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野花怪異談N③巻【完結】

39話「死力観察」

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「1」

 ※この怪異談は木のせいの数週間後の話です。

 ーー「石山県仲山市高月町加藤珈琲店」ーー

 ~♪
 店内には少し前の流行ったJ-POPが流れる。
 ひんやりとした流れる冷房。
 客はこの町の住む常連客か流れ者である。
 そしてこの前リピーターとして八木楓と梅田虫男と黒木あかねが来て金銭的ピンチである2人組の少女永木桜と榊原羅奈も虫男の奢りでついてきた。

「あー♪生きかえーる。貴重な甘味成分補給完了」
 桜はキャミワンピースの服をはだけながらレモンスカッシュで抜かれた水分を補給する。
「桜。服はだけてるわよ。なんかはしたないからやめてよ」
 羅奈は桜に注意する。
「へいきー。へいきー。ここに覗く野郎なんか誰もいないし」
「ちょっと!?虫……先生がいるでしょう?」
「大丈夫、大丈夫あの先生に覗く度胸もないわよ。……というより、虫しか興味ないしね」
 虫男は虫の本を読んで興奮していてニヤつきながらトーストをかぶりついて、その隣にいる楓は黙々とホットケーキを食べてる。
「おいしい~♪」とフレンチトーストを味わって食べてるあかね。
 それを見た羅奈は呆れて軽く息を吐いた後、アイスティーを飲む。
 しばらくして桜がジュース飲み干して楓に尋ねた。
「ねー♪ねー♪八木さん。なんかこの前の怪異談よかったよ。次、新しいのない?」
 と、楓はホットケーキを食べるの中断して桜模様柄のハンカチを取り出して口元を拭いて言った。
「そうね……」
「ある?」
「……今のところはないわね。今ネタがないの」
     と、桜はスマホ取り出して数分後に例の合唱部の彼女達のボイスを再生して。 
『いち』
『にーの』
『さん、ハイ!』
「ガーン♪」
 桜はオーバーリアクションを出した。
「あらあら。その怪異談も久々ね」
 クスクスと楓は笑う。
「ええー!?今すぐ怪異談を聞きたいの。やだやだやだ」
 桜は駄々っ子のように言う。
「おいしい~♫」と二度目のあかねがおいしいを再度言った。
「はぁ困りましたねー。……先生。何か面白いネタありますか?先生は元作家で本をかなり読みますから、怪異談のひとつやふたつありますよね?」
 と、みんなの視線は虫男に向いて本人も気づく。
「ん?あ、怪異談な。そうだな。うーむ、むむむむむむむむむむ」
「むむむむむむ?」
「むむむ!」
「むーむーむむむー!」
「むむ!」
「むむ!」
 虫男と桜は謎の電波をやりとりしてる。
「お(以下省略)」
「わかったよ!」
「え!?桜、今のでわかったの?」
「うん!むむという言葉でしかわからないことにわかった!」
 羅奈は思わずズッコケする。
「あんたね~」
「えへへ」
 と虫男は突然むー!と叫んで立ち上がる。
「な、なに!?」
「あったわ。いつか怪異談のネタにしようかと取っておいたやつあったわ。ははは。ついうっかり忘れてたぜ」
「先生。聞かせてください。その怪異談を」
 楓達は虫男の怪異談ネタを耳に傾けたが、そこに突如グギュルルと音が鳴る。
「あ、すまん。そのまえにトイレ行っていいか?」
 それを聞いた羅奈だけじゃなく楓達もズッコケした。
「おいしい~♫」
「「「もういい!!」」」
「!?」

 ー2ー

 私の名前は伊勢川吾郎68歳。
 職業は大学教授。
 ふとしたきっかけでとある男性を観察している。
 彼の名前は木堂勝地、61歳。
 彼はホームレスであり、定職もつかずぶらぶらとボランティアの炊き出しやアルミ缶集めでなんとか生活している。
 その彼の日頃の趣味は通行人の"死力観察"をすること。
 そう彼は人の寿命が視えるのである。
 彼はいつものようにとある噴水台の前で通行人の寿命年数を数えていく。
「25年……15年……18年……23年」
 彼の死力観察では若者であっても寿命年数は短い。そして、
「10年……5年……3ヶ月」
 中には10年も満たない方もいる。
 そしてその数ヶ月しか生きられない方にコンタクトを取り協力してもらった。
 そしてその彼が予想した通りに非業な死を遂げていた。
 私は死力観察受けられた10名を観察していたが彼の予言通りに非業な死を遂げられるのである。
 今まで最高寿命は58年であり、しかも幼い子供であったことから、やはりこれらは一刻でもなんらか対策しなければいけないと思い彼をスカウトしてうちへ連れて帰ることにした。

「3」

「どうぞ。粗茶です」
 妻は険しい顔しながら、来客を応対してくれる。
 私は木堂と話してみた。
 彼は幼い頃からいつのまにか視えるようになったと語る。
 最初が視えたのは両親だったと、それも父親も母親も同じ寿命が視えてその年数が経過すると事故に遭い亡くなったという。
 彼はこの死力観察を恐れてただ誰も知らされずに隠して1人で生きてきたと言った。
「そうか。辛かったんだろう」
 私は湯呑みを口に含む。
 と、私はつい彼を同情したくなってしまった。
 そして、私はつい気になってあること尋ねてみた。
「私の寿命年数はどれくらいかな?」
 ついでに聞いてみた。まぁ、ほぼ充分生きて来れたから10年くらいだろうと踏んでいた。これ以上は高望みはしなかったが彼は、
「……1週間だ」
 私はそれを聞いて思わず湯呑み落としてこぼしてしまった。
 妻は文句を言いながら慌てて拭いた。
 私はまだやるべきことがたくさんあった。
 数えきれないほどに。
 それがたった1週間とは。
 運命の神様はとても酷い仕打ちを受けてくれる。
 ああ、なんてことだ。
 私は悲観した。

「4」

      私は彼を住まわせて少しでも寿命を伸ばそうといろいろ試した。健康グッズ、手相伸ばし、サプリメント、運動などいろいろ手を尽くしたが一向も寿命は増えなかった。
     全ては無駄な足掻きだったようだ。
「……10分」
     すでに分刻みのカウントが始まっていた。
     そして自宅がいるときに妻が話があると呼ばれた。
     そうだ私にもきちんと妻に話さなくてはいけない。息子と娘は独立して社会人になっている。私の死後のことは妻が葬式や財産分与などを託さなきゃいけない。
     私は身につけてる時計を見ると残り3分であった。
     そして私は妻が呼ばれた指定のキッチンルームに出向く。
     私は恐怖のあまり驚いてしまった。
     まさかと思ったが信じられなかった。
     妻は包丁を握りしめて調理をしてたからだ。
     そうか。私はこの時覚悟していた。
     私は妻に殺されるのだろうと。
     しかし私は悔いはなかったといえば嘘でもない。
     私たちはどこかでよそよそしくなり、踏み外していたからだ。
「あなたにお願いがあるの。聞いてくれるかしら?」
     すでに秒読みカウントしていた。
 10!
 9!
 8!
 7!
 6!
 5!
 4!
 3!
 2!
 1!
     私は覚悟決めて言った。
「ああ。なんでも聞いてやるぞ」
     私はおかしくなったのか照れ臭そうに笑った。
     これで人生が終わると。
     と、妻から意外な回答だった。
「離婚してください」
「は?」
「離婚」
「は、はい」
     妻はいそいそと離婚届けの紙を取り出した。
     そして妻に言われた通りに判子を押した。
     どうやら死力観察は人の死の寿命ではなく、結婚の死の寿命が視える物だった。

「5」

「死力観察ね~。と言うより相手の結婚寿命が視えるなんて、なんかやだなぁ」
 桜はおかわりしてコーラを飲んでいた。
「まぁ。人の死が視えるよりもまだ結婚寿命の方がマシだろ」
 虫男はブレンドコーヒーを飲む。
「で、再婚もあるよね?その時はどうなるの?」
「ああ。その場合は再度結婚寿命が見れるらしい。教授によればな」
 と、虫男は簡潔に説明する。
「ねー♪ねー♪先生は結婚とか?考えないですか?」
 虫男は思わず飲んでたコーヒーをむせてしまった。
「お!?おい!!急になんなんだよ!?」
「あら?私も気になりますね」
「ねー。もしかして星田先生?」
「ぶ!?ほ、星ねぇーはか、関係ないだろ!?あれは、幼馴染だ、から、そ、の」
「あらあら。満更でない様子」
 羅奈は悪い目つきしてニヤつく。
「あ、星田先生だ」
 と、虫男は思わずキョロキョロする。
 桜と羅奈はゲラゲラと揶揄う。
「あはは。おかしいね八木さん?」
 楓はどこかで遠い目をしていた。
 桜の視線に気づいたのかなんでもない素振りを見せる。
 桜はそれを見て楓の手を握る。
「八木さん!」
「は、はい」
「私頑張るから、だからなんでも聞いて!遠慮なく聞いて。私に力になれることがあればひとつだけ聞いてあげるから!」
「は、はぁ……」
 桜は鼻息を荒くした。
 そして楓はふと考えてクスクスと微笑みながら言った。
「じゃあ、私のことを下のネームで言って欲しいですね」
「ふぇ!?そ、それは!」
 意外な回答に桜は困惑する。
「私も桜さんのことを呼び捨てして桜て言うわ。私のことも下のネーム。楓と言ってちょうだい」
「え、えーと。楓さ……いや、楓!」
「はい。桜」
 こうして楓と桜は下のネームを呼び捨てで言うようになった。
「ヒュー。ヒュー。お熱いねおふたりさん」
「もう!羅奈!」
 桜は思わず顔を赤くして羅奈にこちょがす。
「きゃー。やめてー♪」
「ふふふ。積年の恨み晴らしてやる」
「ちょっと!?私食べてる最中なんだけど?」
「あ、おいしいそうな耳たぶパク」
「あん!?や、やめてよ」
「ここが弱いのか。ククク。あかねちゃんの弱点見つけたどーー!」
 と桜達はどこか楽しげにじゃれあい見て楓は微笑んでいた。
 そしてふと気になる点があったこと思い出す。
「そう言えば先生。その死力観察で非業な死を遂げられる原因はなんでしょうか?」
「ん?あ、ああ。それはな。全くの偶然の産物らしい。後で教授が気になって調べたんだが死亡する方も落ち度もなかったみたいだな」
「まぁ、偶然ですか。彼もひょっとすると偶然に気がつかず死に怯えてたでしょうね」
「そうだな。で、教授だが今はピンピン余生過ごしてるぞ」
 と、桜達は一旦じゃれあいをやめる。
「ねー。その死力観察?するひと今どうしてるの?」
 桜は尋ねる。
「ああ、彼はな……」
 と、虫男から語られる意外な回答に楓達は驚いた。


 ーー「????」ーー


「……10年だ」
「ほ、本当に本当ですか!?木堂さん!」
「ああ、本当だ。マジのマ・ジだ。カルじゃないからな」
 それを聞いた青年は嬉し涙で喜んでいた。
 木堂はフッと笑った。
「よかったわね。あなた、私たち10年。私はあと10年生きられるわ」
「ああ」
 妻らしき人物は病衣を身につけて酸素マスクに繋いでベッドに横たわっていた。
「じゃあ。俺は行くからな」
 青年は感謝の深い一礼した。


 木堂は自分のが死を視えるのではなく別のことだと分かると思わず肩をすくめてしまったが考えを改めて彼はこの死力観察を活かそうと決めた。
 今でも彼は人のため世のため愛のために死力観察して今日も外に出かける。

 死力観察  完
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