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52話、カリカリとトロトロ
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「私、メリーさん。今、自分の姿に違和感を覚えているの」
「今まで、白のワンピースで一貫してたもんね。でも、結構似合ってるよ」
「そう? なら、いいんだけども」
ハルから貰った、このネイビー色のパジャマよ。正直に言うと、かなり気に入っている。薄い長袖だから、それなりに温かい。
あと、なぜかは分からないのだけれども。顔を洗う前の記憶が、まったく無い。目が覚めたと思ったら、いつの間にか顔を洗っていた状態だ。
本当は、タブレットで動画を観ながら過ごそうと思っていたのに。これも全て、ふわふわモコモコな布団が悪いのよ。……すごく気持ちよかったなぁ、布団の中。
「んじゃ、食べますか」
「そうね。いただきます」
「いただきまーす」
生まれて初めての朝食は、カリカリの焦げ目がおいしそうなホットサンド。それと、ハルも太鼓判を押したコーンスープ。ゆらゆらと昇る湯気が、見ていて落ち着いてくるわ。
ホットサンドは、食べやすいよう斜めから半分にカットされている。色合いのある断面には、とろとろにとろけて、ゆっくり垂れ下がってきているチーズ。
そのチーズに埋もれていく、薄桃色をしたハム。そして、ハルは言っていなかったけど、レタスも何枚か挟んであるわね。シャキシャキとしていそうだし、良いアクセントになりそう。
「んんっ、良い音が鳴るじゃない」
一回噛めば、『ザクッ』という豪快な音を鳴らし。口の中で噛むと、『ザクザクサクサク』と軽快になっていく。
味は、やっぱり熱でトロトロになり、みょーんと伸びていくチーズが一番強い。パンの香ばしい焦げ目の風味すら押しのける、少し濃く感じるまろやかなコク深い塩味ね。
遅れてパンの素朴な小麦の甘さが出てきてから、ようやくハムの控えめな甘味も伝わってきた。しかし時折、レタスのみずみずしいシャキッとした食感が、忘れないでくれと顔を覗かせてくる。
折々に変わる食感良し。混ざり合って変化していく風味のバランスも良し。このパンの『ザクッ』ていう音が聞きたくて、食べる口と手が止まらないわ。
「う~ん、おいしい」
「おいしいでしょ? 簡単に作れるから、よく食べてるんだ」
「パンに具材を乗せて、ホットサンドメーカーで焼くだけなんでしょ? それだったら、私でも作れそうね」
「気を付けるのは火加減ぐらいなものだし、確かに作れるかもね。なら、今度教えてあげようか?」
「あら、いいの?」
てっきり、相槌を打って終わるとばかり思っていたのに。意外と乗り気で、提案までしてきてくれたから、逆に驚いちゃった。
「うん、構わないよ。自分が初めて作った料理って、かなり美味しく感じるんだよね。その衝撃と喜びを、メリーさんにも味わって欲しいんだ」
「へえ、そう」
ハルが料理を作っている所を見てみたいとは、思った事があるしやろうとしているけど。料理を作ってみたいとは、一度も思った事がないわね。
けど、悪くない提案かもしれない。ハルは、平日は朝から夕方まで、調理学校へ行っているから不在だ。その間、私はずっと一人でここに居る。
そして、そこで無性にお腹がすいた時、私自らが料理を作り、それを食べる事が出来るようになる。料理を作る動画を観ているし、作り方やレシピはインターネットで調べれば問題無し。
もちろん、基本だってバッチリよ。包丁で食材を切る時は、指を丸めて猫の手にする。ただ押して切るのではなく、斜めに引きながら切る。
火を使う時には、用途に合わせて火加減を調節するでしょ? まあ、火力は大体中火か弱火ね。強火は、ほとんど使用しない。
味付けだってそう。無難に美味しく作りたいのであれば、変なアレンジはせず、レシピ通りに作ればいい。それでも味付けを変えたいのであれば、完成して食べている最中にだけすればいい。
……どうしよう、本格的に興味が湧いてきちゃったかも。なんだったら、ハルに振る舞うのもアリね。少しだけ、頑張ってみようかしら。
「なら、その内にでもお願いするわ」
「おお、マジか。だったらさ、最初は味噌汁なんてどう? 私が作った味噌汁と、メリーさんが作った味噌汁を食べ比べしてみない?」
「いいじゃない、面白そうね。なら、ちゃんと教えてちょうだいね」
「オッケー! 手取り足取り教えてあげるよ」
元気よく快諾してくれたハルが、無邪気に微笑んだ。やるからには、真面目にやらないと。絶対、ハルに『おいしい』と言わせてやるわ。覚悟していなさい。
「それじゃあ、コーンスープをっと」
会話に花が咲いてしまい、すっかり忘れていた。まだ湯気が昇っているから、冷めてはいないようだ。
匂いは、甘さを含んだ優しくて柔らかな香りをしている。あと、飲む前から分かってしまった。このコーンスープとやらは、パンに合うとね。
「……ほおっ、トロトロしてる~」
甘さがウリなのかと思いきや、意外としっかり塩味も利いているじゃない。けど、互いに喧嘩する事無く、絶妙なバランスで落ち着いている。
これが、コーンの甘さなのね。濃厚ながらもクドくなく、それでいてもう一口欲しくなる、後を引く甘さ。トロトロしているから飲み応えがあり、一口に対する満足度も高い。
それに、匂いには含まれていなかった曲者の塩味。これがまた、パンとすごく合うのよ。きっと、甘いだけだったら物足りなさを感じていたかもしれないわ。
だからこそ、塩味を足したのかしら? それならば、かなり計算されて作られた事になる。コーンスープ、なかなか侮れないわね。
「ふうっ、おいしかった」
「味噌汁以外のスープ類も、結構イケるでしょ?」
「そうね。パンと合ってて、本当においしかったわ。お味噌汁だったら、こうはいかなかったわね」
「でしょ? それで、その味噌汁は、やっぱり飲む感じで?」
「ええ、お願いしてもいいかしら?」
「ははっ、了解。温め終えてるから、ちょっとだけ待っててねー」
緩くから笑いしたハルが、空いた食器類をテキパキ纏め、全て持ちながら台所へ行った。そういえば、私も少しぐらいは家事を手伝った方がいいわよね?
一宿多飯の恩義もあるし……。このまま何もしないっていうのは、流石にまずい気がする。……よし、やろう。買い物ぐらいだったら、私でもすぐ出来るわ。
買いたい物をカゴに入れて、レジへ行き、言われた分のお金を払う。それか、多めに払っておつりを貰う。うん。テレビでも観た事があるし、予習は完璧だわ。後は、タイミングだけね。
「今まで、白のワンピースで一貫してたもんね。でも、結構似合ってるよ」
「そう? なら、いいんだけども」
ハルから貰った、このネイビー色のパジャマよ。正直に言うと、かなり気に入っている。薄い長袖だから、それなりに温かい。
あと、なぜかは分からないのだけれども。顔を洗う前の記憶が、まったく無い。目が覚めたと思ったら、いつの間にか顔を洗っていた状態だ。
本当は、タブレットで動画を観ながら過ごそうと思っていたのに。これも全て、ふわふわモコモコな布団が悪いのよ。……すごく気持ちよかったなぁ、布団の中。
「んじゃ、食べますか」
「そうね。いただきます」
「いただきまーす」
生まれて初めての朝食は、カリカリの焦げ目がおいしそうなホットサンド。それと、ハルも太鼓判を押したコーンスープ。ゆらゆらと昇る湯気が、見ていて落ち着いてくるわ。
ホットサンドは、食べやすいよう斜めから半分にカットされている。色合いのある断面には、とろとろにとろけて、ゆっくり垂れ下がってきているチーズ。
そのチーズに埋もれていく、薄桃色をしたハム。そして、ハルは言っていなかったけど、レタスも何枚か挟んであるわね。シャキシャキとしていそうだし、良いアクセントになりそう。
「んんっ、良い音が鳴るじゃない」
一回噛めば、『ザクッ』という豪快な音を鳴らし。口の中で噛むと、『ザクザクサクサク』と軽快になっていく。
味は、やっぱり熱でトロトロになり、みょーんと伸びていくチーズが一番強い。パンの香ばしい焦げ目の風味すら押しのける、少し濃く感じるまろやかなコク深い塩味ね。
遅れてパンの素朴な小麦の甘さが出てきてから、ようやくハムの控えめな甘味も伝わってきた。しかし時折、レタスのみずみずしいシャキッとした食感が、忘れないでくれと顔を覗かせてくる。
折々に変わる食感良し。混ざり合って変化していく風味のバランスも良し。このパンの『ザクッ』ていう音が聞きたくて、食べる口と手が止まらないわ。
「う~ん、おいしい」
「おいしいでしょ? 簡単に作れるから、よく食べてるんだ」
「パンに具材を乗せて、ホットサンドメーカーで焼くだけなんでしょ? それだったら、私でも作れそうね」
「気を付けるのは火加減ぐらいなものだし、確かに作れるかもね。なら、今度教えてあげようか?」
「あら、いいの?」
てっきり、相槌を打って終わるとばかり思っていたのに。意外と乗り気で、提案までしてきてくれたから、逆に驚いちゃった。
「うん、構わないよ。自分が初めて作った料理って、かなり美味しく感じるんだよね。その衝撃と喜びを、メリーさんにも味わって欲しいんだ」
「へえ、そう」
ハルが料理を作っている所を見てみたいとは、思った事があるしやろうとしているけど。料理を作ってみたいとは、一度も思った事がないわね。
けど、悪くない提案かもしれない。ハルは、平日は朝から夕方まで、調理学校へ行っているから不在だ。その間、私はずっと一人でここに居る。
そして、そこで無性にお腹がすいた時、私自らが料理を作り、それを食べる事が出来るようになる。料理を作る動画を観ているし、作り方やレシピはインターネットで調べれば問題無し。
もちろん、基本だってバッチリよ。包丁で食材を切る時は、指を丸めて猫の手にする。ただ押して切るのではなく、斜めに引きながら切る。
火を使う時には、用途に合わせて火加減を調節するでしょ? まあ、火力は大体中火か弱火ね。強火は、ほとんど使用しない。
味付けだってそう。無難に美味しく作りたいのであれば、変なアレンジはせず、レシピ通りに作ればいい。それでも味付けを変えたいのであれば、完成して食べている最中にだけすればいい。
……どうしよう、本格的に興味が湧いてきちゃったかも。なんだったら、ハルに振る舞うのもアリね。少しだけ、頑張ってみようかしら。
「なら、その内にでもお願いするわ」
「おお、マジか。だったらさ、最初は味噌汁なんてどう? 私が作った味噌汁と、メリーさんが作った味噌汁を食べ比べしてみない?」
「いいじゃない、面白そうね。なら、ちゃんと教えてちょうだいね」
「オッケー! 手取り足取り教えてあげるよ」
元気よく快諾してくれたハルが、無邪気に微笑んだ。やるからには、真面目にやらないと。絶対、ハルに『おいしい』と言わせてやるわ。覚悟していなさい。
「それじゃあ、コーンスープをっと」
会話に花が咲いてしまい、すっかり忘れていた。まだ湯気が昇っているから、冷めてはいないようだ。
匂いは、甘さを含んだ優しくて柔らかな香りをしている。あと、飲む前から分かってしまった。このコーンスープとやらは、パンに合うとね。
「……ほおっ、トロトロしてる~」
甘さがウリなのかと思いきや、意外としっかり塩味も利いているじゃない。けど、互いに喧嘩する事無く、絶妙なバランスで落ち着いている。
これが、コーンの甘さなのね。濃厚ながらもクドくなく、それでいてもう一口欲しくなる、後を引く甘さ。トロトロしているから飲み応えがあり、一口に対する満足度も高い。
それに、匂いには含まれていなかった曲者の塩味。これがまた、パンとすごく合うのよ。きっと、甘いだけだったら物足りなさを感じていたかもしれないわ。
だからこそ、塩味を足したのかしら? それならば、かなり計算されて作られた事になる。コーンスープ、なかなか侮れないわね。
「ふうっ、おいしかった」
「味噌汁以外のスープ類も、結構イケるでしょ?」
「そうね。パンと合ってて、本当においしかったわ。お味噌汁だったら、こうはいかなかったわね」
「でしょ? それで、その味噌汁は、やっぱり飲む感じで?」
「ええ、お願いしてもいいかしら?」
「ははっ、了解。温め終えてるから、ちょっとだけ待っててねー」
緩くから笑いしたハルが、空いた食器類をテキパキ纏め、全て持ちながら台所へ行った。そういえば、私も少しぐらいは家事を手伝った方がいいわよね?
一宿多飯の恩義もあるし……。このまま何もしないっていうのは、流石にまずい気がする。……よし、やろう。買い物ぐらいだったら、私でもすぐ出来るわ。
買いたい物をカゴに入れて、レジへ行き、言われた分のお金を払う。それか、多めに払っておつりを貰う。うん。テレビでも観た事があるし、予習は完璧だわ。後は、タイミングだけね。
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