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第3話 戸川くんとはじめてのデート②

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 チラっと腕時計を見る。
時計の針は9時15分を指していた。


 待ち合わせは10時、ちょっと早く着き過ぎたかな?と思ったけど時間ギリギリになって慌てるのは嫌だし、近くのカフェで時間を潰すにしてもその間に戸川くんが来たらと思うとそれはそれでソワソワしてしまうので結局待ち合わせの駅前交番横でそのまま待つ事にした。

 土曜日なので多少人通りは少ないけれど、それでも自分が住む街の駅に比べたら多くの人で賑わっていた。



ぼーっと行き交う人を観察する。



 ゆっくり歩くお婆さん、楽しそうに話ながら歩いてる中学生位の子たち、スマホで地図を見ながら歩いてるお兄さん、仲良く手を繋いで歩いてるカップル。
 今までカップルを見ても特に何とも思わなかったけどこれから初デートをするからだろうか、やたらと目に止まってしまう。


「今日のデートはどんな感じになるんだろう。この前一緒に帰る時に手を繋いでくれたけど今日も繋いでくれるのかな。それとも腕を組んだりするのかな。そう言えば戸川くんは私を名字で呼ぶけど下の名前で呼んでくれるのかな。その時は呼び捨てで凛りんかな、それとも凛ちゃんかな。あっ私も戸川くんの事を下の名前で呼んだ方が良いのかな。確か怜れんくんだったよな」


 そわそわどきどきしながら頭の中で色々な妄想をしてしまう。ニヤニヤしながら下を向いていた顔を上げ、ふと前を見てみると少し離れた所で綺麗なお姉さんがちょっとチャラ目の男の人にやたら話しかけられている。こんな朝からナンパなのかキャッチセールスなのか、受け答えするお姉さんは顔は偉い迷惑そうである。


「朝からあんなのに捕まったらテンション下がるよなぁ」


ぽそっと呟き、凛は半年前にあった大学の学部懇親会事を思い出してみる。


 大学に入学してすぐ、右も左も分からない状態で開催された学部懇親会でちょっとチャラ目の男の子に色々話しかけられて困っていた時、ふらっと戸川くんが来てそのチャラ男くん――神谷くん――をどこかに連れて行ってくれた。
 その時は全然気が付かなかったけど、後になってたまたま戸川くんの友達からその時の状況を教えてもらった。
 当時、私が色々話しかけられて困っているのを周りの男子の一部は薄々気がついていたけど、入学してすぐでお互いの事もよく知らないし中々声をかけ難い状況だった。どうしよっかと男子数人かで話していたら


「僕、彼をここに呼んでくるわ。良い?」


と言って私の方にスタスタと歩いて行ったらしい。そしてそのままその神谷くんにボソボソっと話しかけて自分が居たグループに連れて行ってくれた。
 神谷くんは悪い人では無かったらしく、今でも戸川くんのお友達グループで楽しそうにしてる。戸川くんが何て話しかけたかは未だに謎なので今度聞いてみたいな教えてくれるかなとか考えていたら横から戸川くんの声がした。



「わ、鈴音さん早い!待った?ごめんね!」



といつもの爽やかな口調で話しかけられた。



「ううん!私が早く付きすぎちゃったの、遅れちゃいけないと思って頑張りすぎちゃったっ」



と言って戸川くんの方を見る。



 瞬間、頭の中が真っ白になる。

 脳が軽くパニックを起こしている。


 確かに戸川くんの声だしいつもの口調だし戸川くんである。
が、目の前にいるのはいつもの地味な戸川くんでは無かった。



え?誰?このイケメン。


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