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鐘技怪異談W❺巻【完結】

139話「死生観察」

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「1」

 ーー「亜季田礼奈の部屋」ーー

 礼奈はオカルト魔術関連の他に観葉植物を観察するのが趣味である。
 今日もイシヤマトリカブトを使ったエキスを抽出して蟲にかけると一気に苦しみ出した。
 そこにカネワザアロエの液体をかけると蟲達は元気よく糸を吐くほど積極的になった。
 これらの結果を忘れずにノートを記録する。
 そんな観察にちなんだ怪異談を友人達の前に披露することになった。

 ーーーーーーー。

 早朝、目覚ましをかけた時計を止めて起きる私。
 そこで2階の部屋から降りて洗面台で洗顔して眠気を取る。
 私の名前は吉竹智三、68歳。
 妻は家を出て、子供達は独立して私一軒家で一人暮らしである。
 いや、1人暮らしというより同居人というより彼がいる。
 (…………)
 彼は私と同じ歳くらいの中年男である。
 彼は黙って立ち私をずっと観察している。
 目的意図もわからないが私をずっと前から観察していることだ。
 私はなぜ彼が観察するのかわからないがわかったことがある。
 身体ごとすり抜けるのである。
 そう、彼はすでに死んでいる身であるからだ。
 今は慣れた物であり、別に実害がないからそのまま放置している。
 なので今日も一日中彼が付き添い観察するのだ。

「2」

 洗顔を済んだ後、私は軽めの朝食を用意する。
 いつものように目玉焼きとトーストとコーヒーだが、今日は気分転換としてトーストに塗るマーガリンを代わりに無塩バターを塗ることにした。
 すると観察してる彼は興味深そうに頷いていた。
 ふむ。幽霊である彼も私の食事に興味を持つのだなと感心した。

 朝食済んだ後、私は家の周りを掃除をする。
 仕事をリタイアした私にとっては家事が仕事である。
 彼はそのまま観察してるが手伝うこともできないから、私としては彼の分までチカラを込めた。


 家の周りを掃除した後は、テレビをつけて新聞を読んで時間を過ごす。昼食は取らずに夕食は軽い物で済ましてお風呂を沸かしてゆっくりと浸かる。
 浴室は狭いので彼が勝手に入ることはない。当然トイレも寝室にも入ることはないから私としては落ちついてすごせるから助かっている。
 ゆっくりとお風呂からあがるときに私がお風呂にあがるまで彼は待っていたようだ。彼はあくびをするほど眠たいようだな。
 ふむ。幽霊でも眠気がくるようなんだなと彼を待たさないように今日は早めに眠ることにした。

 ーーーーーーー。

「よーし!いけ!そこだ!おおよし!」
 夏場所。
 私はテレビで相撲を観ていた。
 相撲の応援に彼も観察していた。
 そんな時彼も微笑んで私と同じように相撲観戦に熱が入っていた。

 ーーーーーーー。

「あそこにな。結構釣れるんだよな」
 私と彼はいつのまにか会話するようになった。
 彼は無言のままだが私の会話にうなずくだけでも少し嬉しかった。
「お?そうだな。今日はおまえさんがいなくなる時期だな」
 丁度彼がいなくなるのはお盆の時期である。
 彼もまたあの世に里帰りするであろう。
 そこで彼も頷き席を立ち玄関先に出ていった。
 その出る姿を見て人間らしいと思った。

 ーー「吉田探偵事務所」ーー

「吉田さん。夫の私生活はどうでしたか?」

「ええ。彼もセカンドライフを充実してましたよ」

「そうですか。夫が亡くなれてもはや長い年月が立ちました。今でもあの家が気かがりです。吉田さん夫のことを頼みます」

「はい。私も彼と同じように余暇を楽しんでますからお気になさらずに」

 ーーーーーーー。

 彼は今でも何事もなく生活している。
 そして観察する私を親しい友人のように仲間として迎えてくる。
 そう、私も老い先は短い。
 願うなら、彼とずっとこのまま一緒に暮らしていきたいと思う。
 さて、今日の彼はどんな一面を見られるだろうか…。


「おしまい」
 私が怪異談を披露すると、みんなから拍手してくれた。
「よかったわよ。礼奈」
「うん。ありがと」
「それよりもさ。礼奈の部屋ごじゃごじゃしてない?」
「あはは……」
 観葉植物のやり過ぎていろいろと部屋は散らかっていた。
「片付けましょう。私たちにも手伝いますから」
「ありがとう。友紀」
 友人達の手伝いもあってか、1時間で綺麗にさっぱりとして部屋は片付けられた。

死生観察   完
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