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鐘技怪異談W❺巻【完結】

138話「苺1円」

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「1」

 ーー八木家ーー

「さぁ、みなさんたくさん召し上がってください」
「「いただきます!」」
 八木家ではたくさんの苺が振る舞えた。
 これは楓が馴染みのある商店街から苺掴み放題で購入した物である。
 八木楓、永木桜、八木瑠奈、賢木理奈、野花手鞠のほかに鐘技友紀、亜季田礼奈、野薔薇真理亜、酢鈴武煮部流、馬具野絵留胃奈もいた。
 ちなみにこれらは一度怪異談語りの顔合わせもある。
 八木家と鐘技家はお互いライバル視しているが普段から交流する仲でもある。
「お姉ちゃん。この量多すぎない?」
「あら、みなさんよく食べそうにしてたから問題ないでしょ?」
 楓の指摘通りに桜と真理亜と理奈はどんどん平らげており、絵留胃奈に限っては大口を開けて苺を流していた。それ以外の友紀達は遠慮がちで少しずつ食べていた。
 理奈達の大喰らいを見た瑠奈はそれを取られまいとして頑張って苺を頬張っていく。
 そんな構わずどんどんと苺が大量に運ばれていく時に八木家の当主美月が帰宅する。
「ただいま。あら美味しそうな苺ね♪どれどれ……」
 美月が苺を摘もうとすると楓が取られまいと遮った。
「お母様はダメです!私の大事なヤギプリンを勝手に食べましたからね!」
「ええー!!たった四つも食べたくらいでいいじゃない?私にも食べさせてよ~」
「ちょっと!?お母様!!」
 美月は苺を取ろうとするが楓はなんとしてでも取られまいようとする。
 そんな時に友紀が空気を読まずに怪異談を披露することになると美月は怯えて隠れてしまった。
「どうしたの?美月さん」
「怪異談……怪異談……」
 美月は肩を揺らしながら震える。
 美月は昔から怖い話が苦手である。
 もっとも当主であり怪談語りで石山県の権限を持つようになったのは石山県の八不思議である。
 そんな楓と瑠奈は幼い頃からよく美月に対して怪異談を語らせて怖がらせていた。
「あら、大丈夫かしら?」
 友紀は怪異談を語っていいか悩むと楓は「遠慮なく語ってちょうだい」と両目を塞ぐ美月を無視して怪異談を語った。

「2」

 私の名前は紀伊野苺、24歳。
 職業は見習いパティシエだ。
 そのためかよく甘い果物使ったケーキをよく作る。
 特に自分の名前からして苺は大好物。
 おかずに苺ならごはん何杯でもいける口だ。
 しかし、最近物価の値上がりで大好きな苺をあまり買えないから我慢していた。
 そんな時、私はいつものように近所のスーパーに出かけたのだった。

 ーー「夜一スーパーマーケット店」ーー

 ここのスーパーはよく値引きやタイムセールスをするので私も好んで利用する。
 今夜の夕飯の献立にはブリが安かったからブリ大根にしようかなと頭の中は献立のことを考えていた。
 そんな頭の中をいろいろ張り巡らせていると、ふと果物コーナーに目が入る。

「苺が1円!!安いわ」

 苺が一粒1円と破格的な安さだった。
 私はどこの産地だろうかなと見てると苺県と書かれていて怪しさ全開だったが、それよりも1円という安さに目が奪われて早速、ビニール袋から苺を詰め込んだ。

「いらっしゃいませ」

 まず女性店員からお会計で今夜の夕飯の献立の買い物が済んだ後、次に苺をお会計する。先程の苺1円はお会計が別々だったから。

「780円になります」

 苺1円だから苺780個も購入できたことになる。
 そんな私は久しぶりの苺が堪能できるとあってときめいていた。

「3」

 ーー「マンション自室」ーー

 スーパーからお買い物終えると早速夕飯の献立をする。
 今夜の夕飯はご飯、じゃがいもほうれん草の味噌汁、ブリ大根、そして先程購入した苺である。

「いただきます♪」

 夕食を摂るときまず最初に手をつけるのは苺である。
 好きな物は最初から食べるのが私のこだわりだ。
 苺は思ったより甘酸っぱくて食べごたえあった。
 そして夕食は全て平らげて苺も追加で大量に積もって食べていた。


「4」

 1週間の間、私は苺を使ったケーキを作ったり、テレビ観てる間や家事をしてる間もごくまれに苺を摘んで食べていた。
 丁度、苺が切らしたので私はいつものスーパーに向かった。

 ーー「夜一スーパーマーケット店」ーー

「あった!まだ1円セールスやってるわ」
 早速、苺をつかもうとするときにタイムセールスのベルが鳴った。

「今からカネワザ牛サーロイン牛肉半額500円になります」

「半額500円!?安い」

 苺そっちのけで私は精肉コーナーに向かう。
 人だかりが出来ていたがなんとか一つ手にすることは出来たが再び元の苺1円の場所に戻ると全て売り切れていた。
 残念と思い、私は代わりの安い外国産の苺を購入した。

 ーーーーーー。

「いただきます♪」

 夕食献立は先程購入したサーロインステーキである。
 タレは前に残っていた苺をミキサーにしたオリジナルタレである。
 そのボリュームあるステーキ肉を一口運ぶととてもジューシーであり幸せな気分になったが食事についてる苺を食べると味気がなくパサパサしていた。

「美味しくないわね。やはりあの苺より味が劣るわ」

 残りの苺を食べる気力もなかった私はその苺全てミキサーにかけてジュースにして全て飲み干した。


「5」

「おめでとう。正式に君はパティシエ職人だよ」

「ありがとうございます」

 本日より、私は見習いから正式なパティシエ職人になった。
 その日の帰り道、私はいつものようにあのスーパーに寄る。

「はは。25806円になります」

 いつものように大量に苺を買い求めていると、店側がわざわざ専用の機械を導入してくれたようだ。
 お会計を済ませた私は大量のポリ袋を担ぎ帰宅する。

「いただきます」

 今夜の夕飯は苺ご飯に苺スープに苺ラーメン、苺の天ぷらなどなど苺尽くしだ。夕飯終えると苺風呂に浸かり、風呂上がりに苺シェイクで飲み干す。私はどこまでも身体から苺を欲していた。

 ーー「紀伊野苺マンション自室」ーー

「ねー?苺、どうしたのー?具合悪いの?」

 紀伊野苺の友人が最近職場に出勤してこないので心配してマンション自室に押しかけていた。
 その途中に警察関係者がやってきて紀伊野苺のマンション自室に乗り込んだ。
 すると部屋の中から大量の苺が散乱していた。
 そのうめき声がする寝室からは紅く苺のような身体をした彼女が大量の苺を口に含んで気絶していた。


「6」

「という怪異談よ」

 その怪異談を披露すると美月の姿はすでにいなかったというより、気絶していた。

 そんなしばらくしてある真夜中の日のこと、苺の怪異談に慣れた美月はお忍びで大量の苺のあった冷蔵庫から開けようとすると居間で人の気配がする。
 そこの居間で大量の苺に積もれた皿に真っ赤に染めあげられた苺人間がいた。

 それを目撃した美月はそのまま気絶した。
 ちなみに苺人間は変装した楓によるモノでこそこそと真夜中怪しい美月を見張っていたからだ。
 今回の出来事により美月は苺が嫌いになってしまった。

 苺1円  完
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