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くろ

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プロローグ

当たりのガチャ

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このような経緯で、私は知らない誰かの部屋の姿見の中から身動きが取れなくなってしまい、ついに朝を迎えようとしていた。
姿見から抜け出す努力はしたつもりだ。あらゆる方向に力を入れようとしたり、意識を向けてみたりしたが駄目。何を念じても、お経を唱えて見ても、どうにもならなかった。もう、私に出来ることは思いつかない。このまま私は一生ここから抜け出すことができないのだろうか。不安の感情だけがどんどん積もっていく。
新聞配達のバイクの音はとっくにこの家の配達を終えていた。朝日がカーテンの隙間から零れる。雀の鳴き声が空に響いた。
目の前に映る映像は、フローリングの床に転がったクッション、五十センチメートル程の高さの収納ボックス。中には何らかの本と、フォトスタンドが表面を向いて並んでいる。上には観葉植物とクマのぬいぐるみ、それとまたフォトスタンドが置かれていた。そして、白い壁紙の高い位置を飾るようにして、黒縁の円型の時計が秒針を刻んでいた。私は終始この映像だけを見させられている。変化するのは時計の針の位置だけだ。もう少しで七時になる。
アラーム音が鳴り響く。私から見て左方向からそれは聞こえてきた。時間的に目覚ましだろう。アラームの音はすぐに止められ、その代わりに同じ方向から女の子らしい声で、喘ぐような伸びが聞こえてきた。可愛い声だ。間もなく、フローリングの床に体重を乗せた振動が響く。振動音は左方向からこちらに向かって近づいてきた。どんな女の子だろう。否応なしに期待の感情が膨れ上がってくる。
それは一瞬の出来事だった。女の子は私の前を無関心に素通りして行ってしまった。かぐわしいフルーツの香りが残った。そのまま扉が開け閉めされる音がし、スタスタと足音が遠退いていく。やがてその足音は、階段を下っていくトーンに音色を変えた。

私はまるで中学生にでも戻ったかのような気分になっていた。修学旅行の時に、女子の入浴時間附近に沸き立ったあの時の感覚だ。女子が風呂に入るという事実よりも、その時間帯事態に沸き立っているような、あの感覚だ。
一瞬だけ目に写った彼女の残像を思い出すと、歳は若そうだった。十八歳ぐらいか?。高校生か、大学生か、あるいは社会人かもしれない。
顔は横顔しか見えなかったのでなんとも。寝起きの不機嫌な印象。身長は普通ぐらい。多分155センチメートルぐらい?。体型も普通。髪は鎖骨の辺りまで。上着はダボっとした水色のスウェット。下はグレーのショートパンツ。
ショートパンツから覗く生足は絶品だった。脚フェチの私にとってみれば、ガチャで当たりを引いたようなもの。

彼女は恐らく今、顔を洗ったり、ご飯を食べたり、歯磨きをしたりして、そしてまたここに戻ってくるはず。

『服を着替える』ためだ。

そして、その神秘的な営みは、恐らく私の目の前で行われる。
制服なのか、私服なのか、あるいはスーツなのか、分からないが、待ち遠しい。早く帰って来てくれ。

下の階で、彼女が誰かと言葉を交わしている声が聞こえてきたが、内容までは聞き取れなかった。
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