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91話、単価を気にする都市伝説
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「私、メリーさん……。今、アリオンに居るの」
『えっ、嘘? マジで?』「ああ、なんだ。ちゃんと居るじゃん。さては、心だけ行っちゃった感じだね?」
「銀々だこは、確かこっち……」
『ああ、いいねぇ。たこねぎ、マジで美味かったな~』
電話越しから聞こえていたハルの声が、私の耳に届く距離まで近づいてきて、再び遠くへ行った。
アリオンに居る時は、またいずれ来れると名残惜しさはなかったものの。いざ、ハルの家に帰って来たら、あの雰囲気や空気が恋しくなってきちゃったのよね。
本当に楽しかったなぁ、ハルとの食べ歩き。今度は、いつ出来るんだろう? ちょっとワガママだけど、月一ぐらいのペースでやりたいわ。
「はい、メリーさん。夕食お待ち~」
「わあ、銀々だこが見えて……、あら、銀紙だ」
すぐ間近で、皿を置いた音が聞こえたので、テーブルに突っ伏していた顔を上げてみる。
そのまま、気だるげに中を覗いてみたら、やや大きめの楕円形をしている、銀色の物体が視界に入った。
この銀紙、確かアルミホイルってやつだったわよね。光をあらゆる角度へ乱反射させている様が、なんとも綺麗だわ。
「アルミホイルって事は、今日は何かのホイル焼きなの?」
「正解! 沢山あるサーモンを、ちょっと贅沢に使ってみたんだ」
「へぇ、サーモンを。……わあっ、いい匂い~」
ハルが、アルミホイルを開けた瞬間。眠りに就きそうだった食欲を叩き起こす、醤油の香ばしさを兼ね揃えた、バターの芳醇な香りが一気に漂ってきた。
中央に鎮座している、主役のサーモン。私が知っているホイル焼きは、鮭が使われていたはずだけれども。今回使用しているのは、刺身用のサーモンだわ。
その周りには、クタクタになったエノキがあり。サーモンの下に、黄金色の汁に浸った、タマネギと千切りされたニンジンが敷かれている。
あの汁、野菜とサーモンの旨味をたっぷり含んでいるだろうし、絶対においしいやつだ。ご飯と合いそう。それにしても、結構大きいわね。三、四百g以上はありそう。
「これ、作るのが簡単そうね」
「カットしたタマネギとニンジン、ほぐしたエノキを入れて、お好みの味付けをするだけだからね。めっちゃ簡単だよ」
「あら、すごく簡単じゃない」
それに調理方法は、オーブンで加熱するだけでもいいし。少量の水を張ったフライパンに置き、蒸す感じで火を通すのもアリね。
「私もいつか、お昼に作ってみようかしら?」
「おお、いいじゃん。サーモンはまだ沢山あるから、使っちゃってもいいよ。もし鮭で作るなら、骨に気を付けながら食べなね」
「ああ。そういえば、刺身用のサーモンだったら骨が無いのよね」
しかし、スーパーで売っている刺身用サーモンは、鮭の三倍ぐらい高かったはず。鮭は、二切れで二、三百円程度なのに対し。刺身用サーモンは、大きければ八、九百円になる。
値段の差は、火を見るより明らか。ハルと私のホイル焼きで、他の具材を度外視すれば、約千六円から千八百円前後になる計算だ。
……これ、食べる前に値段の計算をするのは、やめた方がいいわね。緊張して、味が分からなくなってしまいそうだわ。
「そうそう。どこから食べても、バグバグいけちゃうよ。それじゃ、そろそろ食べますか。いただきまーす」
「いただきます」
食事の挨拶を交わし、左手にご飯が盛られたお椀を、右手に箸を持つ。
サーモン自体は、とても柔らかいわね。箸がすんなりと入るし、身が簡単にほぐれていく。
「あっ、鮭の味に似てる」
適当な大きさにほぐした身を、ご飯にとんとんと軽く叩き、口の中に入れてみれば。この前、朝食の時に食べた焼き鮭と、あまり差異のない風味を感じた。
でも、しっかり噛んでいくと、印象がだいぶ変わってくるわね。身はふっくらしっとりとしていて、味はやや淡泊。
旨味が凝縮した塩味は、ちょっとずつ強くなってきたけど、油はほとんど出ずにサッパリしている。
そういえば、刺身用サーモンだと皮や血合いの部分が無いのよね。だから、皮と身の間にあるはずの脂身も、茶色をした箇所も無し。ずっと身を食べ続ける事になる。
しかし、飲み込める頃になれば、バター醬油のまろやかなコクと上手く混ざり合い、ご飯が進む風味に変わっていく。
最初は、ちょっと味付けが薄いかも? って印象だったけど、最終的にはちょうどよく纏まっている。
タマネギとニンジン、エノキもそう。エノキって、面白い食感をしているじゃない。一本一本が細いのに対し、意外と固く。キノコ類なのにシャキシャキとしていて、噛む口が止まらない。
タマネギは、もはや言わずもがなね。サーモンとバターの旨味をたっぷり吸っていて、なおかつ丸みを帯びた優しい甘味が濃いから、ずっと食べていたいわ。私、味が染みたタマネギって、本当に好きなのよね。
それにニンジンだって、タマネギの甘さに負けていない。どんなに細切りされても、すぐ見つけられる濃い甘さと、ホクッとした食感は健在。ニンジンの存在感と安定感って、いつ食べてもすごいと思うわ。
「うん。どれもバターと合ってて、すごくおいしい」
「いいねぇ、刺身用サーモンのホイル焼き。めっちゃ食べやすいじゃん」
「そうね。いくら身を大きく割いても、骨を気にせず食べられるのが良いわ」
言ってしまえば、豪快に丸かじりをする事だって可能。その食べ方も、案外おいしそうね。……いや、待てよ? これだけ身が大きいなら、あの料理が作れるのでは?
「ねえ、ハル。このサーモンを使ったステーキとか、おいしそうじゃない?」
「……え? メリーさん、天才じゃん。サーモンってニンニクと合うから、マジで美味そう。材料は足りるだろうし、作ってみようかな?」
「あら、ニンニクと合うのね」
「うん、相性抜群だよ。でも、丼物も作りたいから、ちょっと日を開けてから作ってみるね」
出た、丼物。ハルの事だから、絶対においしい丼物よね。ならば、先にそっちを楽しみにして待っていよう。
「分かったわ。あんたが作る丼物、期待してるわよ?」
「任せてちょうだい。箸が止まらなくなる、シンプルかつ最強の丼物を作ってあげるからね」
そう豪語してくれたハルが、頼り甲斐のある緩い笑みを浮かべた。シンプルなのに、最強の丼物。ああ、どうしよう。期待がどんどん高まっていく。
それにしても、サーモンって何の料理にでも合うのね。蒸しても良し、焼いても良し、生でも良し。魚にしては、幅広い料理を作れそうだ。
これでもっと安ければ、私もお駄賃を使って色々試せるんだけどなぁ。
『えっ、嘘? マジで?』「ああ、なんだ。ちゃんと居るじゃん。さては、心だけ行っちゃった感じだね?」
「銀々だこは、確かこっち……」
『ああ、いいねぇ。たこねぎ、マジで美味かったな~』
電話越しから聞こえていたハルの声が、私の耳に届く距離まで近づいてきて、再び遠くへ行った。
アリオンに居る時は、またいずれ来れると名残惜しさはなかったものの。いざ、ハルの家に帰って来たら、あの雰囲気や空気が恋しくなってきちゃったのよね。
本当に楽しかったなぁ、ハルとの食べ歩き。今度は、いつ出来るんだろう? ちょっとワガママだけど、月一ぐらいのペースでやりたいわ。
「はい、メリーさん。夕食お待ち~」
「わあ、銀々だこが見えて……、あら、銀紙だ」
すぐ間近で、皿を置いた音が聞こえたので、テーブルに突っ伏していた顔を上げてみる。
そのまま、気だるげに中を覗いてみたら、やや大きめの楕円形をしている、銀色の物体が視界に入った。
この銀紙、確かアルミホイルってやつだったわよね。光をあらゆる角度へ乱反射させている様が、なんとも綺麗だわ。
「アルミホイルって事は、今日は何かのホイル焼きなの?」
「正解! 沢山あるサーモンを、ちょっと贅沢に使ってみたんだ」
「へぇ、サーモンを。……わあっ、いい匂い~」
ハルが、アルミホイルを開けた瞬間。眠りに就きそうだった食欲を叩き起こす、醤油の香ばしさを兼ね揃えた、バターの芳醇な香りが一気に漂ってきた。
中央に鎮座している、主役のサーモン。私が知っているホイル焼きは、鮭が使われていたはずだけれども。今回使用しているのは、刺身用のサーモンだわ。
その周りには、クタクタになったエノキがあり。サーモンの下に、黄金色の汁に浸った、タマネギと千切りされたニンジンが敷かれている。
あの汁、野菜とサーモンの旨味をたっぷり含んでいるだろうし、絶対においしいやつだ。ご飯と合いそう。それにしても、結構大きいわね。三、四百g以上はありそう。
「これ、作るのが簡単そうね」
「カットしたタマネギとニンジン、ほぐしたエノキを入れて、お好みの味付けをするだけだからね。めっちゃ簡単だよ」
「あら、すごく簡単じゃない」
それに調理方法は、オーブンで加熱するだけでもいいし。少量の水を張ったフライパンに置き、蒸す感じで火を通すのもアリね。
「私もいつか、お昼に作ってみようかしら?」
「おお、いいじゃん。サーモンはまだ沢山あるから、使っちゃってもいいよ。もし鮭で作るなら、骨に気を付けながら食べなね」
「ああ。そういえば、刺身用のサーモンだったら骨が無いのよね」
しかし、スーパーで売っている刺身用サーモンは、鮭の三倍ぐらい高かったはず。鮭は、二切れで二、三百円程度なのに対し。刺身用サーモンは、大きければ八、九百円になる。
値段の差は、火を見るより明らか。ハルと私のホイル焼きで、他の具材を度外視すれば、約千六円から千八百円前後になる計算だ。
……これ、食べる前に値段の計算をするのは、やめた方がいいわね。緊張して、味が分からなくなってしまいそうだわ。
「そうそう。どこから食べても、バグバグいけちゃうよ。それじゃ、そろそろ食べますか。いただきまーす」
「いただきます」
食事の挨拶を交わし、左手にご飯が盛られたお椀を、右手に箸を持つ。
サーモン自体は、とても柔らかいわね。箸がすんなりと入るし、身が簡単にほぐれていく。
「あっ、鮭の味に似てる」
適当な大きさにほぐした身を、ご飯にとんとんと軽く叩き、口の中に入れてみれば。この前、朝食の時に食べた焼き鮭と、あまり差異のない風味を感じた。
でも、しっかり噛んでいくと、印象がだいぶ変わってくるわね。身はふっくらしっとりとしていて、味はやや淡泊。
旨味が凝縮した塩味は、ちょっとずつ強くなってきたけど、油はほとんど出ずにサッパリしている。
そういえば、刺身用サーモンだと皮や血合いの部分が無いのよね。だから、皮と身の間にあるはずの脂身も、茶色をした箇所も無し。ずっと身を食べ続ける事になる。
しかし、飲み込める頃になれば、バター醬油のまろやかなコクと上手く混ざり合い、ご飯が進む風味に変わっていく。
最初は、ちょっと味付けが薄いかも? って印象だったけど、最終的にはちょうどよく纏まっている。
タマネギとニンジン、エノキもそう。エノキって、面白い食感をしているじゃない。一本一本が細いのに対し、意外と固く。キノコ類なのにシャキシャキとしていて、噛む口が止まらない。
タマネギは、もはや言わずもがなね。サーモンとバターの旨味をたっぷり吸っていて、なおかつ丸みを帯びた優しい甘味が濃いから、ずっと食べていたいわ。私、味が染みたタマネギって、本当に好きなのよね。
それにニンジンだって、タマネギの甘さに負けていない。どんなに細切りされても、すぐ見つけられる濃い甘さと、ホクッとした食感は健在。ニンジンの存在感と安定感って、いつ食べてもすごいと思うわ。
「うん。どれもバターと合ってて、すごくおいしい」
「いいねぇ、刺身用サーモンのホイル焼き。めっちゃ食べやすいじゃん」
「そうね。いくら身を大きく割いても、骨を気にせず食べられるのが良いわ」
言ってしまえば、豪快に丸かじりをする事だって可能。その食べ方も、案外おいしそうね。……いや、待てよ? これだけ身が大きいなら、あの料理が作れるのでは?
「ねえ、ハル。このサーモンを使ったステーキとか、おいしそうじゃない?」
「……え? メリーさん、天才じゃん。サーモンってニンニクと合うから、マジで美味そう。材料は足りるだろうし、作ってみようかな?」
「あら、ニンニクと合うのね」
「うん、相性抜群だよ。でも、丼物も作りたいから、ちょっと日を開けてから作ってみるね」
出た、丼物。ハルの事だから、絶対においしい丼物よね。ならば、先にそっちを楽しみにして待っていよう。
「分かったわ。あんたが作る丼物、期待してるわよ?」
「任せてちょうだい。箸が止まらなくなる、シンプルかつ最強の丼物を作ってあげるからね」
そう豪語してくれたハルが、頼り甲斐のある緩い笑みを浮かべた。シンプルなのに、最強の丼物。ああ、どうしよう。期待がどんどん高まっていく。
それにしても、サーモンって何の料理にでも合うのね。蒸しても良し、焼いても良し、生でも良し。魚にしては、幅広い料理を作れそうだ。
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