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天ノ鐘怪異談K 【完結】
189話「ハケンサムライ」
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ーー「北岡流剣道場」ーー
「面!」と門下生同士が激しく竹刀を打ち込んでいる。
その激しく武道を打ち込む姿は彼らは剣道大会の全国トップ30位に入るほどの歴戦猛者である。
そこに打ち込む夢道亜矢もその1人である。
その友人である、鐘技友紀、安良田恵、馬具野絵瑠胃奈、野薔薇真理亜そして体験入門希望の酢鈴武煮部流も来ていた。
彼女達は酢鈴武煮部流の付き添いであり、わざわざ北岡師範の図らいで見学もさせてくれたのだった。
「よし!今日はここまで!」
「「「「ありがとうございました!!」」」」
ちょうど練習の打ち込みが終わり門下生はその場で解散した。
ーーーーーー
「おつかれさま。亜矢これ」
「ありがとう。かたじけない」
友紀はタオルとスポーツドリンクを亜矢に渡すと、スポーツドリンクを一気に飲み干す。
掻いた汗を拭くとそのまま亜矢は更衣室に向かった。
友紀達は亜矢が着替える間に待っていると、そこに奇妙な構えをした青年の師範がいた。
「おっさん?何やってるんだそれ?」
と、空気を読む事ができない真理亜が尋ねるとその青年は気恥ずかしながら、その理由を語ってくれた。
「こ、これはですね。私が独自に流派編み出したうしろ剣技の構えです」
「「「「は?」」」」
と、その場にいた友紀達は首をかしげる。
「それ、あたいから見てもわかるんだけど、その構えやりづらくない。すぐやられそうなんだけど?」
「……」
と、絵瑠胃奈の指摘により、頬を赤くなる青年。
と、着替え終えた亜矢が戻ってきた。
「みんな待たせたな。ん?後藤先生まだその構えをやっていたんですか?私らには理解不能です」
「……グスン」
後藤と呼ばれた青年は亜矢の呆れた指摘に涙目になっていた。
「2」
「ふむ。君たちも怪異談語りをやるのか」
「後藤さんもですか?」
「ええ。私も武道の傍ら嗜みとして語るのですよ」
「へぇー」と友紀達もおろか亜矢も感心した。
彼の名前は後藤進。42歳。
名を知れた剣道や居合い抜きの達人である。が、独自の流派を編み出して披露しているが理解者はほぼいなかった。そして北岡流剣道場で師範として門下生達を指導してる。
「なぁ、後藤のおっさん。なんか怪異談披露してくれないか?とっておきのやつ」
と、真理亜はその後藤が語る怪異談の力量を測っているようだった。
「ふむ。そうですね……とっておきのやつ……ありますよ。その怪異談はーー」
と、後藤はその怪異談を披露した。
「3」
ーー「草木建設会社内女性化粧室」ーー
私と君江は会社の化粧室でお化粧直しをしている時だった。
「ねー?知ってる明菜。ハケンぎりするサムライの噂」
「何それ?君江」
「それはねー。巷で派遣社員が派遣切りに合うと実際に夜な夜なサムライがその人に訪ねて斬り殺されるんだって。あなたも気をつけなさいよ?この会社はよくハケン切りするから巻き込まれるわよ」
「ははは。どーせ、根の葉もない噂でしょ?だいたいハケン切りをハケン斬りってシャレのつもりなのかな?」
「そうよねー」と私は君江と談笑する。無論、私たちも派遣社員であり、他の派遣社員もたちまち派遣切りの目にあっていたから。会社も不景気の煽りで小規模なリストラやハケン切りで切られてるらしいのだった。化粧室から出ると私たちは営業部の高犬係長に呼ばれた。
ーーーーー
「来月から君たち3人を更新しないから、悪いね」
「「「お世話になりました」」」
私はついにかと高犬係長から解雇通告受けた。要するにハケン切りである。もっとも私と君江はとうに覚悟していたので吹っ切れていた。
私たちも派遣先で堂々と転職サイトを閲覧していたからな。
と、勤務時間も終えた私たちはそのまま居酒屋チェーン店で飲みに向かった。
「4」
ーー「野田山居酒屋チェーン店」ーー
「「かんぱーい」」と、ビールジョッキにコップをぶつけて乾杯鳴らす私たち2人。
もう1人の派遣切りされた同僚の青年尾山とかいうやつも誘ってみたがやんわりと断れてしまった。
他の派遣社員もどこか誘えない雰囲気もあったから、仕方ない。
そしてしばらく飲み食いした後は私たちは各自戻るアパート一室で帰宅した。
ーー「明菜のアパート自室」ーー
私はぐっすりと床についていると、玄関先のドアから叩く音が聞こえてきた。
「な、なに?こんな真夜中に」
と、私は玄関先の覗き穴を見るとそこにいたのは君江だったので鍵を開けて尋ねる。
「どうしたの?」
「……ごめん。理由は聞かないで。今すぐ私のアパートに向かって。今すぐに!」
と、君江の強い忠告になんなく従って私は寝巻きを軽いスポーツジャージに着替えて向かった。
ーー「君江のアパート自室」ーー
君江のアパートからはそう遠くない数百メートル先にある。
「あれ?君江?」
一緒に同行していた君江が忽然と姿を消した。
どうやら、自室に戻ったみたいだが勝手に呼び出して真夜中の目覚めで二日酔いでイラついていた私は文句を言おうと勝手に君江の自室に上がり込むが部屋は薄暗かったので明かりをつけるとそこにいたのは、、、、
ーー君江の斬殺された遺体があったから。
そのすぐそばにいたのは着物を着込んでいた尾山がいたから。
「きゃああああああ!!?」
私はその光景を見て咄嗟に悲鳴をあげてその場に立ち去ろうとアパート自室から出た。
「5」
「あ!?高犬係長!?」
自室から出るとそこに高犬係長がいたので助けを求めていたが、、、
ーー着ていたティシャツが血だらけの鮮血だったから。
右手には刃物のようなモノを携えていた。
私はそれを見て腰を抜かしてしまった。
ゆっくりと近づいてくる高犬係長。
その表情から恍惚の顔つきでにやついていた。
私の足が逃げろと叫んでいるが思うように身動きとれなかった。
私の目の前すぐ先には高犬係長がいて今でも襲われそうである。
もうダメだーと思っているときに彼が駆けつけてくれた。
「大丈夫ですか!?明菜さん」
尾山は私を介抱してくれた。
そして高犬係長はその刃物をつかい尾山に目掛けて襲いかかるが尾山はそれをかわしてどこから木刀を取り出して彼の頭上に叩き込み成敗した。
そして見事決まり高犬係長は気絶した。
「もう大丈夫ですよ。とりあえず警察に通報しましょう」
「あ、はい」
私はスマホを取り出して警察に通報した。
ーー「数ヶ月後」ーー
あの後、警察がやってきて君江の殺害容疑で高犬係長は逮捕されて連行された。
そして、尾山だが高犬係長が君江のアパート自室に出入りしていた所を偶然に目撃して悲鳴も聞いたので案の定乗り込むとそこに君江の斬殺された遺体があったのこと。なので警察に呼ぼうとしたところで私がやってきたらしいのだ。
ちなみに着物を着込んでいたのは彼の趣味だということ。紛らわしいな、おい。
それと、君江はおそらくだが私が身の危険が迫っていることを教えたかったのではないかなと個人的に思っている。
そして私の今は派遣会社を辞めて一からやり直して資格の取得を目指して一から勉強を始めてる。そう、君江が助けてもらった生命のありがたさに私は将来やりたい仕事をつくために一歩前に踏み歩み続けていく。
「6」
ーー「道場内」ーー
「はじめ!」
「「「「「えいえい!」」」」」
門下生達は後藤から素振りを指導する。
いつもは基本を忘れずに行なっている彼だが。
彼も素振りしているがうしろ向きである。
彼はうしろ好きなために毎日素振りしてるが常人おろか全く理解されてない。
そんなか唯一理解してるのは、今日づけで入門した煮部流だった。彼女も独自な流派を目指そうと素振りに力を入れる。
そんな後藤に新たな弟子を迎えるのはそんな遠くない未来先のことであった。
ハケンサムライ 完
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