部屋のカラオケルームに向かい、ワイワイ騒ぎながら部屋の中に入っていった。
簡素な仕切りがあり、外からは足首だけが見える個室型のシャワー室に二人は入るなり、花梨を見上げながらゴーニャが口を開く。
「花梨っ、頭洗ってちょうだいっ!」
「あっ、今日はとことん甘える気だなぁ? それじゃあ目を瞑ってください、女王様」
そう言ってほくそ笑んだ花梨がしゃがみ込み、個室に備えられるシャンプーとリンスを床に置き、シャワーから適温のお湯を出し、ゴーニャの髪の毛を濡らし始めた。
満遍なく髪の毛が濡れた事を確認すると、シャンプーを手に取り、ゴーニャと向かい合いながら髪の毛を洗い始める。
髪の毛を洗っている途中、花梨は、ははっ、目と口を思いっ切りギュッてしてるや。毎回こんな顔をしながら洗ってるのかな? と微笑みつつ、ゴーニャのキュッとしたしかめっ面を覗き続けた。
「よしっ、女王様。後ろの髪の毛が洗いにくいので、体ごと後ろに回ってくださ~い」
「んっ……」
花梨の言葉を聞いたゴーニャは、ゆっくりと後ろに回り始める。そして、ちょうど背中が見えた所で花梨が「はいっ、ストーップ」と言い、ゴーニャの小さな両肩を手で掴み、再び髪の毛を洗い続けた。
毛先まで丹念に洗い終わると、シャワーで泡を洗い流す。リンスも同様に髪の毛全体に行き渡らせ、念入りに洗い流した。首を左右に激しく振り、辺りに水滴を飛ばした後にゴーニャが口を開く。
「今度は、私が花梨の頭を洗ってあげるわっ」
「ええっ? 自分で洗うから大丈夫だよ」
少々困惑気味の花梨の言葉にゴーニャは、腰に手を当て、鼻をふんっと鳴らしてから話を続ける。
「女王様命令よ。たまには私にも甘えてちょうだいっ!」
「う~ん、ここではちょっと恥ずかしいかなぁ……。それじゃあ、お風呂に行った時にでもお願いしようかな」
「むうっ……。じゃあ、絶対だからねっ!」
「うん、その時が来たら私から声をかけるね」
ゴーニャの機嫌を損なわぬよう断った花梨は、その場にいるゴーニャに泡が飛ばないようしゃがんでゆっくりと頭を洗い、洗い終わったら一緒に体を拭いてシャワー室を後にする。
やや肌寒さを感じるロッカールームに戻り、素早く服に着替え、岩盤浴用の服とタオルを受付に返却して岩盤浴場から出ていった。
「花梨っ、この後はどうするのかしら?」
「え~っと。ここの二階に娯楽施設があるんだけど、そこにあるマッサージ機を試してみたいなぁ」
「マッサージ機って、岩盤浴の休憩室でウィンウィン言ってた椅子のことよね」
「そう、固まった肩とか腰をほぐしてくれるから気持ちいいんだよね~」
「じゃあ、そこに行きましょっ」
次の目的地が決まると、花梨も初めて行く二階の娯楽施設へと向かい始める。どの通路も行き交う妖怪が多く、花梨は通行人とぶつからないようゴーニャを抱っこし、人混みを避けつつ二階に続く中央階段へと足を運んだ。
赤いフカフカの絨毯が敷いてある階段を上り、二階に着くや否や辺りを見渡してみると、娯楽施設場も妖怪達でごった返していた。
縦横無尽に駆け回る子供を注意する親の妖怪。広いソファーに一人で座り、温かな温泉の余韻に浸りながらぽけっとしている老体の妖怪。
卓球をしていて勝って喜んでいる妖怪と、負けて悔しがり「もう一回!」と、躍起になっている妖怪など。辺りは騒がしくも賑やかな声で溢れ返っている。
「こうやって見てみると、みんな姿形が違うだけで、普通の温泉や銭湯にいるような気分になってくるなぁ」
「みんな楽しそうにしてるわねっ」
「そうだねぇ、雨が降っているのを忘れるような明るさだ。さて、マッサージマッサージっと」
声を弾ませた花梨は卓球台を通り過ぎ、様々な妖怪の体や形に合わせたマッサージチェアが並んでいる場所まで来ると、自分達の体に合った大きさで、空いているマッサージチェアを探し始めた。
ちょうど、花梨とゴーニャの体に合ったマッサージチェアが並んでいるのを見つけると、小さい方にゴーニャを座らせ、花梨がマッサージチェアを操作するリモコンを見せながら説明を始める。
「この『スタート』って書いてるボタンを押すと、マッサージが始まるからね。最初は全自動でいいかな」
「私は、このまま座っていればいいのかしら?」
「うん、背中も頭もちゃんと付けて座ってね。始めるよ~」
緊張気味のゴーニャをよそに、花梨はスタートボタンを押す。すると、腰の部分からグッと押すように突起物が二つ飛び出してきて、そのまま腰を押しながら背中の方へと上がっていった。
「か、花梨っ! 背中でなんか動いてるわっ!」
「それがゴーニャをマッサージしてくれる物だよ。だから安心しな」
「わ、わかったわっ……」
声の震えたゴーニャは、不意に出てきた二つの突起物から逃げるように反らしていた体を、不安そうにゆっくりと、恐る恐るマッサージチェアにつけた。
その姿を見ていた花梨も、空いているマッサージチェアに身を委ねて座る。チェアを限界まで後ろに倒し、リモコンで揉む強さを『強』に選択し、スタートボタンを押した。
「ぬぉおおおっ……! ぐうっ……! お、思ってたよりも、体が、凝って……、イダダダダダッ! ……はんぬっ、ぬあっおっ……。ア"ア"ア"ア"ア"……」
「……花梨っ? 変な声が聞こえてくるんだけど、大丈夫なのっ?」
「だ、だいじょう、ぶっ! ふんぬぅおおおああっあっ……」
いきなり『強』を選択したせいか、首から腰にかけて激しく暴れて駆け回る二つの突起物は、休むことなく花梨の固くなった体を、岩盤を掘削するが如く揉みほぐしていく。
最初は、止まらないモンタージュ写真のように顔を歪め続けていた花梨は、コリが解れていくにつれ頬からたるんでいき、最終的には終始ニヤけた表情を保っていた。
「あっはぁ~……、そこそこっ……。う~~っ、効くぅぅ~……。ふぁあ~……、気持ちいい~」
「花梨てば、とっても気持ちよさそうにしてるわねっ。私は体が揺れてるだけで痛くも気持ちよくもないわっ」
「それはゴーニャの体が健康だって証拠さ。その内に分かるよ」
「ほんとっ? それじゃあ、楽しみにしてましょっ」
マッサージチェアの揺れに飽きたゴーニャは、花梨が揉まれているマッサージチェアによじ登り、ニヤけ顔の花梨の体の上に寝そべり、頬ずりをしてから話を続ける。
「花梨っ、マッサージされるのって気持ちいいのよねっ?」
「ぬおおおおっ……、ゴーニャの体の重みで腰が更に押されてすっごい効くぅ~……。うん、気持ちいいよ」
「わかったわっ。じゃあ、今度私が花梨をマッサージしてあるから、マッサージのやり方を教えてちょうだい」
「ははっ、嬉しいねぇ。分かった、後で教えてあげるね」
しばらく体にゴーニャを乗せてマッサージをされていると、終了の時間が来たのか突起物が中に納まり、ゆっくりとマッサージチェアが起き上がっていった。
ゴーニャは落ちないように花梨の膝の上に乗り、体をガッチリと抱き、上に上がっていく花梨の顔を見上げながら口を開く。
「花梨っ、どうする? まだマッサージやる?」
「う~ん、体のコリもすっかりと取れたし……、もういいかな? 次は何を―――」
「あっ、花梨がいるー! 久しぶりー」
次にやる事が無く、思案しようとした瞬間。不意に聞き慣れた声に名前を呼ばれ、花梨は声がした方向に目をやる。
そこには、手を小さく振っている妖狐の雅と茨木童子の酒天。その下にちょこんと居る座敷童子の纏。その纏の横には雪女の雹華が集まっていた。
珍しい組み合わせのメンバーを目にした花梨が、一旦全員と目を合わせて軽く挨拶を済ませた後、雅に目を向ける。
「久々だねー! みんな集まってるけど、いったいどうしたのさ?」
「雨が降っててみんな暇してたからさー、集まって食事処で食っちゃべってたんだー」
「そうなんだ。イヤだよねー、雨って」
「そだねー。参拝客も人っ子一人来やしないから、やんなっちゃうよー」
花梨が親しく妖狐と話している様が、新鮮で珍しいと思ったゴーニャが「花梨っ、あの妖狐誰なの?」と、二人の会話に割って入る。
「この人は、雅っていう人だよ。ここに来て最初にできた仕事仲間で、私の友達さ」
「へぇ~……」
花梨の説明を聞いたゴーニャは、雅がいる方向に顔を向ける。そして、雅の全体像をジロジロと眺め、ピンと立っている狐の耳と背後でゆらゆらと揺れている尻尾を見て、目をギンギンに輝かせつつロックオンした。
じっとゴーニャに見られ続け、不思議に思った雅がニッと笑みを向けると、ゴーニャに指を差しながら口を開く
「花梨、この子が例のゴーニャちゃん?」
「そうだよ、私の自慢の妹さ。ゴーニャ、雅に自己紹介しな」
「あ、秋風 ゴーニャよっ」
「んー、エラいエラい。雅だよー、よろしくねー」
「よ、よろしくっ」
ゴーニャの名前を聞いた雅が、再びニッと明るい笑みを浮かべ、そのまま花梨に目を向ける。
「そうだ。これからみんなでカラオケに行くんだけどさー、二人も一緒に行こうよー」
「カラオケ!? 行く行くっ!」
「よぉーし! それじゃあ、歌う時間を沢山増やして大部屋に変更だー、いっぱい歌うぞー!」
「オーッ!!」
雅のテンションが上がる声を聞き、花梨も右手を挙げながら声を上げる。すぐさまゴーニャを抱っこしながら立ち上がり、雅達の後ろを駆け足で追いかけた。
じっと雅を見続けていたゴーニャが、羨ましそうに指を咥え、楽しそうな表情をしている花梨に向かって声をかけた。
「花梨っ、雅の耳と尻尾……、触ってもいいかしらっ?」
「ぜ、絶対に触っちゃダメだよ?」
「ん~……、触りたいわっ……」
その言葉に花梨は、今までのゴーニャの素振りを振り返りつつ、そういや、雅や楓さんも、耳と尻尾を触られたらビクンと来るのだろうか……? ちょっと気になる……、いや、ダメだ! 今のは忘れよう……。と、生まれてきた好奇心を振り払うかのように、首を左右に振った。
そして、みんなに追いついてからカラオケの受付を済ませ、大部屋のカラオケルームに向かい、ワイワイ騒ぎながら部屋の中に入っていった。
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