私、メリーさん。今、あなたと色んな物を食べているの

桜乱捕り

文字の大きさ
2 / 200

1話、始まりの料理

しおりを挟む
「私、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの」

「気配を感じてたし、声も聞こえてるから知ってるよー」

 昨日と同じ反応だ。怯え知らずで覇気のない声。この私を適当にあしらう、ぶっきらぼうで素っ気ない態度。そして、また台所に立って何かを作っている。
 ジュワジュワパチパチと音が鳴っているけど、今日は何を作っているんだろう。料理についての知識は皆無だから、いくら考えても分からないわね。

「なら、振り向いてちょうだい」

「油を使ってるから無理」

 昨日は『料理を作ってるから』、今日は『油を使ってるから』。この人間が台所に立っていると、顔が一生拝めそうにない。
 そして、昨日出てきたのが、温かくておいしいお味噌汁。ここまでのシチュエーションと流れは似ている。ならきっと、今日も何か料理を出してくれるかもしれない。

「よーし、完成。うんうん、我ながら良い出来だ。そんじゃ、メリーさんに味見をしてもらおうかな」

「きたっ」

「ん? 何か言った?」

「いえ、何も?」

 危ない、つい嬉しくなって声を出しちゃった。どれだけ待ち望んでいたのよ、私は。一応、人間の前ではそれらしい態度を保っておかないと。
 もっと人間が恐れるように妖々しく。無慈悲な言葉攻めで、人間の弱い心をへし折り。問答無用であの世に突き落とす。それが本来の私、最強の怪異であるメリーさんなのだから。
 決意を握った拳に集め、自分を鼓舞していると、目の前に突然、白い小皿が現れた。その小皿の上には、ゴツゴツとした茶色の物体と、楊枝が一本だけ添えられている。

「……何これ? 石?」

「なるほど? メリーさんには石に見えちゃうんだね。それは『唐揚げ』っていう料理だよ」

「からあげ……?」

「そうそう。揚げたてで熱いから、冷まして食べてね」

 しまった。余計な事を言ったせいで、知識の無さを露呈させてしまった。悔しいけど、これについては私が悪い。それだけは認めざるを得ないわ。
 小皿を両手で受け取り、『からあげ』をマジマジと観察してみる。遠目で見ても、やはり石にしか見えない。
 楊枝で刺してみると、パリッと音を立てて先端がスッと入っていった。見た目に反して、ものすごく柔らかい。
 匂いは、初めて嗅いだ匂いだから、何かに例える事すら出来ないけれども。お腹の中が空っぽになっていくような感覚がして、口の中に涎が湧き出してきた。

 ……早く、このからあげを食べてみたい。

 楊枝ごと持ち上げてみると、思っていた以上に重い。ズッシリとしている。冷ますには、息を吹きかければいいんだっけ?

「ふーっ、ふーっ、ふうーーーっ」

 これで冷めた、わよね? 一度小皿に置いて指で突っついてみると、固い箇所とプニプニと柔らかな箇所があるけど、共にほんのりと温かい。これぐらいの温度なら、食べても平気でしょう。たぶん。
 っと、その前に。こいつの前では、メリーさんとしての威厳を保っておかないと。何も言わずに食べてしまったら、ここへ来た本当の目的がバレてしまうからね。

「ちょっと、そこのあんた。私は食べるだなんて一言も言ってないわよ?」

「またまたぁ、そんな心にも無い事を言ってー。早く食べてみたいって顔してるよ?」

 こいつ、こっそりと私を観察していたわね!? しかも、顔に出ていただなんて……。迂闊だった。

「もたもたしてると中まで冷めちゃうよ。安心しな、味だけは保証する。昨日飲んだ、味噌汁より美味しいよ」

「お味噌汁、よりも……?」

 この私をたった一杯で魅了した、お味噌汁よりもおいしい? 馬鹿ね、こいつ。私に殺されたくないからって、自ら尻尾を出して嘘をつくだなんて。

「本当に言ってるの、それ?」

「ほんともほんと、大マジさ」

 ありえない、断言してやる。お味噌汁よりおいしい物なんて、この世には無いと。まあ、私の心は空よりも広い。命惜しさに嘘をついた代償は、お味噌汁三杯で許してあげましょう。

「もし、まずかったらどうするの? その時は、あんたを即座に殺すつもりでいるけど」

「その時は、味噌汁を出すから許してよ」

「……そう。なら、いいわ」

 やった! また、あのお味噌汁が飲める! ならば、私がこの『からあげ』を口にして、言う事はただ一つ。
 『とんでもなく不味い』。さあ、震えながらお味噌汁を用意するがいいわ。絶対に言ってやるんだから。

「それじゃあ、早速。……んっ!」

 楊枝で刺したり、指で突っついた時は、とにかく柔らかいだろうと思っていたのに。力を入れないで噛もうとしたら、しなやかな弾力で歯が押し戻されそうになってしまった。
 再度力を込めて、噛み切ってみれば。中からどんどん溢れ出してくる、ジューシーでサラサラとした水みたいな物。
 ちょっと濃いけど。ほのかに感じる香ばしさと、口の中に広がるガツンとした刺激にも似た強い風味が、もっと食べたいという気持ちを高めていく。
 更に何よりも、外はパリッとしているのに対し、中身はプリプリなのが堪らない。噛めば噛むほど、おいしさが濃くなっていく! これが、からあげ!

「おいしい~っ! ……はっ!?」

「うん、いい反応だ。その様子だと、味噌汁より美味しかったんじゃない?」

 ……どうする? 私は、高らかに『おいしい』と口走ってしまった。もう弁解の余地は無い。それに、こいつ。私がお味噌汁を好きになった事に、気付いている?

「さあ、なんの事かしら。言ってる意味が分からないわ」

「それでしらを切れるなんて、流石は都市伝説様だ。大した胆力の持ち主だね。それじゃあ」

 癪に障る挑発を続ける人間が、ゆっくりと振り向いてきた。そして、私に初めて見せた顔が、緩くて腑抜けた笑みを浮かべた。

「話がしたいから、一緒に夕飯を食べようよ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

処理中です...