6 / 7
ハジメ視点
遅すぎる
しおりを挟む
今日は朝から散々だった。後輩のミスで休みのはずだった一日が出勤になり、通勤中に焦って準備したせいでスマホを忘れたことに気付く。会社用のスマホはまた別で渡されていたから仕事に支障はでなかったものの、それ以外で気になる大切な一つのことがあった。
結局、朝イチでシュウに謝ることができなかったこと。
スマホが無かったからシュウに一言告げることもできず、きっと心配させているだろうと思い、帰路を急ぐ足がより早さを増す。シュウが口にしてたケーキという言葉が浮かんできて、道にあった小さなケーキ屋でショートケーキを二切れ頼んだ。お詫びには足りないかもしれないが、喜んでくれるだろう。
少し乱暴になりながらも、鍵を差し込み扉を開ける。いつもと違って、扉は解錠の状態になる。
なんだか嫌な予感が体を駆け巡って、それを振り払うようにして勢いよく扉を開ける。今日はシュウの仕事も休みの日だから、彼は絶対に中にいるはずだ。そう信じて。
扉を開けるとともに、いつも通りの暖かい光と珍しくキャラメルを煮詰めたような甘い香りが出迎える。その事にホッと安心して、急ぎ気味で革靴を脱いだ。
「すまん!急なクレーム処理で出勤になったんだ!」
そうシュウに話しかけながら、ダイニングキッチンへとつながる扉を開く。同棲を始めた頃から帰ってくるときには大体キッチンにいるシュウが今日も出迎えてくれると思ったのだ。
話しかけてはいるものの、シュウからの返事がない。キッチンには灯りと甘い香りが漂うのみで、彼の姿はなかった。
ついさっき消えたばかりの焦燥感が再び芽を出す。
「…シュウ?」
俺の声と、電化製品たちの静かな唸り声だけがどこか広くなったような部屋に木霊する。
違和感を覚えて部屋を見渡してみると、シュウどころかシュウの身の回りのものまでごっそりとなくなっていて、ようやくすべてを受け入れた。
鼻にむしろ毒々しいほど鮮明に甘い香りが充満している。手からケーキ屋の箱が滑り落ち、ぐしゃりと地面で生ゴミへと化した。
ーーーようやく俺は思い出す。
この甘い香りは、かつて彼とともに何度も嗅いだ甘いあのスイーツの香りだということを。
俺はシュウが好きだったケーキの種類すらも忘れてしまっていた。机の上には、光を反射してツヤツヤと輝くフロランタンに添えるようにして、一枚の紙が置かれていた。
『ハジメも悪いんだからね。大好きだったよ。』
俺は崩れ落ちた。
ようやく、全てが手遅れだったことに気づいた。
結局、朝イチでシュウに謝ることができなかったこと。
スマホが無かったからシュウに一言告げることもできず、きっと心配させているだろうと思い、帰路を急ぐ足がより早さを増す。シュウが口にしてたケーキという言葉が浮かんできて、道にあった小さなケーキ屋でショートケーキを二切れ頼んだ。お詫びには足りないかもしれないが、喜んでくれるだろう。
少し乱暴になりながらも、鍵を差し込み扉を開ける。いつもと違って、扉は解錠の状態になる。
なんだか嫌な予感が体を駆け巡って、それを振り払うようにして勢いよく扉を開ける。今日はシュウの仕事も休みの日だから、彼は絶対に中にいるはずだ。そう信じて。
扉を開けるとともに、いつも通りの暖かい光と珍しくキャラメルを煮詰めたような甘い香りが出迎える。その事にホッと安心して、急ぎ気味で革靴を脱いだ。
「すまん!急なクレーム処理で出勤になったんだ!」
そうシュウに話しかけながら、ダイニングキッチンへとつながる扉を開く。同棲を始めた頃から帰ってくるときには大体キッチンにいるシュウが今日も出迎えてくれると思ったのだ。
話しかけてはいるものの、シュウからの返事がない。キッチンには灯りと甘い香りが漂うのみで、彼の姿はなかった。
ついさっき消えたばかりの焦燥感が再び芽を出す。
「…シュウ?」
俺の声と、電化製品たちの静かな唸り声だけがどこか広くなったような部屋に木霊する。
違和感を覚えて部屋を見渡してみると、シュウどころかシュウの身の回りのものまでごっそりとなくなっていて、ようやくすべてを受け入れた。
鼻にむしろ毒々しいほど鮮明に甘い香りが充満している。手からケーキ屋の箱が滑り落ち、ぐしゃりと地面で生ゴミへと化した。
ーーーようやく俺は思い出す。
この甘い香りは、かつて彼とともに何度も嗅いだ甘いあのスイーツの香りだということを。
俺はシュウが好きだったケーキの種類すらも忘れてしまっていた。机の上には、光を反射してツヤツヤと輝くフロランタンに添えるようにして、一枚の紙が置かれていた。
『ハジメも悪いんだからね。大好きだったよ。』
俺は崩れ落ちた。
ようやく、全てが手遅れだったことに気づいた。
123
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説
息の仕方を教えてよ。
15
BL
コポコポ、コポコポ。
海の中から空を見上げる。
ああ、やっと終わるんだと思っていた。
人間は酸素がないと生きていけないのに、どうしてか僕はこの海の中にいる方が苦しくない。
そうか、もしかしたら僕は人魚だったのかもしれない。
いや、人魚なんて大それたものではなくただの魚?
そんなことを沈みながら考えていた。
そしてそのまま目を閉じる。
次に目が覚めた時、そこはふわふわのベッドの上だった。
話自体は書き終えています。
12日まで一日一話短いですが更新されます。
ぎゅっと詰め込んでしまったので駆け足です。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
みどりとあおとあお
うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。
ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。
モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。
そんな碧の物語です。
短編。
罰ゲームって楽しいね♪
あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」
おれ七海 直也(ななみ なおや)は
告白された。
クールでかっこいいと言われている
鈴木 海(すずき かい)に、告白、
さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。
なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの
告白の答えを待つ…。
おれは、わかっていた────これは
罰ゲームだ。
きっと罰ゲームで『男に告白しろ』
とでも言われたのだろう…。
いいよ、なら──楽しんでやろう!!
てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が
こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ!
ひょんなことで海とつき合ったおれ…。
だが、それが…とんでもないことになる。
────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪
この作品はpixivにも記載されています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる