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第16話 戸川くんとはじめての喧嘩②
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店員さんにそう呼ばれて私と戸川くんの2人、そして戸川くんの中学校時代からのお友達5名はソファー席についた。
席はコの字になっていて私が一番奥で隣に戸川くん、そしてその横には敦くんが座り、手前には他のお友達と言う配置になった。
各々注文を済ませ、一瞬静かな時間が訪れる。
「さて」
そう言って戸川くんの横に座っている敦くんが声を出した。
「久しぶりだな、怜」
戸川くんの方を向き声を掛ける
「あぁ、ほんと、久しぶりだな」
前を向いたまま少し小さい声で戸川くんは返答した。
「格好、元に戻したんだな」
少し微笑んで敦くんは戸川くんに語りかける。
戸川くんはじっと黙っている。
「鈴音さんは怜と同じ大学?」
敦くんが私に問いかける。
「あ、はい。同じ学部で同学年です」
「そうなんだ。怜は……学校でもこんな感じ?」
「あっ、いえ……学校では、結構地味な格好だったり……します」
「そっか」
と小さく答える敦くん。
「でも、あの……突然、部外者である私の口から言うのも何だよ、とか思われてしまうかも知れないんですけど」
そう言って一旦下を向いてギュッと手を握り、そしてまた顔を上げる。
「実は戸川くんから昔の事を色々教えていただいて。みなさんと仲が良かった事、色々辛い事があってその……ちょっと女癖が悪かった時期があった事……そしてその後、お洒落とか皆さんとのお付き合いを全て辞めてしまった事」
戸川くんがびっくりした顔で私を見る。
「でも、戸川くんのお部屋に入った時、みなさんとの写真が大切に飾ってあったんです。きっと戸川くんの中でも大切な思い出なんだろうなと思いました。なので、一度は縁が切れてしまったけど、切れてしまった縁はまた結べば良いのかなって。今日ここでお会い出来たのもそう言う縁なのかなって」
私はしどろもどろになりながら、思っている気持ちを伝えた。
そんな私の言葉を静かに聞いてくれていた敦くんが私を見て尋ねた。
「鈴音さんは怜の昔の事を知った上で、お付き合いしてるんだね。怜と付き合うようになった時、怜は今みたいな感じだったの?それとも地味?な感じだったの?」
「あっ、思いっきり地味でした」
そう言って私は笑顔で敦さんに話しかける。
「でも、凄い優しくて気が利くし。余り女の子に興味がなさそうな感じだったので告白してOKを貰えた時はびっくりしたけど……嬉しかったです。その後の初デートの時に今みたいな感じで来た時はもっとびっくりしましたけど」
微笑みながら戸川くんの顔を見る。
「へー良い子じゃん。良い彼女見つけたじゃん、怜」
敦くんも戸川くんの顔を見る。
戸川くんは暫く考え込んだ後、「はーっ」と大きな息をつき一回天を仰いだ後、私の方を見た。
「全く、びっくりするくらい良い彼女だよね。鈴音さんは」
私に笑って話しかけた後、敦さん達の方を向き、話しかけた。
「みんな……あの時はごめん。オレ、ちょっとどうにかしててさ。女遊びが酷かった時もそうだし、その後半分引き籠もりみたいになった時もそうだし……折角心配してくれてたのに全部無視して自分の殻に閉じこもって」
そう言って座ったまま頭を深く下げる。
そして顔を上げて再び話しかける。
「鈴音さんの言った通り、オレの中では未だにみんなは良き友達なんだ。今でもみんなと仲直りしたいと思ってる。勝手ばかりで虫が良いかも知れないけど、またみんなと昔みたいに過ごしたい。オレを許してくれるかな」
敦さん達の顔をじっと見る。
僅かな沈黙が流れた後、敦さんがあっはっはと笑いを上げた。
「バッカだな、怜。許すも許さないもねーよ。この中で誰もお前に怒ったりお前を嫌ったりしてるやつなんて居ないよ。ただみんな……お前の事を心配していただけだよ」
他のお友達さんたちも笑顔である。
「ただ、あんな大変な事があったし……立ち直るには相当時間がかかるだろうと思っていたからオレ等も距離を置いて静かにしていたんだ……なのにお前って奴は、いつの間にかこんな可愛くて性格の良い子を彼女にして、勝手に立ち直ってるとはな~」
そう言っておどけた顔をして笑う。
「確かにな~、怜ばっかずるいよな本当!オレなんて未だに彼女が出来た事がないってのによ!」
別の友だちが戸川くんに話しかける
「え?彼女さん居ないんですか?格好良いのに!」
思わず口を挟んでしまう私。
「そうなのよ、いないのよ!鈴音さん……だっけ?良かったら女の子紹介してよー。明るい大学生活を送りたいわ」
「結は微妙にガツガツしてるから自然と女の子が避けていくんだよ」
と敦くんが笑いながら突っ込む。
紹介してよと言われ、一瞬咲の事を思い出したが、咲がこの場にいたらどうなるだろうか。しっちゃかめっちゃかになりそうである。
それでも「あっ、はい。良い人が居たら是非紹介させてもらいます!」と話しておく。
「やったね!もうすぐオレ、彼女が出来るんじゃね?」
と嬉しそうにはしゃぐ結さん。
さっきの沈黙とは打って変わって場はとても明るい雰囲気に包まれていた。
「怜、良い彼女見つけたな」
再びそう話しかける敦くん。
戸川くんは少し照れた顔で笑いそして私の方を向いて
「あぁ、本当にな。オレには勿体ないくらいの彼女だよ。ありがとうね鈴音さん」
そう言って私の手を握った。
「はいはいそこー。いちゃいちゃしないよー」
結さんがビシッと私達に指を差す。
案外、咲と馬が合いそうだな……なんて事を考えていると、店員さんが名物のホットケーキを運んできた。
「はーい、ホットケーキが来ましたよー。みんなで取り分けましょうね。あっ、君達は勝手にカップルで取り分けて」
と敦さんがふざけた感じで笑いながら言う。
「はいはい。勝手にしますよー」
戸川くんも軽くふざけた調子で返す。
そんな戸川くんの様子を見て本当に良かったなと思った。
あの縁結びの神社のおかげかな?と思いながら戸川くんが切ってくれたホットケーキを口に運んで、私はニコニコと笑いながら頬張った。
「ふいー食べた食べた」
敦くんがお店から出てすぐ、満足気にお腹を叩く。
心なしかそこにいる全員がほっこりした気分になっている気がする。
「怜達はどうする?オレ等はこれからカラオケに行く予定だけど」
敦くんが戸川くんに話しかける。
「うーん、この後は鈴音さんのお買い物に付き合う予定だから、それは遠慮しておくよ」
そう言う戸川くんに思わず、
「えっ、折角だから私のお買い物はまた今度で良いよ。久しぶりにお友達に会えたんだし、敦くんたちと一緒でも」
と私は伝える。
そんな私に戸川くんは「ううん大丈夫だよ」と言って笑い、敦くんの方を向いた。
「と、言う事で悪いな敦。カラオケはまた今度行こうな」
そう言ってちょっと照れくさそうに笑う。
敦くんも笑顔で
「まー、しゃーねーな。今日は彼女優先な。次はオレ等優先な?」
と言って、戸川くんの胸を軽くトンッと叩く。
そんな2人の姿を見て本当に良かったな、と眺めていると私の後ろで女性の声がした。
「あれっ怜じゃん。敦達も。へーまだつるんでたんだ」
その声を聞いた戸川くんがビクッと固まる。
敦くんも固まる。
他のお友達も固まる。
さっきまでの優しくてほっこりした雰囲気は一瞬でどこかに飛んで行ってしまった。
私は後ろを向く。
そこには少し派手だけど物凄い美人の女の人が立っていた。
見覚えは無い。
戸川くんの写真立てに写っていた女の子達の中にも、こんな美人な人は居なかった。
写真立てに写っている中にはいなかったのだ。
戸川くん達と昔からの知り合いで、写真立てに写っている中には居ない人……
そう、そんな人は1人しか居なかった。
「久しぶりだね……櫻」
戸川くんが絞り出すような声で名前を呼ぶ。
はじめてのドライブデートの時、私も戸川くんも気が付かなかったけど、待ち合わせ場所から遠ざかる私達の車を眺めていた人……戸川くんの元彼女の櫻さんはケラケラ笑いながら言った。
「あぁそうね。久しぶりね。怜」
縁結び神社の神様は何故、全ての縁をこの場で結んだんだろう。
そんな事を考えながら、私はただ呆然とその女性を眺めていた。
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