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鐘技怪異談W❺巻【完結】

137話「うしろ」

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「1」

 ーーそいつは立っている。

「…………」

 ーーそいつは何も答えない。

「…………………………」

 ーーその人はうしろにいる。

 うしろ。

 うしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろにいる。

 あなたも大丈夫かしら?

 ほら、うしろに……。

 ーーーーーーーー。

「かーんーぱーい♪」

 賑やかな人だかり。
 私たち晩遅くに仕事帰りで立ち寄る。
 ここの居酒屋は珍しく立ち飲み食いができる。
 なんでも駅前にあるからお客さんが電車が乗り遅れないよう配慮もあるが私たちにとっては気軽に立ち寄りやすい場合もあるからね。
 そんな私たちは仕事の上司をディスったり他愛もない恋愛話を聴かせるのだった。
「ウィー。あたし酔っ払ってきたぜー」
「ちょっと!?飲み過ぎよ」
 そんな酒飲みである仕事の同僚でもある友人サチに嗜めながら私も飲んでいた。

「2」

「うげぇぇ」
「飲み過ぎよ」と電柱の近くで吐き気をするサチの背中をさする。
 残りの友人達はそのままハシゴに向かい私とサチ2人はそのまま帰路に向かう最中だ。

 ーーそんな時にブルっとくる重い縛りつけるような感覚が私に来たのだ。

 なにか金縛りの感じによく似ていた。

 身体が身動き取れないような痺れがやってくる。

 (はぁ……はぁ……はぁ……)

 私の呼吸が苦しくなり身体の熱がこもり汗が出る。

 (はぁ……はぁ……はぁ……)

 私は必死に呼吸を整えようとするとき私の耳元から、




 ぞわりとするような誰かの息遣いがしたから。


 思わずハッとして背後に振り向くのだが誰もいない。

 いや、サチがいるのだが突如いなくなったのだ。

 私はその場の周囲を確認したが私以外の通行人は誰もいなかった。

 (もしかしてサチは先に帰ったのかしら?)

 私は平静に呼吸を取り戻すと駅前近くに停車したタクシーを乗り込んだ。


「3」

 タクシーで自宅のマンションで降りてそこでも何か誰かの気配をするのだ。

「…………」

 私が歩くと靴音がダブり重なるのだ。

 ーーもしかしてストーカー!?

 私は再び呼吸が苦しくなり急いで自分のマンション自室に向かおうとする同時に「ねぇ」と誰かが呼びかける馴染みの女性の声がした。

「!?……なんだサチか」

 呼びかけたのはサチだったがどこもいなかった。

 しかし、私の背後に誰かがいることわかっている。

 でも、感覚としては振り向いてはいけないと直感がするのだ。

 なぜなら背後にたくさんの息遣いが聴こえてくる。

 (はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……)

 徐々に息遣いが大きく聴こえてくる。

 こわくてこわくてこわくて振り向くことができない。

 ガクガクと腰が震えてくるのがわかる。

 誰かの助けを呼ぶほどの声が出ないのだ。

 いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ。

 私は恐怖でいっぱいだった。

 その時、誰かが呼びかけた。

「……ねぇ、……うしろ」

 ふと背後にいた息遣いが全てなくなったので私は恐る恐る背後に振り向いた。

 するとガッと腕に掴まれた。

 そこで私は身体ごと一気に引きずり込まれた。

 私がいた場所は踏切内でありそのまますぐ電車が通過した。

「なにやってんの!?あんた死ぬ気なの!!」

 掴まれた腕はサチだった。
 あと一歩遅かったら私は電車に轢かれていた。

「4」

 この駅前には戦時下において大量の住人達が空襲で亡くなった人たちがいたから。
 私もこの場所に来るときに彼らの息遣いが聴こえてくる。
 でも安心してあなたにもうしろにいるから。

 ほら、うしろ。

 うしろ   完
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