110 / 199
108話、八方美人は奢りたい
しおりを挟む
「私、メリーさん。今、あなたの左斜め後ろにいるの」
「えっ? ちょっと、メリーさんや? これって、振り向いたら死ぬやつですかい?」
「安心しなさい。『あなたの後ろにいるの』以外は、全部ノーカウントよ」
「ああ、そうなんだ。じゃあ今回は、ちょっと左にズレてるから大丈夫だね」
食後のおやつを用意しがてら。久々に、ハルを驚かせてしまった。懐かしいわね、こうやって電話をするのって。
気配を消しながら背後を取り、決め台詞を言った後。相手の背筋は凍り付き、死を悟って引き攣った顔が、ぎこちなく私の方へ向いてくるの。
あの瞬間と表情が、たまらなく好きだったのよね。っと、こうしている場合じゃない。早くハルに、私が買ってきたおやつを振る舞わないと。
「はい、食後のおやつよ」
通話を切った携帯電話をしまい込み、右手に持っていた『ブタメェン』を、テーブルに置けば。油断していたハルが、「おおっ」と弾んだ声を上げた。
「ブタメェンじゃん! う~わ、懐かしっ。これ、食べていいの?」
「ええ、あんたに食べて欲しくて買ってきたのよ。ゆっくり味わって食べてちょうだいね」
「マジか、やったー! ありがとう、メリーさん」
思わぬブタメェンの登場により、嬉しそうにほくそ笑んだハルを認めつつ、対面に座る。よかった、ハルが喜んでくれて。
懐かしいと言っていたし。たぶんハルも、駄菓子をよく食べていたんでしょうね。ならば後で、ハルの好きな駄菓子を聞いておかないと。
「ちなみにさ。お湯って、何分前ぐらいに入れたの?」
「そうね、まだ一分も経ってないと思うわよ」
「一分か。よし! なら食べよっと」
「え?」
お湯を入れてから、一分も経たずに食べるですって? まさかハルまで、ブタメェン通だったとは。それとも、意外とスタンダードな食べ方なのかしら?
差し出して十秒もしない内に、蓋を開けたハルが、ほぐれ切っていない麺のダマを持ち上げ、大口を開けて口の中へ入れた。
「う~ん、これこれ! このパリパリ感よ! 味も変わってないし、うんまぁ~」
「そう、喜んでくれて何よりだわ。さてと、私も食べよっと」
ハルを見ていて食欲が疼いてきたので、ポケットに入れていた『うんめぇ棒』を取り出し、テーブルに並べていく。
用意したのは、『コーンポタージュ味』。駄菓子屋で出会った、男の子が大好きな『めんたい味』。同じく駄菓子屋で出会った、女の子オススメの『シュガーラスク味』。この三種類。
コーンポタージュ味は、なんとなく味の想像がつくけれども。めんたいとシュガーラスクは、味が濃いだとか、甘くておいしいという情報しか得ていない。だからこそ、食べるのが楽しみなのよね。
「おっ、うんめぇ棒じゃん。それも懐かしいなぁ~。もしかして、今日は駄菓子屋に行ったの?」
「ええ、食べ歩きをしようと思ってね。最初は、うんめぇ棒のコーンポタージュ味でしょ? ベビースターダストラーメン、わさびのり次郎だけを買おうとしていたんだけども。後から、元気いっぱいな子供達が来てね。色々良くしてくれたり、オススメの駄菓子を聞いたら沢山教えてくれたから、ついいっぱい買っちゃったわ」
「へぇ~、子供達と遊んだんだ。すっかり商店街の人気者だねー。楽しかったでしょ?」
「そうね。あの無邪気っぷりを見てるだけで、すごく楽しかったわ」
おまけに、また一緒に駄菓子を食べる約束までしてしまった。しかも今度は、ブタメェンより値段が高い『グルグルもんじゃ』を食べる予定でいる。
『グルグルもんじゃ』って、八十円するのよね。あの子達、ちゃんとお金を用意出来るかしら? まあ、用意出来なかった時は仕方ない。美人の私が、再び奢ってあげようじゃないの。
「うんうん、良い事だ。いや~しかし、見てるとだんだん食べたくなってきたや。ねえ、メリーさん。時間が合った時でいいから、私と一緒に駄菓子屋へ行かない?」
「あら、それもいいわね。なら、今度の休日にでも行きましょ」
「オッケー、ありがとう! 何食べよっかな~? あれって、まだあるのかな?」
約束を交わした途端。嬉しそうに笑みを浮かべたハルが、ようやくほぐれたブタメェンをすすった。今から何の駄菓子を食べるのか、考えているようね。
嬉々とした独り言から察するに、やはりハルも駄菓子に精通していそうだ。ハルは、どんな駄菓子を食べていたんだろう? ちょっと気になるわね。
「ねえ、メリーさん。駄菓子屋にさ、赤い袋に『ニンジン』って書かれた駄菓子って、あった?」
「ポン菓子のやつでしょ? あったわよ」
「まだあるんだ! うわっ、絶対食べよ。あとは、カルパッスペンシルでしょ? キャベツ一郎に、ウルトラBIGチョコも捨て難いなぁ~」
「あら。ウルトラBIGチョコなら、今あるわよ」
そう、さり気なく言った瞬間。やたらと目力があるハルの真顔が、私をガッチリと捉えた。あの雄々しくもあり、欲が宿っていそうな輝かしい眼差しよ。
もう、見ただけで分かってしまった。ハルは、ウルトラBIGチョコが大好きなのだと。私の予想だけど、ハルと男の子の好物、かなり被っていそうだわ。
「……た、食べたいの?」
分かり切っている質問をすると、ハルは無言で力強く二度頷いた。食べないという選択肢は、元より無いと言わんばかりの清々しさね。
まあ、ハルに振る舞うは全然構わない。むしろ、一緒に食べたいと思っている。けど、ここでウルトラBIGチョコだけを出すのは、なんだか物寂しさを感じる。
ハルが喜ぶ顔を見てみたいし……。いいや、買ってきた駄菓子を全部持ってきてしまおう。
「そう。なら、今持ってきてあげるわ」
「いいのぉっ!? やったー! ありがとう! ちょ、メリーさん。半分こしようよ、半分こ!」
「ふふっ。せっかくだし、そうしましょっか」
ハルったら、子供みたいにはしゃいじゃって。これは、ハルと一緒に駄菓子屋へ行くのが、すごく楽しみになってきたわ。
どうしよう。ハルにオススメの駄菓子を聞いて、抱え切れないほど持ってきたら。もしそうなったら、流石に笑っちゃいそうだなぁ。
「えっ? ちょっと、メリーさんや? これって、振り向いたら死ぬやつですかい?」
「安心しなさい。『あなたの後ろにいるの』以外は、全部ノーカウントよ」
「ああ、そうなんだ。じゃあ今回は、ちょっと左にズレてるから大丈夫だね」
食後のおやつを用意しがてら。久々に、ハルを驚かせてしまった。懐かしいわね、こうやって電話をするのって。
気配を消しながら背後を取り、決め台詞を言った後。相手の背筋は凍り付き、死を悟って引き攣った顔が、ぎこちなく私の方へ向いてくるの。
あの瞬間と表情が、たまらなく好きだったのよね。っと、こうしている場合じゃない。早くハルに、私が買ってきたおやつを振る舞わないと。
「はい、食後のおやつよ」
通話を切った携帯電話をしまい込み、右手に持っていた『ブタメェン』を、テーブルに置けば。油断していたハルが、「おおっ」と弾んだ声を上げた。
「ブタメェンじゃん! う~わ、懐かしっ。これ、食べていいの?」
「ええ、あんたに食べて欲しくて買ってきたのよ。ゆっくり味わって食べてちょうだいね」
「マジか、やったー! ありがとう、メリーさん」
思わぬブタメェンの登場により、嬉しそうにほくそ笑んだハルを認めつつ、対面に座る。よかった、ハルが喜んでくれて。
懐かしいと言っていたし。たぶんハルも、駄菓子をよく食べていたんでしょうね。ならば後で、ハルの好きな駄菓子を聞いておかないと。
「ちなみにさ。お湯って、何分前ぐらいに入れたの?」
「そうね、まだ一分も経ってないと思うわよ」
「一分か。よし! なら食べよっと」
「え?」
お湯を入れてから、一分も経たずに食べるですって? まさかハルまで、ブタメェン通だったとは。それとも、意外とスタンダードな食べ方なのかしら?
差し出して十秒もしない内に、蓋を開けたハルが、ほぐれ切っていない麺のダマを持ち上げ、大口を開けて口の中へ入れた。
「う~ん、これこれ! このパリパリ感よ! 味も変わってないし、うんまぁ~」
「そう、喜んでくれて何よりだわ。さてと、私も食べよっと」
ハルを見ていて食欲が疼いてきたので、ポケットに入れていた『うんめぇ棒』を取り出し、テーブルに並べていく。
用意したのは、『コーンポタージュ味』。駄菓子屋で出会った、男の子が大好きな『めんたい味』。同じく駄菓子屋で出会った、女の子オススメの『シュガーラスク味』。この三種類。
コーンポタージュ味は、なんとなく味の想像がつくけれども。めんたいとシュガーラスクは、味が濃いだとか、甘くておいしいという情報しか得ていない。だからこそ、食べるのが楽しみなのよね。
「おっ、うんめぇ棒じゃん。それも懐かしいなぁ~。もしかして、今日は駄菓子屋に行ったの?」
「ええ、食べ歩きをしようと思ってね。最初は、うんめぇ棒のコーンポタージュ味でしょ? ベビースターダストラーメン、わさびのり次郎だけを買おうとしていたんだけども。後から、元気いっぱいな子供達が来てね。色々良くしてくれたり、オススメの駄菓子を聞いたら沢山教えてくれたから、ついいっぱい買っちゃったわ」
「へぇ~、子供達と遊んだんだ。すっかり商店街の人気者だねー。楽しかったでしょ?」
「そうね。あの無邪気っぷりを見てるだけで、すごく楽しかったわ」
おまけに、また一緒に駄菓子を食べる約束までしてしまった。しかも今度は、ブタメェンより値段が高い『グルグルもんじゃ』を食べる予定でいる。
『グルグルもんじゃ』って、八十円するのよね。あの子達、ちゃんとお金を用意出来るかしら? まあ、用意出来なかった時は仕方ない。美人の私が、再び奢ってあげようじゃないの。
「うんうん、良い事だ。いや~しかし、見てるとだんだん食べたくなってきたや。ねえ、メリーさん。時間が合った時でいいから、私と一緒に駄菓子屋へ行かない?」
「あら、それもいいわね。なら、今度の休日にでも行きましょ」
「オッケー、ありがとう! 何食べよっかな~? あれって、まだあるのかな?」
約束を交わした途端。嬉しそうに笑みを浮かべたハルが、ようやくほぐれたブタメェンをすすった。今から何の駄菓子を食べるのか、考えているようね。
嬉々とした独り言から察するに、やはりハルも駄菓子に精通していそうだ。ハルは、どんな駄菓子を食べていたんだろう? ちょっと気になるわね。
「ねえ、メリーさん。駄菓子屋にさ、赤い袋に『ニンジン』って書かれた駄菓子って、あった?」
「ポン菓子のやつでしょ? あったわよ」
「まだあるんだ! うわっ、絶対食べよ。あとは、カルパッスペンシルでしょ? キャベツ一郎に、ウルトラBIGチョコも捨て難いなぁ~」
「あら。ウルトラBIGチョコなら、今あるわよ」
そう、さり気なく言った瞬間。やたらと目力があるハルの真顔が、私をガッチリと捉えた。あの雄々しくもあり、欲が宿っていそうな輝かしい眼差しよ。
もう、見ただけで分かってしまった。ハルは、ウルトラBIGチョコが大好きなのだと。私の予想だけど、ハルと男の子の好物、かなり被っていそうだわ。
「……た、食べたいの?」
分かり切っている質問をすると、ハルは無言で力強く二度頷いた。食べないという選択肢は、元より無いと言わんばかりの清々しさね。
まあ、ハルに振る舞うは全然構わない。むしろ、一緒に食べたいと思っている。けど、ここでウルトラBIGチョコだけを出すのは、なんだか物寂しさを感じる。
ハルが喜ぶ顔を見てみたいし……。いいや、買ってきた駄菓子を全部持ってきてしまおう。
「そう。なら、今持ってきてあげるわ」
「いいのぉっ!? やったー! ありがとう! ちょ、メリーさん。半分こしようよ、半分こ!」
「ふふっ。せっかくだし、そうしましょっか」
ハルったら、子供みたいにはしゃいじゃって。これは、ハルと一緒に駄菓子屋へ行くのが、すごく楽しみになってきたわ。
どうしよう。ハルにオススメの駄菓子を聞いて、抱え切れないほど持ってきたら。もしそうなったら、流石に笑っちゃいそうだなぁ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる