66 / 77
66.二人の娘
しおりを挟む
「あなたも懐妊したのでしょう!? あなたもなの!? あなたも、陛下じゃなくて……!」
「ドロテア! 落ち着いて!」
ドロテアの言葉を遮り、ステファニアはドロテアの肩をつかむ。
部屋の外には、聞き耳を立てている人々がいるのだ。滅多なことを口に出されては、ステファニアだけではなく、ドロテアの立場も困ったことになる。
肩をつかまれたドロテアはびくりと身をすくませ、口を閉じた。
「も……もう、わたくし……生きている資格など、ありませんわ……こ……こんな、裏切りを……」
今度は、ぶるぶると震えながら、小声で呟いて涙を流す。
「ドロテア……」
ステファニアは落ち着かせるようにドロテアの手を握り締めるが、震えが止まることはなかった。
ドロテアの気持ちを思うと、いたたまれない。かといって、ステファニアにはどうすることもできず、ただドロテアの手を握り締めるだけである。
しばしそうしていると、扉が開いて誰かが入ってきた。ステファニアとドロテアは、扉に視線を向けて、そろって固まる。
「へ……陛下……?」
昨日、倒れたはずのゴドフレードが扉の前にいたのだ。
まさか似た容姿を持つバルトロだろうかと目を凝らしてみるが、やはりゴドフレードだった。
「いやぁっ! 陛下! わたくしを見ないでぇ!」
ステファニアの手を振り払い、ドロテアは両腕で顔を隠すように覆って叫ぶ。
しかしゴドフレードは構うことなくドロテアに近づくと、優しく抱きしめた。
「そなたが今朝方、“余の娘”を産んだと聞いた。ご苦労だったな」
「へい……か……?」
ゴドフレードの腕の中で、ドロテアが瞬きを繰り返す。
「余の不甲斐なさから、そなたには心痛をかけたな。すまなかった。ゆっくりと身体を休めて、余とそなたの娘を育てていってくれ」
「陛下……わたくしは……」
わなわなと震える唇で、ドロテアは何かを言おうとするが、ゴドフレードはやわらかく笑ってドロテアの言葉を封じた。
「生まれたのは、余とそなたの娘だ。そなたにとっては望んだことではなかったかもしれないが……だが、大切な、余とそなたの娘だ」
「陛下……陛下ぁ!」
とめどもなく涙を流しながら、ドロテアはゴドフレードにしがみついた。
わんわんと子供のように泣くドロテアだったが、その涙は先ほどまでのものとは違う。
もうドロテアは大丈夫だろう。このまま留まっていては邪魔になると思い、ステファニアはそっと礼をして部屋を後にした。
「ドロテア! 落ち着いて!」
ドロテアの言葉を遮り、ステファニアはドロテアの肩をつかむ。
部屋の外には、聞き耳を立てている人々がいるのだ。滅多なことを口に出されては、ステファニアだけではなく、ドロテアの立場も困ったことになる。
肩をつかまれたドロテアはびくりと身をすくませ、口を閉じた。
「も……もう、わたくし……生きている資格など、ありませんわ……こ……こんな、裏切りを……」
今度は、ぶるぶると震えながら、小声で呟いて涙を流す。
「ドロテア……」
ステファニアは落ち着かせるようにドロテアの手を握り締めるが、震えが止まることはなかった。
ドロテアの気持ちを思うと、いたたまれない。かといって、ステファニアにはどうすることもできず、ただドロテアの手を握り締めるだけである。
しばしそうしていると、扉が開いて誰かが入ってきた。ステファニアとドロテアは、扉に視線を向けて、そろって固まる。
「へ……陛下……?」
昨日、倒れたはずのゴドフレードが扉の前にいたのだ。
まさか似た容姿を持つバルトロだろうかと目を凝らしてみるが、やはりゴドフレードだった。
「いやぁっ! 陛下! わたくしを見ないでぇ!」
ステファニアの手を振り払い、ドロテアは両腕で顔を隠すように覆って叫ぶ。
しかしゴドフレードは構うことなくドロテアに近づくと、優しく抱きしめた。
「そなたが今朝方、“余の娘”を産んだと聞いた。ご苦労だったな」
「へい……か……?」
ゴドフレードの腕の中で、ドロテアが瞬きを繰り返す。
「余の不甲斐なさから、そなたには心痛をかけたな。すまなかった。ゆっくりと身体を休めて、余とそなたの娘を育てていってくれ」
「陛下……わたくしは……」
わなわなと震える唇で、ドロテアは何かを言おうとするが、ゴドフレードはやわらかく笑ってドロテアの言葉を封じた。
「生まれたのは、余とそなたの娘だ。そなたにとっては望んだことではなかったかもしれないが……だが、大切な、余とそなたの娘だ」
「陛下……陛下ぁ!」
とめどもなく涙を流しながら、ドロテアはゴドフレードにしがみついた。
わんわんと子供のように泣くドロテアだったが、その涙は先ほどまでのものとは違う。
もうドロテアは大丈夫だろう。このまま留まっていては邪魔になると思い、ステファニアはそっと礼をして部屋を後にした。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

婚約破棄された令嬢は騎士団長に溺愛される
狭山雪菜
恋愛
マリアは学園卒業後の社交場で、王太子から婚約破棄を言い渡されるがそもそも婚約者候補であり、まだ正式な婚約者じゃなかった
公の場で婚約破棄されたマリアは縁談の話が来なくなり、このままじゃ一生独身と落ち込む
すると、友人のエリカが気分転換に騎士団員への慰労会へ誘ってくれて…
全編甘々を目指しています。
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる
玉響
恋愛
平和だったカヴァニス王国が、隣国イザイアの突然の侵攻により一夜にして滅亡した。
カヴァニスの王女アリーチェは、逃げ遅れたところを何者かに助けられるが、意識を失ってしまう。
目覚めたアリーチェの前に現れたのは、祖国を滅ぼしたイザイアの『隻眼の騎士王』ルドヴィクだった。
憎しみと侮蔑を感情のままにルドヴィクを罵倒するが、ルドヴィクは何も言わずにアリーチェに治療を施し、傷が癒えた後も城に留まらせる。
ルドヴィクに対して憎しみを募らせるアリーチェだが、時折彼の見せる悲しげな表情に別の感情が芽生え始めるのに気がついたアリーチェの心は揺れるが………。
※内容の一部に残酷描写が含まれます。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道
Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道
周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。
女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。
※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※
不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない
かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」
婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。
もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。
ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。
想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。
記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…?
不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。
12/11追記
書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。
たくさんお読みいただきありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる