私、メリーさん。今、あなたと色んな物を食べているの

桜乱捕り

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142話、考えを放棄した二戦目

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「……んんっ、これ!」

 みんなして頭を悩ませ、唸り声が絶えない硬直状態が続いている中。場を乱す意味も込めて、私は一番左側の容器を選んで確保した。

「げっ!? 先に選ばれちゃった……」

「じゃあ、わたしはこれ!」

「ぬわっ!? それ選ぼうとしてたのに!」

 私の後に続き、カオリちゃんも一つの容器を選び。取り残されたコータロー君とハルが、表情に焦りを募らせていく。

「ええいっ、ままよ!」

「ああーっ、アカねぇ! ま、マジかよ……」

 もはや、思考を放棄したようにも見えるハルが、先に選んだ容器を掲げ。最後まで残ったコータロー君は、余った容器に目もくれず、膝から崩れ落ちていった。

「う、ううっ……。せめて、自分で選びたかったのに……」

「ほら、余り物には福があるっていうじゃん? それ、全部ハズレかもしんないよ?」

「あっ、なるほど! じゃあ、これでいいや」

 が、ハルから助言を貰い、希望を見出したコータロー君が即座に復活を果たす。……いいんだ、それで。けど、色んな物に縋っていくのも、あながち悪くないわね。

「さぁて? 必死になって選んだ訳ですが、ここから更に一つ選ばないといけないんスよねぇ」

「そうなのよねぇ」

 この勝負は勝利を掴む為に、二つの選択肢を掻い潜らなければならない。
 しかも、その選択肢はカオリちゃんやおばちゃんの手により、定まっていた確率が完全に崩壊している。

「え~っとだよ? 残ってる当たりは三つでしょ。すなわち、ハズレしかない容器が、必ず一つあるとしてだ。あとは、当たりが三人に一つずつ振り分けらてる可能性と、二人に偏ってる可能性がある訳だね」

「ええ、それで間違いないわ」

「じゃあ、二人助かるかもしんないんだな」

「当たりがちゃんとバラけてて、全員助かるかもしれないよね」

 ここで一番まずいのは、カオリちゃんの予想が現実になる事。もちろん、二戦目は平和に終わるでしょう。全員無傷で生還し、生き延びた実感を分かち合える。
 けれども、それは一時的な延命に過ぎない。二戦目で残った三つの当たりは、後に控えた三戦目に持ち越されていく。
 すなわち、生き延びた私達に待ち構えているのは、三人が確実に当たりを引く奈落の三戦目。考えただけで、背筋が凍りついてしまいそうだわ。

「ああ~、そっか。そうなる場合だってあるんだな」

「二戦目で勝負が終わるなら、それが一番いいんだけれどもね」

「なるほどぉ? メリーさんも、色々気付いちゃってる感じ?」

「当たり前じゃない。二戦目の結果次第では、でしょ?」

 あえて答えを言わずとも、ハルは不敵な笑みを返してきた。あの言い回しから察するに、ハルも最悪を想定していそうね。

「な、なんだよ? 二戦目の結果次第ではって?」

「さあ、どうかしらね。みんながハズレを引いたら教えてあげるわ」

「ええ~、気になる」

「という訳でぇ、先に選ばせてもらうぜっ!」

 藪から棒に声を上げたハルが、持っていた容器から一つの玉を選び、男勝りでキザったらしい笑みを浮かべた。
 きっと、二人の意識を逸らす為に、率先して引いたんでしょう。さり気なく話をすり替えようと試みていたし、上手いわね。

「お、アカ姉。今回は選ぶの早いんだな」

「一回目の時は、すごく疲れてたのに」

「もう、なに選んでも当たりを引いちゃいそうな気がしてね~。だから考えるのは諦めて、スパッと決めちゃった」

 思考そのものを放棄し、当たりを引く覚悟を決めたハルが、容器をおばちゃんの前に置く。
 一回戦目の時、ヘロヘロになりながら決めたっていうのに、結局当たりを引いちゃったものね。
 あの潔い良い諦め方よ、私も見習っちゃおうかしら? 黄色い玉を幾度となく見返してみても、当たりハズレの違いは分からないし。いいや、適当に選んでしまおう。

「じゃあ、私はこれ」

「えっ、メリーお姉ちゃんまで!?」

「はや~い!」

「ほっほ~う? この私と張り合うってかい?」

 私を緩く挑発してきたハルが、アゴに手を添え、鋭い切れ目で私を睨みつつ微笑した。あんたの表情の豊かさ、駄菓子屋へ来てから底が見えないわね。

「よく、そんな余裕でいられるわね。あんたが引いたそれ、当たりかもしれないわよ?」

「グッ……! じょ、上等さぁ……。あの強烈で耐え難い酸っぱさを……、また味わえば、いいん……、だろう?」

 私が挑発返しをすると、ハルの表情から途端に余裕が消え失せていき、なんなら見るからに青ざめてきた。
 汗もダラダラかき始めたし、なによ。引く覚悟が決まっていなければ、未練もタラタラ残っているじゃない。

「なあ、カオリ。なんだかアカ姉、当たり引いてそうじゃね?」

「体がガタガタ震えてるもんね。じゃあ、わたし達も決めちゃおっか?」

「そうだな。なら、おれはこれ!」

「わたしは、これにしよっと!」

 変わり果てたハルの姿を認め、どこか安心感を持ったコータロー君達が、何の気兼ねもなく黄色い玉を選んだ。
 ハル。キャラを演じるなら、せめて最後まで貫き通しなさいよ。あからさまに自信を無くしたせいで、二人に余裕が生まれちゃったじゃない。

「よーし! それじゃあ、またいっせーのせっ! で、食べようね」

「ええ、分かったわ」

「お、おぅ……。いいぜぇ~?」

「おれも、いつでも大丈夫だぞ!」

 あまり大丈夫そうじゃない一人を抜かし、全員の準備が済んだ事を確認すると、カオリちゃんは「うん!」と言って頷いた。

「じゃあ、言うね! いっせーのせっ!」

 今度はタイミングがバッチリな合図に、黄色い玉を口へ運ぶ。さあ、噛むわよ。二回戦目も、ハズレを引きますように!

「……あれ? さっきと味が違う───」

「だらっしゃぁぁぁーーいっ! ハズレを引いたぞーー!」

「よっしゃー! おれも酸っぱくない!」

「やったー! 私も大丈夫だった!」

 恐る恐る噛み砕くも、一回戦目の時に感じた甘味が来ず。
 代わりにジワジワ湧いて来たのは、味とは言い難い、ただ舌をひたすら劈いていく無味無臭の透明な爆発───。

「んぶっふ!?」

 思わず吐き出しそうになり、慌てて両手で口を覆い隠す私。なにこれ、なにこれ!? 痛みを伴う酸味を一瞬感じたと思ったら、口の中を一気に満たしていった!
 酸っぱいというよりも、もはや苦い! 一回噛む度に、凶悪な苦みと酸味がシュワッと噴き出てきて、噛みたいという気持ちを鈍らせていく!
 舌に痛覚を与え続ける、二つの凶悪な攻撃を早く無くしたい一心で飲み込むも、無駄に終わり。
 玉の奥底から、炭酸に似たシュワシュワ感がずっと溢れて出てくる!

「んん~っ! すっぱぁ~いっ!!」

「メリーさん! もっと素早く噛んで唾液を混ぜて、飲み込み続けるんだ!」

「まさか、メリーお姉ちゃんが当たりを引くなんてな」

「やっぱり、誰でも涙目になっちゃうんだね」

 どこからともなく、ハルの助言らしき声が聞こえてくるけれども。今は、それどころじゃない!
 梅干しとは、まるで比較にならない怒涛の酸っぱさが、いつまでも襲い掛かってくる!
 これ、いつまで続くっていうの? ハルは、すぐ正気を取り戻したというのに。強烈な苦みと酸味は薄れ知らずで、私の体力と精神力を無慈悲に削っていく。
 最強の都市伝説である私が、ただの駄菓子に惨敗を喫するなんて。……恐るべしだわ、『超すっぱいレモンにご用心』。あまりにも酸っぱすぎて、全身の震えがまったく止まらない……。
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