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野花怪異談N②巻【完結】

22話「新聞を詠んでる男」

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「1」

     ーー「石山県野花市時金町07時30分」ーー

 交通量がそこそこ多い田舎の都会。
 俺はいつものあの公園のベンチで座る。
 そして片手で纏めた地元の新聞紙を広げて詠むのが俺の日常的である過ごし方だ。
 生まれつき顔つきが彫りが濃くて目つきはするどい。
 なので俺を見かけるとほとんどびびるか、スマホでスクショ撮られるかだ。
 ごくたまに俺のことを興味を持って話しかける物好きな連中がいる。
「こんばんは。ジョージさん」
 そっと俺のとなりベンチで座る、白粉肌の黒髪おさげ少女八木楓。彼女はしきたりかなにかで白粉肌身につけて和服を普段着で着ており、今日も花柄の和服を好んで着用してる。
 彼女は俺の厳つい顔を見てもびびらない。少々変わった奴だ。
「こんばんは。今日も例のを語るのか?」
 と、例のアレというのは楓の怪異談だ。結構彼女の怪異談は物書きネタになるので少し楽しみしている。
 それを聞いた楓は口元を押さえてクスクスと笑った。
「今、ネタがなくて困ってますの。物書きであるジョージさんにネタがありそうな気がしまして」
 と、彼女は言った。
 それを聞いた俺は新聞紙を広げて見開きページのニュース記事欄を確認してページを開いていく。そしていくつかページを数枚めくった後、俺は言った。
「まぁ、ネタはないことはないが……あるぞ」
 ここではいろいろなネタの話題がつきない。ただ俺からにすれば世間話だが、他の奴らから見ればネタの宝庫であるらしい。
「本当ですか!ぜひ聞かせてください」
 楓は目を輝かせていた。
 楓にはずいぶんネタを提供してくれた。こちらも話題ネタを提供するのも悪くない。
「そうだな。去年の日常の出来事でいいか?」
 「ええ。お願いします」と、楓は頷いた。
「あれは、去年の正月頃ー」
 楓は真剣に耳を傾けてくれた。

「2」

ーー「1月1日09時30分」ーー

 正月なのか人通りが多く、若い家族連れや和服来た女性連れがちらほら見かける。
 で、俺は正月でもいつものように平日と変わらず夜中12時に寝て朝6時で起きる。そしていつものように黒のハット帽子、黒のコート、黒の洋服を着込んでこの時間帯で新聞を詠む。
 あー。俺が誰かって?
 俺の名前は黒田ジョージ。38歳。
 出生地は英国のロンドン生まれ。
 幼少頃、両親の仕事都合上日本のイシヤマ県に移住した。
 で、物心つく頃には日本に馴染んでいたのでほとんど両親とは英語話さない。
 30歳の頃、丁度帰化した。
 帰化する名前はジョージ・ワトソンだ。
 で、俺の職業は物書きであり、小説を書いてる。そこそこ食い扶持には困らない程度で生活費は稼いでる。
 ま、こんなもんだろ。
 俺はいつものように新聞を詠んでると、緑のマフラーを巻いた白のセーターを着込んだ青年がベンチに座った。
「あけましておめでとうございます」
 と、骨の身がわからない俺を気軽に新年の挨拶してきた。
 まぁ、わからない無理もない。そいつも異國人だからな。
「……ついてるな」
 俺はかすかだが気配はする。
「あ、わかりますか?僕、体質なんです。自分の名前安良田悠人ていうんです。こっちは和田鍋辰也さん」
(パチパチ)
 ラップ音が鳴った。どうやら姿は見えないが彼も挨拶してるようだ。
「ふむ。俺の名前は黒田ジョージだ。あけましておめでとうかな」
 俺も新年の挨拶をする。
「ジョージさんはいつもこの辺りで詠んでるのですか?」
 安良田という青年は俺がいつも詠んでることに気がついてるようだな。
「まぁ。いつもの癖だな。今は物書きの小説ネタために詠んでるのさ」
「え!?ジョージさん。小説家なんですか?何のジャンルを書いてるんですか?」
 俺は吐息を吐く。
 俺は新聞紙を一度畳みいつもように黒カバンから本を取り出す。
「ジャンルは不特定多数だ。一応前に出した小説はこれだ」
 と、安良田達に見せた。
「『彼の地図は残酷な野花か囁いてるつもり』って、これ知ってます。僕も読みました。たしか主人公が地図を書いてるつもりで未解明な地図に巻き込まれるて話ですよね」
 ほー。どうやら俺の作品を詠んだことあるらしいな。
(パチパチ)
 ふむ。和田鍋とかいうやつも詠んだか。
「すごーい。ジョージさんもしよければ、またお話し聞かせてください」
(パチパチ)
 ふむ、どうやら迎えの黒塗りバスが来たようだ。
 安良田達はそのバスに乗り込むと何処かへ走り去った。
 彼らを見送るの確認すると、俺は次の新聞の見出しページを開く。
 ふむ。最強AI誕生間近と書かれてるな。
『いらっしゃいませ』
 ベンチの横に自動販売機が置かれていた。
(む?いつのまにか自動販売機があるな)
 どれ、試しに小銭を入れて缶ジュース1本買う。
 買った缶をゆっくりとタブを開けてひと口飲む。
「む?うまいな」
 濃厚な果汁が深みある味わいで甘さも控えている。自動販売機で売られてるのが珍しい。
『まいど!おっちゃん。ありがとさん』
「?」
 誰か呼ばれた気がしたが周囲には誰もいなく先程缶ジュースを購入した自動販売機は忽然と姿を消した。
 俺は缶ジュースを飲み干し、身につけてるイシヤマ製アナログ腕時計で時間帯を見る。
「11時30分……」
 丁度2時間かかった。では一旦戻るか。


「3」

 ーー「1月1日21時30分」ーー

「さて、今晩は誰が来るのかな?」
 俺はいつものように決まって新聞をベンチで詠む。
 ふむふむ地元の石山県の料理特集やってるな。鐘技といえば○○○だな。
 丁度そこに鎧を着込んだガタイのいい異国の老人が奇妙な串をかざして肉を齧りながら俺の隣の席に座った。
「ふむふむ。このソードは実に素晴らしい。まさしく嗜好品じゃ。む?そこのお主同じ國の者か?」
 と、蓄えた白い長髭を手でさすり俺に尋ねた。
「半分正解だな。俺はハーフでな。父親はキ族で母親は代々上流家庭の生まれだ」
 上流家系でもあるのか、特に母親は礼儀作法や茶の淹れ方には口を酸っぱくして言ってる。
「ほうほう。そうかそうか。わしはあちらの國出身でな。ここの石山県である選定をするために来たんじゃよ」
 ふむ、あの選定か。
 あれは一見大したことはなさそうに見えるが彼らにとっては、はた迷惑だろうな。
 突然、若い女性が乗ったバイクが通り過ぎる。
「ち、遅刻しちゃうわ。急がないと」
 急いでる割には遅いな。
 俺は次のページ見出しを開く。
 ふむふむ。内容記事にはとある王族の飼ってるアフリカ像が来日してキタらしいな。ふむ勝ち組だな。羨ましいもんだな。
(キャハハ)
 俺の周りに飛んでる小さな妖精。
 じー。
 む?どこからか見られてる気配がするな。地蔵が置かれていて俺の方向に向いてる。
「いいか今度こそぶつけんなよ?」
「つぶつぶ」
 双子の坊主の青年達が素通りしたな。
「ちょっとリナ?それ私のものよ!」
 可愛らしい変わったコスチュームの少女達が走って通過した。
「あー!!美月さん。あーダメだダメだ」
 どうやらその彼はイラついてるみたいだな。
「草のためならクサっと草指す♪あなたのクササ♪」
 かなりの高齢な貴婦人達のアイドルグループとは草。
(ふむ。しばらく詠んでみるか?)


(わーい。わーい。キャハハ)
 俺の周りにはいろんなやつらが集まり出して収集がつかなくなってしまった。
 たくさん新聞を詠んだし。そろそろ帰るか。


「4」

 ーー「1月2日08時30分」ーー

 俺がいつものようにあの公園向かうと先客いたようだ。
「絶対○○○!今度こそ○○○○○○○○○!」
「絶対○○○!私が○○○○○○○○○」
 ふむ、女子高生らしき2人組が口論してるようだ。
「私よ!今度こそ○○○で●に○○○から」
「私だって絶対○○○で●に○○○するわ」
 どうやら彼女達2人は将来の●に○○○を熱く討論してるみたいだな。まだ若いし、現実に向かって●に向かって○○○だな。
「わたし。できるもんほら」
 女子高生が何度も跳ねた。
「こら!?やめなさい!!」
 別の女子高生が相手跳ねないよう押さえつける。
 彼女達はお互い譲れないみたいだな。
 と、どうやら黒塗りバスが来たようだな。
 2人はまだ黒塗りバスに乗り込んで中でまだ討論していた。
 そして入れ違いに白のコートを着込んだスラリとした体躯であるモデルのプロモーションを持つ白粉肌の美女が俺のとなりベンチで足を組んで着席する。
 ふむ、漂うコロンの香と清潔感が思わず見惚れてしまうほどだな。
 いい女だな。
「あら?ありがとう♪」
 おっと、俺としたことが思わず口から漏れたみたいだ
「すまんな。つい本音が出てしまった」
「ふふふ。口説いても何も出ないわよ」
「こいつは手厳しいな。その白粉というと八木家の者か?」
「ええ。そうよ」
 白粉と言ったら、八木家ゆかりある者がたいていそうだからな。
「では、その身につけてる奇妙な笛もそうか?」
 女性は首元に身につける笛を取り出す。
「いえ、違うわ。この笛は私の勤務先で身につけてる物なの一種のお守りみたいな物かしらね」
 その女性はふと身につけてる笛を吹いたが俺にはまったく聴き取れなかった。
「変わった笛だな。吹いても音はしないとな」
「いえ。ちゃんと音はするわよ。一般の方にはこの笛の音色が聴きとれないだけよ」
「ほう。そいつは興味深いな」
「そうね。えらそうに言うけど私でさえ全然聴きとれないからね」
 俺が笑うと女性も反応して笑った。
 しばらくするとその女性は用事があると言い席を立ちどこかへ去っていた。
 さて、次の新聞詠むか。
 新聞の見出しページに新しく美術館を設立するらしい。ふむふむあそこか。テーマもシンプルに石山県の胃袋を掴むあそこか。
 面白そうだな。
「あの~」
 どうやらここの住人が来たようだな。
 長い金髪の青年だった。手元にはスケッチブックを担いでる。
「なんだ?」
「もしよければ絵のモデルになりませんか?」
「ふむ。いいぞ。好きに描け」
「ありがとうございます」
 俺は絵のモデルになった。


「出来ました!」
 青年は俺が新聞を詠んでる所を絵にしたみたいだな。
「なかなか出来てるぞ」
 青年は照れ臭そうだった。
 彼は地元の美術大学生であり、今年の卒業作品として自分が納得する絵を探してたみたいだ。
 この後、青年と別れた。
 さて戻るか。


「5」

 ーー「1月2日22時15分」ーー

 さて、次の新聞は。
 と、何やらガタイのいい白髭を生やした丸坊主の中年男が現れた。
 なにやら帯刀してるがレプリカみたいだな。あ、今警察に職務質問されて、どこか連れてかれたな。
 と、突如何か転げる物音がした。
「ああああああ」
 どうやら、先程の絵を描いてくれた金髪の青年だった。
 何やらキャンパスやら絵の具やらいたるところで地面に散らばっている。
 俺の方を見て驚いてるようだ。
 そして俺に向かって土下座した。
「すみません!お願いです。僕にもう一度あなたにモデルを描かせてください」
 俺は次の新聞見出し記事を詠む。
 ふむ。これも違った展開になりそうだ。
「いいぞ」
「ありがとうございます!」
 また絵のモデルとなった。

 ーー「現在」ーー

「ありがとうございます。参考になりました」
「なあに。いつも話題を提供してくれるお礼さ」
 楓は深々とお辞儀をした。
「それと、彼の卒業作品はどれですか?」
 ジョージは次の新聞見出し記事を見せる。
「あら。上手く描いてますね」
「だろ?優秀賞に選ばれて記事に載ったみたいだな」
「まさしく彼がよんでるみたいですね」
 楓達は新聞見出し記事をじっくり鑑賞した。
 見出し記事には『新聞を詠んでるドクロ男』と書かれていた。絵にはドクロ男が新聞を普通に詠んでる風景の絵。
「あ、そうそう。残念ながらあの金髪青年はよんでなかったみたいだな」
 と、ジョージのカバンからスケッチの紙を見せる。
「うーん。ちょっと私には理解できませんね」
 楓は少し眉を吊り上げる。
 スケッチの内容は、タイトルは『新聞を呼んでるドクロ男』
 ドクロ男が蠢く何かを呼んでる絵が描かれていた。
「これはなんでしょうか?」
「見ればわかるぞ。今詠んで見るからな」
 するとジョージの手をかざすとそこから異形なGと呼ばれる蟲達が蠢いていた。
「どうだ?ん?楓??」
 楓はすでにジョージの前から立ち去っていた。しばらく楓はジョージに会うのを避けていた。

 新聞を詠んでる男   完
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