72 / 77
72.王の弟
しおりを挟む
一人になったステファニアは、テーブルの上に飾られた花を眺めながら、ため息をもらした。
息を吐ききったところで、隣の部屋から大きな物音が響いた。何かが倒れるような音だ。何事かと思えば、今度は扉が開く。
「リナ……?」
隣の部屋に控えているリナがやってきたのかと思い、ステファニアはおそるおそる声をかけてみるが、扉の前に現れたのはフードをかぶった姿だった。
一瞬、庭師が戻ってきたのかとも思ったが、明らかに大きさが違う。体格のよい、男のものだ。
ステファニアが唖然として固まっているうちに、侵入者は素早くステファニアに近づいてきて、口に布切れのようなものを押し込んでくる。
「ん……んん……っ!」
反射的に暴れようとするが、今度は腕を捻り上げられてしまい、背中でまとめて縛られてしまった。
縄が食い込む痛みと息苦しさ、そして突然の出来事に対する恐怖で、ステファニアの目から涙があふれてくる。
いったい何が起こっているのかわからず、ステファニアは混乱しながら侵入者を見上げた。
「……おとなしくしろ。いい子にしていれば、すぐに終わる」
侵入者はフードを取りながら、冷淡な声を浴びせてきた。
フードの中から現れた顔を見て、ステファニアは目を大きく見開く。ゴドフレードとよく似ているが、彼ではない。
バルトロがつまらないものを見るような目で、ステファニアを見下ろしていた。
「王家を裏切った淫売め。その汚れた子は、生まれてきてはならぬのだ。本来ならば、そなたも殺してやりたいところだが……そなたは兄上の寵姫だからな。そなたの命だけは助けてやろう。子を流すだけにしてやろうではないか」
不快そうに吐き捨てると、バルトロは懐から丸薬のようなものを取り出して、ステファニアの目の前に持ってくる。
「これをそなたの汚れた場所に入れると、子が流れるというわけだ。さほど苦しまずに堕胎できるという秘薬を使ってやること、ありがたく思うがよい」
ステファニアの全身から血の気が引いていく。
冗談ではないと脚をぴったりと閉じ合わせるが、自分でもわかるほど身体中がカタカタと震えていた。
「ん? 怯えているのか? 王家を裏切る大罪を犯したそなたが、この程度のことで怯えるというのか。面白い冗談だな」
身動きの取れないステファニアを嬲るように、バルトロはニヤニヤと笑う。
「……なあ、ステファニア。私は王の弟だ。れっきとした、王家の王子として生まれた。しかし、兄上と比べてどちらに、より王の資質があると思う?」
ふと何かを思いついたようで、バルトロは笑みを浮かべたまま、ステファニアに質問を投げかけてくる。しかし、ステファニアが答えられる状態ではないことなど、バルトロは当然承知しているはずだ。答えなど、期待していないのだろう。
「誰かに比べてもらわなくとも、それくらいは自分でわかっている。兄上のような資質は、私にはない。自分が凡人であることくらい、自分がよくわかっているのだよ」
やはりステファニアの答えなどどうでもよいようで、バルトロは一人で言葉を続ける。
息を吐ききったところで、隣の部屋から大きな物音が響いた。何かが倒れるような音だ。何事かと思えば、今度は扉が開く。
「リナ……?」
隣の部屋に控えているリナがやってきたのかと思い、ステファニアはおそるおそる声をかけてみるが、扉の前に現れたのはフードをかぶった姿だった。
一瞬、庭師が戻ってきたのかとも思ったが、明らかに大きさが違う。体格のよい、男のものだ。
ステファニアが唖然として固まっているうちに、侵入者は素早くステファニアに近づいてきて、口に布切れのようなものを押し込んでくる。
「ん……んん……っ!」
反射的に暴れようとするが、今度は腕を捻り上げられてしまい、背中でまとめて縛られてしまった。
縄が食い込む痛みと息苦しさ、そして突然の出来事に対する恐怖で、ステファニアの目から涙があふれてくる。
いったい何が起こっているのかわからず、ステファニアは混乱しながら侵入者を見上げた。
「……おとなしくしろ。いい子にしていれば、すぐに終わる」
侵入者はフードを取りながら、冷淡な声を浴びせてきた。
フードの中から現れた顔を見て、ステファニアは目を大きく見開く。ゴドフレードとよく似ているが、彼ではない。
バルトロがつまらないものを見るような目で、ステファニアを見下ろしていた。
「王家を裏切った淫売め。その汚れた子は、生まれてきてはならぬのだ。本来ならば、そなたも殺してやりたいところだが……そなたは兄上の寵姫だからな。そなたの命だけは助けてやろう。子を流すだけにしてやろうではないか」
不快そうに吐き捨てると、バルトロは懐から丸薬のようなものを取り出して、ステファニアの目の前に持ってくる。
「これをそなたの汚れた場所に入れると、子が流れるというわけだ。さほど苦しまずに堕胎できるという秘薬を使ってやること、ありがたく思うがよい」
ステファニアの全身から血の気が引いていく。
冗談ではないと脚をぴったりと閉じ合わせるが、自分でもわかるほど身体中がカタカタと震えていた。
「ん? 怯えているのか? 王家を裏切る大罪を犯したそなたが、この程度のことで怯えるというのか。面白い冗談だな」
身動きの取れないステファニアを嬲るように、バルトロはニヤニヤと笑う。
「……なあ、ステファニア。私は王の弟だ。れっきとした、王家の王子として生まれた。しかし、兄上と比べてどちらに、より王の資質があると思う?」
ふと何かを思いついたようで、バルトロは笑みを浮かべたまま、ステファニアに質問を投げかけてくる。しかし、ステファニアが答えられる状態ではないことなど、バルトロは当然承知しているはずだ。答えなど、期待していないのだろう。
「誰かに比べてもらわなくとも、それくらいは自分でわかっている。兄上のような資質は、私にはない。自分が凡人であることくらい、自分がよくわかっているのだよ」
やはりステファニアの答えなどどうでもよいようで、バルトロは一人で言葉を続ける。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
66
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる