[全221話完結済]彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる

野花マリオ

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野花怪異談N②巻【完結】

21話「デートカップル」

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「1」

 ーー「野花市立高校1年B組」ーー

 放課後のチャイムで生徒たちは帰宅か部活に向かう。
 部活休みである八木楓は帰宅する準備をしていた。
「八木さーん♪」
「あら、どうしたの?桜さん」
 帰宅する楓を呼びとめる。
 同じクラス永木桜は帰宅部である。彼女は乙女ゲームの攻略とゲーム代を稼ぐため忙しい。
「あ、あのね……わ、わたし!」
 恥じらいする演技に熱を入る桜。
「きみのこと……すきだったよ。だから」
 乙女ゲームの培った内容で赤面する桜。
「…………」
 楓は桜の茶番ヒロイン劇をあれこれ30分も見せられていた。


「これ一緒に行かない?」
「デートオブファンタジア……?」
 桜が手渡されたのはメジャーランド施設の2枚チケット。
 この施設はデートのためのカップルが喜ばせるファンタジーをイメージした施設である。
 楓は少し悩んだ末に。
「いいわよ。一緒に行ってあげる」
「え!!ホント?やった」
 桜はどこからか喜びである桜の花びらできた紙吹雪持ち出して撒いてる。
「……ただし。条件あるわ」
「ん?条件」
 桜は紙吹雪をばら撒くのやめた。そして楓の条件を渋々のんだ。

 ーー「待ち合わせ場所」ーー

 噴水台の公園の前で待ち合わせする桜。
 服装は身動き取れやすいようにジーンズを履き、青のコートの下のシャツには大きな胸を強調された英語文字桜をイニシャルに刻まれていて、首元には青いスカーフを巻いてる。
 桜はスマホで乙女ゲームの攻略サイトを見ていた。
 と、そこに楓たちがやってきた。
「お待たせしましたわ!」
「少し遅れたかしら」
「ううん。今来たところだよ♡」
 桜は純情な乙女を演じる。
 楓は少し華やかな青の花柄の和服を着ていた。
 そして楓の付き添いで星夏も来ていて服装は薄黒の修道服を着込んでいるのは彼女自身ヤタノカラス教会の信者でもあり、普段着もその服装である。
 突如、桜は恋人のように楓の腕を絡ませる。
 腕を組まれる本人は少し戸惑いながらも従った。
 そこにおまけの無地の緑の着物を着た担任教師梅田虫男が発言する。
「おまえら忘れ物はないか?トイレ済ましたか?まだなら早めに済ませておけよ」
「…………」
 桜は彼のデリカシーない発言に笑顔が引き攣る。
「ねぇ、八木さん。星夏ちゃんはともかくどうして梅田先生がいるのよ?」
「ちょうど先生も町内会の福引で2枚チケット当てたの。……1枚は星田先……使おうとしたから、私が無理に言って星夏さんを誘ったのね。あと先生は保護者立場観点もあるから、ナンパなどに巻き込まれないから便利でしょ?」
 それを聞いて桜は軽くため息を吐いた。
「あーあ。せっかく2人きりなれたと思ったのに」
 桜は横目で楓の方を見る。
 楓は顔立ちはよく細身のあるスタイルで男女生徒から人気もあり、後輩の女子さえからも告白受けている。
 桜も楓に対しては少し気になってる対象の1人だ。とは言っても男女感の恋愛も憧れてるため、女性の恋愛対象に踏み切りてないのが現在の心情である。
「どうしましたか?桜さん」
 星夏の問いかけに桜は思わず聞かれてしまったのか慌てて弁解する。
「え?いやいや、なんでもないよ。なんでもない」
「そうですか」
 楓は少し微笑んだ後、桜の手をやさしく握る。
「あ、八木さん……」
「一緒に楽しみましょう♪桜さんがエスコートしてくれるのですよね?」
「う、うん……」
「ヒューヒューお熱いですね」
「お、おまえら仲がいいな。まるで恋人同士みたいだな。ん?どうした桜、顔赤いぞ?」
 桜はしばらく楓の顔が見れないほど赤面した。

「2」

 ーー石山県鐘技市鷹町デートオブファンタジアパーク施設内12時15分ーー

 秋暮れの季節。
 施設内に多数の客で人だかり。
 この県の最大メジャーランド施設開業して20周年に入る。
 この施設の売りは中世のファンタジーを模様したカップルを主役したテーマパークであり、施設内にあるデートをテーマにイメージしたアトラクション勿論ことと、この世界の住人になりきった服装をレンタルしていわゆるコスプレができる。そのおかげでSNSで徐々に話題なり、一部のファンタジーファンやゲーム好きなファンにとっては隠れスポットである。この施設はカップルメインだがそれ以外の団体客、家族連れや個人でも入れるようになっている。
 そこに小さな城のミニチュア背景に西洋人らしきスタッフが騎士の格好を見立てた中世の剣戟アクション披露して、寂しくベンチに座り1人で鑑賞する白のシャツと焦茶のズボンを履いた若い青年がいた。
 青年の名は坂城貝斗さかきかいと
 坂城はどこか寂しげで悲しそうに観ていて俯いてる。
 坂城の周囲には誰もいない。
 剣戟スタッフもどこかぎこちない動作である。
 そこに白のフリルワンピースと白の無地の帽子を着用した若いお淑やかな女性が坂城に声をかける。
「貝斗くん。おまたせ♪」
 彼女の名は高崎沙夜たかさきさよ
 坂城のデート相手女性である。
「高崎さん……」
 坂城は生気のない返事をした。
「もー!貝斗くん。せっかくデートなんだから、楽しもうよ」
 高崎は坂城が座ってる高さの位置に合わせて彼の手を重ねる。
「……ごめん」
「私に遠慮しなくていいのよ?私たちはカップルなんだから。本日するだけのカップル」
「……そうだね。僕らは本日するだけのカップル」
 坂城はふと遠くから横目に映る光景に人だかりできる野次馬たち。警備員のスタッフが彼らを邪魔しないよう見張ってる。中にはスマホで動画撮影やスクショを撮ってる輩やプラカードを持ち『デートカップル反対!!』や『恥を知れ!!デートカップル』など掲げてデモしてる。
 坂城と高崎は本日限りデートするだけに付き合ったカップルであり、特別に恋愛感情は持っていない。一部の野次馬のように彼らカップル対して周囲の家族、知人、友人などからはデートすることに対して快く思われてない。
「……あんなの気にする必要ないよ。行こう」
 周囲の見る目を気にしない高崎は座ってる坂城の身体を起こして、手を繋いで施設内を歩きまわった。

 ーー「同施設内13時15分」ーー

「貝斗くん。次これに乗ってみよう♪」
 坂城たちは軽い昼食済ませた後、中世のファンタジー城下町をイメージしたテーマパークに入った。実際の複数の馬が馬車を引き中世の城下町を周回する。
 舗装されたレンガを敷いて馬車を引きながら建物や観てまわる高崎はどこぞの貴族の夫婦と少し嬉しく感じていた。
 ほかの馬車の搭乗客からも彼らを見ると怪訝な表情して目を逸らしてるのを目撃した坂城は悲しそうな表情をする。
「貝斗くん。一緒に撮ろう♪いえーい」
 そんな事はお構いなしに高崎はスマホで元気ない坂城と一緒にスクショしている。
「…………」
 どこかあさっての方向で思いつめて沈黙してる坂城を見て高崎は拗ねてしまう。
「貝斗くん。何考えてるの?まさかほかの女の子?」
「あ……いや、これから先のこと」
「ダメよ。そんなに悩んでも答えは出ないよ。だからさぁ……今は楽しみましょ♪」
 悩みなさそうに振る舞う彼女に坂城は軽く頷いた。

 ーー「同施設内14時17分」ーー

「うぎゃあああ」
「きゃー」
「……」
 次に坂城達が訪れたのはお化け屋敷だった。
 ここにも中世ファンタジーを活かしたゾンビやゴーストなどのモンスターの雰囲気が楽しめる施設だが坂城はあまりお化けなどのホラーに関して恐怖を感じていなかった。一方で高崎はわざとらしくお化けに関して怖がりを出して坂城に気を引こうと抱きつく。女性慣れしてない坂城は顔を赤く染めていた。

 ーー「同施設内15時35分」ーー

「次ね。あのジェットコースターに乗りましょ♪」
「……うん」
 坂城は高崎にリードする形で次々とアトラクションを制覇していた。そして高崎の要望により他の乗客にも一緒に搭乗させてもらった。ただ一部の客は彼らと一緒に搭乗したくなかったのか、避けるように他のアトラクションに行ってしまった。
 高崎達は長時間の行列まえに竜の形を模様したジェットコースターの1番前席に搭乗した。
「か、楓!これ、本当に乗るのかよ!?」
「ええ、私一度乗って見たかったんですよ」
「先生、怖いんだ」
「こ、怖くないぞ!俺は怖くない」
「ううう。ヤタノ神様」
 楓達もこのアトラクションに搭乗した。
 カップルのすぐ後部座席には、釣り合わない少女達と青年が楽しそうに会話してる感じた高崎はどこか羨ましいそうに見ていた。坂城はそれを感じつつもなかなか会話を切り出せなかった。
 スタッフは搭乗する乗客のスペースを埋めたの確認すると機械のスイッチを作動してジェットコースターを動かした。
「あわわわわ」
 虫男はこれから待ち受ける絶景に目を閉じる。
 一方、星夏は両手をかざして目を瞑りお祈りしてる。
 そこでノロノロと動いてたマシンが急加速して乗客は絶叫する。
 高崎はわざとらしい悲鳴で楽しんでた。
 坂城は無表情のまま動じてない。
 楓は少し微笑んでた。
 虫男は何か意味不明な言語で他の乗客よりも絶叫した。
 桜は何かのツボにハマったのかゲラゲラと大爆笑していた。
 星夏は途中意識を失った。
 絶叫マシンが一周して開始時点に戻り、終わった後坂城達カップルは次のアトラクションに向かった。
 絶叫マシンを降りた虫男は「もう2度とこのマシンに乗るもんか!」と大きな声でさけんでいた。
「星夏さん行きますよ」
 星夏はまだ意識が朦朧としていた。

「3」

 ーー「同施設内17時45分」ーー

 坂城と高崎はメジャーランド施設あらゆるところを制覇した。
 残るのはパレードの行進だった。
「貝斗くん♪はやく、はやーく♪」
「待って。高崎さん」
 高崎は先に人混みの中、パレードの見学場所の観覧席についてる
 坂城は彼女を先行する場所に人をかき分けて走って向かった。
「もー。貝斗くん。体力ないね。そんなんじゃモテないぞ」
「あははは」
 坂城は目的地について息切れしながらも、楽しんでる自分自身がいた。
 これも高崎のおかげである。
 どこか楽しめない自分がいたが彼女のデートおかげで救われていた。
 もう彼の中には心残りはなく覚悟を決めていた。
「あ、始まるよ」
「うん」
 大歓声の中パレードが始まった。

 ーー????ーー

「本当にいいんだね?」
「ええ、やってちょうだい。私の願いを聞いてくれるかしら」
「……いいだろ。おまえ達カップルが邪魔する者がいないよう、無視させるようにしよう」
「ありがと」

 ーー「同場所  同時刻」ーー

「高崎さんどうしたの?さっきからボーとしちゃって」
 高崎はどこかあさっての方向を見てた。
「なんでもないわ。心配しないで♪」
 坂城の心配をよそに高崎はパレードを楽しんで鑑賞した。

 ー6ー

 ーー「石山県鐘技市鷹町永木ホテル40F三つ星高崎レストラン店内19時23分」ーー
「乾杯♪」
「……乾杯」
 坂城と高崎はカクテルのグラスを鳴らしてひと口飲んだ後、出された料理に手をつける。
 坂城達は施設でじゅうぶん楽しんだ後、永木ホテルに向かい高崎の父親が経営するレストランで夜景が見えるテーブル席で食事した。
 ここの店は貸し切りとなっているが永木と高崎のよしみの関係であり、父親のはからいで楓達も同席してる。
 虫男は料理にがっつき、喉につかえてる所を桜と星夏が注意するのを見た高崎は笑みを浮かべていた。
 高崎達は出された料理を終えて、食後のコーヒーでひと息つく。
「貝斗くん。楽しかったわ♪ありがとう」
「……うん。僕の方こそありがとう高崎さん」
 すると高崎はほっぺたを膨らませてすねた。
「貝斗くん。私も下の名前で言ってるから、ちゃんと下の名前で呼んで。はい!やり直し」
「……えっと、紗夜さん。ありがとう…?」
 高崎が微笑むと坂城も釣られて少し笑った。
 坂城は照れ臭そうにコーヒーカップをひと口つけた後、再度口を開く。
「あのさ……本当に僕なんかでよかったの?」
「ええ、ほかの男の子よりも貝斗くん一目で見た時からキュンときたの♪だから大丈夫よ。気にしないで」
「そう。ありがとう……」
 坂城はふいに振り向く。
 坂城は店の中で待機してる男性達の視線が気になるようだ。
 高崎は彼の目を引くため会話する。
「ねぇー。いつ出発するの?」
 坂城は少し思いつめた表情で言った。
「…明日なんだ。明日の昼間に出発するて、聞いた」
「……そっか」
 高崎は寂しそうにコーヒーをひと口つけた後、少し微笑んで口元を開く。
「私、今晩辺りに出発するの。貝斗くんとは先に出発になるみたいね」
 それを聞いた坂城は席を立ち上がる。
「そんな!?僕が話を聞いたのと全然違う。紗夜さんはまだ来月先じゃ?」
 声を荒げた坂城に待機した男性達は反応するが高崎は片手をあげてなんでもないと合図する。
「とりあえず座って」と渋々坂城は従った。
「ちょっとこちらの都合で早めてもらったの。別に早いか遅いかの問題でしょ?お父さんはおまえの好きにしなさいて言われてるから好きにしてるわ」
「………そう」
 少し長い間沈黙が流れた。
「見て!あれ」
 沈黙破ったのは、外部で遠巻きに見てた桜の声だった。
 桜の声に坂城達も反応する。
 突如、夜景から見える場所で季節外れの花火が打ち上がる。
「……綺麗」
 夜景に照らし出す花火を見てる高崎の言葉に坂城は花火を眺めずに彼女を見惚れてしまう。
 高崎は坂城の少し視線を感じたのかチラ見しただけで気にせず花火鑑賞する。


「4」

 しばらくして花火が打ち終わると坂城は何かの覚悟を決めてコーヒーカップをゆっくりと口に含んだ後、席を立ち右手をあげた。
 そこに坂城達をずっと見ていた男性達の1人である白コート着用した黒スーツの中年男性がこちらに近づいてきた。
「……もういいのか?」
 中年男性が坂城に問いかけると、
「はい。もう未練はありません、行きましょう」
 中年男性はポケットから手錠を坂城にかけた後、中年男性は着てたコートを坂城の頭に被せた。
 そして坂城は高崎に向かって言った。
「もし、また君と出会うことあれば……あそこでデートしよう」
「………」
 高崎は無言だった。
 星夏はそれを聞いて険しそうな顔つきをする。
 坂城は彼女に言い残した後、中年男性は坂城を連れてその仲間らしき男性達と合流して店内を出た。
 高崎は彼らを見送ると、彼女も右手をあげた。どこからかメキメキと音を立てると、コーヒーを飲んでた虫男は吹き出し、星夏は慣れているのか、上品にコーヒーを飲む。桜はキョロキョロと周囲を確認し、楓は気にせずデザートのチョコレートケーキを口に運ぶ。
 そこに何もない空間から黒い渦が出現して腰を曲げた大鎌を担いだ黒のローブを着込んだ太く長い鼻が特徴的な老婆が彼女の前に現れた。
「……もういいのかい?」
 老婆はしゃがれた声で高崎に尋ねた。
「これを飲んだら、もういくわ」
 高崎はコーヒーカップを口につけゆっくり飲み干した後、席を立ち老婆と一緒に黒い渦に飲み込まれて跡形もなく消えた。

「5」

「いったな」
「……いっちゃたね」
 一部始終を見ていた楓達はカップル達がいなくなった後、帰宅する準備をしていた。
「彼らはあそこでまたデートするのだろうか?」
 虫男の問いかけに楓は、
「さぁ。私はまだあそこへは行ったことないから、彼らの運命のみぞ知るかしらね」
 そっとハンカチで口元を拭いた。
「デリカシーない人」
 星夏は坂城がいた席をしばらく見ていた。

 ーー????ーー

「少し忘れ物をしたから、立ち寄っていいかね」
「……いいわよ」
 魑魅魍魎の叫び声をこだまする亜空間のさなか、老婆に連れてかれた高崎は従うまま付き添っていた。
 亜空間から黒い渦の穴が開き高崎達は入る。
「え?」
 高崎達が飛び出すと目の前にあるのはあの建物だった。
「じゃあ私は中に入れないから、しばらく外で待つので彼らと逢いに行きな」
 まさかと思い高崎は急いで中に入る。
 そこに待ち受けたのは高崎の家族、友人、仕事の同僚、親戚など彼女の顔見知りだった。
「紗夜さん!」
 そこに呼びかける見知った彼の声。
 白のタキシードを着た彼はどこか凛々しい。
「貝斗……」
 彼女は思わず涙がこぼれおちる。
 彼は約束したのだ。また出会うことがあればデートするあそこの場所で。
「紗夜さん騙してごめん。実は僕もあのおばあさんに願い事を頼んだんだ。だから今日一日だけまたデートしたくて……。だから君と短くてもいい。僕と正式な永遠のカップルになってください!」
「はい!」
 すでに彼女の返事は決まっていた。
 彼は高崎の手を取り薬指に指輪を嵌め込んだ。
 正式な永遠の愛を誓うため、カップルはゆっくりとお互いにキスを交わした。

 デートカップル   完
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