私、メリーさん。今、あなたと色んな物を食べているの

桜乱捕り

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108話、八方美人は奢りたい

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「私、メリーさん。今、あなたの左斜め後ろにいるの」

「えっ? ちょっと、メリーさんや? これって、振り向いたら死ぬやつですかい?」

「安心しなさい。『あなたの後ろにいるの』以外は、全部ノーカウントよ」

「ああ、そうなんだ。じゃあ今回は、ちょっと左にズレてるから大丈夫だね」

 食後のおやつを用意しがてら。久々に、ハルを驚かせてしまった。懐かしいわね、こうやって電話をするのって。
 気配を消しながら背後を取り、決め台詞を言った後。相手の背筋は凍り付き、死を悟って引き攣った顔が、ぎこちなく私の方へ向いてくるの。
 あの瞬間と表情が、たまらなく好きだったのよね。っと、こうしている場合じゃない。早くハルに、私が買ってきたおやつを振る舞わないと。

「はい、食後のおやつよ」

 通話を切った携帯電話をしまい込み、右手に持っていた『ブタメェン』を、テーブルに置けば。油断していたハルが、「おおっ」と弾んだ声を上げた。

「ブタメェンじゃん! う~わ、懐かしっ。これ、食べていいの?」

「ええ、あんたに食べて欲しくて買ってきたのよ。ゆっくり味わって食べてちょうだいね」

「マジか、やったー! ありがとう、メリーさん」

 思わぬブタメェンの登場により、嬉しそうにほくそ笑んだハルを認めつつ、対面に座る。よかった、ハルが喜んでくれて。
 懐かしいと言っていたし。たぶんハルも、駄菓子をよく食べていたんでしょうね。ならば後で、ハルの好きな駄菓子を聞いておかないと。

「ちなみにさ。お湯って、何分前ぐらいに入れたの?」

「そうね、まだ一分も経ってないと思うわよ」

「一分か。よし! なら食べよっと」

「え?」

 お湯を入れてから、一分も経たずに食べるですって? まさかハルまで、ブタメェン通だったとは。それとも、意外とスタンダードな食べ方なのかしら?
 差し出して十秒もしない内に、蓋を開けたハルが、ほぐれ切っていない麺のダマを持ち上げ、大口を開けて口の中へ入れた。

「う~ん、これこれ! このパリパリ感よ! 味も変わってないし、うんまぁ~」

「そう、喜んでくれて何よりだわ。さてと、私も食べよっと」

 ハルを見ていて食欲が疼いてきたので、ポケットに入れていた『うんめぇ棒』を取り出し、テーブルに並べていく。
 用意したのは、『コーンポタージュ味』。駄菓子屋で出会った、男の子が大好きな『めんたい味』。同じく駄菓子屋で出会った、女の子オススメの『シュガーラスク味』。この三種類。
 コーンポタージュ味は、なんとなく味の想像がつくけれども。めんたいとシュガーラスクは、味が濃いだとか、甘くておいしいという情報しか得ていない。だからこそ、食べるのが楽しみなのよね。

「おっ、うんめぇ棒じゃん。それも懐かしいなぁ~。もしかして、今日は駄菓子屋に行ったの?」

「ええ、食べ歩きをしようと思ってね。最初は、うんめぇ棒のコーンポタージュ味でしょ? ベビースターダストラーメン、わさびのり次郎だけを買おうとしていたんだけども。後から、元気いっぱいな子供達が来てね。色々良くしてくれたり、オススメの駄菓子を聞いたら沢山教えてくれたから、ついいっぱい買っちゃったわ」

「へぇ~、子供達と遊んだんだ。すっかり商店街の人気者だねー。楽しかったでしょ?」

「そうね。あの無邪気っぷりを見てるだけで、すごく楽しかったわ」

 おまけに、また一緒に駄菓子を食べる約束までしてしまった。しかも今度は、ブタメェンより値段が高い『グルグルもんじゃ』を食べる予定でいる。
 『グルグルもんじゃ』って、八十円するのよね。あの子達、ちゃんとお金を用意出来るかしら? まあ、用意出来なかった時は仕方ない。美人の私が、再び奢ってあげようじゃないの。

「うんうん、良い事だ。いや~しかし、見てるとだんだん食べたくなってきたや。ねえ、メリーさん。時間が合った時でいいから、私と一緒に駄菓子屋へ行かない?」

「あら、それもいいわね。なら、今度の休日にでも行きましょ」

「オッケー、ありがとう! 何食べよっかな~? あれって、まだあるのかな?」

 約束を交わした途端。嬉しそうに笑みを浮かべたハルが、ようやくほぐれたブタメェンをすすった。今から何の駄菓子を食べるのか、考えているようね。
 嬉々とした独り言から察するに、やはりハルも駄菓子に精通していそうだ。ハルは、どんな駄菓子を食べていたんだろう? ちょっと気になるわね。

「ねえ、メリーさん。駄菓子屋にさ、赤い袋に『ニンジン』って書かれた駄菓子って、あった?」

「ポン菓子のやつでしょ? あったわよ」

「まだあるんだ! うわっ、絶対食べよ。あとは、カルパッスペンシルでしょ? キャベツ一郎に、ウルトラBIGチョコも捨て難いなぁ~」

「あら。ウルトラBIGチョコなら、今あるわよ」

 そう、さり気なく言った瞬間。やたらと目力があるハルの真顔が、私をガッチリと捉えた。あの雄々しくもあり、欲が宿っていそうな輝かしい眼差しよ。
 もう、見ただけで分かってしまった。ハルは、ウルトラBIGチョコが大好きなのだと。私の予想だけど、ハルと男の子の好物、かなり被っていそうだわ。

「……た、食べたいの?」

 分かり切っている質問をすると、ハルは無言で力強く二度うなずいた。食べないという選択肢は、元より無いと言わんばかりの清々しさね。
 まあ、ハルに振る舞うは全然構わない。むしろ、一緒に食べたいと思っている。けど、ここでウルトラBIGチョコだけを出すのは、なんだか物寂しさを感じる。
 ハルが喜ぶ顔を見てみたいし……。いいや、買ってきた駄菓子を全部持ってきてしまおう。

「そう。なら、今持ってきてあげるわ」

「いいのぉっ!? やったー! ありがとう! ちょ、メリーさん。半分こしようよ、半分こ!」

「ふふっ。せっかくだし、そうしましょっか」

 ハルったら、子供みたいにはしゃいじゃって。これは、ハルと一緒に駄菓子屋へ行くのが、すごく楽しみになってきたわ。
 どうしよう。ハルにオススメの駄菓子を聞いて、抱え切れないほど持ってきたら。もしそうなったら、流石に笑っちゃいそうだなぁ。
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