私、メリーさん。今、あなたと色んな物を食べているの

桜乱捕り

文字の大きさ
131 / 199

129話、無礼講。それは、禁断の呪文

しおりを挟む
「めりぃしゃ~ん。楽しんでるぅ~?」

「エェ……。スゴク、タノシンデルワ……」

 ハルにお酒を勧めて、名前的に一番甘そうなカルーアミルクを頼んで飲み、早五分。飲み始めてから一分後には、ハルの頬がほんのりと赤くなり。
 約三分後、ゆるっゆるな笑顔で笑い出し。そして今、ハルにお酒を勧めなければよかったと後悔するほど、地獄みたいな状況になっている。
 なんで、わざわざ私の隣に来たの? なんで、そんなグイグイ距離を詰めてくるの? どうして、私を壁際まで押し込んだの?
 左側は、逃げ場の無い壁。右側は、私と完全に密接し、据わった目で見つめてくるハル。もう、隙間なんてありゃしない。太ももを数cm開くだけで精一杯だわ。

「めりぃしゃんって、何歳なのぉ?」

「と、歳? さあ、正確な年齢は知らないわ。少なくとも、あんたより年下だと思う」

「そ~なんだぁ~。じゃあ今日から、めりぃちゃんだねぇ~」

「……ソウデスネ」

 これが、酔っぱらったハルのダル絡み。予想を遥かに超えて疲れるわ。でも、私は何も出来ない。この絶望的な未来に興味を持ったのは、他でもない私自身なのだから。

「出身地はぁ、どこなのぉ~?」

「設定上、北海道よ」

「えぇ~、本当~っ? 奇遇じゃ~ん。実はぁ、私も北海どー出身なんだぁ~」

「前に聞いたから知ってるわ」

 一体なんなの、このやり取りは? あんた、私に北海道弁をいくつも教えてくれたじゃない。酔っぱらうと、記憶が吹っ飛んでしまうのかしら?

「めりぃしゃん、めんこいねぇ~。めんこめんこぉ」

 わざわざ北海道弁で『かわいい』と言ったハルが、『よしよし』と口にしつつ私の帽子を取り、頭を撫でてきた。
 通常のハルでは、絶対にやってこない行為だ。……頭を撫でられるのって、こんな感覚なのね。ハルの手から、じんわりと温かい体温が伝わってくる。
 撫で方も優しく、不快な気持ちにまったくならない。案外、悪くないかも。酔っぱらっているけど、なんだか安心して身を委ねられるわ。

「めりぃしゃんの髪の毛、サラサラしてるぅ~。気持ちいい~」

「そう。なら、満足するまで触ってていいわよ」

「いいのぉ? やったぁ~、えへへへっ」

 さり気なく許可を出すも、撫で方の強弱は変わらず。上機嫌に鼻歌を歌い出したハルが、半分以上残っているカルーアミルクを、ちびりと飲んだ。

「それ、結構甘いらしいじゃない。どんな味がするの?」

「これぇ? えっとねぇ~、カフェオレみたいな感じぃ~。甘いけどほろ苦で、すっごく飲みやすいよぉ~」

「へぇ。見た目もそうだけど、味自体もそうなのね」

「あっ! これはカフェオレじゃなくて、お酒だからねぇ。だからめりぃしゃんは、飲んじゃダメだよぉ」

「分かってるわよ」

 飲みたいとは一言も言っていないのに。おもむろに注意してきたハルは、持っていたグラスをテーブルに置き、私から遠ざけた。
 自我が崩壊しているのにも関わらず、根っこの部分は変わっていなさそうね。ならば、適当に話をいくつか振れば、私のペースに持っていけるかもしれない。

「ねえ、ハル。料理を食べたいから、少し離れてくれない?」

「なんでぇ~? めりぃしゃんは、あたしの事が嫌いなのぉ?」

 そことなく不貞腐れ気味な返答から察するに、離れて欲しいとだけ聞き取ったらしい。もしかしたら、一問一答しなければ、内容が頭に入らない可能性がありそうね。

「嫌いじゃないわよ、むしろ好意を抱いてるわ」

「えっ、本当っ!? じゃあじゃあ~、あたしと唐揚げ、どっちが好きぃ?」

「もちろん唐揚げよ」

「ええ~っ? そんなぁ~」

 当たり障りなく、からかってみれば。あまり残念そうに見えないハルが、口を尖らせながらテーブルに突っ伏していく。
 あんたが作った唐揚げは、私の好きな料理ランキング、不動の二位よ? その唐揚げと天秤を掛けられたら、そう答えるに決まっているじゃない。
 今のは、質問の仕方が悪いわ。もし、人間の中で誰が一番好きかという質問だったら、あんただって答えてあげたのに。

「唐揚げめぇ~、あたしよりめりぃしゃんと仲良くなりやがってぇ~。チクショー、悔しい~」

 唐揚げに文句を言い出したハルが、ジト目で私を睨みつけてきた。

「めりぃしゃ~ん。どーすれば、君ともっと仲良くなれるのぉ?」

「え?」

「だーかーらー、どーすれば君ともっと仲良くなれるのぉ?」

 素っ気なくも剛速球で、不意を突き破るド直球な質問に、私の視界が大きく広まった。……ビックリした。急に、とんでもない質問をぶん投げてくるじゃないの。
 普段のハルだと、たとえ長考してフリーズしようとも、この質問は絶対してこないわよね。まず適当にはぐらかすか、強引に話を変えるでしょう。
 きっとこれは、ハルが胸の最奥に留めている、私の前では決して明かさない本音中の本音。酔っぱらうと、こんな簡単に出てきちゃうんだ。恐ろしいわね、お酒って。

 ……そう。ハルって、私と仲良くなりたいんだ。どうして仲良くなりたいのか、理由がものすごく気になる所だけれども。今ここで、その理由を深く掘り下げていくのは、タイミング的に違うわ。
 この本音は、あらゆる過程をすっ飛ばし、お酒というズルを使用して聞いてしまったのよ。だから、今の私には、仲良くなりたい理由を聞く資格を、持ち合わせてなんかいない。
 なので、聞きたい欲をグッと堪えなければ。ここで理由を聞いたら、私はただの卑怯者になる。強い罪悪感にも駆られ、ふとした瞬間この事を思い出し、一生引きずる事になるでしょうね。

「……その質問、聞かなかった事にするわ」

「ええ~、なんでぇ~? いいじゃ~ん、教えてよぉ~」

「ダメよ。あんたが酔っぱらってない時に、まったく同じ質問をしてきたら、素直に答えてあげるわ」

「なにそれぇ~? あたし酔っぱらってなんかないよぉ~? だから教えてってばぁ~」

「顔が赤くなってるクセに、強がってんじゃないわよ。さあ、料理はまだ残ってるんだから、全部食べちゃいましょ」

「ぶぅ~。めりぃしゃんのケチィ~」

 どうやら諦めてくれたらしく。突っ伏していた体を起こし、私にそっと寄り掛かってきたハルが、料理を食べ出した。
 ごめんなさいね、ハル。酔っぱらっていたとはいえ、奥底にしまい込んでいた本音を、一部だけ覗いちゃって。でも、あんたと仲良くなりたいっていう気持ちは、私も同じよ。
 だから、私も分かりやすいアプローチを、少しずつしてあげるわ。それも、あんたが酔っぱらっていない時だけにね。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...