私、メリーさん。今、あなたと色んな物を食べているの

桜乱捕り

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28話、一品で出しても大満足する物

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「私、メリーさん。今、ウィンナーなの」

『とりあえず、ウィンナーを食べたいっていう熱意は伝わったよ』

「ちょっと、ハル? ウィンナーを焼き始めてから、もう十分以上経ってるわよ? まだ出来ないの?」

『流石にウィンナーだけじゃ寂しいから、他のおかずも作ってるんだ。もう少しで出来上がるから、後二分ぐらい待っててね』

 他のおかずも作っている? ハル、その行為は間違っているわ。ウィンナーとご飯さえあれば、私は大満足するというのに。
 あの、試食でウィンナーを食べた時に受けた衝撃は、唐揚げ振りぐらいだったかしら? まるで、体中に電流が迸《ほとばし》るような感銘を受けたわ。
 そして、ご飯に絶対合うという確信も得られた。ウィンナーを割った瞬間、『パキン』という軽快な音を立てて中から溢れ出してきた、とても濃厚な肉肉しさが詰まった油。
 もっと強く嚙んでこいという意思を感じる、プリッとした弾力。試食で食べられたのは、僅か三本だったけれども、満足感と余韻がすごかったなぁ。

 しかし、もう少しすれば更なる数のウィンナーが食べられる。ちょっと贅沢をして、ウィンナーを二本食べてからご飯を食べちゃおうかしら?
 ああ、でも! 半分だけ齧って、ご飯をかき込むのも悪くないわ! お味噌汁を飲むタイミングは、ウィンナーの油がしつこくなってきてからだ。
 けど、その油だけでご飯を食べられるかもしれない。いっその事、ウィンナーとご飯を交互に食べ続けて、完食してからお味噌汁を飲むのもありね。どうしよう、食べる順番が決まらないっ。

「お待たせー」

「来たっ」

 ウィンナーを焼き始めてから、約十五分後。湯気を昇らせているお盆を持ったハルが、ようやく部屋に来た。
 他のおかずを作っていると言ってたけど、一体何を作っていたのかしら?

「これは……、ずいぶんシンプルなおかずね」

 ハルが皿を並べている最中に、身を乗り出して確認してみたけれども。艶やかな照りが食欲をそそる、合計で二十本はあろうウィンナー。
 十個以上ある大きなおにぎりに、太めに千切りされたピーマン。細かな黒い点々とした物が付着しているから、たぶん塩コショウで味付けされていそうね。
 後は、焦げ目がない鮮やかな黄色をした卵焼きに、いつものお味噌汁。

「ウィンナーを主役にする為に、ネットで調べらたこんな感じになったんだ。夕食というよりも、お弁当に近い感じだね」

「ネット。他には何が出てきたの?」

「え~っと、ウィンナーを使ったチャーハンでしょ? 目玉焼きとウィンナーを乗せた丼物に、ウィンナーフライ。ジャーマンポテトとかかな?」

「ウィンナーフライ……、へえ」

 揚げ物自体は、まだ食べた事がないけど。サクサクした衣に、弾力のあるウィンナーが包まれている訳でしょ? 味の想像がつかないけど、なんだかおいしそうだわ。

「おっ、揚げ物に興味がある感じ?」

「ウィンナーフライって聞いたら、多少湧いてきたわ」

「なるほど。揚げ物は他に、とんかつ、メンチカツ、コロッケ。白身魚フライやエビフライなんてあるけど、今度何か作ってみようか?」

 そうだ。ウィンナーフライと一括りしてしまったけど、揚げ物にだって沢山の種類がある。
 ……う~ん。今は頭の中がウィンナー色に染まっちゃっているから、決められそうにない。ハルが作る物には間違いがないし、任せてしまおう。

「そうね。今週中にでも、何かの揚げ物を作ってちょうだい」

「りょーかい。食べたい揚げ物が出てきたら、気兼ねなく言ってね」

「分かったわ」

「よしよし。それじゃあ、いただきまーす」

「いただきます」

 まずは待望のウィンナーを食べる為に、銀のフォークを手に持った。箸も置いてあるけど、フォークの方が食べやすそうなのでやめておこう。
 ウィンナーのちょうど真ん中を刺して、半分だけ齧った。この、割れた時に鳴る『パキン』という、食欲をくすぐってくる音よ。
 もう、この音が『いただきます』の代わりを務めてしまえばいいのに。

 それに、力強く噛まないと、歯を押し返してくるしなやかな弾力。ハルが焼いたウィンナーも、申し分ない。
 そして最後に出てくるのは、次にご飯を食べなさいと甘い命令を囁いてくる、クセがまったく無い芳醇な油。
 おいしいお肉がギッシリ詰まっているのに、どこからこんな量の油が湧いてくるんだろう? ああ、どこを噛んでもプリプリとした食感がたまらない。本当においしいっ。

「さてと。残った半分のウィンナーを食べながら、おにぎりを」

 手に持った感じ、何の変哲もないただのおにぎりね。強いて言えば、ちょっと重くてしっかりと握られている感じがする。海苔は持ってくる直前に巻いたのか、まだご飯の水分が移っていない状態だ。
 海苔の香りって、これまたご飯に合いそうな香ばしい匂いがするわね。これが磯の匂いってやつかしら? 醤油との相性も良さそうだわ。
 いつか、やってみたいなぁ。パリパリの海苔に醤油をちょんっと付けて、ホカホカのご飯を巻いて一緒に食べるやつ。時間帯は、もちろん朝! っと、早くおにぎりを食べないと。

「う~ん、おいしいっ」

 いつもより固めで、塩気が強いおにぎりとウィンナーが抜群に合うっ! ご飯が柔らかくても、普通でもダメ! この固さがいいっ! ハル、分かっていてご飯の固さを調整したわね? 最高じゃない……。
 それにしても、ウィンナーの風味って結構強いのね。最初はご飯の甘さや、パリパリとした海苔の風味豊かな香ばしさを感じていたけども。
 噛み進めていく内に、ウィンナーの味が全てを染めてしまった。けど、それがいい。またおにぎりを食べたいという欲求が湧いてくる。

 ほらね。やっぱり、ウィンナーとご飯だけで事足りたじゃない。ピーマンと卵焼きは、蛇足中の蛇足。あっても無くても変わりない。
 むしろ作らなかった方が、ハルの手間も省けたと思うぐらいだわ。

「でも一応、食べておこっと」

 夕飯として一緒に出されたからには、食べないとハルに申し訳ない。
 ピーマンと卵焼きは、食べても難なく『おいしい』と言えるので、さっさと消化してしまおう。まずは、ピーマンの方を。

「……あら? 結構いけるわね」

 ピーマン独特の苦みと、濃いめに感じる塩コショウの味付けが、これまた絶妙にマッチしている。
 しかも、おにぎりとピーマンの組み合わせも、なかなかどうして合うじゃない。
 でもこれは、単品同士じゃなくて、ご飯の上に乗せて食べてみたいわね。しかも、少しだけじゃなくて大量に盛って。
 にんにくも足したら、一気にかき込めそう。確かこれは、丼物っていうのよね。

「あとは、卵焼きね」

 フォークで卵焼きを刺してみたら、スッと落ちていった。フォークから伝わってきた感触で、食べる前から分かってしまった。この卵焼き、相当ふわふわだわ。
 持ち上げて裏表を確かめてみるも、やはり焦げ目は一切無し。どこまでも鮮やかな黄色だ。醤油の色をしていないという事は、味付けは砂糖のみかしら?
 砂糖の甘さとご飯って、合うの? しかし、卵焼きはお弁当の代表格。この前、テレビでランキング形式で発表されていたけど、見事一位だった。
 だったら、これも間違いないか。ハルが作った卵焼きだし、絶対においしいはずよ。

「わあ、ふわっふわだ」

 唇で挟んだだけでも、卵焼きがかなり沈んだ。柔らかさもそう。自ら力を込めなくても、重力に任せてしまえば噛み切れてしまいそうな程に柔らかい。
 味は、雑味がない砂糖の甘さと、卵のコクがある甘味が喧嘩する事無く見事に合わさっている。ご飯というよりも、お味噌汁の塩気が恋しくなってくる甘さだわ。
 これは、先にご飯と合うか否かと考えていた、私が悪いわね。何も、無理してご飯と紐付ける必要は、どこにも無い。
 それは、未熟な先入観ってやつだわ。あと、くだらない固定観念も、さっさと捨ててしまおう。

 要は、深く考えず、新しい発見や組み合わせを楽しめばいいのよ。現に、卵焼きの甘さと、お味噌汁の塩気が、とてもよく合っている。
 よし、食べる順番が決まったわ。ウィンナーとピーマンの後に、おにぎりを一口ずつ。卵焼きの後に、お味噌汁を飲む。うん! 私だけの、最強の流れが出来た。

「シンプルなおかずだけど。なんだか隙が無くて、満足度も妙に高く感じるわね」

「そうだね。作るのは楽だったけど、めちゃくちゃ美味しいや」

 どうやら、この美味しさはハルも想定外だったようね。ネットの情報って、案外侮れないわ。私もそろそろ、文字打ちの練習をやめて、インターネットで何かを調べてみたいなぁ。
 けど、明日は平日だから、ハルは一日中居ないのよね。ハルが居ない時にタブレットを触るのは、なんだか壊してしまいそうだし、気が引けちゃうわ。
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