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153話、都市伝説は、人間を元気づけたい
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「よし、三十分経ったわね」
表面全体を軽く拭いた昆布を、一ℓ分の水を張った鍋に入れ、煮立たない程度の弱火で茹で始めてから三十分。
しなしなでカチカチになっていた昆布は、何倍にも大きく広がっており。透明だったお湯、薄白く昇る湯気にも、ほんのりと昆布の色や匂いが移っている。
その茹でている間に、継ぎ足し分の水を百g。かつおの削り節を、おおよそ四十g。一番出汁を、こす時に使用するボウル。斜め切りしたネギ、五十g分の白味噌を用意しておいた。
もちろん、絹ごし豆腐はまだ切っていない。先にさいの目切りをして、いざ鍋へ入れる時、崩れてぐちゃぐちゃになったら目も当てられないからね。
「ふふんっ、準備は完璧よ。さあ、ハル直伝のガチお味噌汁、作ってみせるわ!」
まず初めに、役目を終えた昆布を菜箸で取り、トレイに移す。次に、茹でて減った分のお湯を継ぎ足すべく、百g分の水を鍋に投入した。
「それで、再沸騰させるのよね」
ここの火加減は、中火寄りの弱火。そして煮立ったら、火の強さをとろ火まで落とし、四十g分あるかつおの削り節を鍋に入れていく。
「で、約一分加熱でしょ? ……よし、経った。次は~、えっと? 火を止めて、アクを取り除くっと」
一応、作る前に何度も確認しておいた、ハルのガチお味噌汁レシピ。工程を頭に叩き込んでおいたけど、今回だけは失敗が許されない。しつこく、逐一確認しないとね。
タブレットのメモ帳に書き込んだ、レシピの工程通り、アクだと思われる白い泡を綺麗に取り除く。入念にチェックを終えたら、一番出汁をこす工程よ。
鍋の取っ手を掴み、事前に用意していたボウルの前まで移動する。ボウルから零れないよう、細心の注意を払って注いでいった。
「ふう、全部注げたわね」
汁気を切りたいので、ボウル内に置いていたザルを軽く持ち上げる。ここで削り節に触れるのは、一番出汁を作る時において、禁忌中の禁忌。絶対に触れてはならない。
触れていいのは、二番出汁を作る時だけ。汁気を早く切りたい気持ちを抑え、重力の自然落下に任せ、一滴も逃さず耐え忍ぶ。
「……そろそろ、汁気が切れたかしら?」
数秒待てども、ザルの下から一番出汁の雫は落ちてこない。あまり待ち過ぎるのも、なんだかよろしくなさそうだから、もういいでしょう。
「よっし! これで一番出汁の完成よ!」
ボウルの中を覗いてみると、蛍光灯の光をキラキラと反射させている、眩くも透き通った琥珀色の一番出汁があった。
うん! 見た目だけは完璧ね。ハルが作った物と、すごく良く似ている。
匂いも、いい感じだ。香り華やぐ上品なかつお節の匂いが、私の食欲を撫でるように刺激していく。この和風な匂い、本当に好きだなぁ。いつまでも嗅いでいられるわ。
「さぁて、味見の時間よ~」
ここまで来たら味の調節が出来ず、既に完成品なので意味が無いのだけれども。私にとって、待望の時間がやってきた。
なんせ、ハルが作ってくれた時は、味見をする暇も無く、お味噌汁作りに取り掛かっちゃったからね。この時間は、作った者だけに許される特権よ!
「けど、飲み過ぎると量が減っちゃうのよね」
私が作った一番出汁は、約一ℓ分。そして、後に控えた白味噌も、一ℓ分に合わせて用意している。
なので、一番出汁を飲み過ぎると、お味噌汁の味が濃くなってしまう。
「……味見、やめた方がいいかしら?」
完全なガチお味噌汁を作りたいのであれば、十mlでさえ無駄に出来ない。だとすると、スプーン一杯分の味見も───。
「まさか、味見が致命的なミスに繋がる可能性が……?」
十mlの差異で、ガチお味噌汁から別物になってしまう可能性があると? これ、あながち大袈裟な考えとは言い切れないわね。
一円を笑う者は一円に泣くという、言葉があるように。十mlを軽く見る者に、泣いてしまうほどの後悔が訪れるかもしれない。
「ふぅっ……。今回はやめておきましょ」
後悔先に立たずよ、私。私はもう、一番出汁を作れるようになれたんだ。ならば味見をするのは、次の機会に持ち越せばいい。
あくまで今回は、私の欲を満たす為じゃない。ハルを元気づける為なのよ。味見をしたい欲が再燃する前に、ガチお味噌汁作りに取り掛かろっと。
表面全体を軽く拭いた昆布を、一ℓ分の水を張った鍋に入れ、煮立たない程度の弱火で茹で始めてから三十分。
しなしなでカチカチになっていた昆布は、何倍にも大きく広がっており。透明だったお湯、薄白く昇る湯気にも、ほんのりと昆布の色や匂いが移っている。
その茹でている間に、継ぎ足し分の水を百g。かつおの削り節を、おおよそ四十g。一番出汁を、こす時に使用するボウル。斜め切りしたネギ、五十g分の白味噌を用意しておいた。
もちろん、絹ごし豆腐はまだ切っていない。先にさいの目切りをして、いざ鍋へ入れる時、崩れてぐちゃぐちゃになったら目も当てられないからね。
「ふふんっ、準備は完璧よ。さあ、ハル直伝のガチお味噌汁、作ってみせるわ!」
まず初めに、役目を終えた昆布を菜箸で取り、トレイに移す。次に、茹でて減った分のお湯を継ぎ足すべく、百g分の水を鍋に投入した。
「それで、再沸騰させるのよね」
ここの火加減は、中火寄りの弱火。そして煮立ったら、火の強さをとろ火まで落とし、四十g分あるかつおの削り節を鍋に入れていく。
「で、約一分加熱でしょ? ……よし、経った。次は~、えっと? 火を止めて、アクを取り除くっと」
一応、作る前に何度も確認しておいた、ハルのガチお味噌汁レシピ。工程を頭に叩き込んでおいたけど、今回だけは失敗が許されない。しつこく、逐一確認しないとね。
タブレットのメモ帳に書き込んだ、レシピの工程通り、アクだと思われる白い泡を綺麗に取り除く。入念にチェックを終えたら、一番出汁をこす工程よ。
鍋の取っ手を掴み、事前に用意していたボウルの前まで移動する。ボウルから零れないよう、細心の注意を払って注いでいった。
「ふう、全部注げたわね」
汁気を切りたいので、ボウル内に置いていたザルを軽く持ち上げる。ここで削り節に触れるのは、一番出汁を作る時において、禁忌中の禁忌。絶対に触れてはならない。
触れていいのは、二番出汁を作る時だけ。汁気を早く切りたい気持ちを抑え、重力の自然落下に任せ、一滴も逃さず耐え忍ぶ。
「……そろそろ、汁気が切れたかしら?」
数秒待てども、ザルの下から一番出汁の雫は落ちてこない。あまり待ち過ぎるのも、なんだかよろしくなさそうだから、もういいでしょう。
「よっし! これで一番出汁の完成よ!」
ボウルの中を覗いてみると、蛍光灯の光をキラキラと反射させている、眩くも透き通った琥珀色の一番出汁があった。
うん! 見た目だけは完璧ね。ハルが作った物と、すごく良く似ている。
匂いも、いい感じだ。香り華やぐ上品なかつお節の匂いが、私の食欲を撫でるように刺激していく。この和風な匂い、本当に好きだなぁ。いつまでも嗅いでいられるわ。
「さぁて、味見の時間よ~」
ここまで来たら味の調節が出来ず、既に完成品なので意味が無いのだけれども。私にとって、待望の時間がやってきた。
なんせ、ハルが作ってくれた時は、味見をする暇も無く、お味噌汁作りに取り掛かっちゃったからね。この時間は、作った者だけに許される特権よ!
「けど、飲み過ぎると量が減っちゃうのよね」
私が作った一番出汁は、約一ℓ分。そして、後に控えた白味噌も、一ℓ分に合わせて用意している。
なので、一番出汁を飲み過ぎると、お味噌汁の味が濃くなってしまう。
「……味見、やめた方がいいかしら?」
完全なガチお味噌汁を作りたいのであれば、十mlでさえ無駄に出来ない。だとすると、スプーン一杯分の味見も───。
「まさか、味見が致命的なミスに繋がる可能性が……?」
十mlの差異で、ガチお味噌汁から別物になってしまう可能性があると? これ、あながち大袈裟な考えとは言い切れないわね。
一円を笑う者は一円に泣くという、言葉があるように。十mlを軽く見る者に、泣いてしまうほどの後悔が訪れるかもしれない。
「ふぅっ……。今回はやめておきましょ」
後悔先に立たずよ、私。私はもう、一番出汁を作れるようになれたんだ。ならば味見をするのは、次の機会に持ち越せばいい。
あくまで今回は、私の欲を満たす為じゃない。ハルを元気づける為なのよ。味見をしたい欲が再燃する前に、ガチお味噌汁作りに取り掛かろっと。
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