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野花怪異談N③巻【完結】

38話「山吹色のをかしアメ」

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 「1」

 ーー「野花公民館」ーー

 館内は老若男女で満席。
 ここでは野花市に活動拠点を持つ劇団『野花劇団』による演目が始まる。
「いよいよ。始まるな」
 緑の着物着た眼鏡がトレードマークの梅田虫男が今かと待ち受けて楽しみしている。
「久しぶりの演目みたいなのでお父様もひさびさに張り切っていました」
 花柄の和服を着た白粉肌の目印である八木楓が言った。
 この劇団である野花劇団は日本古来伝統である歌舞伎をモチーフに西洋を取り込んだ西洋歌舞伎をウリにしており、西洋歌舞伎にちなんだ白粉や派手な衣装もそこから来ている。
 ちなみに楓の白粉も父親から譲り受けた物を使用して身につけている。
 この劇団も八木家のゆかりがある物として明治時代からある。そのため石山県の住人なら知らない者はいないと言われるほど周知している。
「そう言えば楓の父親も恐ろしい体験をしたと聞いたが?」
 虫男は楓に尋ねた。
「ええ。なんでもな体験をしたらしいですよ。お父様も好きですから、たくさん食べますからね」
 クスクスと楓は口元を押さえながら微笑する。
「まぁ。俺も好きだから、気持ちはわかるさ。お。そろそろ始まるな」
 虫男は姿勢を正す。
「ええ。お父様の演目いつぶりかしらね」
 役者が集まり演目が始まった。

 「2」

 ーー「二十年前」ーー

     楽屋のあたりうろちょろしている若き蛇市。
「あー。どうも美月さん。あたしと今晩一緒にお食事どうですか?あー。違うな。俺?僕?あー」
「どうしたんだい?蛇ちゃん。あんたそんなところでつぶつぶとつぶやいてさ」
 と、見かけた先輩方の窯栗が声をかける。
「窯栗兄さん。こ、これはその見苦しいところを見せてしまったね」
 見られた蛇市は少し頬を染める。
「あんた。また美月ちゃんにデート誘うのに躊躇ってるのかい?大丈夫わよ。そんなかっこつけずにそのまんま、ありのままに見せな」
 窯栗は蛇市にアドバイスをするが当人は納得できなかった。
 美月は八木家の総支配人の当主の娘である。彼女に食事を誘うとした先輩男達は断られていて蛇市もそのためか踏ん切りつかなかった。
「いやいや。ここはちゃんと男らしいとみせないとダメですわ。美月さんあ…僕とあーうまくいかない」
「何がうまくいかないのですか?」
 と、蛇市はふと声がする方向を見やると、そこに白粉を身につけ三日月柄の和服を着たお淑やかな女性美月が立っていた。
「何か私に関することかしら?」
「み、美月さん!い、いや、そ、その」
 たじろぐ蛇市に対してクスクス笑う美月。
「そうよ。蛇ちゃんたら、美月ちゃんと一緒に食事誘うのになかなか誘えないらしいのよ」
「あ、窯栗さん!?」
「あら」
 空気を読めない窯栗に対して目を見開き戸惑う蛇市に対しては美月は、
「私も丁度蛇市さんとお食事をしたいところでしたわ。ご一緒に行きませんか?」
 魚をパクパクと口を開けて信じられない感じの蛇市は身を乗り出して美月の両手を掴む。
「ほ、本当ですか?美月さん!!あ、あたしとご一緒に食、食事に!ま、マジのマ・ジですよね!?カルじゃないですよね!?」
「ええ。マジですよ」
 蛇市は思わずガッツポーズをした。
「それと、蛇市さん」
「はい!なんでしょうか?」
「手離してもらいますか?」
 と、蛇市思わず美月の手を離す。
「あ、そうだ。あたしこれから稽古の準備がありますのでこれにて!」
 蛇市は用件が済んだのか、そそくさと去っていた。
 蛇市を見送ると同時に窯栗は言った。

「ふー。ようやくあの人言ってくれたわね。よかったね美月ちゃん♪」
「うん。よかった。あ、あの人ちゃんと食事誘ってくれた。あ、あとあの人わ、私の手を握ってくれた。うふふ」
 美月は1人の世界に入り込みつぶつぶとつぶやく。
「美月ちゃん。またつぶつぶつぶやいてるわよ。もー。恋のキューピッドここまでよ。あとは若い当人同士よろしくやってね」
「この後、食事の終わり後、も、もしかして僕と付き合ってくださいとか?あと、僕と結婚前提として付き合ってくださいとか?やっぱり子供は2人以上は欲しいな。私とあの人に似た可愛い子供。うふふふ」
 それを見た窯栗はやれやれと感じで深いため息をした。

 「3」

 蛇市は鼻声を出しながら1人で稽古場で演目の台詞の練習する。
「おー。ロミオあなたはなぜ~」
 演目は定番人気のロミオとジュリエットである。蛇市は顔立ちは中性的な美貌を持ち女形でも若い女性から人気がある。昔、電車で痴漢されたこともあるくらいだった。
「うーん。最近声変わりしたから、もう少し声を高くならないかしら」
 蛇市も最近になって少し声が低くなっており、劇団として問題なかったが舞台俳優として女形をする蛇市は気にしていた。
 と、そこに演目の練習に励んでいるとそこに後輩の細身の鮫長がやってきた。
「あら、兄様張り切ってますね」
「あ、鮫ちゃん。どうも」
 長い間女形やってるせいか、女性口調や仕草からなかなか治らない蛇市。同じく鮫長も同じ女形やってるせいか口調や仕草も治らない。
「ねー。鮫ちゃん。あたしどうやらまた一段と声変わりしたみたいなのよ~。困るわ~」
「あらあら、大変ねー。あ、そうだわ!ちょっといい物あるわよ。ちょっと怪しい駄菓子屋さんで見つけたもんだけどね」
 怪しい駄菓子屋と聞いて蛇市の耳に即座にインプットした。蛇市は無類のお菓子好きであり、いつも休日はお菓子巡りするほどである。
「はい。これ」
 と、鮫長から蛇市に手渡されたの珍妙な色をしたのど飴だった。
「なーに?変わった色をした飴ちゃんね」
 蛇市はその飴を見て首を傾げる。
「ちょっと。その飴を口に含んで見たら台詞を言ってごらんなさい」
 蛇市は言われた通りにそののど飴を口に含み台詞を言ってみる。
「おー。ロミオー。あっ!?」
 蛇市思わず驚いた。
 自分の声が高くなり、澄んだ若い女性の声になっていた。
「少し驚いた?この飴さまざまな種類があってバリエーションがあるから、いくつか声を出せるのよ。たとえば。これとかね。あー」
 鮫長はひとつ飴を含み声を出すとさらに低くなり野太い声になった。
「あら~やだわ~。これいいわ。をかし過ぎていいわ。これ欲しいわ。どこに売ってるかしら?」
「そうね。ここからまっすぐイシヤマスーパーからの十字交差点から左に曲がって亀屋うどん屋さんのすぐ隣にあるわよ」
「亀屋うどん屋さんなら知ってるわ。あの辺りにあるのね。ありがと。この後すぐ行ってみるわ」
 と、蛇市は言った。
「私の約束は忘れないでくださいね」
「うぉっ!?美月さん!いつそこに」
 いつのまにか蛇市のそばに美月が立っていた。
「蛇市さんが変わった飴を口に入れた所かしらね」
 クスクスと微笑する美月。
「忘れてませんよ。あ、あたしはこう見えても約束は守る男ですから」
 ドギマギする蛇市に対して美月は言った。
「そうですか。私約束を守らない人は好きじゃありませんからね」
 と、一瞬背筋からピリッとする静電気が鳴って鳥肌が立つ蛇市。
「だ、大丈夫ですよ。食事前に行ってちょちょっと!駄菓子屋ですぐ用件済ませてきますから。そうだ。今夜あそこにしましょう。亀屋うどん屋さんに。あそこは評判のいいうどん屋さんですから!」
「あらあら。うふふ」
 それを聞いた美月は了解の返事をした。
「あらまー。あの身の固い美月ちゃんが兄さんと食事とはねー。今夜は嵐かしらね」
 と、鮫長は微笑んでいた。

 「4」

 突風が吹き荒れる雨風。
 丁度この日は台風が近づいてた。
「あらら。本当に嵐みたく来ちゃった」
「そうですね。うふふ」
 この状況の中でも美月は微笑んでいた。
「美月さん。あたしこれからぴゅーと車を取りに来るのでお待ちになってください」
 と、蛇市はこの台風の中かきわけて駐車場からずぶ濡れになりながらも車を取りに行って、美月を乗せて駄菓子屋に向かった。

 ーー「山吹色の駄菓子屋」ーー

「こんばんわ」
「こんばんは♪」
 駄菓子屋に入ると店内は明かりがついていた。この晩遅くまでも店はやっていた。
 売られてる駄菓子はほかの駄菓子屋と違い変わった色をした奇妙なお菓子が売られていた。
「おや。いらっしゃい」
 店主は白髪の眼鏡をかけた男性老人だった。
「おやっさん。ここに声変わりする不思議な飴があると聞いたんだが」
 蛇市が尋ねると店主は、
「おお。それならこれですよ。はい」
 店主がわざわざ手渡したそれを蛇市が掴む。
「これですね。ふむたくさんありますね」
 それは瓶詰めされた飴玉だった。
 美月は興味そうに眺めていた。
「おやっさん。これいくら?」
「ひとつの瓶詰めで1200円ですよ」
 そう聞いた蛇市は懐から蛇柄の財布を取り出して店主に支払った。
「まいど」
 蛇市は片手に瓶詰めのをかし飴玉を抱えて美月と一緒に店を出た。


 ーー「亀屋うどん店」ーー

「お待たせしました月見うどんです」
 亀屋うどん店につくとすぐ注文して、蛇市と美月はおそろいの月見うどんを頼んだ。
「これが例の声変わりする飴ですか?」
 美月は飴玉を一つ掴み眺めている。
「そのようですね。一見変わった色をした普通の飴玉みたいですけどね」
「ふーん。ちょっとためしに」
 美月は持ってた飴玉を口に含んだ。
「あー。あー。あたし蛇市です」
 と、美月の声が野太くなり蛇市に似た声になった。
「あらー。そのまんまあたしの声だねー」
「うふふ。蛇市さんの声出せるなんて少し感激しちゃった」
 美月は少し喜んでいた。
「どれ。あたしも」と蛇市も飴玉を一つ口に含む。
「あー。あー。おや?これは美月さんの声ですね」
 と、蛇市の声が高くなり美月に似た声になった。
「あらあら。なんだかお互い入れ替わった感じですね♪」
「そのようですね」
 この後、食事終えた蛇市は美月に告白して結婚前提としたお付き合いすることになった。

 「5」

 ーー「とある舞台劇場」ーー

「蛇市さん。これでいいかしら?」
「ええ。それでいいですよ」
 衣装着付け役の女性が演じるジュリエットの衣装を蛇市に身につける。
「たしか、ジュリエットの女性の声にふさわしい飴玉はこれね」
 と、蛇市は瓶詰めから例の飴玉を取り出す。
「そろそろね。いってくるわ」
 蛇市は近くなった本番に挑んだ。
「お~。ロミオ~」
 舞台のロミオとジュリエットは大盛況になった。なんでも蛇市が演じるジュリエットはまるで女性のように澄んだ綺麗な声をしてることから一部の女性からさらに人気が出た。

 ーー「楽屋」ーー

「お憑かれ様」
「お憑かれ様です」
 舞台が終わった蛇市は鼻声だしながら瓶詰めの飴玉を見つめる。
 そこで彼は一つ掴み口を含む。
「あー。あー。今日は窯栗さんか。ふふふ。
 この飴さえあればどんな声も演じるわね」
 彼はこの後毎日いろんな声を試していた。

 ーー「稽古場」ーー

「(あー。あー。やだ声がガラガラになっちゃったわ)」
 蛇市はいろいろ飴の効力の試し過ぎで声が潰れてガラガラになってしまった。
「どうしたの兄さん?」
 鮫長が心配して声をかけた。
「(鮫ちゃん。どうやらあたし声が潰れちゃったみたいなの)」
「あら?大変じゃない。たしか明日は本番よ?」
「(そうなのよ~悪いけど声当ておねがいできるかしら?あなた斬る役だったからできるわよね?)」
「いいわよ。兄さんの頼みでもあるし、なんだってやるわよ!」
「(悪いわね~)」
 鮫長はあこがれの先輩である蛇市の頼みを引き受けた。

 ーー「本番当日」ーー

 舞台はとある中世を舞台にした蜘蛛斬り男である。なんでも蜘蛛嫌いな男は蜘蛛を見かけると斬り殺すほどである。次第に人にも蜘蛛が見えてしまい、最終的に愛する女性にも蜘蛛が見えて斬り殺してしまうという話である。
 主役は若手のホープである鮫長が務めてヒロイン役は蛇市が担当する。
 物語は急展開するが鮫長は焦っていた。
 実は例のアメを所持するのをうっかり忘れていたからだ。
 そこで最終場面であるヒロイン役のセリフは当然無言である。
「……(どうしたのよ!!鮫ちゃん)」
 蛇市の強い蛇の睨みに鮫長はタジタジとなる。
 ここで鮫長はなんとかアドリブ展開を披露して蛇市を斬り殺すのだが
「きゃああああああ!!」
 と、蛇市のヒロイン役がちゃんとした悲鳴が出て無事に演劇は幕を下ろした。

 ーー「楽屋」ーー

「「「すみませんでした!」」」

 劇長の吉永に強い厳重注意を受けた鮫長と蛇市だった。
 しかし、それをやんわりとなだめてくれたのは美月だったので吉永は軽い厳重注意を受け入れたのだった。
「でもさー。どうして悲鳴が出たのですか?声を潰れてるのに」
 すると、蛇市が言った。
「(それは鮫ちゃんじゃないとしたら、誰なのよ?うさんくさいわね)」
「本当なのよ!!アメは忘れただけだから!」
 と、二方は気まずい雰囲気なりながらも美月がこのお話終わらせた。しかし、この事態が彼らの友情関係にヒビが入るとはまだ皆は知らなかった。


ーー「とある舞台劇場2」ーー

 劇場は恒例の満席である。
 舞台の演目はゲームソフトのデートオブファンタジーのコラボによりオリジナルストーリーで野花劇団が演じる。
 筆頭のメインヒロイン役は人気の女形役蛇市が演じる。
 ここでとある盗賊達がヒロインに乗せた馬車に襲われる所から始まる。
「けっけっけいい女だな」
「…………」
 盗賊達が襲われるヒロインがここで台詞を言うところだが台詞が出てこない。
「(ちょっと蛇市台詞どうしたのよ?)」
 窯栗が蛇市に注意するが少し慌ててるような感じだった。
「だんまりかよ。おい!やっちまえ!」
 台詞にないアドリブでなんとか乗り気ようとした盗賊役俳優達。
 するとヒロインが、
「きゃああああ」
 甲高い女性の叫び声をした。
 すると、颯爽に駆けつけて来たヒーロー役。
「もう。大丈夫だ姫」
「……アレン助けに来たのね」
 主役が盗賊達が斬りつけていく。
「ぎゃあああー」
「ひぇーーー」
「うひょーー」
 悲痛な叫び声を出しながら倒れていく盗賊達。
 そしてヒロインを助けたヒーローはこの後王城に誘われる。
「もう。大丈夫だ姫」
「……アレン助けに来たのね」
 最初の颯爽に駆けつけてくるヒーローのヒロイン役の台詞を繰り返す。
 観客もこの奇妙な展開に首を傾げる。
 蛇市は慌てて演目を演じるのやめて辺りの周囲を見渡す。
「きゃあああ」
「もう。大丈夫だ姫」
「…アレン助けに来たのね」
「きゃあああ」
「もう。大丈夫だ姫」
「…アレン助けに来たのね」
 いくつかその台詞を繰り返していく。
「もうもうもうもうもうもうぐげげげげげげげげげげげげげげげげげげげ」
 気味悪い声が代わり『げ』の声の部分がいくつかのいろいろな声変わりがしてくる。
 そして本来なら舞台の役目が終えた鮫長が舞台の真ん中に血相を変えて立ちそこで、
「いぐゃぎゃああああああああああー」
 この世にもならない叫び声を出して口から飴玉が大量に吐き出した。
 舞台おろか観客席は騒然となり、その場ですぐ中止なり鮫長は病院に運ばれた。

 「6」

 ーー「夢山大学病院」ーー

 呪術室の前に並び待つ劇団員達。
 と、呪術室の点灯が消えてそこから頭に蝋燭を巻いた医者が現れる。
「先生、鮫ちゃんの容態はいかがでしょうか?」
 蛇市の問いに医者は言った。
「鮫長さんの容態は見事に安定してますよ。あともう少しで遅れてたら、あの國に行かれるところでしたよ」
 と、再度医者は重い口を開く。
「それと、鮫長さんの身体から大量の飴玉がありました。あれはごく危険な物です。なぜならあれは一つの飴玉に生き霊が入ってますからね。あれをたくさん含むと危険ですのでもし所持してたら、そのまま食べずに廃棄なさってください。取り返しつかないことになりますので」
 蛇市は嫌な汗を掻いてしまった。
「……じ、実はあたしもこれを口を入れてしまって」
 と、それを聞いた医者は目を丸くして笑った。
「ははは。少しくらいなら大丈夫ですよ。……もっともあなたはこれを使って犯行にいたりましたね?」
「え?それはどう言うこと!?」
「蛇市さん。あなたこれを知ってて鮫長さんを大量に口を入れさせましたね?普通の飴玉とすり替えて」
「な!?な?な?」
 劇団員達はジロリと蛇市を睨みつける。
「あんたは前回の逆恨みで嫌われた彼女に取られそうになった鮫長さんを亡き者にしようとした。違う?」
 窯栗の追求にたじろぐ蛇市はこの場で逃げようとした。
 そこの目の前に美月が立つ。
「み、美月さん!?」
「……ごめんなさい。私、あなたとは一緒なれませんわ」
 美月の手にはムシヨオサラバの芳香剤を持ち、蛇市に大量に吹きかけて苦しみ出した。

 「7」


「なかなか楽しめたな」
「ええ。お父様も決まってましたね」
 楓達は演目の鑑賞後、父親の楽屋に尋ねる。
「失礼します。お父様います?」
「鮫長さんご無沙汰してます」
 と、化粧直ししてる楓の父親旧姓こと鮫長がいた。
「あら、楓に虫ちゃんじゃない。どうだった?あたしの稽古」
 おねぇー口調は未だに現在でも治らないようだ。
「ええ。迫真の演技でしたよ」
「魅入られましたよ。ははは」
 楓達のべた褒めに照れる鮫長。
 と、楓はある物を見つける。
「……お父様また黙ってこんな物を」
 と、そこにあったのは大量にあるお菓子類。
「あー。そ、それはその。い、いいじゃないの~減るもんじゃないし」
 と、あたふたする鮫長。
 彼の無類のお菓子好きは今でも健在だった。
 そのため不衛生な健康を危惧した楓達女性陣からお菓子を厳しく取り立てていた。
「あー。い、いいんじゃない!?ほんのちょっとだけだからさ」
 と、楓はお菓子類を全て取り上げる。
「ダメです。お父様は血糖値また上がるでしょ?」
「そんな~。ほんのちょっとだけだから。ほんのちょっと」
 鮫長は少しでもお菓子類を取り戻したかった。しかし楓の言葉に青ざめる。
「あまり聞き分けないと……お母様とお婆様に言いますよ」
「はい!約束します!」
 それを聞いた鮫長は姿勢を正して言った。
「ははは。鮫長さんも嫁と娘に姑に尻を敷かれてますな。ははは」
「先生。あまり調子に乗っているとこの間お母様が大事に取っていた温泉卵食べたことをバラしますよ?それとお婆様にそろそろいつまで居座る気なのか報告しますかね」
「それだけは辞めてください」
 それを聞いた虫男は土下座をして言った。
「あー。わたし何か甘い物を食べたくなっちゃいましたなー」
「なら、あたしと一緒に美味しいケーキ屋さんに行きましょう楓」
「俺この辺りに美味しい餡蜜屋やってた所あるぞ楓」
 と、虫男と鮫長は顔を見合わせて両者言った。
「俺が!」
「あたしが!」
 虫男と鮫長は対峙する。
「あらあら。困りましたね」
 クスクスと笑う楓。
「何が困りましたの?楓」
 楓はクスクスと笑うのやめて恐る恐る声がする方向に振り返る。
 そこにニッコリ笑う仏顔の美月。
「お母様いつからそこに……」
「迫真の演技という台詞とこかしらね。私に黙って内緒話かしらね?」
 それを聞いた楓、虫男、鮫長は青ざめていた。

 ーー「イシヤマパフェ」ーー

 ~♪
 店内は若い女性連れがたくさんいる。
 そこにテーブル席に歓喜あふれる大きいパフェを食べる女3人組。
「美味しいね。ママ」
「うふふ♡そうね」
「半世紀ぶりね。この甘味料は」
 そこに彼女達の隅っこでこじんまりとした小さなパフェを黙々と食べる楓。
「………」
「あら?どうしたの楓。美味しいそうに食べないと下げちゃうわよ?」
「いえ!食べます!美味しく食べます!」
 楓は美味しそうに食べる素振りを見せる。
 とカウンター席で不揃いの虫男と鮫長が小さなプチサイズのウェアハースでアイスクリームを掬い取り合いになってる。
 彼らは充分パフェを堪能した後、虫男と鮫長のポケットマネーから支払い今月のお小遣いを使い果たし金欠で嘆いていた。

 山吹色のをかしアメ   完
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