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野花怪異談N⑤巻【完結】

57話「ご主人様はおこらない」

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 「1」


※この怪異談は死力観察の前話にあたります。

 ーー「イシヤマイヌネコペットショップ」ーー

 飛び交う犬猫の鳴き声。
 ここにあるのは全て血統書付きの犬猫達が売られており、実際犬や猫を手で触れ合うことができる。
 このペットショップでペットを飼おうと八木楓、八木瑠奈、居候同然ペットのヒモ扱いで首輪にヒモに繋がれている梅田虫男も来店する。
「うわー♪かわいい♪これも欲しいな。あれも欲しい。あ、これもいいな」
 瑠奈は手当たり次第唾をつける。
「瑠奈。そんなに飼えませんよ。私たちが買えるのは一匹ですからね」
 楓もいろんな品種を見て回ると同時にリードに繋がれてる虫男を引っ張る。
「な、なぁ?なんで俺は首輪に紐を繋がれてるんだ。周囲は俺のことを見て軽蔑されてるんだが、俺、なんかしたか?」
 虫男は何やら文句を言って吠えている。
 しかし楓は、一蹴して。
「何かキャンキャン吠えてますが、大丈夫ですよ。先生は元から軽蔑対象ですし。勝手に私の乙女の肌を見られてしまったので悪いペットはしつけとして繋いでおかないといけませんからね」
「い、いや!あれは!?不可抗力だ!悪気はなかったんだ!大丈夫だ!誰も言わないから!許してくれ!何も小さなむ……あぎゃぁいだだだだだ」
「……悪い口元はこの辺りかしらね」
 楓は虫男の頬をつねる。
 瑠奈は周囲を気にしたのか、赤の他人の振りをして楓達から離れてペットを見て回る。
 しかし彼女も楓と同じ白粉にしてるので他人の振りが無理であることを気づくのは後の祭りである。
「あれ?八木さんじゃない。こんにちわ♪」
 楓達を呼び止めてきた少女。
「あら、桜さんじゃない。こんにちわ♪」
 楓の親友永木桜だった。
 桜は店の制服を着込んでいた。
「お、桜じゃないか。ここでバイトか」
「そうよ。ここのバイト時給がいいからね。それはそうと……なんで繋がれてるの?も、もしかして先生変な趣味に目覚めたの?」
 桜はジト目で虫男に軽蔑対象を見る。
「ち、違うぞ、これはだな「先生に私の大事な物を見られてたんです。もう私はお嫁にも行けない。汚されたんです。しくしく」だー!?」
 虫男は言い逃れない展開に周囲に人だかりが出来てしまう。桜は警察に連絡しようとするが虫男に止められる。
「ち、違う!俺の話を聞けーーーー!!」
 虫男の悲痛な叫びは店内の犬猫の鳴き声にかき消されていた。

 「2」

「へー。八木さん家、ペット飼うんだ」
「そうよ。何かいい子ないかしらね」
 と、それを聞いた桜は小型犬を捕まえて見せる。
「この子はどう?草山市原産草犬」
「おっ?こいつ前に兄貴の親友のとこにいた犬じゃないか。いいんじゃないか?」
 はははと撫でる虫男。
「先生。このワンちゃんたしか50万もするみたいですよ」
「ええーー!?このワンコがか。俺の給料2ヶ月分……だめだ。このワンコはうちに飼えない。ほかのやつにしろ!」
 と、虫男は草犬を撫でるのやめると草犬が虫男に向かって唸り声をだして吠える。
「な、なんだよ!?吠えるな!めっ」
 草犬は吠えるのやめず周囲にも釣られて吠えるのやめない。
「ダメですよ。先生。あまり叱ってはいけませんよ。優しく接しないとよーしよーし」
 桜が撫でると草犬は吠えるのやめてゆっくりと深い眠りついた。
「お!?なんのマジック使ったんだ?」
「別に普通に優しく接しただけだよ?」
 桜はキョトンと首を傾げる。
「桜さんも意外な才能の一面あるのね。……先生。叱る時は悪い時ですよ。クスクス」
 楓の意味深なセリフに虫男は黙っていた。
「そう?私の家にはいろんな動物飼ってるから、自然と動物のことわかるしね」
「桜さんもかなり飼っていましたからね。まぁ。世の中にはペットの気持ちを汲み取り叱らないご主人様もいるからね」
 急に周りは背筋が冷たくなった虫男だが桜は平気だったの見て首を傾げる。
「へー。もしかしてペットにまつわる怪異談あるんだ」
「そうよ。あれはたしかーー」
 楓はその怪異談をゆっくりと語った。

 「3」



 ーー「石山県愛友市宝山町」ーー

 蝉が鳴く暑い季節。
 僕の名はぷー太。5歳。
 ご主人様に飼われてるペットだ。
 僕は今、ご主人様と一緒に学校へ向かっている。
 この町では、僕みたいなペットを大事にしてくれて優しい町なんだ。
 そう。どこでもペットだらけである。
「おはよう。神ちゃん」
 ご主人さまの親友茶髪ロングヘアーの河野さんが挨拶した。
「ひっ!お、おはようございます……」
 早速ビクッと反応しておどおどしてるのは僕のご主人様、神永姫子ていう名前。
 口元にホクロがついていて、髪型は短く切り揃えているのが特徴だ。
 ご主人様は僕が心配するほどいつもビクビクしており、かなりの心配症である。
 この間、僕が何度かくしゃみして慌ててアニマルレスキューに連絡するほどだった。
 アニマルレスキューとは、なんだって?
 まぁ、いわゆる人間様の救急車みたいなものでそこにかけるとすぐ駆けつけてくれて最寄りの動物病院に向かってくれるんだ。
 このアニマルレスキューはこの市の独自の制度てご主人様が話をしてて聞いたことある。
「ワンワン」
「ひっ!?」
「こら、ゴンザレス吠えないの」
 ご主人様に向かって吠えるのは白いもふもふした大型の犬ゴンザレス。3歳。
 僕の弟の子分だ。
    ゴンザレスは河合さんにリードに繋がれている。
 ゴンザレスもたまにだが、僕のご主人様に向かってちょっかいかけて吠えるのだ。
 ゴンザレスはご主人様の反応が楽しいらしい。
 ちょっかいかけるご主人様は何もおこらない。
 この前僕は自宅でうっかりおしっこ漏らしてもおこらなかった。
 それほど僕達ペットのことを思ってのことである。
 そしてしばらく歩いていると学校に着いた。

 「4」

 ーー「宝山高校1年3組教室内」ーー

「起立!今日つけ、礼」
 授業が始まった。
 僕以外にもペット達で溢れている。
 この学校では動物ペットと同伴できる学校なんだ。
 いろいろな動物達で溢れている。
 すごそうなワニも連れてきてるし、ペンギンまでもいる。
 みんないろいろペット飼ってるから、慣れてるので授業には気にならない。
 ちなみに先生はフェレットを飼っていた。

 ーー「理科室」ーー

 今度の授業は生物科目でネズミを使った実験らしい。
 僕も気になるな。
 早速見学してみた。
 まずある男子生徒はネズミにプールに入らせてる。しかも気持ち良さそうだ。
 そして2人目の女子生徒はネズミに豪華なベッドを寝かせて子守唄を聴かせていびきかいてねてる。
 で最後にご主人様は。
 ええ!?なんか小さなテレビを見せて身体を優しく洗ってるよ。
 しかもネズミも風呂場でふんぞり返って寛いでる。
 一体何のための授業なんだろ?
 こうして本日の全て授業終わった。

 「5」

「神ちゃん。この後用事ある?」
 河野さんに声かけでビクッと怯えてしまうご主人様。
「ううん。今日は特に予定ないよ」
「そう。じゃあ今日もあそこへ行かない?」
「う、うん。いいよ」
「ワン」
 僕の子分ゴンザレスも尻尾振って喜んでる。
 ご主人様達とペットの僕らはいつものあそこへ向かった。


 ーー「宝山銭湯」ーー

 建物の引き戸を河野さんが開ける。
「いらっしゃい」
    おじさん。こんにちわ。
 一応挨拶はしとく。
 あそこというのは銭湯である。
 ここでも僕らみたいなペットでも入れる。
 早速僕らも入る。
 さて僕は雄なので男性風呂へ向かう。
 ゴンザレスもそこだ。
 ご主人様達もそこに一緒に入る。
 一応言うけどやらしいことはないよ。

 ーー「男性風呂」ーー

「どう?気持ちいい」
 気持ちいいです。サイコー。
 僕とゴンザレスはゆっくりお風呂に浸かってる。
 ご主人様達は汗だくになっている。
 ここの銭湯ではペット専用の銭湯である。
 僕らも結構利用する。
 そして充分浸かった後、ご主人様が手でゴシゴシと洗ってくれる。
 辺りは泡だらけになった。
 そしてシャワーで洗うと、僕はついプルプルする。
「キャ」
 ご主人様はどうやらまともに喰らったようだ。
 それでもご主人は僕に対しても何もおこらない。
 優しいなぁご主人様はと僕は思った。

 「6」

 ーー「マンションにある神永の自宅」ーー

「ただいま」
 はい。ただいま。
 て、誰もいないけどね。
 ご主人様の両親は海外出張でいない。
 ご主人様は血の分けた実の妹さんがいる。
 ただ、妹さんは現在入院してる。
 なんでも手術があるんだけどご主人様と妹さんは踏ん切りついてないらしい。
(~♪)
 と、ご主人様のスマホ着信音が鳴った。
 ご主人様は電話をとった。
「もしもし。中原さん。どうもありがとうございます。ええ。まだ私も由香も決意はまだ固めてません。ええ。ところでドナーは見つかったでしょうか?……そうですか。やはり代わりはいませんか。ありがとうございました」
 ご主人様は電話切った後、何故か悲しそうな目をする。
 僕はご主人様のこと何か抱えてるのはわからないけど僕はご主人様の足の太ももを頬擦りして励ました。
「……ぷー太」
 ご主人様は少し元気が出たのか、微笑んでくれた。
 この後、ご主人様は夕飯の献立を作り、僕の大好きなとうもろこし麦ご飯を作ってくれた。とてもおいしかった。


 ーー「????」ーー

「おじさん。今日もお願いします」

「お?今日も生まれたか。可愛いな。じゃあこれを捌いて今日も締めるよ」

「……はい。お願いします」

 「7」

「いってきまーす♪」
 休日の昼間、僕達はこの付近でやってる本屋に向かう。
 本屋に着くとご主人様は立ち読みした。
 ご主人様はどうやら獣医関連の本を読んでるようだ。
 ご主人様も動物好きだから頑張ってほしいなと僕は思った。
「きゃああああ」
 と、突然女性の悲鳴が聞こえたので僕達は声をする方向に向く。
「静かにしろ!」
 どうやら、強盗のようだ。
 顔に黒の覆面と包丁を持って振りかざしている。
 ご主人様はひどく怯えていて、とっさにスマホを取り出して警察に連絡してる。
「何をしてる!!」
 強盗がこっちに向かってきた。
「ひっ!?」
 ご主人様が襲われる!
 僕はとっさに強盗を噛みついた。
「いだだだだだ」
 僕はあまり吠えないし噛み付かないおとなしいペットだけど僕はこの時ばかりは思いきっり噛みついた。
「ごのクソが!!」
「ギャウン」
 強盗が手に持った包丁で僕の身体に深い傷を負わせてあまりの痛さに強盗の噛みついた身体を外した。
「ぷー太!?」
 ご主人様が心配して僕に駆け寄る。
 この後、騒ぎに駆けつけてきた警察が強盗を取り押さえてくれた。
「ごめんね。ごめんね」
 ご主人様は何度も僕に謝ってくれた。
 誰かがアニマルレスキューを呼んで僕は動物病院に運ばれた。

 「8」

 ーー「宝山動物病院」ーー

「先生。ぷー太の傷具合はどうですか?」
「傷跡はかなり残るけどこの程度なら命の別状はないよ」
 お医者さんの言葉を聞いてご主人様はホッと安堵した。
 僕の身体周りに包帯何かで巻かれていた。
 我ながら無茶な事をしたなぁと僕は思った。
 ご主人様は僕の行為を咎めずいつも気にかけるようになった。
「あと一ヶ月様子見てその後、退院だね。そう言えば妹さんの手術があったよね?こちらもぷー太君を早めに返すようするから」
「……はい。お願いします」
 ご主人様は少し落ち込んだの見て僕が気にかけてご主人様の顔を見ると少し微笑んでいた。


 ーー「????」ーー

「おじさん。すみません。傷ついてしまって」

「なーに。肉にしちまえば大したことないさ」

「ごめんなさい」

「いいよ。気にすんな。また生まれたらよろしく頼むぞ」




 ーー「1ヶ月後の神永の自宅マンション」ーー

「ただいま♪」
 僕は怪我を完治して久しぶり我が家に帰れた。
 懐かしい我が家でのびのびとおもちゃで遊んだ。
「………」
 ご主人様はどこか遠い目をしている。
 そんな時僕は頬擦りしている。
 ご主人様はそれに応えるように僕の顔を見て微笑み撫でてくれる。
「ぷー太。今日はわたし特製肉入りチャーハンだよ♪」
 やった!僕の大好きな肉入りチャーハンだ。
 これ大好き♪
 僕はあたり構わずヨダレが落ちてしまうが。ご主人様は雑巾でヨダレ周りを拭く。
 ご主人様は早速準備に取り掛かった
 僕は大人しくご主人様が作る肉入りチャーハンを待った。
 ご主人様が作るチャーハンの匂いは思わずヨダレが止まらなかった。
 そしてしばらくすると出来上がり、僕の食べる皿に盛り付けて出した。
「さ。お食べ」
 僕はがっつくほど肉入りチャーハン食べるのに夢中になった。数分しないうちに僕は綺麗に食べ尽くした後、僕は眠気を感じてゆっくりと瞼を閉じた。
「……おやすみなさい。ぷー太」
 途中僕の顔に冷たい何かの雫が垂れたけど僕はこの時何も気にしなかった。

 

 ーー「石山総合病院」ーー

「うわー。美味しそうなカツ丼♪」
 由香はボリュームあるカツ丼を見て美味しそうに食べている。
 由香は明日手術が待ち受けている。
 無事成功祈るため、姫子はわざわざ用意してくれた。
 姫子はそんなカツ丼を見てぷー太の事を考えていた。
「……」
 由香はそんな姉の心情見ながらも笑顔で言った。
「おねーちゃん。私、心臓の手術頑張るよ。ぷー太のためにも。だからそんな辛気臭い顔をやめてね。……わたしこんなにたくさん食べれないから。一緒に仲良く食べよう」
 由香はカツ丼を差し出すと姫子は思わず涙がこぼれ落ちて「いただきます」と姉妹仲良くそろってカツ丼を完食した。

「9」

「ねー、ねー。おねーちゃんこの犬なんかどう?おねーちゃんの好きそうな山羊みたいな犬だし」
 と、瑠奈はボルゾイという品種をチョイスすると楓はうなずき、
「そうね。これにしましょう。先生お願いします」
「いち、にー、さん、しー、ごー!?20万!?お、俺の給料一ヶ月分!?」
「先生まいどあり♪ぜひ、この子いい子だからぜひ可愛いがってくださいね」
「いや、ははは。もっと別の安い犬に」
 と、楓は虫男の口元を押さえる。
「ご主人様に逆らえないの。わかりましたか先生?……それとも先生の可愛い虫達を放り出してもいいんですよ」
 虫男はそれを聞いて鳥肌が立ち。
「わかった。それだけやめて下さい。ご主人様~!!」
 虫男は逆らえないご主人様に泣く泣くボルゾイの犬を購入した。
 八木家に新しい家族が出来た。



 ーー「????」ーー

「もうちょっと待っててね。今出来上がるから」
 妹の無事心臓移植の手術終えたことにホッとした姫子はお祝いにぷー太が大好きだった肉入りチャーハンをご馳走する。
 そして出来上がるとそろって食事を共にする。
「ほら、ほら、手術後だからそんなにがっつかないの」
 相手はお腹が空いていたのか、姫子は優しく諭しながら食べさせる。
「でも、無事手術成功してよかった♪ねー。ぷー太」
 肉入りチャーハンをがっつき食べてる豚ぷー太はブヒッと鼻で返事をする。
「ただいま♪」
「おかえりなさい由香。今日も生まれたの?」
「そうだよ。今日は私2人も生まれたからね」
 と、由香の後から同じ由香2人が現れて彼女達も食事する。そしてそんな由香を見た姫子はニコと微笑んだ。

 ご主人様はおこらない  完
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