私、メリーさん。今、あなたと色んな物を食べているの

桜乱捕り

文字の大きさ
93 / 199

91話、単価を気にする都市伝説

しおりを挟む
「私、メリーさん……。今、アリオンに居るの」

『えっ、嘘? マジで?』「ああ、なんだ。ちゃんと居るじゃん。さては、心だけ行っちゃった感じだね?」

「銀々だこは、確かこっち……」

『ああ、いいねぇ。たこねぎ、マジで美味かったな~』

 電話越しから聞こえていたハルの声が、私の耳に届く距離まで近づいてきて、再び遠くへ行った。
 アリオンに居る時は、またいずれ来れると名残惜しさはなかったものの。いざ、ハルの家に帰って来たら、あの雰囲気や空気が恋しくなってきちゃったのよね。
 本当に楽しかったなぁ、ハルとの食べ歩き。今度は、いつ出来るんだろう? ちょっとワガママだけど、月一ぐらいのペースでやりたいわ。

「はい、メリーさん。夕食お待ち~」

「わあ、銀々だこが見えて……、あら、銀紙だ」

 すぐ間近で、皿を置いた音が聞こえたので、テーブルに突っ伏していた顔を上げてみる。
 そのまま、気だるげに中を覗いてみたら、やや大きめの楕円形をしている、銀色の物体が視界に入った。
 この銀紙、確かアルミホイルってやつだったわよね。光をあらゆる角度へ乱反射させている様が、なんとも綺麗だわ。

「アルミホイルって事は、今日は何かのホイル焼きなの?」

「正解! 沢山あるサーモンを、ちょっと贅沢に使ってみたんだ」

「へぇ、サーモンを。……わあっ、いい匂い~」

 ハルが、アルミホイルを開けた瞬間。眠りに就きそうだった食欲を叩き起こす、醤油の香ばしさを兼ね揃えた、バターの芳醇な香りが一気に漂ってきた。
 中央に鎮座している、主役のサーモン。私が知っているホイル焼きは、鮭が使われていたはずだけれども。今回使用しているのは、刺身用のサーモンだわ。
 その周りには、クタクタになったエノキがあり。サーモンの下に、黄金色の汁に浸った、タマネギと千切りされたニンジンが敷かれている。
 あの汁、野菜とサーモンの旨味をたっぷり含んでいるだろうし、絶対においしいやつだ。ご飯と合いそう。それにしても、結構大きいわね。三、四百g以上はありそう。

「これ、作るのが簡単そうね」

「カットしたタマネギとニンジン、ほぐしたエノキを入れて、お好みの味付けをするだけだからね。めっちゃ簡単だよ」

「あら、すごく簡単じゃない」

 それに調理方法は、オーブンで加熱するだけでもいいし。少量の水を張ったフライパンに置き、蒸す感じで火を通すのもアリね。

「私もいつか、お昼に作ってみようかしら?」

「おお、いいじゃん。サーモンはまだ沢山あるから、使っちゃってもいいよ。もし鮭で作るなら、骨に気を付けながら食べなね」

「ああ。そういえば、刺身用のサーモンだったら骨が無いのよね」

 しかし、スーパーで売っている刺身用サーモンは、鮭の三倍ぐらい高かったはず。鮭は、二切れで二、三百円程度なのに対し。刺身用サーモンは、大きければ八、九百円になる。
 値段の差は、火を見るより明らか。ハルと私のホイル焼きで、他の具材を度外視すれば、約千六円から千八百円前後になる計算だ。
 ……これ、食べる前に値段の計算をするのは、やめた方がいいわね。緊張して、味が分からなくなってしまいそうだわ。

「そうそう。どこから食べても、バグバグいけちゃうよ。それじゃ、そろそろ食べますか。いただきまーす」

「いただきます」

 食事の挨拶を交わし、左手にご飯が盛られたお椀を、右手に箸を持つ。
 サーモン自体は、とても柔らかいわね。箸がすんなりと入るし、身が簡単にほぐれていく。

「あっ、鮭の味に似てる」

 適当な大きさにほぐした身を、ご飯にとんとんと軽く叩き、口の中に入れてみれば。この前、朝食の時に食べた焼き鮭と、あまり差異のない風味を感じた。
 でも、しっかり噛んでいくと、印象がだいぶ変わってくるわね。身はふっくらしっとりとしていて、味はやや淡泊。
 旨味が凝縮した塩味は、ちょっとずつ強くなってきたけど、油はほとんど出ずにサッパリしている。

 そういえば、刺身用サーモンだと皮や血合いの部分が無いのよね。だから、皮と身の間にあるはずの脂身も、茶色をした箇所も無し。ずっと身を食べ続ける事になる。
 しかし、飲み込める頃になれば、バター醬油のまろやかなコクと上手く混ざり合い、ご飯が進む風味に変わっていく。
 最初は、ちょっと味付けが薄いかも? って印象だったけど、最終的にはちょうどよく纏まっている。

 タマネギとニンジン、エノキもそう。エノキって、面白い食感をしているじゃない。一本一本が細いのに対し、意外と固く。キノコ類なのにシャキシャキとしていて、噛む口が止まらない。
 タマネギは、もはや言わずもがなね。サーモンとバターの旨味をたっぷり吸っていて、なおかつ丸みを帯びた優しい甘味が濃いから、ずっと食べていたいわ。私、味が染みたタマネギって、本当に好きなのよね。
 それにニンジンだって、タマネギの甘さに負けていない。どんなに細切りされても、すぐ見つけられる濃い甘さと、ホクッとした食感は健在。ニンジンの存在感と安定感って、いつ食べてもすごいと思うわ。

「うん。どれもバターと合ってて、すごくおいしい」

「いいねぇ、刺身用サーモンのホイル焼き。めっちゃ食べやすいじゃん」

「そうね。いくら身を大きく割いても、骨を気にせず食べられるのが良いわ」

 言ってしまえば、豪快に丸かじりをする事だって可能。その食べ方も、案外おいしそうね。……いや、待てよ? これだけ身が大きいなら、あの料理が作れるのでは?

「ねえ、ハル。このサーモンを使ったステーキとか、おいしそうじゃない?」

「……え? メリーさん、天才じゃん。サーモンってニンニクと合うから、マジで美味そう。材料は足りるだろうし、作ってみようかな?」

「あら、ニンニクと合うのね」

「うん、相性抜群だよ。でも、丼物も作りたいから、ちょっと日を開けてから作ってみるね」

 出た、丼物。ハルの事だから、絶対においしい丼物よね。ならば、先にそっちを楽しみにして待っていよう。

「分かったわ。あんたが作る丼物、期待してるわよ?」

「任せてちょうだい。箸が止まらなくなる、シンプルかつ最強の丼物を作ってあげるからね」

 そう豪語してくれたハルが、頼り甲斐のある緩い笑みを浮かべた。シンプルなのに、最強の丼物。ああ、どうしよう。期待がどんどん高まっていく。
 それにしても、サーモンって何の料理にでも合うのね。蒸しても良し、焼いても良し、生でも良し。魚にしては、幅広い料理を作れそうだ。
 これでもっと安ければ、私もお駄賃を使って色々試せるんだけどなぁ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...