[全221話完結済]彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる

野花マリオ

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野花怪異談N④巻【完結】

42話「かいだんのかいだん」

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「1」

    ーー「????」ーー

 かいだんの向こう先にはかいだんがあった。
 真っ暗な外でかすかに灯りが照らすかいだんで私は果てしない場所にいた。
 ただあるのは目の前にあるかいだんだけ。
 私はひたすらにかいだんを上る。目的地はないと言えばよくわからないがわかることはかいだんを上らなければならないという使命があった。しばらくするともうすぐ頂上まで近づくが、あと少しのところで私はつまづいてしまう。そして下のかいだんが徐々に崩れ落ちて私の方へたどり着くと深い闇の奈落の底に私は一気に沈んだ。


 ーー「嵐矢魔の自宅05時45分」ーー

 私はハッと妻と一緒に眠るツインベッドから目を覚ます。
 そして、私は身体のいたる所に異常ないかを確認する。そして注意深く首元を確かめる。何もなく無事であることがわかるとホッと胸をなでおろした。目覚まし時計を確認するとまだ正午ではないが私は身体を起こす。
 私はかいた汗をとるため洗面所に向かう。
 私の名前は嵐矢魔和好あらしやまかずよし、歳は58。
 私はある日を境に毎晩かいだんの夢をみる。
 そして私はいつの間にか自宅の2階のかいだんが上れなくなってしまった。
 なぜならアレがあるからだ。
 かいだんともうひとつのかいだん。
 これが私の悩ます2つの原因だった。
 そして洗面所で洗顔など済ますと私は2階にあるアレを眺めていた。

「2」

 ーー「石山県野花市鶴坂町15時35分」ーー

「楓ちゃんも、悪いねー。僕のわがままに付き合ってくれて」
「いえ、神木さんとあかねさんがお手上げになるほどという点が気になったので」
「俺たち行ってなんとかなるもんか?」
 休日、八木楓、梅田虫男、花郎3人は花郎の親友である嵐矢魔の自宅に徒歩で向かう途中である。
「それも~そうなんだけどね~。僕としてはなんだかほっとけないんだよね~」
「そういえば嵐矢魔さんが悩ますタネがひとつはかいだんの夢、もうひとつは……」
「そう、かいだんの。どうやら彼の職業柄のせいかもしれないけど。があるから2階のかいだんが上れなくなったんだよね~」
 それを聞いた楓は険しそうな顔をする。
「でもよ~、命やあかねが言うにはあのかいだんさえ上らなければ大丈夫なんだろ?」
「それがね、僕も最初はそう思ったんだ。でも最近、頻繁にかいだんの夢が出るようになってもうすぐ頂上に着くらしいて、語ってたから彼もなんだか次第にやつれてきてるし。それに命ちゃんやあかねさんが言うにはアレは取れないて言うし。親友としてはすごく心配だなー」
 と、花郎はため息を吐いた。
「その親友ためにも兄貴の得意な演歌で励ましたらどうだ?そしたら喜ばれるだろ?」
「あのね~。虫男、僕は体質なの!歌ったら、よんじゃうから。僕は嫌になって演歌歌手やめたんじゃないの!わかる?無視になりたくて小説書くのやめたおまえとは違うからね」
 花郎はつぶつぶと虫男に小言を言う。虫男は耳を塞いで無視していた。
「お二人とも話は中でやりましょう?もう、つきますよ」
 と、楓は2人に諭して嵐矢魔の自宅に着いた。

「3」

 花郎は嵐矢魔の自宅に早速インターホンを鳴らした。
『どちら様ですか?』
 中年女性がインターホンごしに応対する。
「奥様お久しぶりです。花郎です」
『あらまぁ~やだわ。花郎さん。少しお待ちになって』
 と声色が変わったかのように応対する。
 花郎はファンから別名『マダムキラービー』と呼ばれており、中年女性層をしっかり狙って言葉にかける声が蜂のように刺されることからの由来する。
 しばらくすると玄関からお化粧を整えた嵐矢魔の妻が迎えてきた。
「まあまあ、花郎さんお久しゅうございます。さっさっ、立ち話もなんだから皆様方上がってちょうだい。主人は今、犬の散歩してますわ」
「奥様。お邪魔します」
「俺らはお邪魔ムシかなと」
 と、楓達は嵐矢魔の自宅に上がり込んだ。

 ーー「嵐矢魔の自宅内」ーー

「こんな物しかないけどよかったらどうぞ」
 と客間に案内されて和好の妻が出してくれたのは草山村名物草茶と草山イナゴせんべいだった。
「奥様お構いなく」とゆっくり腰を下ろした花郎は草茶を飲んであークサと言った。
 虫男は草山イナゴせんべいの袋を開けてにおいを嗅いで自分の靴下のにおいと同じだと言っても無視される。
「花郎さん。嵐矢魔さんがかいだんに巻きこまれるきっかけて、ご存知ありませんか?」
「かいだんのきっかけ……」
 う~んと唸りだす花郎。
 う~んと草山イナゴせんべいで自分の舌で舐めてにおいを確かめようとする虫男はムシされる。
 あっと花郎はあることに気がつく。
 あっと虫男は耳の付け根にクサイことに気がつきみんなに教えるがムシされる。
「そういえばあの出来事の一件以来毎晩かいだんの夢を見るようになってた気がするね」
「あの出来事?」
 と楓はキョトンと首をかしげる。そして虫男はカチャカチャと歌詞を披露すると楓はそこにあった『ムシイヤヤ』の芳香剤を虫男にかけて悶え苦しむ。
「そうだね。詳しくは彼に聞くといいよ」
 と、花郎は草茶で飲んで落ち着き草ついたところ、そこにあった『ムシバズーカイヤーン』の強力芳香剤を取り出してカチャカチャと悶え苦しむ虫男にトドメとしてボンと爆音して吹きかけて虫男がカチャンと糸が切れたように気絶した同時に玄関のドアが開く。
「む。お客さんかな?あー。イヤー。これはこれは花郎さんじゃないですかー。イヤー。イヤー」
 和好が犬の散歩から帰宅して花郎達をイヤーを連発して出迎えする。ペットの草犬は早速クサイ草髪の虫男の髪をがじがじとかじられていた。

「4」

「あれです」と2階の階段の向こう先をさすが特にそれらしき物は見当たらなかった。
「ふむ。一見すると普通のかいだんですな」
「そういえば嵐矢魔のご主人だけがアレが視えるんでしたね。とりあえず2階へ行ってみましょう」
 楓と花郎は2階へ上がった。
 虫男はまだ気絶してることにムシされている。草犬が頭のにおいを嗅ぐとクサイと言って逃げた。
 楓と花郎は2階の部屋や辺りをくまなく探索してみたがそれらしい物は見つからず諦めて下りた。
「普通にきちんと片付けられた部屋ですね」
「ええ。娘たちは成人迎えた頃、独立して家を出ました。そしてあの夢を見てアレが出るようになってからは2階の部屋で利用するのやめてほとんど利用してません」
 と、いつのまにか気絶から復活した虫男はふんふんとうなずく。そして花郎は『ムシキレイ』の芳香剤で辺りを浄化しようとすると虫男に止められる。
「嵐矢魔さん。かいだんの夢をみるきっかけになったことについて何か知ってます?花郎さんが言うにはあの出来事と言われました」
 と楓は言った。
「あの出来事……?ああ!昔、私の仕事に関することなんですが奴をいかせたことあるんですよ。それ以来ですかね。毎晩あのかいだんの夢とかいだんのが見るようになったのは」
「そう言えばあなたもずいぶんあの方に言われましたもんね。アレが怖くて眠れないとか……あの方は結構きつく言われましたよね?」
「そうだなぁ。あの方には本当に苦労かけましたよ。あとは一度燃やして廃棄したんですが2階からが出るようになり、残ったままです」
「まぁ、仕事でいかせたくないのも少し理解するがな」
 と、草犬とじゃれあっている虫男は言った。
「まぁ、仕事は外せない役職みたいですもんね。一部理解する方もいるでしようが少なくとも今は積極的に進んであまりやりたがらないでしょうな」
「あいつをいかせるのは仕事で決まっていました。まぁ、一部恨まれたり感謝するのもこの業界ですからね」
 メェ~、メェ~と古時計のヤギの鳴き声がした。
 丁度正午六時になった。
「あ、もう。こんな時間ですね。僕もそろそろ帰らなくちゃ。うちのワイフにまたつぶつぶ言われる。じゃあ、そろそろ僕たちも帰りますか」
「そうですね。嵐矢魔さんもまた」
「ええ。またいつでも気軽に来てください」
 と嵐矢魔は軽く会釈する。奥さんは最後まで花郎にラブコールを送っていた。
「……」
 和好は花郎達が見送るまでは終始思い詰めていた。

「5」

 ーー「????」ーー

 私はまたあの場所にいた。途方もないかいだんを上る夢。そして今回からは周りに奴らがいた。楽しそうにいる者。怒る者。笑う者。悲しむ者など。全ては私が仕事でいかせた奴らだった。そして私はまたかいだんの頂上に辿り着こうとすると足がつまづいてしまい視線がボヤけてくる。そして私が最後見た頂上の向こう先にあいつが立っていたのは気のせいだと思った。

 ーー「嵐矢魔の自宅07時45分」ーー

 私はあの夢から覚めた後、朝食を取り、特に定年退職して趣味を持たなかった私は玄関口を掃除していた。
 妻は趣味くらいひとつは持ったらどう?と小言の嫌味を言われるくらいだった。
「おじさ~ん」と誰かが私を呼びかける少女の声がした。
「亜華葉ちゃんじゃないか?おはよう」
 夢見亜華葉は娘の夫の親戚にあたる。いつも私のこと気にかけてくれる。
「おはよう。おじさんは今日もそうじ?いいことだけど趣味くらいひとつは持った方がいいよ」
 妻と同じこと言われて私は乾いた笑いをした。
「亜華葉ちゃんこそ。こんな時間朝早くどうしたんだい?」
「……少し気になったんだけど。あの夢また見えるの?」
 あの夢とはかいだんの夢のことだろうと思った。少し前に親戚のまえで話したら亜華葉ちゃんが真剣に食いついてきた。
 そしてもうすぐかいだんの頂上に辿りつくということうっかり話すと、
「だめだよ!おじさん!そこにはとべないよ!?そっちにとんだら……わたし!わたし」
 亜華葉はその話を聞いた途端に泣きつかれてしまった。
 そして私は必死に宥めようとする。
「あー。わかった、わかったよ。亜華葉ちゃん。私が悪かったよ。もう、かいだんは上らないから、もう泣かないでおくれ」
 私はなんて大人なんだろうと思ってしまった。この痛い気のない少女を心配かけて泣かさせてしまったことに深く心を痛めた。
 彼女にかいだんを二度と上らないと誓うと泣き止んで自宅に帰った。

「6」

 ーー「????」ーー

 今日もあのかいだんの夢を見る。
 そしていつものように上ろうとするが途中でやめてしまう。
『どうして、かいだんを上らないの?』
 と、どこからか幼い少年の声がする。私は周囲をよく確認するが誰もいなかった。そして私はつぶやいた。
「彼女と約束したからだ。だからもうかいだんは上らないよ」
『えー?上ろうよ。楽しいよー♪こんな楽しい物を逃すと後はないよー?』
 と、どこから黒いうずから現れてきた。私はおっと少し驚いてしまった。
「さー。一緒に上ろうよ♪楽しいよ♪」
 現れたのは道化のピエロ少年だった。
「で、でも私は」
「いいから。僕についてきて」
 と少年は私のことを手を引っ張っていくすると、あるかいだんが柔らかくて思わず飛び跳ねてしまう。そしてかいだんがグニャリと変わり華やかなテーマパークの遊園地に変わる。そこには老若男女の集団が楽しそうにかいだんを楽しんでいた。私も思わずウキウキするほどかいだんの楽しさにハマっていた。
「さぁー。もうすぐ頂上だよ。ほら早く急いで」
 と少年は私をリードしながら、かいだんの頂上を向かおうとする私はもうすぐのところで、
『そこはとんじゃだめ!!』
 私は懐かしい少女の声がしたので思わず目を覚ました。その視界が入った途端思わず腰が抜かしてしまった。
 なぜなら目の前にアレがぶら下がっていた。私は夢じゃなかった。
 気がつくと私はすでに2階を上っていたからだ。
 私は急いで慌ててかいだんを下った。

「7」

 私はあれ以来眠るのが怖くなってしまった。おかげで妻から寝不足なの?と心配するくらい目の下が隈になってしまった。
 私はある日早く起きていつものように玄関口を掃除してると、亜華葉ちゃんとこの前にきた楓さんという方が学校の制服姿で直接会いに来てくれた。
「君たちはどうしたんだい?こんな朝早く時間に」
「私たち、おじさんのことを心配だから用があって早めに来たの!あっ、学校は一応まだ間に合うから、それは気にしないでね」
 とあたふた慌ててる亜華葉ちゃん。
 楓さんが指輪を手渡してくれた。
「これは?」
「これはねー。命ちゃん特製&私の愛情込めて結んだ久佐野村の草で出来た草リングだよ!つけてみて」
「ああ」と私は草リングを指につけると見事に吸い込まれるようにハマった。
「もう、これでかいだんの夢は見ないよ!あとは2階のかいだんに近づかなければ安心だから。じゃあ、わたしはこれで」
 亜華葉ちゃんたちはそのまま学校に向かった。

「8」

 ーー「数ヶ月後」ーー

「ただいま」
 私はペットの草犬の散歩から帰ってきた。私はいつものようにペットの草犬を濡れたタオルで足を拭き、おやつの草ポッギーをあげる。
 亜華葉ちゃん達のおかげなのかあれ以来、ピタリとかいだんの夢は見なくなった。ただし、かいだんのアレはまだ2階に残っている。私は毎日のように2階の方へ見る。そこに青白いぶら下がったリングの輪が私をいつか仕掛けた罠にハマってくれるのが待ち望んでるかのように佇んでいた。


 しばらくすると私の家に神木さん親娘が訪ねてきた。
「どうですか?嵐矢魔さんアレは?」
 命ちゃんが心配をかけてくれる。
「ああ。大丈夫だよ。おかげでぐっすり眠れるようになったよ。これも神木さんのおかげですよ」
「ふむふむ。大丈夫ならよかったです。アレは私らでも無理に取ると何かしでかすか分かりませんから絶対取らないでくださいね」
 命ちゃんのお父さんが言った。
「そうですか。私が亡くなった後はどうすればよろしいでしょうか?」
「嵐矢魔さんが亡くなった後は今でも残るでしょうね。ただそのときは対象は外れるのでアレはうちがきちんと引き取らせて供養しますのでご安心ください。なにぶんあの首輪があればアレは襲ってこないとは思うので安全だと思いますが絶対興味本意で近づかないで下さい」
「わかりました」
 私は2階のアレを眺める。
 壁に貼られた青白い大熊の毛皮が今でも喰らいつこうと感じた私は生きた心地しなかった。

 かいだんのかいだん  完
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