[全221話完結済]彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる

野花マリオ

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野花怪異談N①巻 【完結】

13話「怪覧番」

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「1」

鈴薙すずなぎさん。回覧板をお願いします」
    沈みかける夕陽に向かってどこかで鳴くカラス達。
    私、美少女(自称)八木楓は回覧板を持ち、鈴薙家の玄関先に立つ。少し経った後玄関先からチェーン付きのドアが開く。
「まぁ、楓さんじゃない。こんにちわ」
    出てきたのは紺の服を着た茶髪の中年女性鈴薙和美さん。
    私は軽くお辞儀してそっと回覧板を鈴薙さんに渡した。
    鈴薙さんは去年の秋頃にここを引っ越したばかりで最初は八木家のしきたりで私の姿を見て少し戸惑っていたが現在では周知して慣れた。
    この石山県で八木家のしきたりをほぼ石山県住人が熟知してるものは石山県庁などの公式ホームページで八木家のしきたりについて詳細など簡単に転載されているのもあるがこの回覧板というアナログの情報ツールで詳しく載せてある。
    ただ、この回覧板では紙の量が分厚く載せてあり八木家の紹介や歴史などで数十ページを要する。そのため住人ほとんどは頭が入ってこなく、飛ばし読みなどするのがほとんどだった。
「えーと。……ふむふむ。まぁ大したことないわね」
    鈴薙さんはさっと流し読みしてサインする。
「……鈴薙さん。余計なお世話ですが、よく内容を確認した方がいいですよ?」
    私はそう言うと、
「でもねぇー。わたしもじっくりみたいのはやまやまなんだけど。時間が惜しいじゃない?」
    私もそう思うが例のアレがあるからきちんと忠告しなければならない。
「鈴薙さんは去年越したばかりだから、わからないのも無理はありませんが……あなたも知らないうちに狙われますよ?怪覧番に」
    鈴薙さんはアハハハと大笑いした。
    ……いや、いくらなんでも手を叩くほど笑いすぎだろう。
「八木さんは相変わらず怪異談好きねー。ま、いいわ。聞かせてちょうだいその怪覧番とやらを」
    鈴薙さんは半分冗談交じりながらも私の怪異談に耳を傾けるらしい。しかしこの鈴薙さんおばさんはなんでも笑うから正直に私は苦手である。
「いいですよ。あれは去年の春、鈴薙さんが来る前のことですー」
「アハハハハ。それで?」
……いつまで笑うんだろうか?


「2」

ーー「柳田自宅」ーー

「回覧板置いておきます」
    近所の吉岡さんが回覧板をわしの自宅の玄関先に持って来て置いた。
「ふー。よっこらせ。ふー」
    回覧板に気がついたわしは居間でテレビを観ながらくつろいでた身体をゆっくり起こし回覧板が置いてる場所に向かった。
    一軒家で1人暮らしするわしは年々と足腰が弱ってほとんど外に出歩かない。
    妻はだいぶ前に亡くなり、息子達も独立してそれぞれ各家庭を築いてる。息子達からも家を引き払い一緒に暮らさないかと誘ってるがまだ身体が動けるうちは思い出のある家に残るつもりだ。
    やっと思いで玄関先にたどり着くとわしは回覧板を手にした。
「交通パトロール…学校の運動会…ふむふむ」
    量が分厚いので八木家に関するのものは飛ばして町内会の重要に関する物を読んでいく。最後に読みきったわしはサインすると、回覧板の中にぼろぼろの黄ばんだ紙が見落としてることに気づく。
「ん?いかん、いかんな。わしとしたことがどれどれ」
    内容は細かい字で書かれていたため老眼であるわしはシャツのポケットから老眼鏡をつけると文章を読んでみた。

『家が大事な人は土曜日の午後2時までに向日葵ひまわり公園に集合』

    中身を読んだわしは首を傾げてしまったがしばらく考えるとふとつぶやいた。
「向日葵公園は歩いて15分かかるの。わしは足腰が弱いから、無理にいけんな。ま、避難訓練か何かじゃろ」
    この時は気にせず次の近所中山さんに向かい回覧板を玄関前にすぐ置いた。


「ふー。やっぱり年寄りにきついわい」
    わしは訪問看護倉光さんと一緒に外へ出かけて散歩していた。
    わしは回覧板に書かれていた向日葵公園には結局行かなかった。ほかの近所にも聞いたが、ほとんどの住人は参加してたみたいだが何の集まりかわからず1時間後には解散したらしい。
    気になったわしは市役所から電話で問い合わせしたが市の職員からは「そのようなモノは存じておりません」と市役所内でも分からず仕舞いだった。
「いったいなんだったのじゃろうか?……ん?わしの向かう家に人が集まってるな。なんじゃ?」
「何やら騒がしいですね」
    わしの自宅に向かう先には見知った住人達が集まっていた。
    そしてその光景に思わずわしは驚愕する。
「バ、バカな!?そ、そんな!!」
「えーー!?」
    わしの自宅は跡形もなく綺麗にさっぱり空き地となっていたからだ。
「わ、わしの家はここだよな!?倉光さん!!」
「はい間違いないです!!これは一体?」
    わしは自宅の周辺を見渡す。
    間違いなくここは自分の自宅場所である。
    わし自身は医者からもまだボケてませんからと言われるほどはっきりと物覚えがいいから間違いない。
    わしの自宅にいる住人たちに聞くとわしだけでなくいくつかの家が丸ごと消えてるらしい。
    そこに物見悠々と見物する中年男性坂山がわしに尋ねてきた。
「柳田さん、どうやら、あの回覧板のせいみたいですよ?」
    それを聞いたわしは坂山に問い詰める。
「 本当か!?」
「はい、そうですよ。ちゃんと書いてあったでしょ?回覧板に」
    わしはハッとその事実に気づいた。
   まさかと思った。
   回覧板に書かれた事を無視しただけでこんな目にあうとは思ってはなかったからだ。
「そ、そんな……!?これはなんの権限があってそんな事に!!いったいわしゲフッゲフン」
「大丈夫ですか?柳田さん!」
    わしは喉がつっかえ思わず咳込んだ。
「柳田さん。そんな身体で無理せずご自愛ください。お気の毒ですがね」
    坂山が去るとわしの自宅の跡地に集まっていた住人たちも去っていた。
    わしと倉光さんだけ2人だった。
「……わしは一体どうすれば」
   わしは自宅のあった場所で泣き崩れていた。



「3」

ーー「菊池自宅」ーー

「回覧板置いて置きまーす!」
    若い女性米田さんが慌てて自宅の玄関先に回覧板を置いていった。
    そっと、いそいそと玄関口に行き回覧板取り確認して私はため息を吐く。
「あの出来事あってからみんなピリピリしてるわね」
    柳田さんたちの自宅が忽然となくなってからは、私たち住民たちはおちおちと外出が出来ずに仕事や生活の支障が出ていた。私の勤めてるパートも辞めざる得なくなるほどであった。
(おまけに紙の節約なんかでタブレット端末に変えたのよね)
    最近環境の配慮などにより、市役所から電子端末のタブレットが用意された。
ただ、アナログからデジタルに変えた事により、デジタルによる抵抗や疎い者達にとってはやや不便であり扱いづらかった。
    私はそんなかの1人であり、ほかの近所の住人に聞いて周り、慣れない操作で回覧板を確認していた。
「このチェックマークの仕方はどうすればいいかしら?」
    回覧板についてる取扱説明書を見てもよくわからなかった私は近所に助けを借りようと外に出かけた。

ーー「高河自宅前」ーー

    私は高河さんの自宅玄関前のインターホーンを鳴らす。
「ごめんください」
    他の近所にもまわったが留守で他に知る近所はこの一軒家しかなかった。
    誰も出てこないが車は停めてあるので私は誠意を持って何度も鳴らす。
「なんだよ?」
    ようやく来てもらったけど高河さんは気難しい人だからできれば頼みたくなかった。
    私は申し訳なそうに尋ねた。
「お忙しいなかごめんなさい。この回覧板の操作を教えてください」
    と、深々と頭を下げるが、
「知るか!!そんなもん俺に聞くな!!他をあたれ!」
    彼はめんどくさそうに思いっきりドアを閉めて鍵をかけた。
    私はその時深いため息を吐いた。


    夕陽が沈みかける空。
   とぼとぼと1人で途方もなく歩く私。
「はぁー。どうしましょう」
    私はしばらくしてもう一度高河さん以外の近所に回ったが誰1人も家から出てこなく、先程若い女性が持ってくれた回覧板の家に訪ねても仕事に出かけたのか留守だった。
    回覧板の謎の注意書きには1日以内に廻すようにと書かれていた。そのルールに怠った住人は柳田さんたちの自宅みたく消滅していたから、私たちも必死である。
    あきらめかけて帰宅に向かってる最中に見覚えのある彼女が買い物籠を携えて見かけた。
「あ、楓ちゃん!」
    私は思わず彼女に声をかけた。
「和子さん。どうされましたか?」
    和子は私の名前だ。持ってた回覧板を彼女に見せた。
「このチェックマークなんだけど……やり方がわからなくて」
「あ、これはこうします。そうそう。そうです。ええ」
    楓ちゃんは慣れた操作の指示の元、私は回覧板を操作する。
「はい。それで大丈夫です」
「ありがとう楓ちゃん。さて山城さんに回覧板を渡さなくちゃね」
    操作を無事終えた私は安堵して、楓ちゃんとすぐ別れた後、次の山城さん家に回覧板を渡しに向かった。


~♪
    俺は鼻声を出しながら、黒の自家用車で自宅に向かう。
    俺はついていた。そう、ようやく彼女とプロポーズができたからだ。明日から彼女を迎えに俺の自宅で同棲する。これでようやくあの回覧板から解放されるからな……だが、俺の自宅が確認できるようになると俺はとっさに急ブレーキをかけた。
    そして俺は車から慌てて降りて自宅の建物を見て驚愕する。
「な!?な!な?」
    自宅の建物の中心に1本の大木が貫通して突き破るように生えていた。
    俺は思わず頭を抱えていた。
    しばらくして影から見守っていたあいつが尋ねてきた。
「ちゃんと回覧板に書かれた通りになりましたね。気にならない人の家には木になったでしょ?」
    それを聞いた俺は泣き叫んでいた。

「4」

ーー「野花市集会所」ーー

「もう!我慢ならん。我々で市役所に乗り込んで文句言ってやめさせてやる!」
    そうだ!そうだ!とわしの鶴の一声で集まってきた住民達。
    あれこれ、わしらは回覧板をやめさせるために有志を集った。
    数は数百人も集まり、皆は回覧板に被害を受けた者や仕事や生活等に支障を受けた者達だった。
「では、みなもの異論はないな。敵陣を乗り込むぞ」
    おー!と住民たちはぞろぞろと足取りで一同に市役所に向かう。わしのとなりで歩く菊池さんが心配そうに尋ねる。
「吉岡山さん。回覧板で私たちの言い分聞いてくれるかしら」
「これだけの人数だ。ダメなら徹底抗戦でやるさ」
わしは高を括っていた。

ーー「野花市役所」ーー

    書類と電話応対仕事と格闘してる市の職員たち。
    そして彼らの前に選手達が乱入して入場する。
    オープンドアが開かれると、吉岡山を筆頭に回覧板の嘆願してきた住人たちがおしかけた。
    職員たちは何事かと慌てて上司は女性職員に声をかけて応対させた。
「あのー。今日はどうされましたか?えーと、みなさんはお連れさまですか?」
    と、応対したのはまだ今年入ったばかりの若い新人女性職員である。呑気に勤務中に商店街で買ってきた苺のショートケーキを食べており、生クリームが口元についてるのを本人は気づいてない。
「回覧板を担当する責任者を出してもらおう!」
    と、吉岡山の凄みのある声で怯えた女性職員は回覧板の担当である坂山を呼んだ。

ーー「会議室」ーー

「ふむ。この騒ぎは何かな?」
    坂山は仕事を中断されて会議室に案内してわしらに話し合いの場を設けた。
    会議室はわしらが引き連れた人数は入りきらないため、最低限の人数が入室して、席に着いた。残りは会議室の外で待機している。
「わしらは回覧板のことで文句を言いに来たんだ。この回覧板の謎の紙切れにみんな迷惑してるんだ」
    そうだ!そうだ!と何人かの住人からコールする。
「ふむふむ」
    坂山はわしらの言い分を聞いてうなずいてる。
    そして会議室の外から覗く住民達もガッツポーズしながら応援してくれる。
    わしらはそれぞれ各主張して話し合いして1時間したところ坂山は席を立った。
「ふむ。吉岡山さん達の言い分はわかりましたよ。こちら側で検討していただきましょう」
    わしらはそれを聞いて笑みがこぼれる。
    わしらの大勝利だった。
「失礼します」
会議室からノックして入室する男性職員。
「おお、来たか」
    男性職員が持っているのはタブレット端末。前の回覧板タブレット端末よりも形状は薄くて軽そうだ。
    坂山はそのタブレット端末を受け取り操作してわしらに見せる。
「あのー。坂山さんこれは?」
「最近他の住人から、タブレット端末が扱いづらいと聞いてな。なので誰でも使いやすいように機種を軽くしてみたんだ。もちろん最新なのでヘルプ機能や動画もついてる。これなら負担も軽くなるから、吉岡山さん達もこれなら使いやすいですよね」
     わしはそれを聞いてわなわなと震えた。
「じゃあ。わしらが指摘する回覧板は?」
「ははは。すみませんね。回覧板はやめさせることはできませんし。規則ですので」
    わしはそれを聞いて立ち上がり坂山を掴みかかった。
    それを止めようとして住民達が駆けつけてもみ合いなる。
「おう…おう」
    坂山は持ってた最新の回覧板を落としてしまったがわしは構わず無視していた。
    そして勢いよくバリッと何か割れた音がした。
    もみ合いなった住民達も止めてそれをみてざわついた。
「どうした?」
    わしは自身が踏みつけた回覧板の事に気づく。
    わしは我に返り坂山に謝罪する。
「坂山さん。すまんが回覧板をどうやら、壊してしまった。わしが弁償するのでまた日を改めて」
「わかりました……では後ほど」
    わしは皆を連れて帰った。
    しかし、わしは回覧板に書かれていた重大な謎の注意書きを見落としてる事に気が付いてなかった。

ーー「吉岡山自宅」ーー

「すまんのぅ。吉岡山さん。わざわざわしらを住ませてもらって」
「柳田さん。いいんだよ。全てはあの回覧板のせいですから」
     わしは回覧板によって家が失われた住人を住まわせていた。
「しかし、やけに外は暗いの」
    午前10時なのにまだ日は暗い。
    わしは新聞の朝刊と配達の牛乳を取りに行くことした。
「ふむ。今日は珍しく朝刊もないし、牛乳配達もない。あ、そう言えば料理酒も切れてたな。仕方ない買い出しするかの」
    わしは外に出かけることにした。
    この辺の近くにスーパーやコンビニ、ドラッグストアがあるため徒歩でもじゅうぶんいける距離である。
    町中は暗くて静かだった。
    いや、暗すぎて静かすぎだった。
    わしは周辺を必死で確認する。
「お、おかしい!?わしの家以外建物や人がいる気配もない!!」
    わしの自宅以外建物や電柱おろか虫一匹らしき生物が全くなかった。
    わしは自分のポケットからガラケーを取り出し、知人、友人、家族、警察、病院などあちこちかけるが全く繋がらなかった。
「そ、そんな…」
    わしはあまりのショックで地面に両膝をついた。


 ーー「鈴薙自宅」ーー

「ふーん。そうなの。わたしあまりそういう迷信話信じないの。ごめんなさいね。アハハハハ」
「はぁ……そうですか」
 鈴薙さんはあまり怪談とか怖い話は作り物と認識してる方だし怖さは慣れていたというか笑い上戸なので私の語る怪異談は常に爆笑するのである。
「それと前にこの回覧板たまに変な紙も混じってたから、汚れてたし気味が悪かったから、破って捨てたわ。誰かのイタズラかしら。もしかしてあなた?こんな手の込んだ事やめてね。アハハハおかしい」
 と、私に嫌味の一言言った後、笑いながら玄関のドアを閉めた。
 その時に雲行きが怪しくなり鈴薙さんの自宅に雨雲が集まり出した。
「鈴薙さん大丈夫かしらね?あの紙は……」

 私の記憶の片隅によれば、回覧板の注意書きで『回覧番の紙を紛失した家の者に雷を落とします』と強い警告文章で書かれていたからだ。

 私は巻き込まれないように早々と帰宅した。私が家の中に入った同時に大きな落雷音が鳴った。

 ーー「????」ーー

 とある場所にポツンと一軒家に白骨化された住人が複数点在して、一軒家から少し離れた場所に両膝をついたままの白骨化された男性らしき者はゆっくりと身体ごと崩れ去り、その手元には回覧板を手にしていた。

 怪覧番    完
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